コンテンツへ移動 サイドバーへ移動 フッターへ移動

神奈川県横浜市港北区大豆戸町311-1
アークメゾン菊名201号

心理オフィスKロゴ

月経前症候群のカウンセリングと治療

月に1度の苦痛

月経前症候群(PMS、Premenstrual Syndrome)とは、月経の数日前から精神的・身体的な症状が生じ、月経開始頃に症状が緩和または消失する心身の不調の症候群です。

本記事では、月経前症候群の診断、原因、特徴、診断、経過、予後、治療、カウンセリングなどについて解説していきます。

月経前症候群とは

窓の外を見ている白い女性

月経前症候群(PMS)とは、生理前に様々な身体的・心理的症状が現れる状態を指します。主な症状にはイライラ、不安、うつ、頭痛、乳房の腫れ、腹痛などがあります。PMSは女性の約20%が経験するとされ、生理開始後に自然に治まりますが、重度の場合は医師の診断・治療を受ける必要があります

月経前症候群では、月経の約3~10日前の黄体期に精神的・身体的な症状が始まり、月経開始頃に症状が緩和または消失します。症状や程度によっては、学校生活や仕事、家事等の日常生活をスムーズに行えない可能性があります。

月経前症候群は精神症状と身体症状が生じる不調ですが治療は婦人科で行われることが多く、現在のDSM-5(精神疾患の診断と統計のマニュアル 第5版)には記載がありません。一方で、月経前症候群のうち、精神症状が顕著に表れる場合は「月経前不快気分障害(PMDD、Premenstrual Dysphoric Disorder)」と言い、DSM-5では抑うつ障害群の1種と考えられています。

国内では、月経のある女性のうち70~80%が何かしらの心身の不調を感じると言われており、5.4%の女性が月経前症候群に苦しみ日常生活に支障をきたすと考えられています。また、月経前不快気分障害の有病率は1.2%と言われています。妊娠可能な女性であれば文化は問わず誰にでも起こりうる症状であり、近年注目を集めている症状です。

月経前症候群は身体表現性障害の下位カテゴリーです。身体表現性障害についての詳細は以下をご覧ください。

(1)症状

月経前症候群の症状には身体症状と精神症状の二種類があります。以下のようなものが列挙されますが、個人差も大きく、人によって出現する症状は違ったりもします。

  • 身体症状
    • 吐き気、頭痛、乳房の張り、めまい、のぼせ、眠気、腰痛、肌荒れ、過食、食欲低下、倦怠感、手足顔のむくみ、腹痛、お腹の張り
  • 精神症状
    • 情緒不安定、抑うつ、不安、緊張、落涙、意欲低下、イライラ、集中力低下

(2)女性の月経周期

月経周期とは出血が始まった日を初日とし、次の月経が始まるまでの期間を指し、個人差はありますがおよそ25~38日間あります。月経周期には、卵子が放出される前の卵胞期、卵子が放出される排卵期、卵子が放出された後の黄体期の3期間に分類でき、女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)が増減することで、身体の変化だけでなく心にも影響を与えます

月経周期やホルモンバランスは生活リズムやストレスによって乱れる可能性が高く、それに伴い心身の不調を感じる女性は決して少なくありません。

(3)月経前症候群と月経前不快気分障害の違い

月経前不快気分障害は月経前症候群の一種で、著しい気分の変化やイライラの悪化、強い不安等の精神症状が重度にみられる心の病気です。うつ病のように気分の落ち込みや興味関心の低下等も見られ、十分な仕事ができない場合や家事育児が手につかなくなる場合があります。

月経前症候群の精神症状は軽度であるのに対し、月経前不快気分障害の場合は日常生活に影響が出るほどの重篤な精神症状が特徴的です。精神症状の程度によっては、婦人科以外に精神科や心療内科の受診も視野に入れることが望ましいと考えられます。

(4)月経前症候群と月経困難症の違い

月経前症候群と月経困難症の違いの大きな点は、原因と、症状の種類と、症状が発生する時期の3つにあります。

月経前症候群 月経困難症
原因 エストロゲンとプロゲステロンの減少 プロスタグランジンの分泌
発生時期 生理が始まる3~10日間 生理の開始の直前から整理の終了まで
症状の種類 精神症状と身体症状 主に身体症状

月経前症候群の原因

骸骨と泣いている女性月経前症候群の原因は特定されていませんが、女性ホルモンが影響していると言われています。女性の身体は、排卵後の黄体期に女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌量が増し、黄体期後期になると両ホルモンの分泌量が減少していきます。このときにホルモンバランスの乱れや神経伝達物質の異常が生じて、月経前から心身の不調も引き起こされると考えられています

また、月経前症候群になりやすい遺伝的素質やセロトニンの血中濃度の低さ、ストレスの影響等も一要因と言えるでしょう。

月経前症候群の診断

ふさぎこむ母親と寝転ぶ子ども月経前症候群の診断に特別な検査は行いません。月経周期や日々の症状について記録をとることで関連性を確認したり、本人が心身の変化に気づくことが重要になります。また、うつ病や貧血等の鑑別診断のために精神科や心療内科での診察や内科的介入をする場合もあります。

月経前症候群は精神および身体症状の見られる婦人科系の疾患であり、米国産科婦人科学会の診断基準が参考にされることが多いです。

(1)月経前症候群の診断基準

月経前症候群の米国産科婦人科学会の診断基準

過去3周期の月経にて、月経開始前の5日間で以下より1つ以上の症状が存在し続ける

  1. 身体症状
    1. 乳房の痛みや胸の張り
    2. 腹部の膨満感
    3. 頭痛や筋肉痛
    4. 手足のむくみ
    5. 体重増加
  2. 精神症状
    1. 抑うつ気分
    2. コントロール困難な怒り
    3. イライラ
    4. 強い不安
    5. 混乱
    6. 社会的な引きこもり感
  3. 症状は月経開始後4日以内に消失し、少なくとも月経13日目までは再燃しない
  4. 症状は、薬物やアルコールの物質やホルモン治療等の影響によるものではない
  5. 症状出現後、最低2周期は繰り返される
  6. 症状により、社会的な生活が脅かされる

出典:米国産科婦人科学会(2014)

月経前症候群の症状は程度の個人差はありますが、誰もが感じうる症状です。月経前から月経開始頃まで心身の不調を感じ、その間日常生活に支障が出る場合は、気のせいと思わず婦人科に相談してみましょう。

(2)月経前不快気分障害の診断基準

月経前不快気分障害の場合は、DSM-5によると以下のような診断基準が記載されています。

月経前不快気分障害の診断基準

月経前の最終週に少なくとも下記5つの症状が見られ、症状は月経開始数日以内に軽快し、月経終了後の週にほぼ消失する

  1. 以下1つ以上の症状が見られる
    1. 著しい感情の不安定性(唐突な気分変動、涙もろさ、敏感さ)
    2. 著しい苛立ちや怒り
    3. 著しい抑うつ気分や自己批判的な思考
    4. 著しい不安や緊張
  2. さらに、以下1つ以上の症状が見られ、Aと合わせて症状が5つ以上となる
    1. 学校や仕事、人間関係、趣味などの興味の減退
    2. 集中困難さ
    3. 倦怠感や易疲労など、気力の低下
    4. 過食など、食欲の著しい変化
    5. 過眠や不眠
    6. コントロール不能な感覚
    7. 身体症状(乳房の痛みや筋肉痛、膨満感、体重の増加など)
  3. 症状により、日常生活や人間関係に支障が出る
  4. 症状は、うつ病等他の障害の増悪によるものではない
  5. Aの症状は2回以上の周期にわたり見られるまたは予測される
  6. 症状は、薬物等の物質や、他の疾患の作用によるものではない

出典:DSM-5

月経前からおおよそ決められた時期に精神症状が顕著に現れて日常生活に影響が出る場合は、月経前不快気分障害の可能性が考えられます

月経前症候群の特徴

ベッドで泣く女性月経前症候群はホルモンバランスが関係していると言われている症状であり、気分の波や倦怠感等の症状は自らの意志ではコントロールしきれない点が特徴的です。また、月経数日前に症状が出現し、月経開始時または直後には症状が治まるというおおよその期間がある特徴もあります。

「月経前症候群かも?」と感じたときは、症状のコントロールの難しさを責めず、期間中は落ち着いて過ごせるように心身の休息をとってみましょう。

(1)経過

月経前症候群の経過は慢性的であり、年齢を重ねると共に悪化する傾向があります。30代頃より女性ホルモンの低下が始まり、早い人では40代頃より更年期障害が始まります。

月経前症候群はホルモンバランスが影響して生じると考えられているため、放っておくと症状が重くなったり期間が延びてしまったりして、経過は良好と言い難いです。

(2)予後

月経前症候群は、うつ病や月経前不快気分障害などと混同されやすい特徴があるため、鑑別診断を丁寧に行い、心身の症状によっては緩和の期待ができます。また、月経前症候群になると更年期障害の症状が重くなりやすい傾向があり、産後うつを経験していると月経前不快気分障害に陥りやすいと言われています

「いつものことだから…」と諦めず症状と向き合うことで、家事や育児、仕事を円滑に行うことも可能です。

月経前症候群の治療と治し方

嘆く女性月経前症候群の治療は、生活習慣の改善や薬物療法などがあります。漢方や低用量ピルも治療の一環で用いる場合がありますが、個人差が大きく明確な有効性は乏しいと言えるでしょう。

(1)生活習慣の改善

月経前症候群の症状を和らげるためには、まず自身の月経周期や症状、生活等を把握することが大切です。その上で、十分な睡眠がとれているか、ストレス発散はできているか、食事のバランスは偏っていないか等改善できる点に取り組むだけでも症状の緩和が期待できます

カルシウムを増やし、コーヒー等のカフェインや喫煙を控える対策が挙げられます。

(2)薬物療法

月経前症候群の精神症状に対しては、セロトニンを増加させるSSRI系の抗うつ剤の利用が多く、SSRIは海外では月経前症候群・月経前不快気分障害の治療薬として有効性が認められています。また、不眠や不安を緩和するために眠剤や抗不安薬を利用することもあるため、症状によって医師と相談知る必要があります。さらに、婦人科的治療として低用量ピルを用い、排卵を止めることで身体症状の緩和を目指します。

心身の症状に薬物療法を行う場合は、精神科・心療内科と婦人科を受診し、医師に相談してみましょう。

月経前症候群に効果のある薬剤例

系統 製品名 商品名
SSRI エスシタロプラム レクサプロ
フルボキサミン ルボックス、デプロメール
パロキセチン パキシル
セルトラリン ジェイゾロフト

(3)カウンセリング

月経前症候群の症状の中でも抑うつ気分やイライラ、不安等の精神症状が強く出る場合は、カウンセリングにて病状を理解・整理し、症状緩和につなげることが可能です

特に、認知行動療法によって精神症状への対処が有効とされています。月経前症候群の症状で日常生活を十分に遅れない二次障害が生じ、うつ状態の悪化や自信の低下は多く見られます。認知行動療法によって、不安やイライラ等の精神症状がどんな時に生じるかを知り、日常生活への対処を身に着けることができます。

症状の振り返りを専門家と行うことで、自身の体調への理解も深められることが多いです。

月経前症候群(PMS)についてのよくある質問


月経前症候群(PMS)は、月経前の3~10日間に現れる精神的および身体的な症状の総称です。症状は月経開始とともに軽減または消失します。具体的な原因は不明ですが、女性ホルモンの変動が関与していると考えられています。症状としては、情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害、腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、乳房の張りなどが挙げられます。

PMSの正確な原因は解明されていませんが、女性ホルモンの変動が主な要因と考えられています。排卵後から月経前の期間にエストロゲンとプロゲステロンの分泌が増加し、月経前に急激に低下することが、脳内のホルモンや神経伝達物質に影響を与え、PMSの症状を引き起こすとされています。また、ストレスや生活習慣、栄養状態なども症状を悪化させる可能性があります。

PMSの症状は個人差がありますが、一般的には以下のようなものが挙げられます:

・精神的症状:情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害
・身体的症状:腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、乳房の張り、食欲の変化、便通の乱れ

これらの症状は月経開始とともに軽減または消失します。


PMSの診断は、症状の出現時期と月経周期との関連を確認することで行います。症状が月経前に現れ、月経開始後に軽減または消失することが特徴です。症状日記をつけることで、医師と共有し、診断の参考にすることが推奨されます。また、症状が似ている他の疾患(例:うつ病、過敏性腸症候群など)との鑑別も重要です。

PMSの治療法は、症状の軽減を目的とした生活習慣の改善と、必要に応じて薬物療法が考慮されます。生活習慣の改善としては、規則正しい生活、適度な運動、バランスの取れた食事、ストレス管理が推奨されます。薬物療法では、痛みやむくみには鎮痛剤や利尿剤、精神的症状には抗うつ薬やホルモン療法(低用量ピルなど)が使用されることがあります。治療は個々の症状や状況に応じて選択されます。

PMDD(Premenstrual Dysphoric Disorder)は、PMSの症状がより重篤で、日常生活に支障をきたす状態を指します。PMDDでは、強い抑うつ症状や極端なイライラ、集中力の低下などが現れ、社会生活や仕事に大きな影響を与えることがあります。PMDDの診断には、症状の重症度と生活への影響を評価することが重要です。

PMSの予防には、生活習慣の改善が効果的です。規則正しい生活リズム、適度な運動、バランスの取れた食事、十分な睡眠、ストレス管理が推奨されます。また、カフェインやアルコール、塩分の摂取を控えることも症状の予防に役立つとされています。症状が重い場合は、医師と相談の上、適切な治療法を検討することが重要です。

PMSの症状を軽減するためには、以下の生活習慣が有効とされています:

・規則正しい生活:毎日同じ時間に起床・就寝し、生活リズムを整える。
・適度な運動:ウォーキングやヨガなど、軽い運動を定期的に行う。
・バランスの取れた食事:野菜や果物を多く摂取し、脂肪分や糖分の摂取を控える。
・十分な睡眠:1日7~8時間の睡眠を確保する。
・ストレス管理:趣味やリラクゼーション法を取り入れ、ストレスを軽減する。
・カフェインやアルコールの摂取を控える:これらの摂取が症状を悪化させる可能性があるため。

これらの生活習慣の改善により、PMSの症状を軽減することが期待できます。


PMSの診断は、症状の出現パターンと月経周期との関連をもとに行われます。診断には、症状日記をつけることが重要です。医師は、症状が月経前に現れ、月経後に消失することを確認し、PMSとその他の疾患(うつ病、過敏性腸症候群など)との鑑別を行います。診断には、症状の重篤度や生活への影響を評価することもあります。

PMSの症状は、月経周期の特定の時期に現れることが特徴です。通常、排卵後から月経前の期間に症状が出現し、月経開始とともに軽減します。このため、症状日記をつけることで、症状がどのタイミングで強くなるのかを把握することが診断に役立ちます。

月経前症候群について相談する

月経前症候群の診断、原因、特徴、診断、経過、予後、治療、カウンセリングについて解説しました。月経前症候群は月経にまつわる身体疾患で、主に婦人科での治療が行われます。しかし、一方で精神症状があったり、心理的な要因が関わっていたりするため、心理的なサポートやカウンセリングなども必要になってくることがあります

(株)心理オフィスKでは月経前症候群の相談やカウンセリングも行っています。月経前症候群でお困りで、カウンセリングを受けてみたいという方は以下の申し込みフォームから連絡をください。

文献

この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。

  1. 日本産科婦人科学会:月経前症候群
  2. 大塚製薬:PMSラボ
  3. 小林製薬:PMS(月経前症候群)とは
  4. 武谷雄二(著)PMS(月経前症候群) 正しい知識をもつために メジカルビュー社
  5. 山田和男(著)月経前不快気分障害(PMDD) 星和書店