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カウンセリングで使える逆転移について

 カウンセリングの中で、クライエントさんがカウンセラーに対して向ける感情や思いや、考えを精神分析では転移と言います。それとは反対にカウンセラーがクライエントさんに向けるものを逆転移と言います。ここではその逆転移について述べていきます。ただ、小難しい議論をしているので、どちらかというとカウンセラーなどの専門家向けになるかもしれません。

(1)逆転移と人間臭さ

 逆転移は古典的な精神分析では有害なものと見られていました。逆転移にはカウンセラーの個人的な葛藤やコンプレックスが含まれているので、個人分析や訓練分析で解消することが必須でした。しかし、フロイト以後にはハイマンやラッカーの仕事を通して、有用性についても論じられるようになりました。というのも、逆転移の一部はクライエントさんから向けられる転移に反応しているという側面もあり、それに気付くことで、よりよくクライエントさんのことが理解できると考えたのです。

 また、カウンセラーの個人的な葛藤やコンプレックスは個人分析や訓練分析で無くすことはできないものです。葛藤やコンプレックスは言い換えると、その人のその人らしさであり、もっというと人間性に通じるものです。それらが無くなってしまうと、極端にいうとロボットのようになってしまいかねません。ですので、葛藤やコンプレックスは解消するものではなく、それらに気付き、より自分らしさを理解し、振り回されることなく、適度な距離で抱えておけるようになること程度のことが現実的なのだろうと思います。そして、そうしたカウンセラーの人間性、もしくは人間らしさ、人間臭さがカウンセリングには多かれ少なかれ良い影響を及ぼすこともあります。カウンセリングとは人間と人間の情緒のふれあいの中で進展するものでもありますから。

(2)逆転移の気付き方

 クライエントさんは様々な困難を抱えており、そうした苦痛や苦悩をカウンセラーに投げかけてきます。それは言葉だけではなく、行動や振る舞い、雰囲気、表情、沈黙といった非言語的なコミュニケーションも含まれます。それは言い換えると無意識の所作と言えるでしょう。

 無意識のことなので、カウンセラーも無意識的なところで受け取ります。例えば、言葉にならない苦しみとして感じたり、胸がつぶれるような思いをしたり、頭が締め付けられるような身体感覚として体験したりします。フォーカシング外部リンクなどをしているとこのあたりの感覚に鋭くなるようです。

 無意識のことなので、すぐには理解できるものではありませんが、カウンセリングの回数を重ね、スーパーヴィジョンを受けたり、時には個人分析・訓練分析を受けたりする中で徐々にクライエントさんからの無意識的なコミュニケーションであり、メッセージであると理解することができてきます。

(3)逆転移の各理論

 専門的な話になりますが、フロイト以後の精神分析家が逆転移についてどのように理論展開をしたのかを見ていきます。

 フロイトは逆転移については有害であるとしか見なしませんでしたが、フロイトの死後は徐々に逆転移の有効性について議論されてきました。その中で、母子関係の理論で有名なD,W,ウィニコットは「逆転移のなかの憎しみ(1947)PDFファイル外部リンク」という論文を書きました。ここでは憎しみなどの逆転移をカウンセラーは抱くこともあるが、それはカウンセリングを進めていく上で意外と必要なことであるとしました。さらに、P,ハイマンは「逆転移について(1950)」で、逆転移を吟味することでクライエントを理解していけるようになる、といった趣旨の主張を行いました。

 ラッカーは「逆転移の問題への貢献(1953)」において、カウンセラーの個人的な葛藤からなる補足的逆転移とクライエントとの相互関係の中から産まれる融和的逆転移とに分類しました。マネー=カイルは「正常な逆転移(1956)」において、逆転移はクライエントの無意識のコミュニケーションに対する反応であることを検討しました。最後にW,R,ビオンは「経験から学ぶこと(1962)」などでクライエントさんから投げ入れられた苦痛を逆転移を通して受け取り、それを受け入れやすい形に修正して、翻訳して、クライエントさんに再度戻し返すというコンテイニング理論を展開しました。

 こうして現代的にはカウンセラーの逆転移はカウンセリングをする上で非常に重要な役割を担っているということが一般化していきました。

(4)逆転移の活かし方

 さて、こうした逆転移を、一般的なカウンセリングの中でどのように活かしていけるのかです。

 逆転移をとおしてクライエントさんを理解していく、というのは言葉では簡単ですが、なかなか難しいことです。難しい理由はいくつかあります。逆転移は多くは無意識の過程だからということが一つです。あと、カウンセリングの構造、特に頻度の問題が影響していますが、隔週や月1回といった低頻度のカウンセリングの時には細かいところが見えにくくなり、それにともなって逆転移も分かりにくくなってしまいます。あとは、カウンセラー自身が個人分析・訓練分析の経験がないため理解しにくいというのもあるでしょう。

 しかし、だからとって全く逆転移が役に立たないということでもありません。理解するまでにはならなかったとしても、逆転移に影響を受けていることに気付き、それに振り回されず、気持ちに余裕を持つことを心掛けることができるだけでもカウンセリングの進展に大きく寄与します。

 また、クライエントさんとカウンセラーとの関係性や親密度によっても違いますが、カウンセリングの局面によってはカウンセラーが逆転移をある程度、自己開示をし、率直に話し合うこともあっても良いかもしれません。そうしたことがカウンセリングの次の展開に通ずることもあります。

 さらに、その場その場ですぐに理解はできなかったとしても、カウンセリングの後の方になり、振り返って理解できることもありますし、そうしたことも次のカウンセリングのセッションでの素材にしていくことも可能かもしれません。

 上に書きましたが、逆転移があるからこそ、そこにカウンセラーの人間性(人間臭さ)があり、それを基盤にした関係性が作られることもあるでしょう。カウンセラーが意図しなかったようなたわいもない話や振る舞いが、クライエントさんの心に響き、良い影響を与えていた、という感想をクライエントさんから頂くこともありました。

(5)終わりに

 このように、週4回以上のカウチを使った精神分析ではなかったとしても、逆転移の理論をカウンセリングに活用することは意外とできる場合もあるのではないかと思います。

 今以上に活用できるようになるために、可能な範囲でカウンセラーも個人分析・訓練分析を受けたり、スーパーヴィジョンを受けたりして、カウンセラーも自分自身のことをより深く知っていくことができると良いでしょう。

論考   2017/03/11   北川 清一郎

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