「精神疾患の家族にカウンセリングを受けて欲しい」「いじめで心が傷ついた家族への接し方が分からない」など、家族のことで悩んでいませんか。カウンセリングでは、家族の困り事を扱うことも可能です。ここでは、家族の困りごとの代表例や家族向けのカウンセリング、メリットについて解説します。
ご家族が精神疾患をお持ちであったり、いじめで傷ついていたりする場合、その症状やお悩みの改善には、ご本人がカウンセリングを受けることが有効です。しかし、その一方で、本人はカウンセリングを受けたくないと思っているケースも多くございます。そのような場合はまず家族がカウンセリングを受けるという方法もあります。
目次
家族向けカウンセリングとは
家族向けカウンセリングとは、家族の中で起きている問題や葛藤を整理し、より良い関係性や安心した生活を取り戻すことを目的とした心理的支援の方法です。例えば、子どもの不登校やひきこもり、夫婦間の不和、親子のすれ違いなど、家族の誰かが困難を抱えると、その影響は他のメンバーにも及びます。
家族向けカウンセリングでは、問題を「誰か一人のせい」として捉えるのではなく、家族全体の相互作用やコミュニケーションのパターンに注目します。その上で、安心できる対話の場をつくり、互いの気持ちを理解し合うことを助けます。加えて、家族がどう関わればよいか具体的に検討し、必要に応じて心理教育やセルフケアの方法を取り入れることもあります。こうしたプロセスを通して、家族それぞれが支え合いながら問題解決に向かう力を育むのが家族向けカウンセリングです。
よくある相談の例(モデルケース)
50歳代 女性
Aさんは50歳代の女性で、20歳代の息子が数年前からひきこもり状態となり、家族としての対応に限界を感じてカウンセリングを申し込みました。息子は大学に進学したものの、対人関係のつまずきや学業不振をきっかけに徐々に外出を控えるようになり、最終的には自室にこもる日々が続いていました。Aさん自身も息子にどう声をかけてよいかわからず、叱咤しては関係が悪化し、逆に放置しても改善しない状況に強い不安を抱えていました。医療機関での治療歴はなく、精神科受診も拒否する息子のため、母親として自分にできる支援を学びたいとの思いで相談に至りました。
カウンセリングでは、まずAさんがこれまで息子にどのように関わってきたのかを丁寧に振り返り、母子間の相互作用を整理しました。初期には「なんとかしなければ」という焦燥感からAさんが強い言葉を投げかけてしまう場面が多く、その度に息子はさらに閉じこもってしまうという悪循環が確認されました。そこで、心理教育を用いて「ひきこもりに至る心理的背景」や「本人にとって安全な場が関係修復の第一歩になること」を共有し、Aさんにとっての安心感を少しずつ取り戻していきました。
中期には、Aさん自身の感情調整を支えるためにマインドフルネスや呼吸法などのセルフケア技法を導入しました。息子と接する際には「評価や指示ではなく、短い共感的な言葉を返す」練習を繰り返し、具体的な会話例を一緒に検討しました。さらに、母親が自らの時間や生活を整えることが結果的に息子の安心につながるという認識を深め、Aさんが過度に犠牲的にならずに関われるようサポートしました。
数年のプロセスを通じて、Aさんは「待つこと」と「小さな変化を認めること」の大切さを体験的に学んでいきました。次第に息子は母親に対して強い防衛的な態度を見せなくなり、会話の時間が少しずつ増え、家族で食卓を囲むこともできるようになりました。その後、本人が自らの将来に触れる発言をするようになり、地域の相談機関につながる意欲も芽生えました。
このケースでは、母親が息子を変えようとする前に、自らの関わり方を調整することが重要な転機となりました。家族カウンセリングを通して、ひきこもりの背景を理解し、感情的反応を整え、共感的で安定した関係を築くことが、本人の回復への道を開く助けとなったのです。
よくある家族の困り事とは
カウンセリングで扱う困り事には、自分の性格の問題、心の病気、人間関係、学校や職場への適応など自分に関することが多くありますが、家族のことで以下のような困り事も挙げられます。
- 発達障害の家族がいるが、カウンセリングを受ける気がない
- うつ病の家族への接し方が分からない
- 引きこもりの家族を見ては自分を責めてしまう
- 家族の精神疾患の治療方針を相談したい
- 家族の問題行動について相談したいが、人目を気にして相談できない
- 家族にカウンセリングを勧めたいから自分がまず試してみたいなど
など
家族の困り事を改善したい気持ちから「家族にカウンセリングを受けさせたい」と思う人もいますが、当人よりも困り感を感じている人からカウンセリングを受ける方が効果的な場合が多いです。
Aさんの場合、息子のひきこもりは家族全体の不安や緊張を生みました。「どう声をかければよいのか」と迷い、自分を責める気持ちも強まりました。夫婦間で意見が合わず衝突が増え、親戚や周囲に話せない孤立感もありました。さらにAさん自身が生活や楽しみを犠牲にし、心の余裕を失ってしまうことも、よくある家族の困り事でした。
「家族の困り事」とは自分の悩みでもある
家族の困り事は一見家族に問題があるように思えますが、家族のことで悩み続けるうちにイライラや疲れやすさ、不安、不眠など、実は自分の心身にも影響を及ぼすことがあるため自分の悩みでもあります。
また、家族の困り事のため「本人がカウンセリングを受けないと意味がない?」と感じたり、自分が相談することを躊躇ってしまったりしては、悩みを抱え込んでしまうケースもありえます。家族の困り事を抱え込んでしまうことで気分の落ち込みや自責、無力感などを感じ、心理的に孤立してしまうと自分のメンタルに更なる悪循環が生じかねません。
いきなり家族を変えようとするのではなく、まずは自分が第三者に頼り、自らの悩みを軽減していくことが大切です。
Aさんは、息子のひきこもりという状況を「家族の困り事」として抱え込む一方で、それが自分自身の深い悩みでもあることに気づきました。息子の将来を案じる不安や、自分の対応の仕方が正しいのかという迷いが重なり、心身に大きな負担を感じていました。
家族向けカウンセリングを受けるメリット
家族の困り事の場合、本人の困り感やカウンセリング意欲は低いことが多いですが、その家族がカウンセリングを受けることでメリットもあります。家族のことで悩んでおり、家族向けカウンセリングを受けてみようか検討している人は、以下のメリットを参考にご覧ください。
メリット1:家族への関わり方を相談できる
精神疾患や心理学の理論を学んだプロのカウンセラーに相談することで、家族への声のかけ方や距離の取り方など関わり方を考えることができます。
特に、家族は他の誰よりも身近な存在であることから、どうにかしてあげたい気持ちやコントロールしたい気持ちが強まりやすいです。熱意や思いは大切ですが、同時に冷静さや平静さも大事です。第三者に相談して関係性を見直すことで、冷静さを取り戻し、効果的な関わり方を学べるという効果があります。
Aさんの場合、カウンセリングの場で「どのように声をかければよいか」「どこまで介入すべきか」といった家族としての関わり方を具体的に相談できたことで、独りで抱え込む感覚から解放されました。
メリット2:本人に向けたアドバイスを聞ける
家族が代わりに相談することで、本人への関わり方だけでなく、本人のカウンセリングや医療機関の受診に向けたアドバイスを聞くことができます。本人を「来させる」指示ではなく、家族の今までの関わり方を労いながら本人が「行ってみようかな」と思える態度や言葉かけの提案をします。
Aさんは、息子に直接働きかける方法についても助言を受けました。例えば、評価や叱責ではなく短い共感的な言葉を返すことが、息子にとって安心感を生み出すことを学び、実際に試すことができました。
メリット3:本人への理解が深まる
うつ病や発達障害といった精神疾患の特徴、いじめやハラスメントによる心の傷は人によっては理解が難しく、甘えや怠けと捉えることもあります。特に身近な存在を客観的に見ることは難しく、家族の心の病気に気づけないこともあるでしょう。
家族がカウンセリングを受けることで心の病気の特徴を知り、本人への理解を深めることができます。病気の特徴や症状を知ることで本人への態度が変わったり、家族の悩みが軽減されたりすることもあります。
Aさんの場合、ひきこもりに至る背景や心理的要因を学ぶことで、息子の行動を「怠け」や「反抗」と捉えるのではなく、苦しみの表現として理解できるようになりました。そのことで、母子関係の緊張が和らいでいきました。
メリット4:自分の心のケアができる
家族の悩みを1人で抱えてしまうと「自分がしっかりしなきゃ」「誰かに相談したいけど相談して良いのか分からない」など、自分を追いつめたり不安が増したりするなかで、家族の心身の健康も崩れてしまう危険性があります。
家族の心を支えるには自分の心の健康が必要です。家族の悩みについて相談すると、その中で自分の心をケアできるメリットがあります。
Aさんは、カウンセリングを通して自分自身の気持ちを整理し、呼吸法やセルフケアの方法を取り入れることができました。母親としてだけでなく、一人の人間として支えられる体験が、息子への安定した関わりにもつながりました。
当オフィスでのカウンセリング
当オフィスでのカウンセリングでは、家族の悩みを聴きながら専門家としての見立てや対応、精神疾患の特徴などをお伝えします。困り事によっては数回のカウンセリングで効果を感じることもありますが、家族の問題や状況を整理し、理解を深めていくには継続的な取り組みも役立つでしょう。
家族向けのカウンセリングでは以下のようなご相談が可能です。
- 引きこもりの本人に代わって日常での困り事の対応を考える
- 精神疾患のある家族への接し方のアドバイスを受ける
- 本人を専門家や医療機関につなぐための相談をする
- うつ病の家族につられて気分が落ち込むため、自分の心のケアをする
- 家族に対するストレスがあり、専門家に聴いてもらう
- 家族の心の病気について、専門家から正しい知識を聞く
など
当オフィスで受けられるカウンセリングの種類には、対面で話し合う形式と、GoogleMeetを利用したオンライン形式があります。オンラインの利用であれば、家族を通して本人がカウンセリングをする際の心的なハードルを下げやすいメリットもあります。また、土日祝も含めて毎日9時~22時まで開室しているため、都合の良い時間帯での相談が可能です。
またカウンセラーは多数在籍しているので、問題のタイプや相性によって、適切なカウンセラーが担当することができます。
家族カウンセリングについてのよくある質問
家族カウンセリングは、家族全体を対象に、コミュニケーションや関係性の改善を目指す心理療法です。家族を一つのシステムと捉え、その中で生じる問題や課題に対して、専門のカウンセラーがサポートを行います。これにより、家族内の誤解や対立を解消し、より健全な関係を築くことを目的としています。
家族カウンセリングは、夫婦間の問題、親子関係の摩擦、思春期の子どもの対応、家族内のコミュニケーション不足、介護や病気に関するストレスなど、さまざまな家族内の問題に効果的です。家族全員が協力して問題解決に取り組むことで、個々のメンバーの理解と絆を深めることができます。
家族カウンセリングのセッションでは、まずカウンセラーが家族全員の意見や感情を丁寧に聴取します。その上で、家族内のコミュニケーションパターンや問題の背景を分析し、改善のための具体的な方法やスキルを提案します。セッションは通常、定期的に行われ、家族の状況や目標に応じて回数や期間が決定されます。
理想的には家族全員が参加することが望ましいですが、全員の参加が難しい場合でも、可能なメンバーでセッションを開始することは可能です。参加できるメンバーから始めることで、徐々に他の家族も関与しやすくなる場合があります。
家族カウンセリングの費用は、カウンセラーの資格や経験、地域、セッションの時間や頻度によって異なります。一般的には1回のセッションで数千円から1万円程度が目安とされています。詳細な料金については、各カウンセリング機関やカウンセラーに直接お問い合わせください。
効果を感じるまでの期間は、家族の問題の深刻さや複雑さ、家族メンバーの協力度、セッションの頻度などによって異なります。一般的には数回のセッションで変化を感じ始めることが多いですが、持続的な改善には継続的な取り組みが必要です。
個人カウンセリングは個人の内面的な問題や感情に焦点を当てるのに対し、家族カウンセリングは家族全体の関係性やコミュニケーションに焦点を当てます。家族カウンセリングでは、家族全員が参加し、相互の理解と協力を深めることを目的としています。
家族カウンセリングを受ける際は、全員がオープンな気持ちで参加し、他のメンバーの意見や感情を尊重することが重要です。また、セッションで話し合った内容はプライバシーを守るため、外部に漏らさないよう注意しましょう。
家族カウンセリングは、心理カウンセリングセンター、精神科クリニック、地域の相談機関などで受けることができます。また、オンラインでのカウンセリングサービスを提供している機関も増えています。
家族カウンセリングの目的は、家族内のコミュニケーションを改善し、誤解や対立を解消することで、より健全で協力的な家族関係を築くことです。これにより、家族全員の心理的な健康と幸福感を向上させることを目指します。
家族向けカウンセリングを受けたい人へ
家族に精神疾患や問題があると、つい本人にカウンセリングを受けさせたいと思うケースもあります。しかし、本人を支援するにはまず家族の理解や心の健康が重要となります。そのためには、家族自身が心の専門家である臨床心理士や公認心理師に相談することも有効です。
当オフィスでは、心理的な問題を抱いている家族への支援や発達相談など家族向けのカウンセリングも行っております。家族の悩みを抱えて苦しい思いを感じている人は、お問い合せください。