依存性パーソナリティ障害における基本的な特徴は、他人に面倒をみてもらいたいという過剰な欲求であり、他者からの強力な支えを得るために、従属的でしがみつく行動が頻繁に認められます。
依存性パーソナリティ障害を抱えている人は、親や配偶者などを始めとして自分の面倒をよくみて親切にしてくれる人と少しでも離れることを恐怖として捉える分離不安を認め、自分一人だけでは到底生活していけないと信じ込んでいます。
今回は、そのような「依存性パーソナリティ障害」について説明していきます。
目次
1.依存性パーソナリティ障害とは
依存性パーソナリティ障害とは、他人に対する強い依存心や自己肯定感の低さが特徴的なパーソナリティ障害の一つです。自分一人では何もできないと感じ、他人に頼ることが多く、自己主張が弱いことがあります。また、過度に承認欲求があるため、他人の意見や期待に合わせようとすることがあります。治療には、認知行動療法や対人関係療法、精神薬物療法が用いられることがあります。
依存性パーソナリティ障害の人は、他人から世話をしてもらいたいという要求を強く持ち、過度に服従的であり、他者にまとわりついて依存する言動を特徴を持っています。
統計的には、人口の約1%弱に依存性パーソナリティ障害があると考えられており、男性よりも女性に罹患率が高い傾向を有し、多くの患者さんは思春期や成人期早期などの特定時期に発症することが見受けられます。
依存性パーソナリティ障害とはパーソナリティ障害のひとつの病気として捉えられており、両親や配偶者など他人に過度に頼る特性があり、常日頃から他者に従って依存する行動が多く認められます。特に恋愛関係の中で問題がこじれてしまうことが多いようです。この依存性パーソナリティ障害を有する方は、他者に世話を十分にしてもらいたいがゆえに、自分の意見を主張せずに配偶者や恋人による暴力など支援者が間違っていることでも、同意して精神的かつ肉体的な苦痛を我慢して服従しようとする傾向があります。
依存性パーソナリティ障害は上位カテゴリーのパーソナリティ障害の中の一つです。そのパーソナリティ障害については以下のページをご覧ください。
2.依存性パーソナリティ障害の原因
依存性パーソナリティ障害が発症する明確な原因に関しては、いまだに判明していませんが、養育期の過酷な経験、子供の頃に自分を否定されるようなイベントを有する、生まれつき身体が弱く他者に頼る機会が多かったなど発育環境に関連性があると指摘されています。
また、養育環境だけでなく、もとから自信がなく他者に服従しやすいなど性格的な要素を含めて個々の特性が相互に関係して本疾患を発症するという見解も伝えられています。
3.依存性パーソナリティ障害の症状や特徴
依存性パーソナリティ障害における症状としては、自分一人では何もできなくなるという誇張された不安感が強いことから、他者へのしがみつきや服従行動に出やすいことが強調されています。
依存性パーソナリティ障害を抱えている場合には、仕事や学校にどのような服を装着していくか、傘を携帯して持っていくかどうかなどほんの些細なことでも、他人からのアドバイスがなければ自分で決定できない場面が見受けられます。日常生活の多くの部分で、特定の他者に決断をゆだねて、責任をとってもらおうとする傾向が、年齢や状況に適切なレベルを超えて認められる場合に、依存性パーソナリティ障害を疑うことになります。
患者さん自身で何かを計画して実行することはできませんが、支援者がサポートしてくれる環境下であれば他者から見捨てられないようにという一心で、より有能的に行動するパターンが見受けられます。特定の他人から心の支えを獲得するために、興味が乏しい場所にもぴったりと密着してついて行くなど本当は嫌に感じていることも自分が犠牲になって実行する場合もあります。
また、いつも世話をしてくれていた母親や恋人など特定の人物と破局や死別などによって一緒に共存できなくなった際には、すぐに他の誰かに世話を焼いてもらおうと依存先を検索する傾向が強く認められると考えられます。
依存性パーソナリティ障害の臨床経過に関しては、ほとんど知られていないのが現状ですが、依存性パーソナリティ障害を抱えている患者さんは、依存する人が不在である状況が継続されると、大うつ病性障害などを合併して精神的症状が悪化する可能性が指摘されています。
4.依存性パーソナリティ障害の診断
依存性パーソナリティ障害を診断する上で重要なポイントは、他者に面倒をみてもらいたいという過剰な欲求が背景に存在するために他人に従属的でしがみつく行動をとる傾向が成人期早期までに認められると共に、分離に対する不安を感じることが特徴的です。
また、自分一人で何事もできないという過度の恐れがあるゆえに、他人に自分の重要な生活上の決定事項をゆだねて、他人の意志に必要以上に従うことも本疾患を診断する上で手助けとなる情報です。
常日頃から自分を無力で精力に欠けた存在であると自覚しており、他人からの助言や保証がなければ、日常生活における数々の決断事項に対して多大なる能力限界を認める場合には、依存性パーソナリティ障害と診断されることもあります。
依存性パーソナリティ障害のDSM-5における診断基準
面倒を見てもらいたいという広範で過剰な欲求があり、そのために従属的でしがみつく行動を取り、分離に対する不安を感じる。成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。
- 日常のことを決めるにも、他の人達からのありあまるほどの助言と保証がなければできない
- 自分の生活のほとんどの主要な領域で、他人に責任をとってもらうことを必要とする
- 支持または是認を失うことを恐れるために、他人の意見に反対を表明することが困難である(注:懲罰に対する現実的な恐怖は含めないこと)
- 自分自身の考えで計画を始めたり、または物事を行うことが困難である(動機または気力が欠如しているというより、むしろ判断または能力に自信がないためである)
- 他人からの世話及び支えを得るために、不快なことまで自分から進んでするほどやりすぎてしまう
- 自分自身の面倒を見ることができないという誇張された恐怖のために、1人になると不安、または無力感を感じる
- 1つの親密な関係が終わったときに、自分を世話し支えてくれるもとになる別の関係を必死で求める
- 1人残されて自分で自分の面倒を見ることになるという恐怖に、非現実的なまでにとらわれている
引用:DSM-5
5.依存性パーソナリティ障害の治療法と克服
依存性パーソナリティ障害の薬物療法やカウンセリング、接し方についてここでは解説しています。
(1)依存性パーソナリティ障害の薬物療法
依存性パーソナリティ障害に不安症状や抑うつ状態を合併している際には、イミプラミンやセロトニン作動薬などを主とした薬物療法が実践されます。
薬物療法では、基本的には個々の症状に対する対症療法が主流として実施されています。
状況に応じて気分安定薬や抗精神病薬などを使用するケースもあれば、抑うつ状態や引きこもりが精神刺激作用を有する薬剤に顕著に奏効する場合には、それらの薬物を使用しても許容されます。
(2)依存性パーソナリティ障害のカウンセリング
依存性パーソナリティ障害に対してカウンセリングや洞察療法を含む精神療法を通じて、自分がなぜ依存的な言動を選択するかを自身で理解できるようになるとともに、自己主張をして、自分を信頼できるように促す効果が期待されています。
本疾患に対する精神療法においては、家族療法、集団療法、認知行動療法、自己主張訓練など様々な方法があって、依存性パーソナリティ障害の患者さんの多くは医療従事者に従いやすい傾向が認められることから精神療法による治療で症状改善する例も多いです。
その上で、自身のこれまでの対人関係のパターンや過去の経験、時にはトラウマなどを振り返りながらカウンセラーと一つ一つ解決していくことができます。
(3)依存性パーソナリティ障害の人への接し方
依存性パーソナリティ障害に関しては、患者さん自身が病識を常に有しているわけではなく、近しい家族など周囲の人によって病状に気づくことが往々にして見受けられます。
したがって、依存性パーソナリティ障害の人へ接する際には、無理に医療機関の受診を勧めずに、患者本人が自分自身とゆっくり向き合えるような慎重な配慮が重要となります。
依存性パーソナリティ障害は、完治するのに一定の時間はかかりますが、年齢を重ねて確実な治療を実践することによって症状が軽快する可能性が高いと期待されていますので長い目で温かく見守ってあげましょう。
6.依存性パーソナリティ障害のカウンセリングを受ける
依存性パーソナリティ障害の罹患者は、他人に過度に自分の面倒をみてもらおうとする、あるいは一人ではなにもできないと考えて強く他人からの助言を求めたがる傾向があります。
また、依存している人から見捨てられて、一人になることに対して強い不安感を抱いており、仮に身体的あるいは精神的な虐待を受けていても、自分の感情を押さえて耐えしのぐ場合が多く見受けられます。
依存性パーソナリティ障害に関連する症状を認める際には、精神科や心療内科を受診して、普段の症状や特徴的な言動などから診断基準に基づいて、カウンセリングなどの精神療法や薬物治療を始めとする適切な治療に結び付けることが重要な観点となります。
(株)心理オフィスKでも依存性パーソナリティ障害に対するカウンセリングや心理支援、心理療法を行っています。また、身近な人が依存性パーソナリティ障害である方の相談も受け付けています。カウンセリングをご希望の方は以下の申し込みフォームからご連絡ください。
文献
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