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クライン派の臨床 ハンナ・スィーガル論文集

ハンナ・スィーガル(著) 松木邦裕(訳)「クライン派の臨床 ハンナ・スィーガル論文集」 岩崎学術出版社 1981年/1988年を読んだ上での感想を書きます。

ハンナ・スィーガル(著) 松木邦裕(訳)「クライン派の臨床 ハンナ・スィーガル論文集」 岩崎学術出版社 1981年/1988年

 1ヶ月半かかって、ようやく全部読み終えました。このハンナ・スィーガルはクライン派の純血種といえる分析家で、クライン理論の平易な紹介者でもあります。また、美的問題、芸術論についての精神分析的な研究の第一人者です。日本では確か3冊の訳書は出てるがそこまで有名ではないかもしれません。

 ここでは健忘録的に思ったことや内容を簡単に書き留めておきます。

 スィーガルは「クライン派の臨床」で技法を明確に述べています。例えば「躁的現象に遭遇した時、その根底に横たわる抑うつ感を捜すべき。うつ病が見られたら抑うつ感情をワークスルーすることを妨げる無意識の躁的防衛組織を捜すべき」としています。

 スィーガルによる精神分析の終結の基準について、クラインの終結の基準をもってきて、迫害不安と抑うつ不安は減じられて、対象が統合され、内的世界と外的世界が現実的になること、と言っています。こうしたところは結構楽観主義のように見えます。フロイトの終わりある分析の終わりなき分析の議論の方が考えさせられます。

 また、初回面接で転移解釈をするかについて「解釈は最も大きい無意識の不安の水準で与えられるべきであり、私達が触れ合おうとするものは患者の無意識の空想であるという原則に従うなら、ほとんどの例で転移解釈が必要に応じて求められる。私の経験では開始時に転移解釈が必要ない例は経験したことがない」とも言っています。

 スィーガルは小児分析技法の章で、夜驚を主訴とする少女の初回面接を提示していました。少女はプレイルームに入ることを拒んでいたのでスィーガルは以下のように転移解釈をしました。「私のことを知らないから怖がっているのでしょう」。さらに間を置いて以下のことを付け加えました。「暗闇や暗闇で知らない何かが起こることを恐れているようだが、それと同じように知らない部屋とあまり知らない人とを恐れている」とスィーガルは転移解釈しました。これを見ると、初回の解釈は侵襲的とはあまり思えません。むしろ、患者をサポートし、不安から助けているように見えます。スィーガルの事例では、この転移解釈のあと少女はスィーガルやプレイルームに関心を向け、夜への恐怖だけではなく、好奇心も持っていることをスィーガルに話し始めたようでした。こうしたことは、治療目標や設定を長々と説明する以上に、治療動機を高める結果になっているだろうと理解できます。

 初回面接や初期面接で転移解釈を行うことに否定的な人は多いかもしれません。それは精神分析に親和性があり、力動的セラピーを行っている人の中にもいるようです。おそらくですが、転移解釈を「乱暴な分析」に近いものを想定しているのではないかと思われます。乱暴な分析とは、患者の心を暴き立て、ずけずけと土足で踏み込み、苦痛を増大させるような分析や解釈のことです。確かに、そうしたことを想定しているとするなら、初回や初期に転移解釈を行うことに否定的になるのもうなづけます。しかし、スィーガルの実際の転移解釈の言葉を見てわかるように、非常に優しく、直面している不安から自我を守っている様が見て取れます。そして、おそらく患者にとっても強い不安と苦痛を抱いていることを理解してもらえている感覚は非常に心強く感じるだろうと想像できます。

 これらは各人が今まで受けた分析体験やセラピー体験も深く影響しているのでしょう。僕は幸いなことに受けた分析的セラピーにおいて解釈によって救われた、助けられた体験をしてきたように思います。救われたという意味が適切かどうかは別として。そうした体験も僕のセラピーの方法に少なからず影響していることは想像に難くありません。自身が良いと思うものを提供したいと思うのは自然なことだろうと思います。自身が食べて不味いと思うような料理を出したがる料理人はいないでしょう。美味いと思うから客にも出そうと思うのです。

 後半は統合失調症の精神分析から美学についての精神分析的研究まで多彩な内容でした。そのあたりの内容については「シーガルの精神分析的な観点から見た芸術論:美とは何か?」に詳しいので省略します。

読書   2016/12/12   北川 清一郎

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