呼吸法は、手軽に実施できるリラクゼーションの方法です。日常生活に呼吸法を取り入れることは、緊張や不安を意識的にコントロールし、心身のバランスを整えることに役立つでしょう。
呼吸法を取り入れたリラクゼーションは、カウンセリングの中でも活用できます。
目次
1.呼吸法とは
呼吸法とは、どのようなものでしょうか。まず、リラクゼーション法の概要と、呼吸法のメリットについて説明します。
(1)リラクゼーション法の一つ
呼吸法は、リラクゼーション法の一種といわれます。リラクゼーション法は、自律神経に働きかけ、身体と心の状態を調節する方法のことです。リラクゼーション法を実施することで、心身の緊張や堅さをほぐし、激しさや厳しさを和らげることができます。
心身が十分にゆるんで安静感が得られると、強い緊張やストレスは軽減され、さまざまな不適応状態からの回復や、生涯にわたる心身の状態の改善にもつながります。
(2)呼吸法のメリット
呼吸法のメリットには、以下のようなものがあります。
まず、自律神経系を意識的にコントロールできる点が、呼吸法のメリットです。自律神経系は生命維持のため、通常、人間の意志からは独立して働いています。意識しなくても発汗や脈拍、心拍数が調整されているのは、自律神経系の働きによるものです。
この自律神経系の中で、意識的なコントロールがある程度可能なのが呼吸です。緊張や興奮状態での呼吸を意識して変化させることで、心拍を安定させ、気持ちを落ち着かせることが期待できます。
また、手軽に実施しやすいことも呼吸法のメリットです。呼吸法は特別な修練を必要とせず、道具も必要ないため、簡単に実施できます。そのため、日常生活に取り入れやすい点が優れています。
2.呼吸法の特徴と種類
呼吸法は主に東洋文化において高い関心を持たれ、多様な技法が生み出されてきました。ここでは、どの呼吸法においても重視される基本的要件に触れ、呼吸法が取り入れられているさまざまな東洋の行法を紹介します。
(1)呼吸法の基本的要件
呼吸法にはさまざまな技法がありますが、いずれの方法においても基本とされる要因や条件があります。ここでは3つの要件について説明します。
a)注意を集中する
呼吸法を行うときは、呼吸そのものに集中すると、より効果的です。
たとえば、鼻や口での息の出入り、胸や横隔膜の動きや感覚、息を吸うときやのどを通るときの音などに注意を向けることで、自身の身体の状態の変化を捉えることができます。注意の程度は、集中し過ぎでもうわの空でもない、漠然とした状態がよいとされ、最初は少し難しく感じますが、訓練することで身に付いていきます。
b)イメージを用いる
呼吸法をする際にイメージを付け加えることも有効です。
たとえば、お腹が風船のようにふくらんだりしぼんだりするイメージ、空気が出入りするイメージといったものが用いられます。また、自身がリラックスできる風景や体験をイメージしながら行うことも、リラックスを促します。
c)動作を用いる
呼吸法の効果を高めるため、姿勢や動作などが加えられることもあります。
たとえば、猫背での呼吸よりは、背筋を真っすぐにする、立ち上がって手を上げながら息を吸い、しゃがんで手を下げながら息を吐くといった方法です。呼吸効率アップや、気の出入りなどのイメージ呼吸を促すために行われます。
呼吸法の基本的要件はいずれも、生命維持のための生理的反応としてだけではなく、心身にわたる効果をもたらす技法として呼吸を用いるために必要とされるのです。
(2)呼吸法の種類
心身を整えるためのさまざまな行法で、呼吸法は重視されます。呼吸法を取り入れている行法の例には以下のようなものがあります。
a)座禅
精神統一を行うための禅宗の修行法です。ストレスや頭の中のもやもやなどを取り除き、少しでも安心を得る手段として呼吸法が用いられます。姿勢を正して座り、呼吸を数え、呼吸を整えることで、さまざまな想念や妄想が浮かぶ隙をつくらないようにします。
b)気功法
中国に数千年前から伝えられる健康法で、その流派や種類、目的や方法も多様です。気功法においては、姿勢を正す「調身」、呼吸を整える「調息」、心を整える「調心」の三要素が重視されており、気の過不足が調整されて全身に気が巡れば、自然治癒力が高まり心身の安定につながると考えられています。
呼吸の基本は無理のない自然呼吸ですが、そのほかに、吸うときに腹部をふくらませ、吐くときに腹部をへこませる腹式順呼吸や、吸うときに腹部をすぼませ、吐くときに腹部をふくらませる腹式逆呼吸などがあります。
c)ヨーガ
インドで生まれ発展した、身体的、精神的、超自然的な力を得るための行法で、筋肉の緊張と弛緩を通じて心身の調整を図ります。ヨガに用いられる呼吸法には、腹筋と横隔膜の瞬間的な収縮と弛緩で吸うことと吐くことを繰り返すカパーラ・バーティ浄化呼吸法や、息を吐いて吸って止めることを片鼻ずつ交替で繰り返すスクハ・プールヴァカ調気法などがあります。
d)太極拳
中国で発展した武術ですが、護身法としての要素のほかに、全身の調和をはかり、リラックスした状態で流れるように動くという点で養生法の意味合いもあります。呼吸は動作の際の媒介として重要とされ、たとえば、動作の初めや動作のつながりで吸う、動作の終わりに吐くといった原則があります。
3.呼吸法のリラックス効果と心身への影響
呼吸法を行うことで、心身にはどのような影響や効果があるのでしょうか。ここでは、自律神経に及ぼす影響について触れ、感情のコントロールや睡眠の改善、ストレス解消への効果を説明します。
(1)自律神経に及ぼす影響
呼吸法は、自律神経に影響を及ぼします。自律神経は自動的に内臓の機能を調節しており、大脳の支配から比較的独立して働くのが特徴です。自律神経系は交感神経と副交感神経に分かれています。
交感神経はエネルギーを発散するときに働き、主に「闘うか逃げるか(fight or flight)」とよばれる緊急事態に備える際に優位となる神経系です。血圧や心拍数、呼吸数を上昇させ、消化を抑制する働きをします。
一方、副交感神経は、エネルギーを蓄えるときに働き、休息や睡眠中など、活動での消耗から回復する際に優位となる神経系です。血圧や心拍数を減少させ、消化吸収や唾液の分泌を活発にする働きをします。
交感神経と副交感神経がお互いに拮抗しながら作用することで、体内の活動状態はちょうど良いバランスに保たれているのです。
こうした自律神経に対し、呼吸法はある程度のコントロールを可能にします。たとえば、呼吸が浅く速くなっているときに優位なのは交感神経系です。それに対し、ゆっくりと長く息を吐くことは副交感神経の働きを高め、自律神経のバランスを整えることにつながるでしょう。
(2)感情のコントロール
強い緊張や不安を和らげたいときや、人の心を落ち着かせたいとき、「落ち着いて」「イライラしないで」といった言葉がけや言い聞かせはあまり意味を持ちません。こうした強い感情をしずめたい場合にも、呼吸法が役に立ちます。
緊張や不安、イライラなどを感じているときには、浅く小刻みで速い呼吸になり、ゆったりと落ち着いた気分のときは、深くゆっくりとした呼吸になります。そして、心拍数は息を吸うときに上昇し、吐くときに低下します。
そこで、ゆっくりと長く息を吐き、短く息を吸うといった呼吸法を意識的に繰り返すだけでも、呼吸のリズムに応じ、ゆったりと落ち着いた気分が導かれていきます。強い感情をしずめたいときは、呼吸法でのアプローチを試してみましょう。
(3)睡眠の改善
リラックス状態を導く呼吸法には、睡眠の改善も期待できます。
強い緊張や不安を感じたり、ストレス状態が長く続いていたりすると、自律神経のバランスが崩れやすくなり、寝付きが悪くなる、十分に眠れないといった睡眠の問題を抱えやすくなります。眠れない状態が長く続いてしまうと、さらに心身の調子が崩れやすくなるという悪循環にも陥りかねません。
こうした不調の悪循環を防ぐ方法としても、呼吸法が役立ちます。寝る前に呼吸法を行い、不安や緊張を感じやすい交感神経優位の状態から、ゆったりと落ち着いた気分になる副交感神経優位の状態に変化させることで、リラックスした眠りにつきやすくなります。
質の良い睡眠は心身の状態を回復させるためにも重要です。呼吸法を行うことで、心身の興奮や緊張を和らげ、心身の回復につながる深い眠りが導かれやすくなるのです。
(4)ストレス解消
呼吸法を実践することは、ストレス解消の第一歩にもなります。
職場や学校といったさまざまな環境からのストレスで、身体的、精神的に負担がかかると、交感神経系と副交感神経系のバランスが崩れやすくなります。そして、頭痛や目まい、息苦しさや動悸、ふるえといったさまざまな身体症状が現れ、自律神経失調症とよばれる状態に陥る場合もあります。
こうしたストレス状態の軽減にも呼吸法は役立ちます。ストレスを感じたときに呼吸法を行うことで、ストレスによる心身の負担を和らげることができます。
呼吸法を通じてすべての緊張や焦り、不安などを取り除くのは難しいかもしれません。しかし、日常的に呼吸法を行う習慣を身に付けられれば、ストレスを受けることはあっても圧倒されにくく、回復しやすい状態の維持につながるでしょう。
4.呼吸法でリラックス効果を得るためのやり方とトレーニング
心身の調子を整え、リラックス効果を得られる呼吸法には幅広い方法があります。ここでは基本的な呼吸法として、腹式呼吸を紹介します。
(1)準備
心地よく、落ち着いて呼吸ができる環境で行うのが望ましいです。静かな場所を選ぶ、照明の明るさを調節する、窓を開ける、部屋の温度を調節する、ゆったりとした音楽をかける、心地よい香りを用意するなど、自分がリラックスして集中しやすい環境を用意しましょう。
(2)呼吸法の実践
- 身体の力を抜き、椅子に座ります。立った姿勢で呼吸がしにくい場合は、仰向けに寝た姿勢で実施すると腹式呼吸がしやすくなります。
- やさしく、ゆっくりと、口から息を吐いていきます。時間をかけて、おへその下あたり(丹田)に手を当て、おなかが凹んでいくのを感じながら、おなかの中の空気をすべて吐き切るようなイメージで行うとよいでしょう。
- おなかの中の空気を全て吐いたら、鼻から大きく息を吸っていきます。おなかに空気を入れてふくらませるイメージで行うとよいでしょう。
- 息を目いっぱい吸い込んだら、2~3秒息を止め、再び口から長く息を吐いていきます。
- 2~4を繰り返します。
(3)実施の際のポイント
呼吸法を行う際は、吸うときよりも吐くときの時間を長く取りましょう。呼吸に合わせて、横隔膜や身体の緊張感がやわらいでいくイメージを思い浮かべながら実施すると効果的です。
5.呼吸法を実践する際の注意点と危険性
呼吸法は効果的ですが、万能ではありません。注意が必要な場合もあります。
まず、無理をしないことが大切です。無理をすると、呼吸筋疲労を起こしたり、呼吸器疾患を抱える人の場合、呼吸困難感が増す可能性もあります。途中で息が苦しくなったり、気分が悪くなったりすることがあったら、すぐに中止しましょう。
また、紹介した呼吸法は一例であり、他にもさまざまなリラクゼーション法があります。呼吸法に効果を感じられなかったり、苦しさが増す場合は、自分にとって心地よく、落ち着いて行える別の方法を探してみることも視野に入れましょう。
6.まとめ:呼吸法を日常に取り入れて健康的な心と体を保とう
呼吸法は、日常生活で手軽に実践しやすいリラクゼーション法です。日常生活に呼吸法を取り入れることは、緊張や不安を意識的にコントロールし、心身のバランスを整えることに役立ちます。呼吸法を通じたリラクゼーションについて相談したい場合は、カウンセリングもご活用いただけます。
当オフィスではリラックスを目的としたカウンセリングを行っています。希望者は以下のフォームからご連絡ください。
文献
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