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ためこみ症のカウンセリングと治し方

ため込んだものに大切なものはない

ためこみ症は、物を大量に集める癖があって、その所有物の整理整頓ができずに所有物に対する執着が強くて捨てられないという症状を表しています。

収集物や所有物は個々によって様々であり、本や新聞、衣類、文房具、空き缶や家具、動物などが挙げられ、患者本人は集めているものに特化した価値や強い愛着心を持っているために所有物の処分が困難となって、生活空間やライフスタイルを蝕みます。

今回は、そのような「ためこみ症」について説明していきます。

1.ためこみ症とは

ためこみ症とは、実際のものの価値とは無関係に所有物を捨てることや手放すことが持続的に困難になってしまう精神障害の一つです。ためこみ症状は、典型的には10代という若年期に発現し、20代には個々の日常生活機能を制約し始めて、30代には臨床的に顕著な障害を認めると言われています。

実際のところ、患者さん自身や家族、そして時には医療従事者も、ためこみ症が精神科や心療内科の領域の疾患に関連するものとは、ほとんど認識されていないことが多いです。一般的に、ためこみ症の臨床経過は慢性的に継続して、自然に症状が軽快することは少なく、単身生活やパートナーが不在の状況下では、より病状が悪化する傾向が見受けられます。

比較的人生の早期段階で発症し、社会機能や生活面での障害を呈するために適切に診断を確定して個々に応じた治療を実施することが重要なポイントとなります。

2.ためこみ症の原因

ためこみ症の原因としては、大きく分けて気質要因、環境要因、遺伝要因、生理学的要因などが関与していると考えられています。

ためこみ症の人は基本的に優柔不断な気質であることが多い以外にも、完璧主義、先延ばし、計画的に仕事を進行することが困難であることなども特徴的な性格と言われています。

また、ためこみ症の人は、時に強いストレスによる心的外傷の経験を持っていて、それが影響してためこみ行為が始まる、あるいは病状が悪化する場合もあります。

遺伝的に両親や近しい親戚がためこみ症である場合や生理学的にためこみ行為をする傾向が認められる場合にも、ためこみ症を罹患して日常的に物をため込む素質を有するパターンになりやすいと考えられています。

3.ためこみ症の特徴や症状

ためこみ症では、持ち物を捨てることがどうしてもできなくなる結果、物がどんどんと溜まっていき、自宅などが散らかって用をなさなくなる特徴を有し、通常の収集家とは異なり、ほとんど価値のないものでも手放すのに困難を覚える症状が認められます。

ためこみ症は、多くの他人にとっては不要であり、新聞、古雑誌などまったく価値のない物を大量にためこみ、手放すことができない障害であり、ためこむものはどんなタイプでも対象になります。

ためこみ症の人は、自分がためこんだ物に対して「まだ使用できる」と価値を感じて集めた物を自ら捨てることに強い苦痛を覚えるだけでなく、収集物をリサイクルする、売却して譲渡するなど捨てる以外の手段による処分でも困難である傾向があります。

収集物に対して感情的に強い愛着をもっているのみならず、その物の運命に責任を感じて、手放すことを可哀そうに思い、物を捨てることに多大な恐怖感を感じるとも言われています。

ためこみ症のケースによっては、過剰な買い物やちらしや、他の人が捨てたゴミなどを含めて無料物の収集をして、それらのものを捨てることが過度に困難である場合も存在します。

ためこみ症の症状は主に10代前半頃に出現して、20代後半までに日常生活を一定程度妨害するようになり、30代には仕事や私生活などで著しい苦痛が生じて、症状を放置するとしばしば慢性化して長期に及びます。

4.ためこみ症の診断

(1)DSM-5やICD-10における診断基準

DSM-5やICD-10の精神疾患の診断・統計マニュアルによれば、ためこみ症は、品物を保存したいという要求や所有物を捨てることに関連した苦痛を感じて、実際のものの価値とは無関係に、所有物を捨てて手放すことが困難である状態を指しています。

数々の所有物を捨てることが難しいので、活動する生活空間が物で一杯になって散らかり安全な環境を維持できずに、社会的、あるいは職業的な機能の障害を引き起こすとされています。

ためこみ症自体は、脳病変など他の病気に起因する物ではなく、強迫症の強迫観念、うつ病によるエネルギー低下、統合失調症による妄想、認知症における認知機能障害、自閉スペクトラム症における限定的興味など精神疾患の症状によって説明できないものです。

(2)発達障害や強迫性障害との関係性

ためこみ症とは、以前のDSM-4では強迫性障害の症状の一部と位置付けられていましたが、精神疾患の分類基準のDSM-5では、強迫性障害とは異なる独立疾患として認められて、強迫症関連症群としての範疇に該当するようになりました。

また、自閉症スペクトラムなど発達障害に関連した特定の嗜好や、強迫性障害の強迫観念など精神疾患の影響でもためこみ症に類似した症状を呈することが考えられますので、そのような疾患が潜在的に存在していないかを確認する必要があります。

5.ためこみ症の治療と治し方

(1)薬物療法

ためこみ症の治療に関しては、いわゆる標準治療というのは現状ありませんが、有効的な治療手段として候補になるものとしては、薬物療法が挙げられます。

ためこみ症に対する薬物療法については、強迫性障害の治療と似た部分があって、抗うつ薬が第一選択にはなりますが、効果の出にくさが懸念されていて、症状の改善率は2割程度であると言われています。

ためこみ症に加えてうつ病などが併存して、悪化傾向を認める際には抗うつ薬などの薬物を使用することで有効的に働くことが期待できます。

(2)家族に対する支援と対応

ためこみ症は、10代の若年から発症することが多く、初期の段階では症状が軽いと言われていますが、10年ごとに徐々に生活機能に支障を来し始めることが認められるため、中高年齢層で家の内部の荒廃が顕著になって家族の中で問題となることもあります。

ためこみ症では、患者本人が継続して上手に収集物を片づけられないため、家族や清掃業者など第三者がまずいったん物を片付けて自宅内の散らかりを改善して環境調整する必要があります。

家族が所有物を捨てることによって、本人からしてみれば大事なものを捨てられることによって自然と生まれる心理的反応に配慮しながら、数々の対策を実施していく必要があります。

家族に対する支援やカウンセリングについての一般的なことについては以下のページが参考になります。

(3)認知行動療法

ためこみ症に対しては、認知行動療法の技法を活用した治療方法が、ある程度の有効性を示していると考えられています。

患者自身の意思決定に関連するトレーニングを含む認知行動療法を実践するなかで、収集物を捨てるという刺激を継続的に慣れていって、「物を捨てても大丈夫だ」という認識を患者自ら身につけていく方法となります。

基本的には、認知行動療法の中の「意思決定トレーニング」を通じて、物を捨てるという判断を繰り返して練習して不安や苦痛の感情を徐々に慣らしていくと同時に、優柔不断な性格の改善を図ることが期待されます。

ただし、ためこみ症の治療成績は高いとは言い難く、ためこみ症の患者自身の治療意欲が低いことが関連して、薬物療法と認知行動療法に反応するのは全体の2割に到達しないと指摘されています。

認知行動療法の詳細に関しては以下のページをご覧ください。

5.まとめ

ためこみ症は、様々なものを病的にためこんで、自宅など在住環境がゴミ屋敷の状態になるなどが認められる精神疾患のことです。

ためこみ症は、主に患者本人の健康状態のみならず生活面や社会面での対人関係にも大きな影響が出ることがあって、その標準的な治療法はいまだに確立されていませんが、薬物治療や環境調整、認知行動療法などを状況に応じて組み合わせて症状改善を目指します。

必ずしもためこみ症の本人自身が生活に対する支障や障害に対して自覚があるわけではないために、家族を中心として患者周囲からの関わりや適切な接し方はとても重要な観点となります。

(株)心理オフィスKではためこみ症に対するカウンセリングや心理的なサポートも行っております。また必要であれば精神科などの医療機関を紹介することもできます。希望者は以下の申し込みフォームからお申し込みください。

文献

この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。