強迫性障害(強迫症)の概要、原因、診断、特徴・種類、経過、治療を解説します。近年、DSM-5になってから、強迫症という言葉に変わりましたが、ここでは強迫性障害という言葉の方がなじみがあると思われますので、強迫性障害で統一させていただきます。
強迫性障害は、身近な家族からの理解を得られにくい、辛い病気です。当事者の方もしたくてしているわけではない行動を、周りから注意をされるなど、余計辛い思いをしやすく、人間関係にも支障をきたすことが多いです。
目次
1.強迫性障害とは
強迫性障害とは、何度も同じ行動や思考を繰り返し、それがコントロールできなくなる精神障害です。洗う・数える・確認するなど、具体的な強迫行為が現れます。また、不安やストレスが増すと症状が悪化することがあります。そして、当事者自身、自分の考え(強迫観念)や行動(強迫行為)がバカバカしいことだとわかっていますが、その考えや行動に抵抗することが難しく、症状として長期化してしまうのです。治療には、薬物療法や認知行動療法が用いられます。
ここで強迫観念と強迫行為をより身近に感じてもらう実験をしてみましょう。それでは始めます。
今から1分間“白くま”のことは考えないでください。いいですか、“白くま”のことだけは絶対に考えないでください。
いかがでしょうか。
どうしても“白くま”のことが頭から離れなくなった、あるいは考えないようにしていても、ふと“白くま”のことが頭の中に浮かんできませんでした。これが強迫観念に近い感覚で、よく言われる余計な考えが頭の中に侵入してくるといったイメージです。
もしかしたら、“白くま”のことを考えないようにと、本を読み始めたり、このページから離れようとした人もいらっしゃるのではないでしょうか。それは強迫行為に近い行動です。“白くま”のイメージを打ち消すために行動を起こしたのです。
これはあくまでゲームですので、楽しく済んだかもしれませんが、強迫性障害を持つ方は、その“白くま”に変わる他の考え(汚い、カギは締めたかな、誰かを傷つけたんじゃないかなど)が非常に不安になりやすいものなのです。
また、考えを打ち消すための行動もしたくてしているわけではありません。それでも、その行動をそうしないと苦痛に感じるのです。
そして、強迫性障害の生涯有病率(一生のうちに罹患する可能性)は1.1~1.8%と言われています。男女比としては、おおよそ半々ですが、男性は女性に比べてより早期に発症し、男性の約25%は10歳以前に発症します。ただ、成人では女性の方が罹患率は高いと言われています。
ちなみに強迫性障害の上位カテゴリーである不安障害については以下のページをご覧ください。
2.強迫性障害のチェックリスト
強迫性障害を簡便にチェックできるリストです。該当するところにチェックを入れてください。
結果はいかがでしたでしょうか?数値の意味は以下となります。
- 26点以上・・・重度の強迫性障害
- 16~25点・・・中度の強迫性障害
- 10~15点・・・軽度の強迫性障害
- 9点以下・・・問題なし
これはチェックリストに過ぎないので、真に取る必要はありません。ご心配なら以下の問い合せフォームからご相談ください。
3.強迫性障害の原因
強迫性障害は一昔前までは、幼少期のトラウマ的体験を心の中で抑圧し、不快な記憶や感情を排除しようとするプロセスという、精神分析学的な観点から原因が考えられていました。しかし、精神分析学的な観点だけでは、説明が難しく、治療の効果も確実なものとは言えず、他の要因も考えられるようになりました。
脳画像研究の発展に伴って生物学的な原因も明らかとなり、強迫性障害は、偏桃体や海馬といった情動を司る脳部位の異常とともに、前頭眼窩面-視床-尾状核における神経ネットワークの過剰活性が生じているとされています。また、気分の高揚感と関係のある、脳内のセロトニンがうまく作用していないといった要因も考えられています。
これらの生物学的な原因は、単純な脳の機能障害というだけでなく、日々のストレスが積み重なったり、外傷的な出来事を経験することで、脳が適切に機能しなくなるなどの環境的要因も大きいです。
また、一親等以内に強迫性障害を持つ方がいる場合は、いない場合に比べて、10倍はかかりやすいと言われており、遺伝的な要因も推測されています。
4.強迫性障害の診断
DSM-5では以下のように記載されています。
強迫性障害の特徴的な症状は、強迫観念と強迫行為の存在で、以下の、A、B、C、Dの基準に沿って診断がなされます。
A. 強迫観念、強迫行為、またはその両方の存在
強迫観念は以下の(1)と(2)によって定義される:
(1) 繰り返される持続的な思考、衝動、またはイメージで、それは障害中の一時期には侵入的で不適切なものとして体験されており、たいていの人においてそれは強い不安や苦痛の原因となる。
(2) その人はその思考、衝動、またはイメージを無視したり抑え込もうとしたり、または何か他の思考や行動(例:強迫行為を行うなど)によって中和しようと試みる。
強迫行為は以下の(1)と(2)によって定義される:
(1) 繰り返しの行動(例:手を洗う、順番に食べる、確認する)または心の中の行為(例:祈る、数える、声に出さずに言葉を繰り返す)であり、その人は強迫観念に対応して、または厳密に適用しなくてはいけないある決まりに従ってそれらの行為を行うよう駆り立てられているように感じている。
(2) その行動または心の中の行為は、不安または苦痛を避けるかまたは緩和すること、または何か恐ろしい出来事や状況を避けることを目的としている。しかし、その行動または心の中の行為は、それによって中和したり、予防したりしようとしていることとは現実的な意味ではつながりをもたず、または明らかに過剰である。
B. 強迫観念または強迫行為は時間を浪費させる(1日1時間以上かける)、または臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
C. その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の直接的な生理学的作用によるものではない。
D. その障害は他の精神疾患の症状ではうまく説明できない(例:全般不安症における過剰な心配、醜形恐怖症における容貌へのこだわり、ためこみ症における所有物を捨てたり手放したりすることの困難さ、抜毛症における抜毛、皮膚むしり症における皮膚むしり、常同運動症における常同症、摂食障害における習慣的な食行動、物質関連障害および嗜癖性障害群における物質やギャンブルへの没頭、病気不安症における疾病をもつことへのこだわり、パラフィリア障害群における性的衝動や性的空想、秩序破壊的・衝動制御・素行症群における衝動、うつ病における罪悪感の反芻、統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群における思考吹入や妄想的なこだわり、自閉スペクトラム症における反復的な行動様式)。
出典:精神障害の診断および統計マニュアル第5版(DSM-5)
以上のことを要約すると、強迫観念と強迫行為が日常の中で実際にあり、それによって日常生活や社会生活(職場や学校)を営むのに支障をきたしています。
そして、これら強迫観念と強迫行為が薬物の使用によるものでなく、かつ他の病気では説明が難しい場合に強迫性障害と診断されるということです。
5.強迫性障害の特徴と種類
上記の診断基準Aについての症状はいくつかのタイプに分けることができ、また、強迫観念と強迫行為には一定の関連性があり、関連性の強さによって症状がまとめられています。
強迫性障害を持つ方の多くは以下の4つのいずれか、あるいは複数の症状を有しています。
- 洗浄(汚染に関する強迫観念と洗浄に関する強迫行為)
- 対称(対称性に関する強迫観念と繰り返し行為)
- 禁断的あるいはタブーとされる思考(攻撃、性的、宗教的な強迫観念とそれに関する強迫行為)
- 加害(自分自身または他者を傷つけることへの恐れとそれに関した確認強迫行為)
4つの症状についてより具体的に説明していきましょう。
(1)洗浄
洗浄の症状がある方は、バイ菌やウィルスが自分や身の回りのものに汚染されたと感じること(強迫観念)で、その汚染を防ぐために何度も手や体を洗ったり(強迫行為)、そもそも汚染されていると思うものは触れないといった回避的な行動を取ることがあります。
例えば、トイレに入った後は、身体にバイ菌が付いたかもしれないと思い、服を着替えたりします。または、地面に落ちたものを拾った後は、手にウィルスが付いたかもしれないと、長い時間手を洗ったりします。
洗浄の症状が強い方は外出することすらためらうようになることも少なくありません。
(2)対称
対称の症状がある方は、物の配置が対称になっていなかったり、衣服の着脱の順番が乱されると不安(強迫観念)になります。そのため、常に物を置く際に慎重になったり、手順が一つでも崩れると最初からやり直したりと、一つの行動に長い時間費やします。
結果として、朝は遅刻をしやすいですし、仕事や家事も中々進まなくなることがあるのです。
(3)禁断的あるいはタブーとされる思考
禁断的あるいはタブーとされる思考をされる方は、ある状況で突然自分が人を刺してしまうのではないか、あの人を突き落とすのではないかといった、攻撃的な思考(強迫観念)が頭に浮かびます。
このある種、禁断的な思考を取り払おうと、自分を傷つけたり(強迫行為)して、頭に浮かんだことを取り払おうとします。また、宗教的な思考として、悪い霊に取りつかれるのではないか(強迫観念)と言った考えを取り除こうとして、長時間祈ったり、自分なりの儀式をすること(強迫行為)があります。
(4)加害
加害の症状がある方は、自分は他の人を傷つけたのではないかという思考(強迫観念)から、その傷つけたと思う人に何度も確認したり(強迫行為)します。
それが、重症化すると人との接触を避け、外出もしなくなるのです。
(5)その他
上記した4つの症状以外にも強迫観念や強迫行為は存在しますし、その症状の度合いや頻度などは人それぞれ異なります。一人一人の状態を確認することが治療には必要です。
6.強迫性障害の経過
強迫性障害は、強迫行為が一時的ではありますが、強迫観念に伴う不安や苦痛を中和するという症状のため、循環的に維持されるという好ましくない特徴をもちます。そのため、どこかでこの悪循環を断ち切らないでいると、経過は通常慢性化し、しばしば悪化と軽快を繰り返します。
治療が行われない成人における寛解率(日常生活・社会生活で困らないほど状態が良くなること)は低いとされています。しかし、それはつまり、適切な治療やカウンセリングを行うことによって良くなる可能性が高いということです。
また、上記した症状の中でも洗浄や加害の強迫観念がある方は、人間関係や公共の場を避け、ひきこもりに至る場合もあるため、早期に治療に取り組むことが望まれています。
そして、強迫性障害は、自分が安全と考える方法や手順を家族にも強要していくことが多く、家族や周囲の人にも著しい心理的苦痛を引き起こします。結果として、当事者の方だけでなく、家族の生活の質も低下していることが指摘されています。強迫性障害の治療には、家族の理解も非常に重要です。
7.強迫性障害の治療
(1)薬物療法
強迫性障害に対する主要な薬物療法は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を主としています。また、部分的に不安をやわらげるための抗不安薬が処方されることはありますが、多くは一時的な位置づけです。
薬物療法の場合は、薬の効果が得られているかを評価するため、まずは十分量、十分な期間、施行することが必要と言われています。おおよそ薬の判定には4週~6週間は飲み続ける必要があります。
(2)カウンセリング
カウンセリングでは認知行動療法を中心とした技法を使います。認知行動療法では、これまで恐れ回避していたことに直面化し(曝露法)、不安を軽減するための強迫行為をあえてしないこと(反応妨害法)を継続的に練習します。
実際に取り組む際には行動分析が重要となります。つまり、症状がどのような場面や刺激により出現し、どのような観念が生じて不安になるのか、どのような行為や回避を伴っているのか、社会生活への影響はどの程度かなどを明らかにして、治療のターゲットを具体的に決めます。
課題設定は通常不安と感じる程度が低いものから順番に実施していきますが、当事者の希望に沿って、治療効果を実感しやすいものなどを、優先させる場合もあります。
認知行動療法の詳細は以下のページをご覧ください。
(3)家族への支援
最後に、家族や周囲の人への支援として、当事者の方が通っているクリニックなどで心理教育などが行われているか確認してみてください。強迫性障害は、周囲のサポートと障害の理解が大切です。どうしても巻き込まれやすい強迫症状(手を洗う、火を消したか確かめる、最初から片づけるなど)に家族が応じないようにすることが必要です。
初めはどうしても応じてしまいますが、それが当事者の方のためではないことを家族や周囲の人が理解しなければいけないのです。また、家族の方も一人では抱え込まず、地域の家族会に参加するのもよいと思います。同じ悩みを持つ方がいらっしゃるかもしれません。他の家族がどのように対応しているか、聞いてみるのも大切です。
8.強迫性障害について相談する
強迫性障害の概要、原因、診断、特徴・種類、経過、治療について説明しました。強迫性障害は、「ただの気にしすぎかな」と思うところから徐々に強くなっていきます。なるべく早めに気づいて、専門家に相談できると良いかと思います。
当オフィスでも強迫性障害の相談、カウンセリング、認知行動療法を行っています。希望者は以下の申し込みフォームからお問い合せください。
9.参考文献
この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。