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日常臨床に活かす精神分析を読んで

祖父江典人、細澤仁(編)「日常臨床に活かす精神分析-現場に生きる臨床家のために」誠信書房 2017年

 祖父江先生の還暦記念として編纂された本で、先生のパーソナルな繋がりのある人によって各章や各コラムが書かれています。もちろんタイトルにあるようにいずれも精神分析を志向する臨床家です。以下に本書の感想を書きます。

目次

  1. 精神分析とは
  2. 精神分析の応用
  3. 精神分析家以外が使用すること
  4. 終わりに

1 精神分析とは

 精神分析とは周知のようにフロイトが発見し、創始した臨床技法であり、無意識を想定した上で無意識の葛藤やコンプレックスを解消するために転移と抵抗を利用し、解釈をもって扱います。そして、その構造はカウチによる自由連想を週4回以上行うことを指します。

 精神分析は100年以上前に作られ、フロイト以降も100年以上かけて多数の精神分析家によって様々な原理、原則、理論、技法が付け加えられて今日に至り、今では膨大な知見として積み上げられています。

 こうして積み上げられた精神分析的な知見は多数の心理療法やカウンセリングの学派やその理論・技法に直接的に間接的に影響を与え、時には精神分析を批判することで発展を遂げた心理療法の学派もあります。

 本書ではそうした精神分析的知見を我々臨床家が日々の臨床的営みの中でどのように活かすのかの基本姿勢を論じ、さらには教育、医療、産業、福祉などの領域別に明らかにしています。

2 精神分析の応用

 日常臨床に活かすということなので、精神分析そのものの実践はなく、週1回以下の頻度のセラピーや危機介入の現場、訪問相談などいわゆる「理想的」ではない臨床設定での臨床事例が素材となっています。

 こうした営みは精神分析原理主義からすると、邪道であったり、純金に対する劣った合金であったりするかもしれません。しかし、これこそが現場のリアリティでもあり、真実でもあります。精神分析がリアリティと真実を探求するならば、これこそが精神分析的と言えるかもしれません。

 また、精神分析的である時、パーソナルであることを重視することが多いと思われます。パーソナルであるとは、個別性であり、事例性であり、他とは代替不可能なものです。さらには理論を超えたその人にしかない何かです。

 本書の執筆陣も大小あるとは言え、祖父江先生とのパーソナルな繋がりがある先生方ばかりです。精神分析は先にも書いたが、膨大な知識体系を持ちつつも、臨床ではそうしたことは全て横に置かれ、パーソナルな治療者とパーソナルな患者の他には換え難い出会いの中で営まれます。

 そのことについてビオンは「記憶なく、欲望なく、理解なく」と述べています。精神分析的理論を持ち込んだ時点で、精神分析的ではなくなるという、この逆説的な事態がまさに精神分析的であるとも言えます。

 こうした精神分析的な知見が一般的な臨床でどのように役立てられるのかが各章で描き出されています。それぞれにオリジナリティがあるので、簡単には要約できませんが、無理矢理要約すると、精神分析的な見立てを多かれ少なかれ患者、クライエント、場の事態に適用していることです。

 例えば8章の学校臨床における緊急支援においては、自死した生徒がいた学校全体をトラウマという観点やPSポジションという観点から理解しようとしてます。また、9章のひきこもり支援では、ひきこもり当事者を、ウィニコット的理解でしょうが、母親の中の胎児と出産、分離、脱錯覚という観点から理解しています。12章の企業内メンタルヘルス相談では、身体症状を器官言語として理解しています。胃炎症状を呈したクライエントに「本音を言えん(胃炎)」という解釈のような駄洒落のようなことを言ったりしていますが。

 週4回以上のカウチを用いた自由連想で、精神分析的なセラピーを設定を用意することがなかなかできない日本的な臨床の中で、このように精神分析をまさに日常の臨床の中で活用していく、実際例を読むことができるのは本書のオリジナリティでしょう。

3 精神分析家以外が使用すること

 ただ、精神分析を活かすということは、基本の精神分析をマスターしていることがおそらく必然的に求められているとも言えます。精神分析を知らなければ、使えなければ、馴染んでなければ、活かすも何もないのは明らかです。

 その観点から執筆陣を見直すと、精神分析家であるのは、執筆陣21名中、3名(もしくは2名)のみです。精神分析家でないにも関わらず、精神分析を応用的に活かすことが原理的に可能であるのか?というのは議論できそうな箇所です。

 マスターしてないのに、それを使うということは、どこかで過ちを犯してしまうかもしれないというリスクはたやすく想定できます。臨床心理や医師の専門家としての責任をそこで果たすことが可能なのでしょうか。

 しかし、翻って思考してみると、医者ではなくても、医学の知見を活用し、怪我した傷を素人なりに手当てすることは日常的にしています。法律家ではなくても、法的にのっとって契約行為をしたり、書類の書式を作成したりしていることもあります。建築家や大工の資格がなくても、日曜大工的に簡単なものをこしらえたりもしています。例を挙げると枚挙にいとまがないので、この辺りにしておきますが。

 そう考えると、マスターし、資格を持っていなくても、その治療者、カウンセラーなりの訓練と経験の中で培った精神分析的な知見を、日々の臨床で活用することは、何ら不自然なことではないのかもしれません。

4 終わりに

 先に書いたように、精神分析的な知見は、精神分析の枠を大きく超えて、心理学、教育学、社会学、医学に影響を与えました。枠外を主語にすると、精神分析的な知見を活用して、心理学、教育学、社会学、医学に適用した、と言えます。

 日常臨床に活かす精神分析はその名の通り、我々臨床家が、日々の臨床の中で精神分析的な知見を活用する際の知的刺激を与えてくれる書物であると思われます。

読書   2017/05/13   北川 清一郎

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