会食恐怖症は、社交場で他の人と食事することに強い抵抗感を感じる状態を意味します。会食恐怖症を抱えている人は、他の人と一緒に食事することに対して過剰に緊張して、食べ物がのどに詰まってこぼしたりするのではないかという不安感、あるいは自分が周囲から笑われたりするのではないかという恐怖感に襲われる症状をきたします。
今回は、そのような会食恐怖症の特徴や治療法などについて説明していきます。
目次
会食恐怖症とは
会食恐怖症とは、他の人と食事が出来なくなる病気です。会食恐怖症の症状は、嘔気、めまい、動悸、あるいは食べ物を飲み込めなくなる嚥下障害など多岐にわたって認められます。
中には、家族と会食すること自体難しくなる場合もありますし、親しい友人の前では大きな問題を抱えることなく食事できるパターンもあって、症状が出現する状況や場面、重症度などはケースバイケースです。
会食恐怖症は、不安症の一種である社交不安症に分類されている疾患として位置づけられていて、社交不安症は一般的に他人の前で恥ずかしい思いをすることに過度に緊張して恐怖感を感じる病気です。社交不安症のなかで、会食という限定的な場面で不安感や恐怖感を自覚する病気が会食恐怖症であり、主に性格的に生真面目で不安を感じやすいタイプの方において発症リスクが高いと考えられます。
社交不安障害の詳細は以下のページをご覧ください。
特に、これまでの学校給食や部活動での「完食指導」が、会食恐怖症の発症の引き金となるケースが多いと言われています。例えば、小学校や中学校の時代に、給食やクラブ活動での食事の場面で、完食できなくて叱られた経験を持っていると、同様の場面に遭遇した際に、全部食べなければまた叱られるといった過度な思い込みを自動的に考えてしまう習性が形作られます。
会食恐怖症の人の脳内では、恐怖感情に深く関与している扁桃体という部分が過敏に反応していて、会食の予定があるというだけで極度に不安を感じて、自然と会食には行かないといった場面回避行動を選択する傾向があります。
ちなみに会食恐怖症の上位カテゴリーである不安障害については以下のページをご覧ください。
よくある相談の例(モデルケース)
20歳代の女性
Aさんは20代の女性で、友人や同僚と食事をする場面で強い緊張を感じています。外食の場では、周囲の目が気になりすぎて食べ物が喉を通らなくなり、嘔吐してしまったり、気まずい雰囲気を作ってしまうのではないかと心配しています。このため会食の誘いを断ることが増え、孤独感が強くなっていることを悩んでいます。学生時代から人前で食事をするのが苦手で、特に緊張する相手と一緒のときには、手が震えたり胃が痛くなったりすることがありました。ただし、一人での外食や家族との食事では特に問題がなく、社会人になり同僚や上司との会食が増える中で症状が悪化したようです。「会食を断ることで人間関係が悪くなるのではないか」「周囲から変だと思われているのではないか」という不安が強まり、Aさんは「このままではいけない」と感じるようになりました。
ある日、同僚から誘われたランチ会を断った直後、自己嫌悪が強まったAさんは、インターネットで「人前で食事をするのが怖い」といったキーワードで検索をしました。そして、自分の症状が「会食恐怖」に該当する可能性を知り、改善したいという思いでカウンセリングを受けることを決意しました。オンライン予約が可能なカウンセリングルームを見つけ、メールで初回相談を申し込みました。
初回の面接では、Aさんがこれまで抱えてきた不安や辛さについて話を聞きました。「自分が変だと思われるのが怖い」「会食中に緊張して食事が進まないとき、相手がどう思うかを考えるとつらい」と涙ながらに語るAさんに対し、カウンセラーはまずその気持ちに寄り添いました。そして、Aさんが「周囲からの評価」に強く縛られていることや、「人前で食事を失敗したら関係が壊れる」という考え方に囚われている可能性に着目しました。改善に向けて認知行動療法(CBT)を活用し、Aさんの思考のパターンを整理しながら、現実的で柔軟な考え方を身につけるサポートを行うことになりました。
カウンセリングが進む中で、Aさんは自分の緊張や不安がどのような状況で生じるのかを振り返る作業を始めました。緊張する場面やそこで抱く考え方を記録することで、Aさんは「相手が自分をどう見ているのか過剰に気にしている部分」に気づき始めました。その後、「相手は自分の食べ方や振る舞いにそれほど注意を払っていないかもしれない」という現実的な視点を取り入れる練習を行いました。また、Aさんが緊張しやすい場面を少しずつ練習するため、気心の知れた友人とカフェで軽食を取ることから始め、次第に人数を増やしたり、職場の懇親会に短時間参加するなど、段階的に挑戦を広げていきました。併せて、リラクゼーション法やマインドフルネスの技法を活用し、体の緊張を緩和する方法を学びました。
カウンセリング開始から3ヶ月が経過した頃、Aさんは「以前よりも自分の気持ちを冷静に見つめられるようになった」と実感するようになりました。会食中に緊張しても、それを否定的に捉えず、「緊張するのは自然なこと」と受け止められるようになり、自分を過剰に責めることが減りました。半年が経つころには、職場のランチ会にも短時間参加できるようになり、同僚と会話を楽しむ余裕も生まれました。完全に不安が消えたわけではありませんが、「怖いと感じても、その場を乗り越えられる自信がついた」とAさんは話し、以前より会食への苦手意識が薄れてきました。最終的にAさんは、「もう一人で抱え込む必要はないと気づけたことが一番大きかったです」と笑顔で振り返り、カウンセリングを終了しました。
会食恐怖症の特徴と症状
(1)特徴
会食恐怖症においては、他人と一緒に食事することに対して、強度の不安感や緊張感、恐怖心を抱くことで、誰かとの会食場面を避けるようになり、人間関係や社会生活、あるいは日常生活に一定の支障が出現します。
Aさんも友人や同僚との外食に強い不安や恐怖を感じ、それを回避するようなことも起こっていました。
会食恐怖症の有病率は、一般的には低いと考えられていて、女性の方が男性よりも会食恐怖症を発症しやすく、子どもや若年者に多く見られることが知られています。また、会食恐怖症の有病率に関しては正確な統計値を得ることが難しく、会食恐怖症を含めた社交不安スペクトラムについての詳細な統計データはまだまだ不足しており、会食恐怖症の症状とともに社交不安障害などを含めて他疾患と混同されることも少なくありません。
(2)3つの症状
会食恐怖症は、社交不安症の一部として捉えられていますが、典型的な症状の特徴としては主に3種類のパターンが挙げられます。
- 社交不安症(対人恐怖)によるものであり、食事中に音を出す、食事マナーが悪い、食べているものをこぼすことなどによって、他者に不快な思いをさせてしまうのではないかと恐れて相手からの評価を気にし過ぎることによって強い不安感が出てきます。
- パニック症(広場恐怖症)によるものであり、食事中に自分の体調が悪化した場合などに、人間関係における束縛感が背景にあって相手にとって失礼になるのではないかと不安感を自覚することが挙げられます。
- 吐き気恐怖によるものがあり、自分や他人が食事内容物を吐いてしまうことを極端に恐れて、十分に食事が出来ない、あるいは食事する場面を過度に恐れてしまう状態が出現することもあります。
これらのパターンは、会食恐怖症として同じ症状に見えますが、その根底に存在する恐怖の対象や種類は若干異なりますので、それらの特徴をしっかり見定めて症状を評価することは大切なポイントとなります。
Aさんは上記3つの症状の全てがありました。
会食恐怖症の診断
会食恐怖症を診断する上で必要な問診内容や特徴を知っておく必要があります。
例えば、対人恐怖の有無を調べるために、食事中に本人が他者とどう接していいかわからずに他人とのコミュニケーション方法が判断できず、疎外感を強めて緊張感や苦痛を感じている場合には会食恐怖症を疑うことになります。
また、食事の際中に自分の表情や容姿などを他者から注目されていると意識すればするほど顔が赤くなって、人前に出るのが苦手になり、大勢の人が集まる会食会場などを避けるようになる場合にも会食恐怖症を疑うきっかけとなります。
そして、他人の前で食事をすることに対して極端に恐怖心を持つようになりますし、会食恐怖症を抱える人は恋人や婚約者など自分にとって大切な人の前ほど不安感など症状が強くなり、食事がこわくて会食できないなどの症状を認めるケースが多く見受けられます。
若い女性に多く認められる視線恐怖も同時に認められることもあり、自分が食べている光景を他人に見られて緊張して食べられない、あるいは自分が食べる音が気になって同席している方に申し訳ないと深く悩む場合にも会食恐怖症を念頭に置く必要があります。
Aさんは上記のように疎外感を感じ、また強い恐怖心があるため、会食会場を避けていました。
会食恐怖症を克服するための治療法と対処法
(1)自分でできること
会食恐怖症では、食事をすることに対して極度の不安や恐怖を感じるため、他者との食事機会を避けて、食事そのものを楽しむことが困難な場合があります。
会食恐怖症を克服して、少しずつ食事を楽しめるようになるためには、自分が落ち着く食事場所や食事するタイミングや時間帯、食べる量や食材などを事前に考慮するとともに、周囲の方に自分の状況を伝えて、理解してもらうことが重要です。
実際の食事の場面では、準備することに十分時間をかけて、自分が緊張せずに食べられるように調理する、あるいは食事をする場所や食器の種類、音楽の有無なども考えながらできるだけ自分がリラックスできる環境を整えるように努めましょう。
(2)医学的な治療
会食恐怖症に対する治療の基本は、脳と心の過敏さを取り除くことが重要であり、医学的な治療の一つとして挙げられる薬物治療では、抗うつ薬の一種である選択的セロトニン再取り込み阻害薬やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬を使用します。
これらの選択的セロトニン再取り込み阻害薬など抗うつ薬を服用することによってセロトニンの働きを高めることができれば、神経過敏を抑制できて会食恐怖症の症状が改善できる可能性があります。
専門医によっては、不安症状に対してベンゾジアゼピン系薬剤(アルプラゾラム、クロナゼパム、ロラゼパムなど)など抗不安薬を用いて対症療法を実施して様子を見る場合もあります。
ただし、これらの薬剤は、一時的に不安や緊張などの症状を緩和する効果を発揮しますが、長期間続けて使用すると依存症や副作用のリスクが一定程度あるため、注意を払う必要があります。
会食恐怖症の症状を緩和できる可能性を持つ薬物療法は、認知行動療法やエクスポージャーと併用して行われることもあります。
Aさんは幸いなことに医学的な治療を受けることなく改善しました。もし認知行動療法などで改善しなかった場合には医学的治療も検討が必要でしょう。
(3)カウンセリング
会食恐怖症の症状を克服するためには、専門家のサポートを受けることも大事な要素となります。
会食恐怖症は、心理療法やカウンセリングなど専門家のサポートを受けながら、自分自身の感情や思考過程を整理して、食事に対する不安や緊張を和らげることで症状が改善される場合があります。
カウンセリングの詳細は以下をご参照ください。
(4)認知行動療法
認知行動療法とは、会食恐怖症に対する考え方や行動パターンを自分なりに頭で考えながら変えることで、恐怖心を克服する治療法のひとつです。
特に、会食恐怖症の場合には、自分が不必要なストレスを所有しているという考え方そのものや、他人の評価や視線が過剰に気になって緊張するという行動パターンを修正して、安心感を徐々に得られるように導いていきます。
また、苦手な状況に徐々に慣れる練習をするエクスポージャーという方法では、恐怖の対象となる会食シーンなどに患者本人を直面させることで、恐怖感を徐々に軽減していく治療法となります。こうしたエクスポージャーによって、カウンセラーの指導のもとで、外食を行って、会食や食事そのものに対する不安感や恐怖心を軽減させることが期待されています。
認知行動療法の詳しいことについては以下が参考になります。
Aさんは主にこうした認知行動療法を受けました。またマインドフルネスやリラクゼーションも併用することよって改善しました。
会食恐怖についてのよくある質問
会食恐怖とは、人々が集まる場面で食事をすることに対する不安や恐怖を指します。これは、他者から注目を浴びることや、食事中に意識が集中することで引き起こされる心理的な困難です。この状態では、人前での食事が苦痛になり、ストレスや不安を感じるため、日常の食事や対人関係に影響を与えることがあります。
会食恐怖の症状には、過度の緊張感や不安感、身体的な症状としての吐き気や発汗、動悸、頭痛、手足の震えなどがあります。また、周囲の視線が気になり、食事が進まなくなることもあります。さらに、精神的な疲労感や集中力の低下、うつ状態に陥ることもあるため、早期の対応が重要です。
会食恐怖の原因としては、社会的な不安感や自己評価の低さ、過去のトラウマが影響を与えることが多いです。また、対人関係のストレスや過度な自己批判、過去の恥ずかしい経験などが重なることで、不安が増幅され、会食恐怖を引き起こすとされています。
会食恐怖を克服するためには、認知行動療法やカウンセリングが効果的です。認知行動療法では、自分の思考パターンを見直し、過剰な不安感を緩和する方法を学びます。また、対人不安を少しずつ慣らしていく曝露療法も有効です。専門家のサポートを受けながら、自分のペースで焦らず克服を目指すことが大切です。
会食恐怖は、食事をする場面での恐怖や不安が中心の障害です。一方、摂食障害は、食事に対する異常な関心や、食べる量や種類に対する異常な制限が特徴です。会食恐怖は、対人関係の不安や社会的要因が関与することが多いですが、摂食障害は主に食に対する偏った思考や行動が主な原因とされています。
会食恐怖は、繊細な性格を持つ方や、自己評価が低い方、対人不安を抱える方に多く見られます。また、過去のトラウマがある方や、過去の社会的な経験で恥を感じた方も発症しやすいとされています。自己否定感が強い人や、完璧主義的な傾向がある人にも発生することがあります。
会食恐怖の診断は、心理カウンセリングや精神科医による面談を通じて行われます。患者の主観的な不安や症状、日常生活への影響を専門家が評価し、心理テストを用いて診断を行います。症状やライフスタイルに基づいて、専門家が会食恐怖と診断するため、丁寧な評価が必要です。
会食恐怖が続くと、社会的な孤立感や対人関係の困難さが増し、うつ症状や不安障害を併発するリスクが高まります。また、日常生活や職場、学業においても支障をきたすため、早期の治療が重要です。適切な対応により改善が見込まれるため、放置せず専門家の助けを求めることが重要です。
会食恐怖は、適切な治療と対策を取ることで、症状を改善し克服することが可能です。個々の回復スピードには差がありますが、多くの方が継続的な努力によって症状を緩和し、日常生活を再び楽しむことができます。早期に適切な支援を受けることで、改善の可能性が高まります。
会食恐怖を予防するためには、対人スキルを向上させることが効果的です。自己肯定感を高め、ストレス管理やリラクゼーション技法を活用することで、過度な不安を軽減できます。また、徐々に対人経験を増やすことで、社会的な慣れを深めることも予防につながります。
会食恐怖症のカウンセリングを受けたい
通常、他人との会食の場を、緊張するから苦手だと感じる人は一定数いると思いますが、「会食恐怖症」を抱えている方々の悩みはもっと深刻であり、日常生活や仕事場面など社会生活にも大きな支障を来すことがあります。会食恐怖症は、本人の気の持ちようで簡単に治る病気ではありません。
心配であれば、精神科や心療内科など専門医療機関を受診して、薬物治療や認知行動療法などを上手く組み合わせながら症状を緩和することが期待できます。
また、日々の生活で自己肯定感を高めてセルフケアを実施しながら、カウンセリングを受けてエクスポージャーなど心理的なアプローチでカウンセラーとともに適切に治療を実践していくことが会食恐怖症を克服するために効果的であると考えられます。
弊社でも会食恐怖症のカウンセリングや認知行動療法を行っています。ご希望の方は以下の申し込みフォームからお問い合せください。