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雑誌 精神療法「精神分析の現在」:精神分析の意義は治療にあるのか

精神分析の現在

 雑誌精神療法「精神分析の現在」を読み終えました。こうしてみると、いわゆる心理学テキストなどに出てくる精神分析は古典であり、現代の精神分析とは似つかないようなもののように思えます。特に関係性の視点は学派問わず重視するようになってるところは現代と古典の大きな違いです。

 そして、精神分析の各学派はそれぞれの発展を遂げているので、同じ精神分析を標榜していてもこれほどの違いがあるのかと思うぐらいです。では、何を持って精神分析とするのか、という共通項は意外と分からないものです。自由連想を用いない学派や分析構造をゆるゆるにする学派もあるようですから。

 精神分析に関わるテーマとして頻度の問題は大きいです。フロイトは週6回の頻度で精神分析を行ってました。現在では週4回以上を精神分析とし、それ以下を精神分析的心理療法と言ってます。頻度は精神分析の本質ではないですが、本質に影響を与える重要な要素です。

 精神分析の様々な理論や概念はこうした高頻度の設定の中で生まれてきたものです。そうしたものを週1~2回の頻度の精神分析的心理療法でも適用可能という仮説の中で運用されています。中には頻度が違えば適用できないとする人もいます。何が正解なのかは今後の臨床実践の積み重ねと議論にゆだねる他はないですが。

 ちなみに僕は精神分析的心理療法をする場合には、週2回以上を基本としています。諸事情で週1回でしているケースもありますが。

 あと、世の趨勢はエビデンスベースドになっており、その論点についても、本書では取り上げられています。それによるとCBTなどに遅ればせながらエビデンスの提示が徐々に積み上げられてきているようです。

 ただ、精神分析の本来の目的が症状除去ではないので、エビデンスという文脈でやっていくことが精神分析にとって良いのかどうかは疑問のようにも思います。フロイトも言っていますが、精神分析は自己探求の方法であり、症状消失などは副産物みたいなものです。

 ですので、症状消失を第一目的とするなら精神分析や精神分析的心理療法は選択とならないでしょう。自己探求を行い、これまでの自分を乗り越え、手放し、豊かな人生にしていくことが精神分析の目的のように思います。

 現在がエビデンスで突き進むなら、精神分析の独自性という意味で、エビデンスを敢えて放棄し、自己修練の方法として生きていくことの方が良いようにも思います。そうした意味でも、医療の中で精神分析をやっていき、生き残るのは非常に厳しいかもしれません。

 カウンセリングや心理療法に注目され、心の時代と言われたりもしますが、お手軽で、素早く、苦痛なことを取り除くことに価値が置かれているように見えます。本来的な意味で、心について考えていくようなことは前時代的に思われているのかもしれません。効率重視ですね。

 精神分析や精神分析的心理療法は効率も悪いし、エビデンスという意味での効果も未知数、苦痛なことを取り除くというよりは苦痛なことを考え、それを引き受け、自身のものにしていく困難なプロセスがあります。現代的にはそれはウケないのかもしれませんが。

 少数ではあったとしても、そうしたことに価値と意味を感じ、それを必要とする人がいるなら、精神分析は生き残っていくのではないかと思います。ある人は伝統芸能のようなものと言いました。良い意味で、です。

 精神分析はすべての人には必要はないし、押し付けるつもりもないですし、苦痛を取り除くことを第一に考えている人にはエビデンス的に効果的・効率的な技法を案内するでしょう。精神分析はエビデンス的な文化から一歩引いたところでその価値を残していくことが大事なのではないかと思います。

読書   2016/08/22   北川 清一郎

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