統合失調症は、幻覚や妄想を代表とする精神症状や意欲や意思など自発性に関する機能低下、ならびに認知機能が衰えるなどを主体とするメンタル疾患を指します。主に好発時期として思春期から青年期にかけて発症し、男女間で概ね罹患率に性別差はみられないとされていますが、通常では男性の場合により重症化しやすいことが知られています。
統合失調症は決して稀な疾患ではなく、その主な発症原因はいまだ明確になっていませんが、一旦発病すると薬物療法や認知行動療法などの治療内容が行われます。
今回は統合失調症を中心に説明していきます。
目次
1.統合失調症とは
本邦における統合失調症の患者数は約80万人に上ると言われており、この疾患は決して稀ではなく身近な病気といえます。統合失調症は主に思春期から青年期という時期に発症しやすいとされており、その特徴的な症状によって生活の広範囲に及んで種々の障害を引き起こす精神疾患です。
(1)概要
統合失調症とは、現実感覚が混乱し、幻覚や妄想を起こす精神疾患です。思考や行動が乱れるため、社会生活に支障をきたすことがあります。原因は不明ですが、脳の神経伝達物質の異常が関係していると考えられています。治療には、抗精神病薬や精神療法などが用いられます。
統合失調症は、一言で例えるならば自分の心理や思考そのものがまとまりづらくなってしまうがゆえにその時々の気分や言動、そして人間関係などにも多大なる影響を及ぼしてしまいます。そのため、比較的長い期間に渡り、症状をコントロールしながら周囲からの生活支援を必要とします。
統合失調症の原因は未だ医学界でも明らかになっていませんが、これまでの調査研究からは遺伝的要因が強く関与している可能性が指摘されています。
実際に発症リスクを通常の場合よりも相対的に高める強い影響力を有する遺伝子は同定されていませんが、恐らく統合失調症になりやすい素因がもともと存在した上で人生早期の環境要因や若年の思春期などに強大なストレスを契機として発症すると考えられています。
また、本来では統合失調症の治療薬はドーパミンを拮抗させる機能作用があることから、基礎的な根幹部分にドーパミンの代謝異常が存在することで本疾患が発病するとも言われています。
(2)タイプ
統合失調症には破瓜型、緊張型、妄想型の3つのタイプがあります。
発症年齢 | 症状 | 経過 | |
---|---|---|---|
破瓜型 |
10歳代~20歳代前半 | 喜怒哀楽の欠如や意欲の低下などの陰性症状が主として現れる | 徐々に人格が解体していき、社会に出ていくことが困難になる |
緊張型 |
10歳代後半から20歳代 | 興奮状態や昏迷、カタレプシー(姿勢が硬直化し動かなくなる)などが主症状で、いわゆる激しい状態になることが多い | 症状が激しい反面、急激に落ち着くこともある。再発を繰り返すと破瓜型に移行することもある |
妄想型 |
20歳代後半から30歳代 | 妄想や幻聴といった陽性症状が強く生じる一方で、陰性症状は目立たない傾向がある | 人格は保たれ、人とのコミュニケーションも良好で、症状が落ち着いていればそれなりに社会参加が可能 |
2.統合失調症の特徴的な症状とは
統合失調症の症状は、陽性症状と陰性症状、認知機能障害の3つに大別されることが多いです。
(1)陽性症状
陽性症状とは、代表例として幻覚や妄想、自我障害など患者さん自身が体験して自覚するものです。特に陽性症状においては、大枠である幻覚の中でも周囲に誰もいないのにも関わらず他人の声が聞こえてくる幻聴を自覚することが多いとされています。しかもその幻聴の内容がその患者さんを攻撃的に批判するような内容であったり威嚇的に脅すような主旨であることが大部分です。
さらには、被害妄想や関係妄想を抱くこともあれば、自分が誰か別の人に操作されているかのような感覚を体感したり、自分の考えが周囲に伝えてもないのに他人に知らず知らずのうちに漏れて知れ渡ってしまっていると不可解に感じたりすることもあります。
統合失調症に特徴的な幻覚や妄想の症状は、患者さん本人にとってはかなりの現実味があってそれらが病的な異常事態だとは自覚しにくいですから、周囲の近しい人々がいち早く気づいてあげることが早期発見に繋がり、ひいては早期的な治療介入の第一歩となります。
(2)陰性症状
陰性症状では意欲の低下や感情表出の減退など、ある程度周囲から見て客観的に評価できるものが挙げられます。
陰性症状においてはあらゆる物事に対しての自発的な意欲が減退して、喜怒哀楽などの感情表現が乏しくなる結果、家族や友人と親密にお付き合いしなくなるにつれて家に引きこもりがちの傾向になったりもします。さらには思考が貧困になり、複雑なことを考えることができなくなってしまいます。
こうした陰性症状が強くなり、さらには長期化していくと無為自閉といった他者とのコミュニケーションも取れず、自己の内に引きこもってしまうような状態になってしまいます。
(3)認知機能障害
3つ目の症状・障害として、認知機能障害があります。これは記憶力が低下したり、注意集中力が低下したり、判断力が損なわれてしまったりすることをさします。
そして、自分の考えや場面に適した行動のまとまりがなくなる解体障害や、自分が病気であることを自覚できない病識の欠如といった徴候も重要な要素です。
こうした認知機能障害によって、学校生活や労働就業などに少なからず影響を与えています。
最近では女性の統合失調症患者が妊娠する機会が増えていると言われており、仮に統合失調症患者さんが妊娠する際には、本疾患としての行動特性が大きく影響することが危惧されています。
例えば、偶発的な妊娠が多く、妊娠過程で服薬を容易に中断しやすい、あるいは妊婦検診に定期的に受診しない、そしてストレスが押し寄せてくる産後期に精神症状が悪化しやすいなどの多彩な課題を有することが知られています。
3.統合失調症に関連ある疾患
(1)思春期妄想症
思春期妄想症は、思春期の若者によく見られる精神疾患で、現実的でない妄想を持ち、現実と区別がつかない場合があります。幻聴や幻覚も起こることがあり、学校や家庭での人間関係や学業に支障をきたすことがあります。
(2)統合失調感情障害
統合失調感情障害とは、統合失調症と気分障害が併発した病気です。幻覚や妄想、混乱などの症状がある一方、情動のコントロールが難しく、抑うつ症状や興奮症状も現れます。
4.統合失調症の原因
統合失調症になってしまう原因についてはまだ正確なことは判明していません。しかし、いくつかの仮説はあります。
まず、統合失調症の双生児研究によると強い遺伝的な要因があることは判明しています。
また、脳の研究からは物理的な変質は確認はされていませんが、機能の異常がみられることは分かっています。神経伝達物質のドーパミンの過剰な分泌が生じていることなどが挙げられ、このことが陽性症状に関与しているようです。そのため、薬物療法による治療でドーパミンを抑制することにより陽性症状が落ち着いていくことが多いようです。
そして、ストレス脆弱性仮説というものあります。遺伝的な負因があり、そこに日常生活におけるストレスが作用して、統合失調症が発症するという仮説です。簡単に言うと遺伝要因と環境要因の組み合わせが統合失調症の原因であるということです。
また統合失調症になりやすい人の性格特徴には、内気で、大人しく、控えめ、目立つことを避けるようなところがあります。また幼少期から少し変わった子どもと見られてることも多いようです。
5.統合失調症の診断
統合失調症を診断する上でどういう症状があるのかを確認していくことは重要です。ここではシュナイダーの1級症状とDSM-5を紹介します。
(1)シュナイダーの1級症状
少し古い診断基準ですが、シュナイダーは以下の8つが統合失調症に特徴的な症状であると指摘しました。主に陽性症状をとらえた診断です。
- 考想化声
- 会話形式の幻聴
- 自分の行為を口にする形式の幻聴
- 身体的影響体験
- 作為体験
- 考想伝播
- 妄想知覚
- 考想奪取
(2)DSM-5による統合失調症の診断基準
アメリカのDSM-5に記載された統合失調症の診断基準は以下の通りでこの6つ全てに該当すると統合失調症と診断されます。
統合失調症の診断基準
- 以下のうち2つ(またはそれ以上)が当てはまる。それらは一ヶ月のうちのほとんどの時間で存在する。少なくともその内一つは1~3でなければならない。
- 妄想
- 幻覚
- まとまらない話
- 非常にまとまりのない言動や緊張性の行動
- 陰性症状
- 1つかそれ以上の重要な分野で、機能的な減損がある。例えば、仕事や、対人関係、セルフケア(発症前のレベルに比べ著しく下回る)。子供や思春期では、対人関係、学業、職業的な役割の中で、期待されるレベルに達することができない。
- これらの障害の兆候は少なくとも6ヶ月は持続する。
- 統合障害、うつ病、精神病の特徴を持つ双極性障害などは除外される。
- これらの障害は、投薬、薬物乱用やほかの病状によって起因するものではない。
- 自閉症スペクトラムや小児で発症したコミュニケーション障害の既往がある場合、他の必要な診断基準に加えて、妄想や幻覚が少なくとも1ヶ月続くという統合失調症の追加の診断基準が必要となる。
引用:DSM-5
6.統合失調症に効果的な治療とは
統合失調症の基本的な治療方針の中では、主に薬を使用する薬物療法や専門家と相談をしたり、作業的なことを行う心理社会的リハビリテーションなどを中心に実施されることが多いとされています。さらには統合失調症に対して効果のあるカウンセリングや心理療法もあります。ここではそれらの方法について解説します。
(1)治療の目標
この病気は慢性的に症状が良くなったり悪くなったりして経過することが多い疾患ですので、本格的な治療に際してはあくまでまずは症状緩和を図って、そのうえで通常の日々の平穏な社会生活を送ることをとりあえずの目標とします。
具体的に治療目標を設定する際には、幻覚や妄想などの陽性症状を軽くしたり、記憶や注意力などが障害されることによって社会生活基盤の機能が著明に低下することを予防することを説得して理解してもらいます。
また、治療して寛解後には症状が再発しないように長期的に良好な精神状態を維持するなどの内容を今まさに治療を開始しようとしている患者さんに説明することになります。
(2)薬物療法
薬物療法においては、抗精神病薬を第一選択剤とし、その他にも不安要素が強ければ抗不安薬、あるいは不眠症が合併しているようなケースでは睡眠薬などを個々の状態に合わせて適応していきます。
薬の服用をいつまで継続すべきなのかは、個人差があり各々で症状の重症度も異なるために一概にはいえませんが、症状の安定度を評価しながら、精神科専門医が減量や増量などを行い調整していくことになろうかと思います。
いずれにしてもこの病気は再発を繰り返すことが多いわけなので、しばらく症状が安定しているといっても決して自己判断で薬の用法用量を守らずに内服回数を減らしたり中止したりすることは禁物です。
万が一、副作用がつらいなどの心配事や悩みがあれば、かかりつけの医師に相談しましょう。
(3)心理社会的リハビリテーション
心理社会的リハビリテーションでは、薬物療法とならんで車の両輪のようにバランスよく行うことが重要であり、例えば認知行動療法や疾病教育などをプログラムとして組み込みます。社会生活に復帰するために、入院病床や外来診療において気軽に取り組めるレクリエーションやデイケアサービスなどスムーズに社会復帰を目指した行動訓練を施行することもあります。
この心理社会的リハビリテーションを通じて、病気を自分自身で管理コントロールできる工夫を身につけたり、社会生活機能のレベルダウンを回避するトレーニングなどを行い、その中には精神療法やリハビリテーション、就労支援などの社会的サポートなども含まれます。現実的には、病気や治療に関する基本的な知識を学習して対処法を学ぶ心理教育やロールプレイを通して実質的な社会生活や対人関係のスキルを技能する生活技能訓練などそれぞれの病状に沿った形で治療方法は選択されます。
また、個々の生活レベルの実態に合わせて、園芸工作や料理、木工業務などの軽作業を通じて基礎的な生活機能の回復を目指す作業療法を行うこともあります。さらには、援助付き雇用プログラムなどを代表として当事者毎の個別のニーズを踏まえてきめ細やかに包括的な支援に取り組む就労支援対策など様々な手法が実際には用いられます。
従来では、入院医療中心の施策も後押しするような形で統合失調症を発症してからほとんどの人生期間を精神病床で過ごす本疾患の経験者も少なくなかったが、近年では統合失調症経験者の入院期間の短期化と地域生活への移行が進むようになってきました。
前述してきた薬物療法を中心とした集中的な治療と精神科プログラムにおけるリハビリテーションなどの発展によって、統合失調症の社会的予後は格段に改善されると同時に各患者さんの自己決定権利が尊重されるようにもなってきました。その一方では、これまで歴史的に症状コントロールの難しさから教育や労働の機会を制限され孤独傾向に陥っていた統合失調症の罹患者が周辺のコミュニティ生活を送れるようになったからこそ、彼らの発達課題に社会全体が直面することに繋がりました。そうした結果として、本疾患における成人期以降の生涯発達への支援の必要性が昨今になって急速に高まってきたとも言えるでしょう。
(4)カウンセリングや認知行動療法
古くはカウンセリングは統合失調症を悪化させると言われていた時代がありました。それはおそらくロジャース流の傾聴と共感に基づくカウンセリングで、不必要に統合失調症を不安定にさせたりしたかもしれません。また、必要な治療を受ける機会を逃し、初期治療ができなかったが故に悪化させてしまったのかもしれません。
しかし、最近では認知行動療法に基づいた理論と技法を統合失調症に適用し、一定の効果を挙げています。これらをCBTp(Cognitive Behavioral Therapy for psychosis、精神病圏への認知行動療法)と言います。CBTpでは以下の5つの治療指針があります。
- 協働的であること
- 症状は認知と行動の偏りによって維持されているという仮説
- 認知行動モデルに基づいたアセスメント
- ノーマライゼーションの視点に立った心理教育
- 再発予防の重視
この治療指針に基づいて、統合失調症に問題解決技法、SST、認知的介入、対処法略増強法などを実施していきます。さらには、マインドフルネス、アクセプタンスコミットメントセラピー、メタ認知トレーニングなどいわゆる第三世代の認知行動療法の技法も効果を挙げているという研究があります。
また、統合失調症の当事者に対する介入だけではなく、その家族に対する支援やサポートも重要です。家族に統合失調症の人がいると、家族全体が非常にストレスフルになってしまいます。そして、そうした状況そのものがさらにストレスとなり、統合失調症の症状を悪化させてしまいます。そのために、家族に対してカウンセリングなどを実施し、サポート体制を作っていくことが必要となります。
このような家族に対する支援については以下のページで詳しく書いています。
7.統合失調症に対するサポートを受ける
まとめですが、統合失調症は治療によって急性期の激しい辛い症状がいったん改善して治まると、その後は回復期に移行して、徐々に長期安定的に慢性期の経過をたどるというのが一般的な流れです。しかしながら、症状が再燃することもありますので、状況に応じて適切な治療を無理なく継続的に遂行していくことが重要です。
時にまったく症状が出現しなくなる方もいるとは聞きますが、仮に症状が一切自覚しなくなったからといって油断して自分だけの判断で薬を急にやめてしまうと、その後しばらくしてから残念ながら再発してしまうこともあるので十分に注意が必要です。
統合失調症の場合でも糖尿病や高脂血症などの生活習慣病と同様に主治医やかかりつけ医とこまめに相談することが大切です。できるだけ症状が出ないように必要な薬物を含む治療を続けながら、気長に病気と向き合って自分で上手に精神状態を管理していくことを心がけると良いでしょう。
(株)心理オフィスKでは統合失調症に対するカウンセリングや心理的なサポートも行っております。また必要であれば精神科などの医療機関を紹介することもできます。希望者は以下の申し込みフォームからお申し込みください。
文献
この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。
- 日本統合失調症学会(監修) 福田正人ら(著):統合失調症. 医学書院
- 結城佳子ら(著):統合失調症経験者の成人期以降における生涯発達支援に関する研究の意義. 日本教育心理学会第 61回総会発表論文集(2019年)
- 金城めぐみら(著):高齢統合失調症患者への薬物療法. 臨床精神薬理 Volume 22, Issue 12, 1161 – 1165 (2019)
- 根本清貴ら(著):統合失調症の妊婦・授乳婦への治療. 医学のあゆみ Volume 266, Issue 6, 519 – 522 (2018)
- スティーヴン・M・シルヴァースタイン他(著):統合失調症(エビデンス・ベイスト心理療法シリーズ) 金剛出版
- 石垣琢麿(著):統合失調症の認知行動療法(CBTp) 神経雑誌115巻4号