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対象関係論的心理療法における自我強化と内的マネージメント

先日の日曜日に横浜精神分析研究会の特別セミナーを開催しました。そこでの感想を書きました。

1.特別セミナー

いつもは毎月の固定メンバーで行っている研究会ですが、年1回ほど公開にして、広く参加者を呼びかけて開催しています。今回のテーマは「対象関係論に基づいた心理療法の進め方」と題して愛知教育大学の祖父江先生にお越し頂きました。午前は講義、午後は事例検討で、合計5時間の長丁場でした。中身は手前味噌ですが、非常に充実しており、学ぶことが多かった会だったかと思います。祖父江先生の臨床に根ざした技法は、特に初心者の人には参考になっただろうと思います。

2.対象関係論から見た自我の強化

講義では、スプリットされた良い部分と悪い部分の統合を目指し、単に陰性転移を解釈するだけではなく、良い自己と良い対象を如何に育てるのか、という視点もありました。特に低頻度のセラピーにおいて、かつ重篤な患者に対してはその観点は非常に重要となるようです。

そして、そうした介入によって、自我をサポートし、自我強化を目論んでいきます。日々の臨床では、純金の精神分析が適応になる患者は少ないです。行動化が激しかったり、熟考ができなかったり、凄惨な生活歴の被害が強かったり、等々の患者がかなり多いことも事実です。

そうした患者のセラピーでは、応用にならざるをえません。パラメータを導入せざるをえない場合もあります。そうしたことも含めてのマネージメントが必要になるのでしょう。一方で、そうした観点は自我心理学とも言えそうで、対象関係論と言えるかどうかも疑問といえば疑問でした。

自我の強化は単に良い所を見つけ、良い関係を作るだけのものではありません。不信や攻撃性、偽りの側面でしか生きれない患者もいます。そこでしか接点が持てない、それでしか手応えを感じれない患者です。そうした患者のセラピーではいずれ対決していく局面に差し掛かります。

そこでは技法を超えた治療者のパーソナルなものと、患者のパーソナルなものがふれあい、交流し、対決することになるでしょう。それは決して心地の良いだけのものではなく、抜き差しならない緊迫と切迫に満ちた極限的な関係にもなるでしょう。

しかし、そうした関係を通してこそ、本当のところで治療者と患者が出会い、創造的な何かが生まれるのでしょう。祖父江先生のパーソナルなものを患者に差し出し、その中で臨床をしていく様の一端が垣間見れたように思います。

3.事例検討では

後半の事例検討では、パーソナリティの問題を抱えている事例を扱いました。フロアから活発な発言が多く、盛り上がったと思います。構造や設定が多少応用的なので、とっつきにくい面もあったかもしれませんが、祖父江先生の理解で何が起こっているのかが整理できたと思います。

現場で仕事をしていると、テキストにあるような理想的な構造と設定で臨床をできることはそう多くないかもしれません。限られた資源と構造で取り組まざるをえないことも多いです。その中で自身の軸足を置くことができると、臨床に深みと彩りが添えられるかと思います。

4.アンケートの集計から参加者の声を聴く

参加者の方にはアンケートに記入してもらいました。概ね好意的なコメントが多かったかと思います。講義の続きが聞きたいという意見は多かったです。また自我強化の視点は臨床に役立てれそうという意見も結構ありました。

反面で、時間管理の点で少々辛口の評価も頂きました。途中休憩が結局無かったので、集中が切れてしまったとか。講義でもレジュメには記載されているけど、時間の都合上、省略されたところがあったことなど。司会者として次回の反省点です。

次回のセミナーに求めるテーマとして、ビオン、ウィニコット、ラカン、虐待、発達障害、特別支援、アセスメント、他職種との協働、もう一度対象関係論、などなど多岐に渡りました。さすがに全ての希望に応えられませんが、参考に来年度の特別セミナーをまた企画していきます。

ちなみにこれまで特別セミナーで取り上げてきたの テーマは、初回面接(妙木浩之先生)、発達障害(木部則雄先生)、言語化(平井正三先生)、思春期(飛谷渉先生)です。初心者受けするテーマにするか、マニアが喜びそうな精神分析のコアなことにするか、悩みどころです。

今後の横浜精神分析研究にご興味ある方は以下のページをご覧ください。