【労働紛争予防のために】労働契約と業務委託契約の違い

個人であれ、企業という人の集合体であれ、人との結びつきは「この人(企業)はよい感じだな」という期待から始まります。お互いにポジティブな感情が湧かなければ、そもそも、関係を持とうとはしないでしょう。一方、「よい感じだ」と関係がスタートするだけに「これぐらいしてくれて当たりまえだろう」という勝手な思いを相手に押し付けてしまうことにもなります。
労働者でも企業でも同じ事です。「社長はこれぐらいしてくれるだろう」「この労働者はこれぐらいの仕事のレベルのはずだ」と思い込みがちです。お互いの相手に対する期待だけが膨らむと、予想していた結果を裏切られた感情でいっぱいになり、「今まで黙って我慢していたのですが!」と、労働紛争に発展してしまいます。このような事態を避けるために、まずは、お互い、どのような契約を結んでいるのか、しっかりと確認することが大切です。
ここでは労働契約と業務委託契約について説明し、その異同について取り上げます。そして、労働紛争に発展しないためのチェックポイントについても解説します。
1.労働契約とは
仕事の契約を結ぶときには、「労働契約」なのか「業務委託契約」なのかをよく確認することが大切です。
「労働契約」とはシンプルに言えば以下の2点が挙げられます。
- 使用者の指揮命令を受ける
- 賃金をもらう
労働契約を結んだ労働者は企業(使用者)から比較的、広範囲の業務が期待されます。営業といってもパソコンで表をつくる、会議室の準備を手伝う、など、「使用者の指揮命令したこと」を労働として提供することが求められます。
2.業務委託契約とは
これに対して、業務委託契約は以下の2点が特徴として挙げられます。
- 使用者の指揮命令を受けない
- 報酬をもらう
使用者の指揮命令は受けません。そして、業務は細かく、具体的に決められています。
例えば、医師が3日間、企業に赴いて定期健康診断を担当するとします。この場合、業務委託契約とすると、企業は医師に指揮命令はしません。「定期健康診断をする」という業務をすれば企業から医師に報酬が払われます。
つまり、業務委託契約を結んだ医師に「会議室の準備」を命令しても「契約にありません」と断られる可能性が大きくなります。
3.労働契約と業務委託契約のそれぞれのメリット、デメリット
労働者になると、使用者の指揮命令に従わなければいけない一方で、労働の法律が適用になります。例えば、労働基準法(39条)年次有給休暇が適用になるので、有休が発生します。さらに、労働時間の条件を満たすなどで健康保険(協会けんぽなど)に加入できます。
一方、業務委託には広範囲の仕事の裁量は与えられますが「労働者」の権利がなく、すべて「自力」で健康保険などを賄わなくてはいけません。
労働契約 | 業務委託契約 | |
---|---|---|
メリット | 労働の法律が適用になる (有休の発生、健康保険の加入など) | 広範囲に仕事の裁量が与えられる |
デメリット | 使用者の指揮命令に従わなければいけない | 労働の法律が適用されない |
4.契約のトラブルを避けるために
仕事で契約を結ぶポイントは以下の2点です。
- できない、提供できないことこそ最初に話し合い、合意すること
- 言った言わない、こんなつもりだった、とならないように「書面」を出すこと
「うちの会社はこの賃金しか払えない」「私は子供の迎えで残業はできません」
このように伝えて書面で残しておけば、お互いに過度な期待はせず、後々もめることも少なくなるでしょう。
労働契約と業務委託契約。自分にとって働きやすいスタイルで活躍してください。
5.労働契約と業務委託契約のまとめ
労働契約と業務委託契約のそれぞれの特徴を表にまとめると以下のようになります。
労働契約 | 業務委託契約 |
---|---|
労働の法律の適用になる 例)労働基準法や労働者災害補償保険法など | 労働の法律が適用が無い |
労働局・労基署に相談できる | 労働局・労基署に相談できない |
健康保険の加入(会社が半分負担) | 国民健康保険に加入(自費負担) |
厚生年金の加入(会社が半分負担) | 国民年金の加入(自費負担) |
雇用保険の加入(会社負担あり) | 雇用保険に入れない |
それぞれの特徴をしっかりと把握し、自分自身の契約がどちらなのかを知っておくようにしましょう。
6.職場のトラブルについて相談する
労働契約と業務委託契約についてのそれぞれの特徴と異同を解説しました。そして、こうしたことを書面に残しておくことがトラブルや労働紛争にならないようにする工夫と言えます。それでも、時と場合によってはトラブルになってしまうこともあるでしょうし、そこまでではなくても、職場での働き方やキャリアに迷ってしまうこともあるでしょう。
そうしたとき、当オフィスでは職場の労働環境やメンタルヘルスについての専門家であるカウンセラーが在籍しています。お困りの時にはカウンセリング・相談のお申し込みをしていただけたらと思います。希望者は以下のリンクからお申し込みください。