双極性障害とは、躁状態(躁病のエピソード)あるいは軽い躁状態(軽い躁病のエピソード)、そしてうつ状態(大うつ病エピソード)とを繰り返して反復する精神疾患です。気分障害の一種とも言われており、一般的には「躁うつ病」と呼称されることもあります。
本疾患では、躁状態によって様々な問題を起こす行動をしてしまいます。また、うつ状態では、長期的な休職などを強いられるなど日常的な社会生活の障害を色々と引き起こすことがあり、また自殺率が高い病気の一つとしても知られています。
今回は「双極性障害とは」を中心に説明していきます。
目次
1.双極性障害とは
双極性障害は、気分が極端に高揚する「躁状態」と、極端に沈んでしまう「うつ状態」が交互に現れる病気です。躁状態では、興奮や多弁、行動の増加などが見られ、うつ状態では、無気力や憂鬱な気分、睡眠障害が起こります。治療には、投薬や心理療法が用いられます。また、生活習慣の改善やストレスマネジメントも重要です。
双極性障害では一般的に多種多様な気分変調がみられることが多く見受けられます。ここでは症状、特徴、原因について解説します。
ちなみに、双極性障害の類似概念にうつ病があります。気分の浮き沈みなど症状は非常に似ています。
(1)症状
躁状態(躁病エピソード)では以下のような症状がみられます。
- 気分が高揚しすぎる
- 単純なことで攻撃的になる
- 常識範囲を超えて開放的になる
- 気力や活動性が増加する
- 早口で、語調の強い話し方になる
- 攻撃的になり、他者に対して暴言を吐く
- 暴力をふるったりする
などの症状が1日の生活スタイルの中でもほとんど大半で認められるようになります。このような心理的状況を躁状態(躁病エピソード)と呼び、本症状によって日常生活を送るうえで支障をきたすレベルまでに至ります。
そして、躁状態(躁病エピソード)と同様の症状がある程度短い期間内に社会生活においてそこまで重度に支障を来さないレベルで出現する状態を軽い躁状態(軽躁エピソード)と呼んでいます。
双極性障害を発症すると、1週間以上にわたって比較的長期に持続する躁状態(躁病エピソード)や軽い躁状態(軽躁病エピソード)のみならず、うつ様の気分に襲われてあらゆる物事に対する興味や関心が薄れてしまう抑うつ状態もあわせて認められるようになります。
通常であれば初発症状がうつ病相から認められることが多く、いくらかうつ病様のフェーズを繰り返した後に初めて軽い躁病期が出現することも少なくありません。ですから、真に双極性障害の患者さんであっても、当初は単純なうつ病として診断されて抗うつ薬を処方されて実際に治療が開始された後で、躁転して初めて診断が見直されることも頻繁にあります。
(2)特徴
ある医学的検証によると、双極性障害の約7割が初診時に適切な診断を受けられずに、その後正しい診断に至るまでに数ヶ月、あるいはひどい場合には十数年を要したという報告も実際にあります。
双極性障害が好発しやすい発症年齢はおよそ20代前後とされており、その有病率は1%程度であり、罹患頻度に男女間で明らかな性差は認められないと伝えられています。
そして、双極性障害は再発率が90%以上と高く、慢性的な長い経過をたどって長期的に付き合っていくことが多い病気です。
(3)原因
双極性障害を発症させる明確な原因は現時点でも明らかにはなっていませんが、いわゆるうつ病と比較して遺伝率が高いというデータも存在することから発症には遺伝的要因が大きく関与していると考えられています。また、そうした遺伝的背景のみならず本来の性格や元々の身体疾患の有無も双極性障害の発症率に関わっているとされております。
さらには本疾患では普段の生活における多大な過労や心理的葛藤、ならびに社会的要因などのストレスが急激に重複して加えられることによって発症しやすいと言われています。その点でいうと、生真面目さや頑張り屋などが双極性障害になりやすい性格と言えるでしょう。
2.双極性障害の診断
双極性障害の診断は非常に難しいと言われています。まずうつ病やADHDとの鑑別が必要ですし、双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障害の区別も必要になります。
(1)双極Ⅰ型障害と双極Ⅱ型障害の違い
双極性障害の検査や診断に参考になる基準としては、アメリカ精神医学会が提唱する「精神疾患の分類と診断の手引き」が挙げられます。それによると以下のような分類があります。
型 | 症状 |
---|---|
双極Ⅰ型障害 | 1回以上の躁病エピソードがある |
双極Ⅱ型障害 | 少なくとも1回の抑うつエピソードと少なくとも1回以上の軽躁エピソードがある |
双極性障害の診断が一般的に間違えられやすく、かつ困難にさせている最大の理由としては、まず患者側の要因として躁状態そのものが特に軽いものであれば確固たる病気として自覚されにくいことが挙げられます。
それゆえに、実際の診察場面においても明確な症状として本人から申告されにくいことが多く、医師側も双極性障害の可能性を積極的に疑わなければ躁症状を踏み込んで問診することが少なくなってしまうのです。
(2)双極性障害とうつ病との違い
そして、双極性障害の中には初段階においてうつ状態で発症する方も一定数存在し、抗うつ薬での治療中に時として観察される躁状態が「うつ症状の改善」と誤解してみなされてしまうことが少なからず見受けられることも関与しています。
双極性障害のうつ病相と単極性の純粋なうつ病との鑑別が難しいことは述べた通りですが、過去に両者の臨床的特徴を比較した研究によると双極性障害の方が過眠や過食などの非定型うつ病や治療抵抗性うつ病に特性類似した体裁を呈しやすいとされています。
他の専門調査研究でも、単極性うつ病に比して双極性うつ病でみられやすい特徴をいくつか提示しております。それによると以下のような特性を挙げています。
- 双極性うつ病相では若年発症であり双極性障害の家族歴を有すること
- うつ病エピソードが多く反復されること
- 急性発症の頻度が高いこと
- 精神運動抑制や易刺激性
- 産後うつ病や抗うつ薬誘発性躁病
その他にADHDの多動性や衝動性、不注意といった症状が双極性障害との鑑別で問題になることがあります。
(3)経過から診断する
いずれにしても、日常診療の場面においては患者背景に双極性障害が潜在して隠れている可能性を常に念頭に置きながら、専門職による注意深い問診と周囲の親密な家族などからの客観的な情報を収集することが重要であると考えられます。
特に、最初にうつ病と診断してから経過中に抗うつ薬の反応が十分に得られない場合には、その要因を詳細に振り返って検討すると同時に、本当に診断が適切であるかという慎重な吟味をすることが必要であると言えます。
3.双極性障害の治療
双極性障害の治療には第一には薬物療法が主体になります。しかし、それだけでは十分ではなく、家族の対する支援や本人へのカウンセリングなども必要になってきます。
いずれにせよ、全体の臨床像の経過を把握して、その時点のみの病相に決してとらわれずに安全な治療計画を立てることが求められており、患者さん本人の立場からはこの病気について自分自身で深く理解して地道に問題を少しずつ解決していくことが重要です。このような手法を通して双極性障害が治る可能性が高まっていきます。
(1)薬物療法
双極性障害の薬物治療の基本は、気分安定薬による躁うつ病相の予防が重要な観点になります。その気分安定薬の中心となる薬は炭酸リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンなどが挙げられます。また最近ではそれらの気分安定薬に加えて、オランザピンやクエチアピン、アリピプラゾールなどの非定型抗精神病薬が双極性障害における躁状態あるいはうつ病相の予防効果を発揮して有効であると考えられています。
ところが本疾患においては、躁病エピソードやうつ病エピソードを反復して繰り返されたり、その合わせ技である混合状態、あるいは急速交代型症候など臨床像が多種多様であり、しかも急性期や寛解維持期という治療段階の違いがあって単純には言い尽くせません。
このようなことからも、日常診療においては単剤のみの治療法よりも複数剤以上を併用したセラピーが多く適応される傾向になっていることも問題視されているところです。
特に、双極性障害のなかでも長期にわたって患者さんを苦しめる症状はうつ病エピソードと言えますが、残念ながらこの双極性うつ病の薬物療法はいまだ確立しておらず、気分安定薬に抗うつ薬を追加しても無効であることが大規模二重盲検比較試験で確認されました。
近年になってようやく、双極性うつ病相にはラモトリジンやオランザピンなど一部の非定型抗精神病薬の有効性が認められつつありますが、いまだ満足できるものとは言えず一定の治療効果に関するコンセンサスを得られていないのが現状です。また、急性躁状態における薬物治療としては炭酸リチウムやバルプロ酸ならびにカルバマゼピンを代表とする気分安定薬や多くの定型・非定型の抗精神病薬が用いられています。
繰り返しになりますが、根本的には双極性障害の場合においては、気分安定薬の使用による維持療法が重要です。また、本薬剤の一部には再発予防効果があるとも伝えられていますが、実際に導入する際に発疹などの副反応が出現するケースが認められているために、いざ投与するに当たっては十分に注意しましょう。
(2)家族支援
特に躁状態においては様々な問題行動を起こしてしまいます。浪費や性的な逸脱行動、攻撃的な言動などがあり、時には社会的な損失を伴ってしまうこともあります。例えば、躁状態になり、事業を起こそうとして、仕事を辞めようとすることもあるでしょう。もしくは、仕事の人間関係を壊してしまったりすることもあるかもしれません。
こうした時、家族に双極性障害についての心理教育を行い、対応策などについて話し合っていく必要があります。双極性障害は意思や性格の問題ではなく、脳機能の障害ですので、不当に当事者を責めたり、叱責したり、恫喝しても何も変わりません。それよりも、病気がそうさせているという理解を持ち、療養と看病に取り組めるように家族をサポートする必要があります。
こうした家族支援については臨床心理士や公認心理師などの心理の専門家が長けているので、そうした人に相談すると良いでしょう。
(3)本人へのカウンセリング
双極性障害の人へのカウンセリングはかなり薬物療法と併用しながらであれば有効です。
まずセルフモニタリングとして、自身の感情の波や起伏をモニタリングすることは大切です。どういうときに高揚し、どういうときに落ち込むのかを知ることで対策を立てることができます。また定期的な頻度で波があるのであれば、そうなる前に対策を講じることも可能でしょう。
さらに、双極性障害では認知の独特の偏りがあると言われています。認知が変容することにより、行動や気分をコントロールしていくことができるので、こうしたカウンセリング(認知行動療法)は非常に有効です。
そして、最近になり、双極性障害のカウンセリングで注目を集めているのが「対人関係・社会リズム療法」です。これは対人関係のストレスや対人関係の持ち方を調整したりコントロールするという側面と、日常生活のリズムを整えていくという側面をミックスさせたカウンセリングの一つです。対人関係と生活リズムをコントロールすることで、結果的に双極性障害をコントロールしていくことができます。
4.双極性障害についてのカウンセリングを受ける
双極性障害の概要、原因、特徴、症状、治療、カウンセリングなどについて解説してきました。双極性障害は誤診されることが多いですが、手順を踏み、基準と照らし合わせ、経過観察をとおして正しく診断することは可能です。また薬物療法やカウンセリングをはじめ、それなりに有効な手法が開発されてきます。
双極性障害が疑われるのであれば、まずは精神科などの医療機関を受診することをお勧めします。ただ、精神科によっては薬物療法はあったとしても、カウンセリングなどが無い場合もあります。その場合には当オフィスでカウンセリングを実施しています。
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5.双極性障害に関するトピック
文献
この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。