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ドメスティックバイオレンスのカウンセリング・相談

暴力という支配

ドメスティックバイオレンス(DV)とは配偶者間や恋人間で起こる身体的、心理的、性的暴力のことを指します。そのDVについて、統計的データ、特徴、DV防止法の概要、DV被害者への法的・経済的支援、そして、DV被害者に対するカウンセリングについて網羅的に書いています。

1.ドメスティックバイオレンスとは

ベッドで泣く女性

ドメスティックバイオレンスとは、家庭内での身体的・性的・心理的・経済的な暴力や虐待のことです。主に男性から女性に対して行われることが多く、被害者は身内やパートナーであることが多いです。DVは被害者に深刻な身体的・心理的なダメージを与え、長期にわたって影響を及ぼすことがあります。近年では、男性から女性だけでなく、女性から男性や同性間でも起こることが認知されています。

ドメスティックバイオレンスは家庭内暴力といわれることもありますが、配偶者でなくても親密な関係にある男女の間で発生する暴力も含まれます。つまり、婚姻関係にないカップルの間の暴力もドメスティックバイオレンスとなります。また、男性から女性にふるわれるケースが多いですが、逆の場合もドメスティックバイオレンスと呼ばれます。

ドメスティックバイオレンスにおける暴力とは身体的暴力、心理的暴力、性的強要、経済的圧迫などあらゆる形での侵害を含みます

殴る蹴るなど、直接的に身体を脅かす身体的暴力は比較的判断しやすいと思われますが、それだけではありません。被害にあわれている方の中には、自分が受けているものがドメスティックバイオレンスではないのではないかと我慢されている方も多くおられるのではないのでしょうか。

例えば、物や子どもに当たって脅すことや、過剰に監視したり、逆に無視をしたりすること(心理的暴力)もドメスティックバイオレンスになります。また、金銭面の負担をパートナーに押し付けたり、お金を返さないこと(経済的圧迫)も、性的な行為や中絶を強要したり、避妊に協力しないこと(性的強要)もドメスティックバイオレンスにふくまれます。

そして、これらの暴力の多くは家庭内などの密室で起こり、継続的、反復的に繰り返されます

ドメスティックバイオレンスについてのさらに詳しい原因や特徴については以下のページをご覧ください。

2.ドメスティックバイオレンスの相談の現状

(1)ドメスティックバイオレンスの相談件数

以下の図1は警視庁のDVに関する相談件数ですが、平成25年以降は年々増加傾向にあるようです。これだけをみると、相談する人が増えていることがわかりますが、実際に被害にあった人がどれくらい周りに相談できているかを考慮する必要があります。

図1 DV被害の相談件数(警視庁)

図1 DV被害の相談件数(警視庁)

(2)ドメスティックバイオレンスの相談の有無

表1はDV被害にあった時、誰かに相談したり、助けを求めたのかどうかの割合を示しています。全体をみると、半数の人が相談でき、半数の人は相談できずにいるということになります。男女別でみると、男性の方が人に相談する割合が少なく7割もの人が相談できずにいるようです。DVは男性から女性におこなわれるもの、というイメージが影響しているのかもしれません。女性も4割の人が相談できていません。

このデータは、DVにあっていると認識している人のデータです。つまり、自分はDVの被害者だとわかっていてもこれだけ多くの人が周りに相談できずにいることになります。暴力を受けているのにも関わらず、自分がされていることはDVに当てはまらないのではないかと耐えている人を含めると、更に相談できていない人の数が増えることになります。

この記事を読んでいる人の中にもそういった方がおられるかもしれません。被害にあっていると確信できなくても、被害にあっているかもしれないと相談されてみてください。

表1 DV被害の相談割合
総数女性男性
相談した47.1%57.6%26.9%
相談しなかった48.9%38.2%69.5%

3.DV被害者はなぜ逃げられないのか、相談できないのか

壁に向かって泣く女性なぜ半数ほどの人が相談できていないという現状があるのでしょうか。DVの被害を周りに訴えることができない人の中には、以下のような心理状態に陥っている人が多いのではないでしょうか。

(1)第三者に伝わりづらく、言いにくい

DVは多くの場合家庭の中で起きています。DV加害者が家の外や公共の場、あるいは会社などでも暴力的にふるまっている人であれば、周囲からわかってもらいやすいですが、多くの場合、社会生活上問題がないように過ごしています。家庭でDVが行われている様子を周囲の人が直接みることはありませんし、想像することすらも難しいでしょう。仮に通報したとしても警察が到着した際に落ち着いた様子で居られると、先ほどまでの様子をその場で証明することができません。

それゆえ、「人にいっても信じてもらえないのではないか」「逆に自分がヒステリックになってるだけとおもわれないだろうか」などと思い、周囲に訴えることができなくなってしまいます

被害者をこのような心理状態に陥れ、周囲に助けを求められないようにすること自体も加害者の策略である場合があります。孤立してしまうと、余計に加害者は被害者の行動を支配しDVをエスカレートさせていく可能性があります。

(2)暴力に対し自分が悪いからと考えるようになる

DVはほとんどの場合反復して行われます。何度も繰り返されていると、「自分の対応が間違っていたから怒らせてしまったんだ」「自分がちゃんとしていれば、こんなことにはならなかった」と自分を責めるようになってしまいます

一人で抱えていると、自分のせいだと思うようになってしまい、自分のせいだと思うようになると、余計に人に相談できなくなる、という悪循環が生まれてしまいます。

(3)逃げることへのハードルを高く感じてしまう

一般の人からすると「暴力をふるう方が絶対に悪いのだから、逃げれば良いじゃないか」と単純に考えられがちですが、世間や親せきの目、子どもの将来などを考えると逃げるということが難しく感じられるようになります。また、逃げると一言で言っても、どこに逃げればいいのか、逃げた後どうなるのか、被害者にとっては逃げるという行為も怖いことです。

それゆえ、最終的にDVがあったとしても、現状を維持する方が良いと思うようになり、逃げずに一人で抱え込むという選択をしてしまいます

(4)精神疾患を併発してしまい、気力や体力が奪われる

慢性的にDVや暴力を受けることにより、様々な精神疾患に罹患してしまいます。特に多いのがPTSD(Post Traumatic Stress Disorder 心的外傷後ストレス障害)です。症状としては、侵入体験、回避、麻痺、過覚醒、認知と気分の過度な変化の5つほどが表れます。また時には解離症状を呈してしまうこともあります。その他にも不安障害や気分障害、解離性障害、アルコール依存症などの精神疾患も見られます。

このような状態になってしまうと、DVに抵抗したり、今の環境から逃げるエネルギーすらもなくなってしまう可能性があります。「暴力される場面がフラッシュバックする」「一日のうちに何度も思い出され、思い出すたびにつらくなる」「思い出すと動悸がする」「警戒しておちつけない」「何度もその夢をみる」「なかなか眠れない」「周りに関心がなくなって楽しいと思うことがない」このような症状がみられた場合、必ず相談してください。

4.DV被害者へのカウンセリング

慰めるカウンセリングは心の悩みについて話をする場であり、家庭内の暴力や、経済的なことなどについて対処する場ではないのではないかと思われ、相談するか迷われる方もおられるかもしれません。

しかし、カウンセリングはただ悩みを聴くというだけのものではなく、その人が安心して居られるように調整する働きももっています。「何をどこに相談したらいいのかわからない」「そもそも、相談すべき状態なのかもわからない」「とにかく逃げ場がほしい」といった方が、適切な援助を受けられるようお話をお聴きします

DVがなくならず、ずっと家庭内は荒れたままなのに、カウンセリングにいってもただ内面に踏み込まれるだけで、現状何も変わらず苦しいままというようなことがあってはなりません。

具体的には以下のような流れで進みます。

(1)安全の確保

カウンセリングというと、クライエントの話を傾聴し、示唆を伝えたり、時には解釈を与えて、心の変容を促す、というイメージがあるかもしれません。そうしたことは大事なのですが、それは支援の後半・後期になってから必要になってくるものです。そうしたことよりも前に大事なことは、いかにDV被害者が心身の安全を保てるのか、ということをまずは支援していかねばなりません

日々、傷ついている時に、カウンセリングをしても効果がないどころか、時には生命にかかわります。なので、まずは安全の確保をどうすれば良いのかをクライエントと話し合うことが求められます。この時には、よくある受動的、受身的に話を聞くよりも、積極的に話をし、指示的に対応することもあるでしょう。DV加害者と同居をしているのであれば、その危険度をアセスメントし、緊急的に避難をする方が良いと助言することもあるでしょう。

DVによる被害者の影響でも挙げたように、DV被害者は自罰的になっていたり、無気力、無力感に陥っていることもあります。こうした時には、単に気持ちに寄り添った傾聴だけではなく、積極的に介入し、必要な機関にリファーをしたりして繋いでいくことが必要となってきます。

どういう機関でDV被害者と出会うのかにも寄るかとは思いますが、その機関の中だけではとどまらず、関係各機関と密に連携をはかっていくことが必要になってくるのが、この段階です。また、DV被害者を支援する法的手続きはたくさんあります。実際にカウンセラーがそうした手続きをすることは少ないでしょうが、どういう法的支援があるのかといった情報提供を行ったり、そうした手続きを行えるように支えたりして、安全の確保をしていくことは可能です。

DV被害者に対する法的支援の詳細は以下のページに詳しく説明しています。

(2)安心の提供

一時保護や母子支援施設、シェルターなどに入所したり、親戚や親族の家に身を寄せて、当面の危険はないとなったら、カウンセリングではこの安心の提供の段階に入ります。

多くはDV被害のあった直後なので、クライエントによってはその恐怖心は強く、DV加害者が来るのではないかとビクビクしてしまったりします。もしくは全く反対に、変に冷静であったり、感情が麻痺してしまったりという解離状態になっていくこともありますし、妙に高い高揚感を持ったり、過度に活動的になったり、変に明るかったりするような躁的な状態になったりすることもあります。

こうしたことは、実はそれほど異常なことではなく、心身にダメージを負った後によく起こる心の防衛反応であると言えます。こうした状態についてのアセスメントをしつつ、徐々に落ち着いていくことを見守る必要があります。またクライエントによってはDV加害者の元に戻ろうとする場合もあったりするので、そうならないように細心の注意を払う必要はあります。

また、DV被害者は今後の様々なことについても不安に思います。生活のこと、生活費のこと、仕事のこと、住まいのこと、子どものことなど。とくに経済的な不安は非常に強い場合があるので、どういった経済的な支援や就労支援、生活支援があるのか、といった情報を提供することで、その不安もいくらかは和らいでいくでしょう

こうしたことによって、一定期間が経過するごとに、徐々に大丈夫であるという安心を感じられる時間が増えていきます。何か特別なことをカウンセリングでするというよりは、許容的で、受容的で、話を否定したり、遮ったりすることなく、傾聴していることが、こうした安心感を向上させていくことでしょう。

DV被害者に対する経済的支援の詳細は以下のページに詳しく説明しています。

(3)自責と自罰の軽減

DV被害者は被害者であるにも関わらず、DVが起こったことやこうした事態になってしまったことについて、自身の責任であると自罰的になったり、自分を貶めてしまったりすることは稀ではありません。本来はDV加害者に向かうべき怒りや攻撃性が自己に向け返られているともいえますし、もしくはDV加害者に同一化して、自己に対してDV加害者同様に攻撃をしていると理解することもできます。

他にも、本来はDV加害者が感じるべき罪悪感を押し付けられて、取り入れることによって自責的になっているとも考えられます。いずれにせよ、こうした自責感、自罰的な気持ちは健康なものではなく、非常に苦痛に満ちたものとなります。

こうした時、自罰的になっていることを否定したり、止めようとすることは反対に自罰感をさらに助長させてしまいます。なぜなら自罰的になっていることは悪いことであるというメッセージを与え、そうしていること自体が自己を否定することに繋がってしまいます。もちろん、かといって自責的・自罰的になっていることを単に肯定して、助長することもありません。

自罰的になっていることを否定も肯定もせず、DV被害者がそうした自罰的になってしまうことはある意味では自然なことであり、当然のことであるというある種の心理教育的な関わりが必要となってきます。これらをノーマライゼーションと言っても良いかもしれません。

そして、そうした関わりをしていく過程で、DV加害者の責任であることを話し合ったり、どうしようもない状況でDV被害者なりに精一杯のことをしてきたことなどを振り返りつつ、徐々に自罰と自責から抜け出ることを手助けしていきます。

(4)自己効力感の回復

階段を上る女性安全の確保をし、安心をはぐくみ、自責から抜け出してくると、次は自己効力感の回復が主題となってきます。反対にいうと、安全、安心、自罰からの抜け出しがないと、なかなかこの自己効力感は回復していきません。

DV被害を受けていることで、自分の無力さ突き付けられていたり、何もできない、やられるがままという体験を長期間にわたって受けていると、自己効力感が無くなってしまうことは容易に想像がつきます。

今だったら何ができるか、今後同じようなことが起こったら何をすれば良いか、もし当時に戻ったとするなら何をしていたら良かったのか、など想像の中であったとしても、さまざまな対応策、対処策を作り上げていくことができると良いでしょう。それはなかなかできないようなハードルの高いものから、ちょっとした工夫まで様々なレベルでアイデアを出していけると良いと思います。たくさん出たアイデアから、実施可能性や実施コスト、困難さなどから徐々に絞っていけたら良いと思います。

また現在の日々の日常で、できることを増やしたり、生活力をつけていったり、時には物理的な筋力・体力をつけることで、さらには困った時の相談先のレパートリーを増やすことで、何もできない無力な自分から、なんとかできる頑張れる自分に自己認知が変化していくでしょう

(5)トラウマやPTSDの解消

DV被害を受けることによって侵入体験、回避行動、感情の麻痺、否定的認知、過覚醒などのいわゆるPTSDのような症状を呈することもあります。それ以外にも、不安、抑うつ、不眠、解離、自傷、妄想幻覚、性的逸脱、身体症状などの様々な症状が出現することもあります

トラウマやPTSDについての詳細は以下のページをご覧ください。

こうした時、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠導入剤、時には抗精神病薬などの薬物療法をしていくことが必要な場合もあるので、医学的な治療を勧めたり、リファーしたりすることになります。そして、薬物療法によって症状が軽減することで、カウンセリングをとおして、トラウマに取り組みやすくなります。

トラウマやPTSDへの取り組み方は様々です。ランダム化比較試験などで有効性があるとされているのは、PE(持続的エクスポージャー)、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理療法)、認知処理療法などです。その他にも一部エビデンスが認められているのは、TF-CBT(トラウマに焦点づけた認知行動療法)やリラクゼーション法、力動的心理療法などがあります。

上記に挙げたカウンセリングのいくつかの技法ですが、様々な治療条件やカウンセラーの技能、タイミング、相性などによって、どういう治療方針で、どういう治療方法を行うのかはかわってきます。必ずしも研究結果や研究データだけから治療方法が選択されるわけではありません。

(6)DVと再発予防

問題が落ち着き、平穏な生活になっていったとしても、精神症状の再発や悪化などが今後起こることもあります。また、対人関係はパターン化しており、DV加害者と同様なパートナーと再び付き合いだしたり、結婚したりすることもあります。

もしくは、DV加害者の元に戻ってしまうというケースもあります。フロイトは反復強迫という人間には悪いことを何度も同じように繰り返す傾向があると述べました。そして、そうした行動を支えるのが死の欲動であるとしました。そこまでではなくても、同じような恋愛対象を選び、同じような失敗を恋愛の中で行ってしまう、というのは身近に見聞きすることです。

こうした時、自身の行動が振る舞いを振り返り、また人生や生い立ちの観点から整理していくことも必要になってきます。人生の棚卸といっても良いかもしれません。こうした自分自身について振り返る、自分自身の問題を整理するということが今後の問題を予防します。こうしたことを扱うカウンセリングの技法としては精神分析的心理療法などが適しています。精神分析的心理療法などを選択される時には、教育分析や個人分析、スーパービジョンを受けている臨床心理士を探すと良いでしょう。

5.当オフィスでの対応

家族のカウンセリングDV(ドメスティックバイオレンス)についての原因、特徴、支援、カウンセリングなどについて解説しました。DVを受けると非常に深刻な心身のダメージを被ってしまいます。

当オフィスではこうしたDV被害者に対するカウンセリングを行っております。カウンセリングをご希望される方はご連絡ください。

6.参考文献