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合理的配慮とは:臨床心理士が解説する心理学的な意味と意義

合理的配慮とは、障害 がある人の人権が、障害のない人と同じように保障されるとともに、教育や就業などの社会生活において平等に参加できるようおこなわれる配慮のことです。学校や企業では、過度な負担が生じない範囲ではあるものの義務化されています。

どのようなプロセスを経て、具体的にどのような配慮があるのかを解説します。

1.合理的配慮とは

合理的配慮とは、障害がある人の人権が、障害のない人と同じように保障されるとともに、教育や就業などの社会生活において平等に参加できるようおこなわれる配慮のことです。

合理的配慮の内容や程度は一律ではありません。一人ひとりの特性や組織の状況を考慮し、どのような配慮が必要で、どのように取り入れれば過度な負担がなく実現可能か、組織と勘案して決定します。

今日では合理的配慮について世間の認識が深まっているため、企業や学校では障害を持つ当事者、その保護者を交えた話し合いが実施されることが多いです。

2.合理的配慮の成立の歴史と背景

合理的配慮という言葉は、1970年代からあったと言われています。世界的に浸透されるようになったのは、2006年国連総会で採択された「障害者権利条約」で「合理的配慮を否定することは、障害を理由とする差別である」と明示されたことが大きなきっかけでした。

条約策定にあたって、障害のある当事者たちが「Nothing about us without us(私たちのことを私たち抜きで決めないで)」という言葉を掲げ、当事者とその支援団体が主体となりました。障害者のある当事者たちが意思を主張し、障害のない人と平等の待遇を手に入れるために声を上げたことは、大きな一歩でした。

その後、日本では、2011年に「障害者基本法」が改正されました。この改正では、「共生社会の実現」が明言されており、合理的配慮が大きな意味を持つこととなります

そして、2012年に「障害者総合支援法」、2013年には「障害者差別解消法」「障害者雇用促進法」の成立などさまざまな障害者制度の改革が起こり、2016年4月には「障害者差別解消法」が施行されました。この法施行によって「過度な負担が生じない範囲で具体的な対策を講じることを、行政や学校には義務、企業に対しては努力義務」と明文化されました。

ちなみに、「障害者差別解消法」の改正により、2024年4月から企業の合理的配慮は、これまで努力義務だったものが義務化されることとなります。改正を表にすると以下になります。

行政機関等 事業者(会社、お店)
不当な差別的取扱い 禁止 禁止
合理的配慮の提供 禁止 努力義務→義務

3.合理的配慮の対象

合理的配慮の対象は、障害者基本法第2条第1号に規定されている人で、以下のような方々が当てはまります。

障害者手帳の有無が判別基準と誤解される方もいますが、手帳の有無は関係ありません。

(1)身体障害

身体障害とは聴覚、視覚障害、肢体不自由、内臓機能などの疾患による内部障害などが挙げられます。

とりわけ障害の種類が多岐にわたる分、様々な合理的配慮の例があります。もし、補助具を使用する場合、それらを問題なく使うための環境整備も合理的配慮に当たります。

合理的配慮の例は以下の通りです。

  • 聴覚障害のある方に声をかける時には、自分の名前を名乗ってから話す
  • 言語障害のある方に対して、PCやタブレットを用意して筆談でコミュニケーションをとる
  • 肢体障害で車いすの方が移動しやすいようスロープや手すりを設置したり、机の高さを調整したりする
  • 内部障害の方が体調不良時は、休憩スペースで横になって休んでもらえるようにする

(2)精神障害

精神障害とは、気分障害(うつ病、双極性障害)、てんかん、統合失調症などが挙げられます。

心身が疲れやすいという方が多いため、最初は出社や登校を短時間から始め、徐々に時間を延ばす、こまめに休憩を促すなどの配慮が大切です。場合によっては外部支援機関と連携を図ることも効果的でしょう。

その他の合理的配慮の例は以下の通りです。

  • ゆっくり分かりやすく話す
  • 作業の優先順位や期限を明確にしておく
  • 静かに休憩できる場所を確保して、こまめに休憩を取るよう声をかける
  • 定期受診のための休暇を認める

(3)知的障害

知的障害とは、全般的な知的機能が遅滞しており、日常生活に支障が生じている状態を指します。知的機能の遅れといっても、その程度はさまざまです。知能指数だけで判断するのではなく、個人の意欲や能力、体力を加味した配慮をすることが大切です。

合理的配慮の例は以下の通りです。

  • 分かりやすい言葉で短く話す
  • 現場ごとに相談する人を決めておき、分からないことはすぐに聞けるようにする
  • 個別に理解度を確認する
  • 1度に1つのことだけを伝える

(4)発達障害

発達障害とは、生得的な知的能力の得意・不得意の差が大きく日常生活に支障が生じている状態を指します。具体的な診断名としては、自閉スペクトラム症、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害、チック障害などが含まれます。

自閉スペクトラム症の方は、コミュニケーションに困難を抱えていたり、曖昧な表現が分かりづらかったりといった特徴を持つ方が多く、ADHDの方は些細な刺激で集中力が途切れがちな人が多いなどの特徴が見られます。

合理的配慮の例は以下の通りです。

  • 簡単な言葉で具体的に話す
  • 座席を前の方にして、視覚刺激を減らす
  • タブレットなどICTの使用を許可する
  • チック症状が出ていても過度に反応しない

4.合理的配慮の実施のステップ

では、合理的配慮を行う場合、どのようにして進めたらよいのでしょうか。

ここでは合理的配慮を提供するときの流れを、4つのステップにわけて説明します

(1)当事者からの申し出

原則として、本人や保護者からの申し出があった場合に合理的配慮を行います。ただし、申し出はなくとも合理的配慮が必要であることが明白な場合には、組織からの声掛けが必要なこともあるでしょう。日頃から、必要な申し出がしやすいように周知したり、関係性を作ったりしておくことが大切です。

申し出には、根拠となる資料の提出が必要です。これらは、当事者の状況を適切に把握するためのものになります。例えば、障害者手帳、診断書、専門家からの意見書などが挙げられます。

様々な事情で資料の提出が困難な場合もありますが、必要性が明白な場合は、資料の有無に関わらず合理的配慮の提供について検討することもあります。また、根拠となる資料を取得するための支援を行う場合もあります。

(2)話し合い

本人や保護者からの申し出があった後、当事者も交えて話し合いを行います。

組織側は障害特性やニーズの把握に努め、適切と思われる配慮を提案しますが、以下の3点を満たすものか留意する必要があります。

  1. 必要とされる範囲で本来の目的に付随するか
  2. 障害者でない者と比べて同等の機会の提供を受けるためのものか
  3. 目的・内容・機能の本質的な変更になっていないか

また、過重な負担にならないかということにも留意しましょう。判断の基準は以下の5点になります。

  1. 事務・事業への影響の程度(目的・内容・機能を損なうか否か)
  2. 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
  3. 費用・負担の程度
  4. 事務・事業規模
  5. 財政・財務状況

時には、過重な負担になり当事者からの要望に添えないことがあるかもしれません。そのような時は、なぜ実施が難しいか理由をしっかりと説明しましょう。そして、別のやり方を提案することも含め、話し合い、理解を得られるよう努めることが大切です。

(3)合理的配慮内容の決定

話し合った後、合理的配慮の内容が決定します。

本人に関わる、職員や教師に対して合理的配慮の内容を共有し、フォロー体制を構築します。情報共有では、伝える人の範囲や共有する内容について、障害者と相談したうえで決めておきましょう

また、障害者本人の担当窓口になる人を決めることで、随時相談しやすい体制を整えます。また、周囲が初めて配慮に当たる場合、職員や教師の方が困惑する場合もありますので、彼らが困った時の相談窓口も決めておきましょう。

(4)モニタリング

合理的配慮は1度決めて終わりではありません。定期的にモニタリングを行い、今のままで大丈夫か?新たに困っていることがないか?と調整していく作業が必要になります。

5.合理的配慮の問題点

合理的配慮の問題点として、障害者雇用制度との差が不明瞭であること、企業の場合強制力がないことなどが問題に挙げられていました

障害者が一般企業で配慮を受けながら働くための法制度には、主に障害者雇用制度と合理的配慮があります。しかし、現時点では、障害者雇用促進法にもとづいた配慮のほうが、障害者に対して手厚く配慮できることが問題視されています。背景の1つとして、障害者雇用促進法を活用すると助成金を享受できることが挙げられます。事業主にとっては、助成金を受け取れる制度の方を活用したいと考えることは自然なことでしょう。

また、企業の場合、法的強制力がないことも問題視されていました。先に述べたように、障害者差別解消法において、企業の合理的配慮はこれまで「努力義務」と位置づけられていました。つまり、法的強制力が無く、直接的な罰則も設けられていませんでした。しかし、この問題は2024年の法施行で「義務化」されることにより解消されていくのではないかと考えられています。

6.まとめ:相談窓口

合理的配慮とは、障害のある人の人権が障害のない人と同じように保障されるとともに、教育や就業など社会生活において平等に参加できるようおこなわれる配慮のことで、義務化されています。

個々の障害に合わせた配慮で、障害のある人もない人も、その人らしさを認め合いながら共に生活できる環境を作っていきましょう

合理的配慮を含めた、職場の環境調整やメンタルヘルス施策についてのコンサルティングをご希望の場合には以下からお問い合わせください。

また学生や労働者の方で、学校や職場で合理的配慮がなく、ストレスを感じている方はまずは個別のカウンセリングでお話を伺いますので、ご希望の方は以下の予約システムからお申し込みください。

参考文献

この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。