依存性パーソナリティ障害(依存性パーソナリティ症)における基本的な特徴は、他人に面倒をみてもらいたいという過剰な欲求であり、他者からの強力な支えを得るために、従属的でしがみつく行動が頻繁に認められます。
依存性パーソナリティ障害を抱えている人は、親や配偶者などを始めとして自分の面倒をよくみて親切にしてくれる人と少しでも離れることを恐怖として捉える分離不安を認め、自分一人だけでは到底生活していけないと信じ込んでいます。
今回は、そのような「依存性パーソナリティ障害」について説明していきます。
目次
依存性パーソナリティ障害とは
依存性パーソナリティ障害(依存性パーソナリティ症)とは、他人に対する強い依存心や自己肯定感の低さが特徴的なパーソナリティ障害の一つです。自分一人では何もできないと感じ、他人に頼ることが多く、自己主張が弱いことがあります。また、過度に承認欲求があるため、他人の意見や期待に合わせようとすることがあります。治療には、認知行動療法や対人関係療法、精神薬物療法が用いられることがあります。
依存性パーソナリティ障害の人は、他人から世話をしてもらいたいという要求を強く持ち、過度に服従的であり、他者にまとわりついて依存する言動を特徴を持っています。
統計的には、人口の約1%弱に依存性パーソナリティ障害があると考えられており、男性よりも女性に罹患率が高い傾向を有し、多くの患者さんは思春期や成人期早期などの特定時期に発症することが見受けられます。
依存性パーソナリティ障害とはパーソナリティ障害のひとつの病気として捉えられており、両親や配偶者など他人に過度に頼る特性があり、常日頃から他者に従って依存する行動が多く認められます。特に恋愛関係の中で問題がこじれてしまうことが多いようです。この依存性パーソナリティ障害を有する方は、他者に世話を十分にしてもらいたいがゆえに、自分の意見を主張せずに配偶者や恋人による暴力など支援者が間違っていることでも、同意して精神的かつ肉体的な苦痛を我慢して服従しようとする傾向があります。
依存性パーソナリティ障害は上位カテゴリーのパーソナリティ障害の中の一つです。そのパーソナリティ障害については以下のページをご覧ください。
依存性パーソナリティ障害の原因
依存性パーソナリティ障害が発症する明確な原因に関しては、いまだに判明していませんが、養育期の過酷な経験、子供の頃に自分を否定されるようなイベントを有する、生まれつき身体が弱く他者に頼る機会が多かったなど発育環境に関連性があると指摘されています。
また、養育環境だけでなく、もとから自信がなく他者に服従しやすいなど性格的な要素を含めて個々の特性が相互に関係して本疾患を発症するという見解も伝えられています。
依存性パーソナリティ障害の症状や特徴
依存性パーソナリティ障害における症状としては、自分一人では何もできなくなるという誇張された不安感が強いことから、他者へのしがみつきや服従行動に出やすいことが強調されています。
依存性パーソナリティ障害を抱えている場合には、仕事や学校にどのような服を装着していくか、傘を携帯して持っていくかどうかなどほんの些細なことでも、他人からのアドバイスがなければ自分で決定できない場面が見受けられます。日常生活の多くの部分で、特定の他者に決断をゆだねて、責任をとってもらおうとする傾向が、年齢や状況に適切なレベルを超えて認められる場合に、依存性パーソナリティ障害を疑うことになります。
患者さん自身で何かを計画して実行することはできませんが、支援者がサポートしてくれる環境下であれば他者から見捨てられないようにという一心で、より有能的に行動するパターンが見受けられます。特定の他人から心の支えを獲得するために、興味が乏しい場所にもぴったりと密着してついて行くなど本当は嫌に感じていることも自分が犠牲になって実行する場合もあります。
また、いつも世話をしてくれていた母親や恋人など特定の人物と破局や死別などによって一緒に共存できなくなった際には、すぐに他の誰かに世話を焼いてもらおうと依存先を検索する傾向が強く認められると考えられます。
依存性パーソナリティ障害の臨床経過に関しては、ほとんど知られていないのが現状ですが、依存性パーソナリティ障害を抱えている患者さんは、依存する人が不在である状況が継続されると、大うつ病性障害などを合併して精神的症状が悪化する可能性が指摘されています。
依存性パーソナリティ障害の診断
依存性パーソナリティ障害を診断する上で重要なポイントは、他者に面倒をみてもらいたいという過剰な欲求が背景に存在するために他人に従属的でしがみつく行動をとる傾向が成人期早期までに認められると共に、分離に対する不安を感じることが特徴的です。
また、自分一人で何事もできないという過度の恐れがあるゆえに、他人に自分の重要な生活上の決定事項をゆだねて、他人の意志に必要以上に従うことも本疾患を診断する上で手助けとなる情報です。
常日頃から自分を無力で精力に欠けた存在であると自覚しており、他人からの助言や保証がなければ、日常生活における数々の決断事項に対して多大なる能力限界を認める場合には、依存性パーソナリティ障害と診断されることもあります。
依存性パーソナリティ障害のDSM-5における診断基準
面倒を見てもらいたいという広範で過剰な欲求があり、そのために従属的でしがみつく行動を取り、分離に対する不安を感じる。成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。
- 日常のことを決めるにも、他の人達からのありあまるほどの助言と保証がなければできない
- 自分の生活のほとんどの主要な領域で、他人に責任をとってもらうことを必要とする
- 支持または是認を失うことを恐れるために、他人の意見に反対を表明することが困難である(注:懲罰に対する現実的な恐怖は含めないこと)
- 自分自身の考えで計画を始めたり、または物事を行うことが困難である(動機または気力が欠如しているというより、むしろ判断または能力に自信がないためである)
- 他人からの世話及び支えを得るために、不快なことまで自分から進んでするほどやりすぎてしまう
- 自分自身の面倒を見ることができないという誇張された恐怖のために、1人になると不安、または無力感を感じる
- 1つの親密な関係が終わったときに、自分を世話し支えてくれるもとになる別の関係を必死で求める
- 1人残されて自分で自分の面倒を見ることになるという恐怖に、非現実的なまでにとらわれている
引用:DSM-5
依存性パーソナリティ障害の治療法と克服
依存性パーソナリティ障害の薬物療法やカウンセリング、接し方についてここでは解説しています。
(1)依存性パーソナリティ障害の薬物療法
依存性パーソナリティ障害に不安症状や抑うつ状態を合併している際には、イミプラミンやセロトニン作動薬などを主とした薬物療法が実践されます。
薬物療法では、基本的には個々の症状に対する対症療法が主流として実施されています。
状況に応じて気分安定薬や抗精神病薬などを使用するケースもあれば、抑うつ状態や引きこもりが精神刺激作用を有する薬剤に顕著に奏効する場合には、それらの薬物を使用しても許容されます。
(2)依存性パーソナリティ障害のカウンセリング
依存性パーソナリティ障害に対してカウンセリングや洞察療法を含む精神療法を通じて、自分がなぜ依存的な言動を選択するかを自身で理解できるようになるとともに、自己主張をして、自分を信頼できるように促す効果が期待されています。
本疾患に対する精神療法においては、家族療法、集団療法、認知行動療法、自己主張訓練など様々な方法があって、依存性パーソナリティ障害の患者さんの多くは医療従事者に従いやすい傾向が認められることから精神療法による治療で症状改善する例も多いです。
その上で、自身のこれまでの対人関係のパターンや過去の経験、時にはトラウマなどを振り返りながらカウンセラーと一つ一つ解決していくことができます。
(3)依存性パーソナリティ障害の人への接し方
依存性パーソナリティ障害に関しては、患者さん自身が病識を常に有しているわけではなく、近しい家族など周囲の人によって病状に気づくことが往々にして見受けられます。
したがって、依存性パーソナリティ障害の人へ接する際には、無理に医療機関の受診を勧めずに、患者本人が自分自身とゆっくり向き合えるような慎重な配慮が重要となります。
依存性パーソナリティ障害は、完治するのに一定の時間はかかりますが、年齢を重ねて確実な治療を実践することによって症状が軽快する可能性が高いと期待されていますので長い目で温かく見守ってあげましょう。
依存性パーソナリティ障害についてのよくある質問
依存性パーソナリティ障害は、他者に対する過度な依存心と自己決定の困難さを特徴とする人格障害の一種です。この障害を持つ人は、自分で物事を決めることが難しく、他人の助言や支持を常に求めます。また、見捨てられることへの強い不安から、他者に従順であり続ける傾向があります。これらの特徴は、日常生活や人間関係においてさまざまな問題を引き起こす可能性があります。
依存性パーソナリティ障害の主な症状には、以下のようなものがあります:
– 他者からの助言や保証がなければ、日常的な決定ができない。
– 自分の生活の重要な領域において、他者に責任を取ってもらおうとする。
– 支持や承認を得るために、自分の意見を抑制する。
– 自分一人では物事を始めたり遂行したりすることが困難。
– 親しい関係が終わると、すぐに次の支援者や世話をしてくれる人を探そうとする。
– 一人でいるときに不安や無力感を強く感じる。
– 批判や不賛成に対して過度に敏感であり、自己評価が低い。
依存性パーソナリティ障害の原因は、単一の要因ではなく、複数の要因が組み合わさって発症すると考えられています。主な要因としては、以下が挙げられます:
– 遺伝的要因:家族内で同様の傾向が見られることから、遺伝的な影響が示唆されています。
– 環境的要因:幼少期の養育環境や親子関係が影響を与える可能性があります。過保護や過干渉な養育、または逆に無関心な育てられ方がリスク要因となることがあります。
– 心理的要因:自己肯定感の低さや不安感が強い場合、他者に依存することで安心感を得ようとする傾向が生じることがあります。
依存性パーソナリティ障害の診断は、精神科医や臨床心理士による詳細な面接と評価を通じて行われます。診断基準としては、DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)やICD-10(国際疾病分類第10版)などの国際的な基準が用いられます。これらの基準に基づき、以下のような特徴が持続的に認められる場合に診断されます:
– 他者からの助言や保証がなければ、日常的な決定ができない。
– 自分の生活の重要な領域において、他者に責任を取ってもらおうとする。
– 支持や承認を得るために、自分の意見を抑制する。
– 自分一人では物事を始めたり遂行したりすることが困難。
依存性パーソナリティ障害の治療法としては、主に心理療法が効果的とされています。代表的な治療法には以下のものがあります:
– 認知行動療法(CBT):自己認識を高め、自己決定力を育むための訓練を行います。
– 対人関係療法(IPT):他者との健全な関係の築き方を学ぶことで、自立心を育てます。
– 精神分析的療法:過去の経験や潜在的な原因を探り、依存的な行動の改善を目指します。
支援を受けることで改善が可能です。この障害は、長期的なサポートと自己理解を深めることで、自立心を育て、対人関係のバランスを取る力を高めることができます。治療の成果は個人差がありますが、心理療法や家族・友人のサポートを受けることで、生活の質を向上させることが期待できます。専門家と連携し、根気強く治療に取り組むことが重要です。
依存性パーソナリティ障害の人と接する際は、以下の点を心がけると良いでしょう:
1. **共感と理解を示す**:相手の不安や依存心に対して批判せず、温かく受け入れる態度を持つ。
2. **自立を促す**:小さな決断や行動をサポートし、自信をつけさせるよう努める。
3. **境界線を設定する**:必要以上に相手の要求に応えすぎないよう、健康的な境界線を保つ。
4. **専門家への相談を勧める**:本人が治療を受けることに抵抗感を持っている場合、家族が一緒に相談することで安心感を与える。
家族や友人も無理をしすぎず、自分自身の心身の健康を大切にすることが大切です。
依存性パーソナリティ障害と共存するためには、自己理解を深め、適切なサポートを受けることが重要です。以下の方法を参考にしてください:
– 心理療法を活用する:自分の思考や行動のパターンを見つめ直し、独立性を高める練習を行います。
– 小さな目標を設定する:一歩一歩自立に向けた行動を積み重ねることで自信をつけます。
– 健康的な人間関係を築く:相互依存ではなく、支え合える関係を目指します。
– ストレス管理を学ぶ:瞑想や運動を取り入れて不安を軽減させます。
自分のペースで前進することを心がけ、必要に応じて専門家のサポートを求めることが大切です。
依存性パーソナリティ障害のリスクを軽減するためには、幼少期からの健康的な環境づくりが大切です。以下の点に注意するとよいでしょう:
– 自尊心を育む:子どもが自己肯定感を持てるよう、努力や成功を認める。
– バランスの取れたサポートを提供する:過干渉や過保護を避け、子どもが自分で問題を解決する機会を与える。
– 感情を共有する場を設ける:不安やストレスを話し合える関係を築く。
– 模範となる行動を示す:親自身が自立心を持ち、健康的な対人関係を築く。
成長過程での経験が人格形成に影響を与えるため、親や周囲の人が適切に関わることがリスク軽減につながります。
はい、依存性パーソナリティ障害は他の精神疾患と併発することが多いです。特に、不安障害やうつ病がよく見られます。また、過度な依存心が原因でストレスが増し、身体的な健康問題や摂食障害に繋がることもあります。これらの併発疾患がある場合、総合的な治療が必要です。専門家が各症状を総合的に評価し、最適な治療プランを立てることが重要です。
依存性パーソナリティ障害の改善には、専門家による心理療法が非常に効果的です。主に認知行動療法や対人関係療法が行われ、自己認識を深め、自立心を育むサポートを提供します。また、家族や友人の協力も重要です。本人が治療を受けることで、日常生活のストレスを軽減し、対人関係のバランスを取る力を高めることが期待できます。支援を受けることで、生活の質を改善することが可能です。
依存性パーソナリティ障害のカウンセリングを受ける
依存性パーソナリティ障害の罹患者は、他人に過度に自分の面倒をみてもらおうとする、あるいは一人ではなにもできないと考えて強く他人からの助言を求めたがる傾向があります。
また、依存している人から見捨てられて、一人になることに対して強い不安感を抱いており、仮に身体的あるいは精神的な虐待を受けていても、自分の感情を押さえて耐えしのぐ場合が多く見受けられます。
依存性パーソナリティ障害に関連する症状を認める際には、精神科や心療内科を受診して、普段の症状や特徴的な言動などから診断基準に基づいて、カウンセリングなどの精神療法や薬物治療を始めとする適切な治療に結び付けることが重要な観点となります。
(株)心理オフィスKでも依存性パーソナリティ障害に対するカウンセリングや心理支援、心理療法を行っています。また、身近な人が依存性パーソナリティ障害である方の相談も受け付けています。カウンセリングをご希望の方は以下の申し込みフォームからご連絡ください。
文献
この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。