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妄想性パーソナリティ障害のカウンセリングと治療法

妄想の中の真実

妄想性パーソナリティ障害(猜疑性パーソナリティ症)とは、他者への不信感や猜疑心、さらには自分が危害が加えられることを恐れたり、周囲の裏切りの証拠を探し続けたりすることを特徴とする人格、性格です。そして、それによって社会生活に支障をきたしたり、本人が苦痛に感じている場合に妄想性パーソナリティ障害となります。歴史上の人物でもヒトラーやスターリンなどの恐怖政治を行う独裁者にこの性格傾向が見られると指摘する人もいます。

ここでは妄想性パーソナリティ障害についての概要、原因、症状、特徴、診断、治療、カウンセリングについて解説します。

妄想性パーソナリティ障害とは

沈み込んでいる白い服の女性ここでは妄想性パーソナリティ障害(猜疑性パーソナリティ症)についての概要、特徴、原因、疫学、治療法などについて解説していきます。

(1)概要

妄想性パーソナリティ障害とは、他人から自分が迫害されていると信じ込み、疑い深く不信感を抱く傾向があるパーソナリティ障害の一つです。具体的には、周囲の人々が自分を監視している、妨害している、または自分に悪意を持っているという思い込みが常にある状態が特徴的です。これにより、社交性が低下し、人とのつながりを避けるために孤立することがあります。治療には、認知行動療法や対人関係療法が有効な場合があります。

妄想性パーソナリティ障害は、過度の疑い深さと他者の行為を故意に卑しめたり、悪意があると解釈したりすること等に表れる他者への不信感が非常に顕著です。この障害を持つ人はいつも何らかの方法によって人から利用されたり、傷つけられるのではないかと考えています。親密な関係においても、常に裏切られるのではないかという思いに駆られるため、適度な距離を置いて親しさを楽しむことができません。他者と親しくなることは、患者にとって疑いと苦しみの始まりになることもあります。

しばしば患者は他者によって取り返しがつかないほど傷つけられたと考えています。潜在的な侮辱、軽蔑、脅しがないか非常に警戒しており、発言や行動に隠された意味がないかを探ります。そして自分の疑念を裏付ける証拠を探して他者を詳細に観察します。そこで他者が自分に対して否定的な反応をすると、その反応を自分の疑念を裏付けるものと捉えてしまいます。

妄想性パーソナリティ障害の人はしばしば病的な嫉妬深さを示し、恋愛や家庭生活の中では、理由もなく自分の配偶者や性的パートナーの貞節を疑います。いつか裏切るに違いないという確信を持っていて、根拠の薄い思い込みにより、不当な疑いを抱き続けます。また自分の嫉妬を正当化するために配偶者やパートナーの活動や動機を絶えず問いただすことがあります。

この患者は他者に秘密を打ち明けたり、他者と親密な関係を築いたりすることをためらいます。自分のプライバシーや出自に関する質問に対しては、曖昧な回答しかせず、なぜそんなことを聞くのかと逆に質問したりします。これは打ち明けた情報が自分に不利な形で使われるのではないかと懸念するためです。

妄想性パーソナリティ障害は上位カテゴリーのパーソナリティ障害の中の一つです。そのパーソナリティ障害については以下のページをご覧ください。

(2)特徴

妄想性パーソナリティ障害の人は人との信頼関係や愛情を信じられないため、人を権力や力で支配しようとする傾向があります。権威や階級に心酔して、権力者に最大の敬意を払う一方で、感情的な暖かみには欠けていて、弱者や病人、障碍者、何らかの欠陥があるとみなす人に対しては強い軽蔑を示します。

患者はしばしば気分の波を伴い、高揚して行動的になる時期と意気消沈して反省的になる時期があります。自分では合理的で客観的な判断ができていると考えていることが多いですが、実際は偏見や思い込みによって非合理的で主観的な考えに支配されています。自分自身に対する批判はなかなか受け入れることができません。その批判が自分に対する侮辱だと受け取ると、急に怒り出し攻撃的になることがあります。時には裁判に訴えるなどと脅し、他人を法律問題に巻き込むこともあります。自分が受けたと感じた屈辱、軽蔑、心の傷を許すことは難しく、長期にわたって恨み続ける傾向があります。

妄想性パーソナリティ障害の長期的な系統的研究は行われていません。妄想性パーソナリティ障害は一生に渡るのものであったり、統合失調症の発症前の症状であったりすることがあります。また環境の変化や年齢が上がるにつれて妄想的な特性が目立たなくなることもありますが、一般的に妄想性パーソナリティ障害の患者は生涯にわたって他者との生活や仕事に問題を抱えています

(3)原因

妄想性パーソナリティ障害の原因は特定されていませんが、家族内で発症率が高いと示す報告があり、遺伝的な関与が指摘されています。またこの障害と小児期の情緒的または身体的虐待や犯罪被害との関連性も示唆されています

妄想性パーソナリティ障害の有病率は一般人口の2-4%程度と言われていますが、患者が治療を求めることはめったにありません。統合失調症患者の家族は、そうでない人よりも妄想性パーソナリティ障害の発症率が高いと言われています。一般に女性よりも男性に多くみられます。以前は同性愛者の有病率が高いと言われていたことがありますが、実際には変わらないことが分かっています。一方で少数民族、移民、難聴者でより有病率が高いと言われています。

妄想性パーソナリティ障害の診断と症状

顔に手を当てて嘆く男性妄想性パーソナリティ障害の診断基準として、国際的に広く用いられているものの一つに、米国精神医学会が発行している精神疾患の診断統計マニュアル第五版(Diagnositic and Statistical manual of Mental disorder, 5th edition: DSM-5と略されます)があります。その内容は以下のようになっています。

妄想性パーソナリティ障害の診断基準

  1. 他人の動機を悪意あるものと解釈するといった、人間不信と疑い深さを特徴とするパーソナリティが成人早期までに始まり、それが持続する。さらに以下のうち4つ(又はそれ以上)が当てはまる場合に妄想性パーソナリティ障害と診断する。
    1. 十分な根拠もないのに、他人が自分を利用する、危害を与える、または騙すという疑いを持つ。
    2. 友人または仲間の誠実さや信頼を不当に疑い、それに心を奪われている。
    3. 情報が自分に不利に用いられるという根拠のない恐れのために、他人に秘密を打ち明けたがらない。
    4. 悪意のない言葉や出来事の中に、自分をけなす、または脅す意味が隠されていると読む。
    5. 恨みを抱き続ける(つまり、侮辱されたこと、傷つけられたこと、または軽蔑されたことを許さない。)
    6. 自分の性格または評判に対して他人には分からないような攻撃を感じ取り、すぐ怒って反応する、または逆襲する。
    7. 配偶者または性的パートナーの貞節に対して、繰り返し道理に合わない疑念を持つ。
  2. 統合失調症、「双極性障害または抑うつ障害、精神病性の特徴を伴う」、または他の精神病性障害の気渦中にのみ起こるものではなく、他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。

引用:DSM-5

なお、この診断がなされるためには、これらの考えや行動が他の精神疾患やパーソナリティ障害によるものではないことを確認する必要があります。鑑別を要する疾患として、妄想性障害、妄想型統合失調症、境界性パーソナリティ障害、反社会性パーソナリティ障害、スキゾイドパーソナリティ障害などがあります

妄想性パーソナリティ障害との接し方や関わり方、対応法

三人の若い女性妄想性パーソナリティ障害の人との関係は非常に大変なときがしばしばあります。特に家族や職場に妄想性パーソナリティ障害の人がいたり、恋人が妄想性パーソナリティ障害であったりした場合には、非常に困難が伴います。

家族や職場の人、恋人が妄想性パーソナリティ障害だった場合、被害妄想や極端な考え方に振り回されてしまうことがあるでしょう。しかし、一方で特に問題なく、通常通りに過ごしていたり、時には助けてくれたりすることも実はあったりします。妄想や極端な考え方ばかりに着目するのではなく、良かったことや頑張ってくれたこと、助けてくれたことを積極的に評価し、そうした行動を増やしていくように関わっていくと良いでしょう

ただ、やはりそれでも妄想性パーソナリティ障害の妄想や被害感をぶつけられ、疲弊してしまうこともしばしばあります。そうした時には第三者に相談することはとても大事です。一人で抱え込むことは問題をこじらせてしまいます。その第三者は友人でも良いし、臨床心理士などの専門家でも良いでしょう。

また、どうしても付き合いきれない、精神的にまいってしまっている、という場合には別居、離婚、別れなどを検討しなければならないこともあるかもしれません。それは相手の人生も大切ですが、やはり自身の人生も大切にするということは悪いことではありません

妄想性パーソナリティ障害の治療法

医師と話す男性妄想性パーソナリティ障害に対しての有効性が確立されている治療法はありませんが、多くの場合精神療法と薬物療法が行われます。

(1)薬物療法

患者の動揺や不安に対して薬物療法が有効であることがあります。その場合は抗不安薬が使用されます。

しかし、過度の興奮や妄想を伴う症状がある場合には抗精神病薬を少量、短期間使用することもあります。一部の抗精神病薬は患者の不安や妄想観念の形成を弱めることができます

(2)カウンセリング

妄想的な患者の治療を行う場合には集団カウンセリングよりも個人カウンセリングが選ばれます。社会技能訓練やロールプレイを通して疑い深さが軽減されることもあり得ますが、多くの患者は認知行動療法を負担に感じてしまうこともあります。

カウンセリングに当たって患者の疑念や不信の程度が高いことからカウンセラーと信頼関係を築くのは容易ではありませんが、カウンセラーが患者の疑念に対して何らかの妥当性を認めるところから良好な協力体制が形成されることがあります。これにより、カウンセラーはカウンセリングに取り組んだり、認知行動療法を実践したり、特定の症状の改善のために使用される薬剤を進んで使用したりできるようになります。

妄想性パーソナリティ障害についてのよくある質問


妄想性パーソナリティ障害とは、根拠のない疑念や過剰な不信感が特徴の精神的な障害です。この障害を持つ方は、他人の動機や意図を過剰に疑い、現実的な状況や情報を誤って解釈する傾向があります。結果として、対人関係の困難や孤立を引き起こし、社会生活に支障をきたすことがあります。この障害の特徴として、日常生活の様々な場面で不安や過剰な警戒心が顕著に現れます。

妄想性パーソナリティ障害の症状は、他人の動機や意図を過剰に疑うことが主な特徴です。このため、些細な出来事や無関係な状況にも疑念を抱き、情報を誤って解釈することが多いです。また、根拠のない不信感や猜疑心が強いため、対人関係が著しく困難になります。具体的には、他者の言動を過剰に捉え、根拠のない批判や猜疑心を抱くことが見られます。

妄想性パーソナリティ障害の原因には、遺伝的要素や幼少期の対人関係の影響が関与しているとされています。育った環境での信頼できる人間関係の欠如やトラウマ体験が、その発症に寄与する要因となります。また、過剰な疑念や不信感は、過去の出来事や家庭内の不安定さ、または社会的な孤立から生じることもあります。

妄想性パーソナリティ障害の診断は、専門の心理検査や臨床面接を通じて行われます。主にDSM-5-TR(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)に基づいて、患者の症状が長期間にわたり持続しているかを評価します。この診断プロセスでは、患者の過去の対人関係の歴史や、症状の特徴的なパターンが考慮されます。

妄想性パーソナリティ障害の治療には、心理療法が中心となります。認知療法や対人関係療法が特に有効であり、患者が過剰な疑念や不信感を管理し、現実的な対人関係を築くためのスキルを習得することを目的とします。薬物療法はあまり用いられませんが、症状が強い場合には抗不安薬や抗精神病薬が一時的に処方されることがあります。

妄想性パーソナリティ障害の予後は個人差が大きいです。適切な治療を受けることで、症状の改善が期待できる一方で、過剰な疑念や不信感が根深い特性であるため、完全な回復を目指すには長期的な管理が必要となります。症状が軽減しても、対人関係の困難さや社会的な孤立感が残る場合もありますが、継続的なサポートと治療により、生活の質を向上させることは可能です。

妄想性パーソナリティ障害と他のパーソナリティ障害の主な違いは、根拠のない疑念や不信感の強さです。他のパーソナリティ障害が誇大感や対人関係の困難さを示すのに対し、妄想性パーソナリティ障害は現実の情報に対する解釈の歪みが特徴です。例えば、自己愛性パーソナリティ障害では過剰な自己評価が見られますが、妄想性パーソナリティ障害では、他者の意図や行動に対する疑念が際立ちます。

妄想性パーソナリティ障害の人と関わる際には、信頼を築くことが非常に重要です。過剰な疑念を抱かせないためには、具体的で透明性のあるコミュニケーションを心掛け、過去の不信感を引き起こすような言動を避ける必要があります。また、適切な境界を維持しつつも、過剰な疑念を抱かせないよう、誠実な態度で接することが効果的です。

妄想性パーソナリティ障害の人への支援には、心理療法を通じて自己理解を促進し、過剰な疑念や不信感を管理するスキルを身に付けることが効果的です。特に認知療法や対人関係療法が推奨され、患者が現実的な対人関係を築くためのサポートを提供します。また、家族や周囲のサポートも重要であり、専門的な助言を受けることで症状の軽減が期待できます。

妄想性パーソナリティ障害の特徴を改善するためには、認知療法や対人関係療法を通じて自己理解を深め、過剰な疑念や不信感を管理するスキルを身に付けることが重要です。これにより、現実の情報を正確に評価し、対人関係の困難さを減少させることが期待できます。長期的な治療と支援を受けることで、症状が改善する可能性があります。

妄想性パーソナリティ障害についてのカウンセリングを受ける

パソコンを見ている男女妄想性パーソナリティ障害の概要や原因、特徴、症状、診断、治療、カウンセリングについて解説しました。妄想性パーソナリティ障害は症状が強い反面、意外と社会の中で生活することが可能な部分もあります。また、妄想についての相談はなかったとしても、何らかの苦痛や苦悩を抱え、自ら治療を求めることも無い訳ではありません。また一方で、家族や友人、職場の上司などの周囲の人が困って相談に来ることはしばしばあります。

(株)心理オフィスKではこうした妄想性パーソナリティ障害についての相談やカウンセリングを行っています。一度、相談したいと希望される方は以下の申し込みフォームからご連絡を頂けたらと思います。

文献

この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。