アサーショントレーニングは、双方気持ちの良い人間関係の構築、維持が期待できる自己表現の訓練法です。
本記事ではアサーションの3タイプやトレーニングの効果、やり方を解説します。話す力と聴く力を育てて気分の良いコミュニケーションをとりたい人は是非最後までご覧ください。
目次
1.アサーショントレーニングとは
「アサーション」とは自分も相手も大切にする自己表現のことであり、自己表現のための訓練法をアサーショントレーニングと言います。アサーションは自分の考えや欲求を素直かつ場に適した方法で表現するだけではなく、相手の主張をきちんと受け取る姿勢も重要です。
もともとアサーショントレーニングは、自己表現が苦手な人を支援する訓練法として1950年代にアメリカの精神科医J.ウォルピが開発をしました。その後医療のほか黒人や女性差別撤廃運動にも考えが広がっています。国内では1990年代に平木典子先生が紹介をし、教育、産業など多分野で注目されている訓練法です。
アサーション(assertion)は「主張する・断言する」と強めの意味をもちますが、一方的に自己主張するのではなく、相手の意見も尊重しながら自己表現する考え方をします。相手を思いやらずに主張しても、思いやった結果主張できないとしても、どちらも自他を傷つけ不安定なコミュニケーションになってしまいます。
アサーショントレーニングは、円滑なコミュニケーションをとって人間関係を良好に保ち、自らの心の健康を維持するためにも役立ちます。
ちなみにアサーショントレーニングは認知行動療法の技法の一つです。認知行動療法については以下のページをご覧ください。
2.アサーションの3タイプ
ウォルピによるとアサーションは「私OK、あなたはOKじゃない」のアグレッシブ(攻撃型)と、「私OKじゃない、あなたはOK」のノンアサーティブ(非主張型)、「私OK、あなたもOK」のアサーティブ(バランス型)の3タイプに分類できます。自分の言動をアサーティブに変えていくためにも、日常生活で自分がとりやすいタイプを振り返ってみてください。
(1)アグレッシブ(攻撃型)
アグレッシブ(攻撃型)のアサーションタイプは、相手よりも優位に立とうと自己主張する傾向があります。
そのため、自分の言いたいことは言えるものの相手への配慮に欠け、一方的な主張になりやすい特徴があります。自己主張の仕方は怒鳴る、命令口調になる、否定的になる、相手をコントロールしようとする振る舞いが見られやすいため、対人関係では次第に避けられる可能性が高いです。権力のある人や支配的な人、自分の弱みを隠したがる強がりな人に多いと考えられています。
(2)ノンアサーティブ(非主張型)
ノンアサーティブ(非主張型)のアサーションタイプは、相手を優先しすぎてしまって自己主張が抑制されてしまう傾向があります。
思いやりが強すぎて相手の言いなりになっては疲弊したり、自分が嫌われないかなどの保身から他者に依存的になったりする特徴があります。自己主張の仕方はあいまいな表現や沈黙が見られやすいため、相手に自分の気持ちが伝わりづらく、自分も内心では相手の意見に不満をもつことからぎこちない人間関係を形成しやすいでしょう。控えめな人や卑屈な人、自分の考えに自信を持てない人に多いと考えられます。
(3)アサーティブ(バランス型)
アサーティブ(バランス型)のタイプは、相手の気持ちをきちんと聴く態度をもった上で自分の気持ちを率直に表現できる傾向があります。
アグレッシブ(攻撃型)とノンアサーティブ(非主張型)の中間に値し、アサーショントレーニングではアサーティブ(バランス型)を目指します。自他を尊重した態度で話し合えるため、引くときは引き、意見するときは表現し調和を保った関係を維持しやすいでしょう。
3.アサーショントレーニングの効果とメリット
アサーショントレーニングでアサーティブ(バランス型)を獲得すると、自他に関わる効果やメリットがあります。
言いたいことを言えずに気持ちを抑制してきた場合は、素直に自己表現できることでストレスの緩和が期待できます。また、相手の顔色を窺って意見できなかったり、一方的に考えを押しつけて相手の意見を聞けなかったり不平等な人間関係であった場合は、対等な関係へと修正することも可能です。相手を思いやって自己主張ができれば、いじめやハラスメントの予防にもつながるでしょう。
さらに、アサーショントレーニングの過程で、自分と相手の考えが違うことを再確認できます。これまでに「断ったら相手に迷惑かもしれない」「自分の言っていることが合っているに違いない」など自信のなさや偏った考えを持っていた場合、自他の価値観を大切にすることで考えを緩め、修正していけることもメリットと言えます。
また、自分の気持ちの伝え方を振り返ることで不適切な主張方法に気づき、より適した伝え方を身に着ける練習も可能です。アサーショントレーニングでは円滑なコミュニケーションに近づくだけでなく、ストレスの緩和など自分の心の状態を安定させる効果を感じられるでしょう。
4.アサーショントレーニングの実践方法
アサーショントレーニングを実践するには、まずアサーションの3タイプを理解するようにしましょう。自分の癖を振り返ることはもちろん、アサーションのタイプを知ることで自分のタイプ以外の人もいることを受け入れやすくなるでしょう。
アサーションの3タイプを理解したら、アサーティブな対応をモデリングし、その後に自分でロールプレイをするとスムーズに実践しやすいと思われます。また、自己主張の練習をするだけでなく、相手の主張をアサーティブに聴く練習も行ってみてください。
アサーショントレーニングには、DESC法(デスク法)という言語的な方法や非言語的な方法があります。DESC法は、自分が表現したいことを以下の4つに分けて段階的に伝えていく方法です。
- Describe:「描写する」事実を客観的に伝える
- Express, explain, empathize:「表現、説明、共感する」自分の意見や感情を伝える
- Specify:「提案する」相手の主張に対する案やお願いを伝える
- Choose:「選択する」提案に対する相手の返事を伺い、自分の返事も伝える
例えば、友人と出かける際にいつも意見を聞いてもらえず行き先を決められて困る場合は、以下のような主張ができます。
- D:行き先はいつもあなたが決めているよね
- E:私にも行きたいところがあるんだ
- S:今度は私の行きたいところに行って、次またあなたの行きたいところに行くのはどう?
- C:(相手がOKの場合)ありがとう /(相手がNOの場合)じゃあ、いつならいいかな?
DESC法で落ち着いて主張することで、相手との衝突を避けトラブル化を防ぐ話し方ができるでしょう。
また、非言語的な方法には、相手の顔を見て話す、聞き取りやすい音量や口調で落ち着いて話す、「ありがとう」で少し微笑むなど言葉と表情を一致させるなどがあります。睨む、声を荒げる、机を叩いて話すなど威圧的な態度ではアサーティブとは言い難いです。
アサーティブな印象を与えるには、自分の話し方や表情を見直して穏やかなコミュニケーションを意識することも効果的でしょう。
5.認知行動療法についてのトピック
6.まとめ
自分の意見だけを大事に思っても、相手の意見だけを尊重しても満足のいく自己主張は難しくなってしまいます。良好な人間関係を保ちながら気分よく自己主張するには、自分も相手も大切に思う必要があります。はじめは慣れないかもしれませんが、自分のアサーションタイプを知り、アサーティブな対応へと変える練習をしてみましょう。
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文献
この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。