不眠症についての原因、種類、診断、治療、改善方法を解説しています。不眠は様々な疾患で起こる症状です。また健康な人でも時によっては不眠になることもあります。不眠を改善する方法はいくつかあります。薬物療法が代表例ですが、カウンセリングや生活リズムの修正で改善することも多いです。
目次
不眠症とは
不眠症とは、寝付きが悪かったり、寝ている間に何度も目が覚めたり、早朝に目が覚めてしまうなど、適切な睡眠を取れない状態を指します。ストレスや不規則な生活、うつ病などが原因となります。不眠症は日常生活に悪影響を与え、身体的な症状も引き起こします。治療法としては、生活習慣の改善、睡眠薬の使用、認知行動療法などがありますが、効果には個人差があります。
不眠症は非常にありふれた症状であり、全人口のうち10〜20%ほどは不眠症状を持っているとも言われています。一過性の不眠症状まで含めると、おそらく一度も不眠を体験したことはない、という人は居ないのではないかと思われます。
不眠症は以下の様に分けることができます。
- 入眠困難(寝付けない)
- 中途覚醒(寝ている途中で目が覚めてしまう)
- 早朝覚醒(朝早くに目が覚めてしまう)
- 熟睡困難(ぐっすり寝れない)
- 悪夢障害(悪い夢を見てしまう)
また、不眠症は様々な疾患や障害であらわれます。うつ病(気分障害)では不眠はよく現れます。その他でも統合失調症や不安障害、依存症でもよくあるようです。他の障害や疾患なく不眠症だけが現れる場合には原発性睡眠障害と言います。
さらに不眠に影響することとして、概日リズム障害、ムズムズ症候群、睡眠時随伴症、アルコールなど物質使用があります。
よくある相談の例(モデルケース)
30歳代 女性
Aさんは小学生の頃から繊細で、何事にも真面目に取り組むタイプでした。家族仲は良かったものの、両親は共働きで忙しく、Aさんは「迷惑をかけてはいけない」と思い込む子ども時代を送りました。成績優秀で、周囲からの期待にも応え続けてきましたが、大学進学後からは環境の変化や友人関係のストレスで眠れない夜が増えていきました。その頃は、眠れなくても「仕方がない」と考えていましたが、就職後は責任のある仕事を任されるようになり、ますますプレッシャーを感じるようになりました。
20代後半になると、夜なかなか寝付けず、眠れても何度も目が覚めてしまうことが続き、日中もぼんやりして集中力が低下し始めました。次第に、「明日も眠れなかったらどうしよう」と不安になり、寝ること自体がプレッシャーとなり、さらに不眠が悪化しました。市販の睡眠改善薬を試したり、スマートフォンで情報を集めたりしましたが、一時的な効果しかありませんでした。心身の疲れが限界を迎えた頃、内科を受診し、睡眠薬を処方されるようになりました。薬である程度眠れる日も増えましたが、薬なしでは眠れない自分に対して不安や無力感を覚えるようになりました。
その後、医師から「ストレスや心の問題が関係しているかもしれない」と勧められ、カウンセリングを申し込むことにしました。カウンセリングでは、まずAさんの生育歴や生活習慣、仕事のストレス、家族関係などについて丁寧に話を聴くことから始まりました。自分でも気づかなかった「完璧主義」や「自分に厳しすぎる面」に気づき、少しずつ自分を労わる感覚が芽生えてきました。認知行動療法の手法を取り入れ、就寝前の過ごし方や考え方を見直したり、リラクゼーションの練習も重ねました。数ヶ月のカウンセリングを通じて、Aさんは「眠れない自分」を否定するのではなく、受け入れる姿勢が育っていきました。
現在では、薬を徐々に減らしつつ、眠れない日があっても自分を責めることなく過ごせるようになっています。Aさんは「以前よりも心が楽になり、日中の活力も戻ってきた」と語るようになりました。不眠症が完全に消えたわけではありませんが、自分なりの工夫と心の余裕を持ちながら、毎日を送っています。
不眠症の原因
不眠症は、多くの人が経験する睡眠の問題であり、その原因はさまざまです。一般的には、心理的要因、身体的要因、そして生活習慣の3つの側面が大きく関与していると考えられています。これらの要因は単独で影響を及ぼすこともあれば、複数が複雑に絡み合って不眠を引き起こすことも少なくありません。それぞれの特徴について詳しく解説します。
Aさんの場合、仕事や人間関係によるストレスや、もともと持っていた完璧主義的な性格が大きな要因となって、不眠症が引き起こされていました。特に「失敗してはいけない」という思いが強く、夜になると不安や緊張が高まり、なかなか眠りにつけない日々が続きました。
(1)心理的要因
ストレスや不安、うつ状態などの心理的な問題は、不眠症の大きな原因です。仕事や人間関係で悩みを抱えていると、心が休まらず、寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めやすくなったりします。また、眠れないこと自体がさらに不安を増幅し、悪循環に陥ることもあります。日中に受けた強いストレスが夜になっても続くことで、リラックスできず、質の良い睡眠が妨げられることがあります。
(2)身体的要因
慢性的な痛みやかゆみ、呼吸器疾患、アレルギー、ホルモンバランスの乱れ、加齢による身体の変化なども不眠症を引き起こす要因です。また、服用している薬の副作用やアルコール・カフェインなどの刺激物質も睡眠に影響を与えます。身体の不調や病気が背景にある場合は、まずその治療や改善を図ることが重要です。身体的な不調と不眠が相互に悪影響を及ぼす場合も多くみられます。
(3)生活習慣
不規則な生活リズムや夜更かし、昼寝のしすぎ、就寝前のスマートフォンやパソコンの使用、寝る直前の飲酒やカフェインの摂取など、日々の生活習慣も不眠症に大きく関与しています。寝室の明るさや温度、騒音などの環境要因も眠りの質に影響します。良い睡眠をとるためには、規則正しい生活やリラックスできる環境づくりが重要です。生活習慣の見直しが、不眠症の改善につながることも多いです。
不眠症と関連する行動
不眠症を助長する行動と不眠症を改善する行動を解説し、不眠症を克服するための日常的に気を付けることを挙げます。
(1)不眠症を助長する行動
不眠症を助長したり、悪化させたりする行動は多いです。それらをリストにしてみました。つまりこれらを避けることによって睡眠が改善します。
- 飲酒をする
- タバコを吸う
- カフェインをとる
- 寝る前の激しい運動をする
- 寝る前のお風呂に入る
- 昼寝をする(遅くない短い昼寝なら可)
- 日によって違う睡眠時間
- 布団の中で睡眠以外のことをする
- 寝付けないからと早い時間に布団に入る
- 寝れない時に何度も時計を見て焦る
- 布団の中で一日の反省会をする
Aさんの場合、寝る前にスマートフォンを長時間見たり、寝付きが悪いときに早めに布団へ入ることが多かったため、かえって入眠が難しくなっていました。また、仕事のストレスから夜遅くにお酒を飲むこともあり、これが睡眠の質を下げていました。さらに、日によって就寝時間や起床時間がまちまちで、睡眠リズムが乱れていたことも不眠症の悪化につながっていました。
(2)不眠症を改善する行動
以下の行動や選択をすることで不眠症が改善していきます。
- 栄養バランスの良い食事をとる
- 日中に適度な運動をする
- 毎日決まった時間に寝て、決まった時間に起きる
- 寝れないときには布団から出る
- 寝る前にホットミルクを飲む
- ストレスフリーな生活を営む
- 身体にあった枕や布団を使う
- 寝る前にアロマやハーブをして気持ちを落ち着かせる
- 寝る前に軽いストレッチやリラクゼーションをする
- 朝日を浴びる
- 適切に処方された睡眠薬を服用する
Aさんはカウンセリングを通じて、毎日決まった時間に寝起きする習慣を身につけ、寝る前のスマートフォン利用を控えるようになりました。また、日中に軽い運動を取り入れたり、朝にしっかりと朝日を浴びることも意識しました。寝付きが悪いときは無理に布団にとどまらず、一度起きてリラックスできることをするように工夫しました。こうした行動の積み重ねにより、徐々に睡眠の質が改善していきました。
不眠症に対する治療
不眠症に対する治療法はいくつかあり、薬物療法や生活リズム改善法、認知行動療法などがあります。
しばしばみられるのが、眠れないからといってアルコールを使用する人がいます。確かにアルコールによって寝つきはよくなるのですが、眠りが浅くなり、中途覚醒を助長し、熟睡を妨げてしまい、結果的に不眠を悪化させてしまいます。一時的だけと思っていても、慢性的・長期的にアルコール使用をしてしまうケースもあるので、注意が必要です。
ちなみに、Aさんは最初、市販薬や生活習慣の工夫を試みましたが、効果が限定的だったため、医師の診察を受けて睡眠薬を処方されました。その後、医師からの勧めでカウンセリングも開始し、心理的な面からのアプローチを取り入れるようになりました。
(1)薬物療法
不眠症に対する薬物療法では、主に睡眠導入剤や抗不安薬、抗うつ薬などが用いられます。短期間での症状緩和や一時的なサポートとして有効ですが、長期連用は依存や副作用のリスクもあるため注意が必要です。薬物療法は根本的な解決にはならないため、生活習慣の改善やカウンセリングと併用し、医師の指導のもと適切に行うことが大切です。
(2)カウンセリング
不眠症に対するカウンセリングでは、まずクライエントの生育歴や生活状況、睡眠の問題がいつからどのように始まったのかを丁寧に聴き取ることから始めます。その背景には、仕事や家庭、対人関係のストレス、過去のトラウマ、生活習慣の乱れなど、さまざまな要因が複雑に絡み合っていることが多いです。カウンセラーはクライエントが安心して自分の悩みや不安を語れる環境を整え、「眠らなければならない」というプレッシャーや「眠れない自分はダメだ」という否定的な思い込みに対して、共感的に寄り添いながらサポートします。
また、睡眠についての正しい知識や情報提供も行い、不眠に対する誤解や過度な不安を和らげることも重要です。必要に応じて、ストレスコーピングやリラクゼーション法、生活リズムの見直しなど、個々の状態に合わせた具体的な助言や心理教育も行われます。こうしたカウンセリングを通して、クライエントが自分のペースで無理なく睡眠と向き合えるように支援していきます。
(3)認知行動療法
認知行動療法(CBT)は、不眠症に対して高い効果が認められているカウンセリングの技法です。最初のステップとして、睡眠日誌をつけることで、入眠までの時間や中途覚醒の回数、実際の睡眠時間などを具体的に記録し、自分の睡眠パターンを客観的に把握します。次に、「眠れないと困る」「今日も眠れないのでは」というような睡眠に対する否定的な思い込みや過度な不安に焦点を当て、それらの自動思考を整理し、現実的で柔軟な考え方に書き換えていきます。
さらに、ベッドで長時間過ごすのを避ける刺激制御法や、睡眠時間を段階的に調整する睡眠制限法といった行動的アプローチも取り入れます。これにより、寝床=眠る場所という条件付けが強化され、より自然な入眠が促されます。また、就寝前のリラクゼーションや生活リズムの調整も重要な要素となります。こうした一連の流れを通じて、クライエント自身が自分の睡眠に主体的に関われるようになり、徐々に質の高い睡眠を取り戻すことを目指します。
一般的な認知行動療法については以下のページに詳しくあります。
以下は認知行動療法で使われるツールやエクササイズです。
a.睡眠衛生教育
睡眠についての生理的、心理的メカニズムなどについて学んでもらいます。意外と睡眠について誤解をしていたり、過度な期待をしていたりすることもあります。また、健全な日常生活の活動やリズムを知ってもらうだけで健康な生活になり、ひいては不眠を自ら改善できることもあります。
例えば、加齢によって睡眠時間は徐々に変化しますが、若いころの睡眠リズムに固執し、若いころのように寝れないと駄目であるとこだわることにより睡眠に対する認知が歪み、結果的に睡眠を悪化させます。加齢によって睡眠の質や量は変わるということを知るだけで、睡眠に対するある種のこだわりを捨てることができ、睡眠を改善するきっかけとなることもあります。
b.睡眠モニタリング法
自分自身の就寝時間、起床時間、昼寝の時間の他に、睡眠に関わるような事柄(例えば、食事、運動、余暇など)を所定の形式で記録していくことです。こうした記録は今後の不眠対策に有効な情報を提供してくれます。モニタリングするだけで、何が不眠に影響を与えているのかが一目瞭然で判別することも珍しくありません。
最近では以下の外部サイトで解説されているようなリストバンドがあります。部屋に設置したり、リストバンドのように身に着けているだけで睡眠時間や睡眠の質までも勝手に記録してくれる便利なものがあるようです。モノによっては値段が高いですが、利便性を考えると悪くはないのかもしれません。
参考:おすすめの睡眠計14選!リストバンドタイプから目覚まし機能付きまで睡眠計測器特集
c.睡眠スケジュール法(刺激制御法と睡眠制御法)
睡眠をしていないのに布団の中にいる時間が長くなればなるほど不眠という苦痛度が高くなります。そのため、布団に入る時間や布団から出る時間を制限します。また布団の中ですることは睡眠のみに限定し、それ以外の行動(スマホ、ゲーム、テレビ、読書など)は布団の外でするようにします。
そして、布団に入り、15~20分以上寝れなかったら一度布団から出て、眠気が来た時に布団に入るようにします。中途覚醒の時も同様で、再度寝付けなかったら布団から出ます。
起床の時には、どれだけ寝れなかったとしても所定の時間には布団から出ます。寝れなかったからといって二度寝や午前中の睡眠はしないようにします。それによって日中は眠気が辛いかもしれませんが、数日続けるだけで夜の睡眠が大きく変わってきます。
d.認知再構成法
不眠についての誤った認知や信念を妥当なものに変えていきます。実際には生理的には十分な睡眠をとっているにも関わらず、睡眠が足りないと思いこみ、それによって不眠の苦痛を増大させている、などの事例も多いです。さらには、日中からその日の夜に眠れるのかを心配しはじめてしまう方もいます。
また、睡眠障害(不眠)とは無関係な日常生活や身体的所見を不眠と結び付け、過度な不安になっている場合もあり、そうした時にも不眠とその他の事柄を区分けし、適応的な認知にしていくこともできます。
こうしたことは睡眠時間そのものが変わらなくても、睡眠関連障害(不眠)という苦痛度が相当程度やわらいでいきます。
e.問題解決技法
不眠症は日常生活のストレスや困りごとによって相当影響を受けます。そして、そうしたことを布団の中でぐるぐると考えてしまい、それが刺激となって覚醒し、寝付くことができなくなります。
そこで、実際に日常生活で起こっている問題を整理し、解決することにより、心配事を減らします。そのための方法として問題解決技法を実施することもあります。問題そのものが全部は解決しなくても、見通しが持てたり、目途がついたり、半減するだけでも相当違います。
f.リラクゼーション法
睡眠時に、過緊張や過覚醒によって眠気が来ない場合があります。そうしたとき、呼吸法や筋弛緩法、自律訓練法といったリラクゼーション法を実施することにより、緊張や覚醒を和らげ、適度に眠気が来るようにできます。
不眠症についてのよくある質問
不眠症のカウンセリングを受ける
不眠症についての原因、種類、診断、治療、改善方法を解説しました。不眠症は意外と多くの人に起こっている疾患でありますが、治療を受けるほどのことをせず、放置されたり、誤った対応法を行ってしまっていたりします。そして、それによって治るものも治らないままになってしまっています。
当オフィスではこうした不眠症に対するカウンセリングを行っています。カウンセリングをご希望される方はご連絡をもらえたらと思います。
文献
この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。