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ゲシュタルト療法

気付くことの大切さ

この記事では、ゲシュタルト療法の背景や特徴、メリット、デメリット、危険性、やり方、技法などについて解説します。「今、ここ」での気づきを重視するゲシュタルト療法は、心理療法の技法としてだけでなく、よりよい生き方の模索にも役立ちますが、適用に当たっては注意も必要です。

ゲシュタルト療法とは

カウンセラーに相談する男性ゲシュタルト療法とはどのような心理療法なのでしょうか。まず、ゲシュタルト療法の概要と背景、そして特徴について説明します。

(1)ゲシュタルト療法とは

ゲシュタルト療法とは、1950年代のアメリカで、精神科医であるパールズ(Perls,F.)らによって提唱された心理療法で、「今、ここ」での気づきを促すことによって、クライエントの人格の全体性の回復や自己成長を目指します。その意味で、ゲシュタルト療法は、心理療法の一種でありながら、より成熟した生き方を目指す人生哲学でもあるといわれます。

もともと、ゲシュタルトはドイツ語で「全体のかたち」「まとまり」「完結」「統合」を意味し、ゲシュタルト心理学においては、人が外界を認識する際は、個々の要素の集合としてではなく、全体のまとまりとして認識すると考えます。パールズは、このゲシュタルト心理学の視点で、個人の欲求や感情においても、自己の排除されていた部分が統合されることで人格のまとまりが完成されるとしました。

(2)ゲシュタルト療法の背景

ゲシュタルト療法の背景には、さまざまな理論や思想の影響があります。

中でも大きな影響を受けたのが、ゲシュタルト心理学です。ゲシュタルト心理学のうち、ゲシュタルト療法が注目した考えには、人は外界を意味あるまとまりとして認識するとした全体性認知のほかに、「図と地の反転」があります。

「図」と「地」とは、人が世界を認知する際、意味ある形として注目したものを「図」と捉え、それ以外は形をなさない「地」として背景に沈むという考え方です。そして、「図と地の反転」とは、『ルビンの壺』の絵などに代表されるように、何に注目するかによって「図」と「地」は反転しうる、ものの見え方や捉え方は変化するということを指します。

下の図がルビンの壺ですが、黒い部分を図にすると壺に見えますが、白い部分を図にすると人の顔に見えます。ルビンの壺

図1 ルビンの壺

こうした視点をもとに、ゲシュタルト療法においては、意識化された欲求や行動を「図」、その背景にある、無意識の内的状態や対人関係などの全体性を「地」と捉え、図と地の関係が固まって柔軟性を失ったときに、不適応や心理的な問題が起こるとしました。

そして、地(無意識)から図(意識)にのぼってくる感情や感覚を味わう中で、自然と図と地が転換し、新たな感情や感覚を体験する過程で、固まった図と地の関係は緩められ、人生においてより柔軟な選択が可能になると考えます

また、ゲシュタルト療法の基本的発想である「今、ここ」で現実に起きている自明な現象を取り上げて気づきを促すというあり方には、実存主義や現象学といった哲学も影響しています。さらに、ゲシュタルト療法には東洋的な発想や禅の哲学も取り入れられています。

(3)ゲシュタルト療法の特徴

ゲシュタルト療法の中心的な特徴は、「今、ここ」での気づきを重視することです。

パールズは、クライエントの過去に問題があるのではなく、過去の問題を「今、ここ」に持ち続けていることに問題があると考えます。そのため、過去の体験についての内省や、セラピストからの解釈は基本的に行われません。

ゲシュタルト療法では、「今、ここ」での経験を重視し、クライエントが「今、ここ」で感じているこころやからだ、思考、現実世界に関する気づきに焦点を当てたアプローチが行われます

ゲシュタルト療法の効果やメリット

笑う女性ゲシュタルト療法は、病理を抱える患者への心理療法という側面だけでなく、人生哲学という側面も持ちます。

ゲシュタルト療法は、クライエントの病気や病理そのものよりも、自己成長に焦点を当てたアプローチです。「今、ここ」での気づきを通して、これまで無自覚であったことへの気づきが促され、「私はこう思っていたんだ」などと言語化したり、行動に表したりする過程で、それまで意識から排除されていた心残りを取り上げ、心に収める体験をしていきます。

こうした気づきの体験は、現在はもちろん、その後のライフサイクル全体に通じるものの捉え方にも影響するため、よりよい生き方を切り拓くことにもつながります。今まで凝り固まっていた考えから解放され、新しい選択肢を見いだせるようになる、より主体性を発揮して生きられるようになる、といったゲシュタルト療法の過程は、健康な人の精神修養にも役立つのです

単なる病気の症状の消失にとどまらず、よりよい生き方や自己成長にも結びつくことは、ゲシュタルト療法のもつ利点といえるでしょう。

ゲシュタルト療法のデメリットや危険性

机で泣いている女性ゲシュタルト療法にはメリットもありますが、適用に当たっては注意点もあります。

まず、病理の深い人への適用は危険な場合があります。病理の深い人の場合、ゲシュタルト療法で取り扱う内容がファンタジーなのか、現実に起こっていることなのかの区別ができなくなる可能性があります。そして、人格のまとまりが失われたり、現実との接触が失われたりしかねません

また、ゲシュタルト療法の実施によって、クライエントが抵抗や不快感を感じてしまう可能性もあります。その場合は、ゲシュタルト療法の実施はクライエントに役立つどころか、不利益となってしまいかねません。

このように、ゲシュタルト療法を単なる技法として用いるのにはリスクがあります。

リスクを避けるためには、ほかの心理療法と同様に、十分なアセスメントや、クライエントとセラピストの治療同盟の確立といった手続きを踏まえることが大切です。そして、十分な研修・訓練を受けたセラピストのもとで行うことが望ましいでしょう。

ゲシュタルト療法のやり方や技法

カウンセリングをする男女「今、ここ」での気づきを促すゲシュタルト療法には、さまざまな技法があります。ここでは、ゲシュタルト療法での基本的なアプローチについて説明し、ゲシュタルト療法で用いられる代表的な技法をいくつか紹介します。

(1)ゲシュタルト療法でのアプローチ

ゲシュタルト療法の過程は「気づきに始まり、気づきに終わる」といわれます。そこに立ち会うセラピストは、クライエント自らの自己や外界への気づきを促すための存在です。

セラピストがゲシュタルト療法で行うアプローチには、以下のような特徴があります。

  • 未来や過去ではなく「今、ここ」で起きる自明な現象を取り上げるようにする
  • なるべく一人称、現在形の言葉を使う
  • 図(意識)にのぼるものを言語化するよう励ます
  • セラピストからの解釈は極力避ける

こうしたセラピストの媒介により、クライエントは自分の感覚や感情、思考などに気づき、そこからどんどん新たな気づきを得ながら、まとまりのある全体への気づきへ向かっていきます。

クライエントが安全に「今、ここ」での気づきを得られる場を提供することが、セラピストの果たす役割なのです。

(2)ゲシュタルト療法の技法

ゲシュタルト療法で用いられる代表的な技法には、次のようなものがあります。

a.エンプティ・チェア(ホット・シート)

誰も座っていない空の椅子に、他者や自己、問題自体などが座っていると仮定して、対話をしてもらう技法です。たとえば、「今この椅子にお母さんが座っているとしたら、何を話したいですか」など問いかけ、クライエントの感情や伝えたいことを口にしてもらうことを通して、気づきを促します。また、2つの椅子を行き来しながら、相手との対話を双方の立場から行ってもらう方法もあります。

b.ファンタジー・トリップ

イメージを活用して、ファンタジーの中で未知の自己や他者に会う体験をする技法です。たとえば、ファンタージの世界で失った家族に出会って対話をし、その中で認められたり許されたりする経験をして安心感を得る、といったケースがあります。

c.夢のワーク

夢に出てきた人や物、雰囲気などになってみて、夢を再現し、それぞれ言語化や行動化をする技法で、「夢を生きる」ともいわれます。たとえば、大きな動物にいじめられる小動物の夢を見たあとに、夢に出てきた小動物になって夢のストーリーを再現し、その中で小動物の価値を見直す体験をする、といった体験などがあります。

d.ボディ・ワーク

身体や、身体の一部になってみて、言語化や行動化を行う技法です。ことばを持たない身体にイメージの中で発言させ、気づきを得ていきます。たとえば、弱った胃腸になり代わって「こんなに弱るまで食べないでよ!」などと訴えるといった方法です。

ゲシュタルト療法についてのよくある質問


ゲシュタルト療法は、個人の意識と無意識の統合を目指す心理療法の一つです。この療法では、クライアントが現在の瞬間に意識を集中し、自分の感情や行動に気づくことを重視します。過去の出来事が今の自分にどのように影響を与えているのかを探ることよりも、今ここで起こっている体験に焦点を当て、その体験を通じて自己理解を深めていきます。また、ゲシュタルト療法では、クライアントとセラピストの関係が非常に重要であり、セラピストはクライアントが感じる感情や思考に共感し、クライアントが自分をよりよく理解できるようにサポートします。


ゲシュタルト療法の主な目的は、クライアントが自分自身を深く理解し、感情や思考、行動のパターンに気づくことです。このプロセスを通じて、クライアントは過去の未解決の問題や感情を整理し、現在の自分と向き合うことができるようになります。また、ゲシュタルト療法では「今ここ」の体験を重視するため、クライアントが現在の自分の感情や思考を理解し、受け入れることで、生活の中でのストレスや悩みを減らすことが期待されます。最終的には、自己受容と自己成長を促進し、クライアントがより健康的で充実した生活を送ることをサポートします。


ゲシュタルト療法の特徴は、主にクライアントが現在の感情や体験に意識を向けることにあります。過去や未来にとらわれることなく、今この瞬間の体験に焦点を当てることが基本となります。例えば、クライアントがセッション中に感じたことをその場で表現し、セラピストがその感情に共感することで、クライアントが自己理解を深めます。ゲシュタルト療法では、自己認識を促進するために、感情や行動のパターンを実際に体験するワークショップや実習を取り入れることも多いです。このアプローチにより、クライアントは自分の内面に気づき、過去の経験から学び取ることができるようになります。


ゲシュタルト療法は、自己認識を高めることによって、さまざまな心理的な問題に対する効果があります。クライアントは、自分の感情や行動に気づくことによって、抑圧されていた感情を解放し、自己受容が進むとともに、ストレスや不安が軽減されることがあります。また、対人関係の改善にもつながり、クライアントが他者とのコミュニケーションにおいてより自分らしく振る舞えるようになることが期待されます。ゲシュタルト療法は、感情や行動のパターンを再構築するため、クライアントはより自由で創造的に人生を楽しめるようになります。自己肯定感の向上や、目標に対する明確な意識も得られるため、全般的に生活の質の向上に貢献します。


ゲシュタルト療法は、セラピストとクライアントが対話を通じて行う治療法です。治療の中で、セラピストはクライアントに対して自分の感情や体験に意識的に気づくように促します。この療法では、クライアントが現在感じている感情や思考に対して深く掘り下げ、反応を見つけ出していきます。さらに、実習や演習が取り入れられ、クライアントが自己の体験をよりよく理解する手助けをします。例えば、クライアントが自分の思考と感情を言葉で表現したり、仮想の状況を演じて自分の行動パターンに気づいたりします。この過程を通じて、クライアントは自己理解を深め、日常生活に活かす方法を見つけることができます。


ゲシュタルト療法は、自己認識を深めたい人や、自分の感情や行動に困惑している人に特に適しています。例えば、過去のトラウマや未解決の問題が現在の生活に影響を与えていると感じる人、自分の感情を表現するのが苦手な人、または他人との関係で悩んでいる人に効果的です。この療法は、感情に向き合わせることで心の整理を促し、自己受容や成長を促進します。さらに、対人関係のスキルを向上させたいと考えている人や、自己肯定感を高めたい人にも向いています。精神的な健康を改善し、より良い人生を送りたいと考えている人に広く利用されています。


ゲシュタルト療法のセッションの頻度は、クライアントの状況や目標によって異なりますが、通常は週に1回程度が一般的です。これは、セラピストとクライアントが時間をかけて関係を築き、継続的な支援を提供するための最適な頻度とされています。セッションごとにクライアントは自分の内面を探求し、新たな発見を得ることができます。そのため、定期的なセッションは効果的な進行を支える重要な要素となります。クライアントが特別なサポートを必要とする場合や治療の進行具合に応じて、セッションの頻度を調整することも可能です。


ゲシュタルト療法は、他の療法と比較して「今ここ」の体験に非常に焦点を当てます。他の療法が過去の問題に着目し、解決に向けた分析を行うのに対して、ゲシュタルト療法では現在の感情や思考のパターンに気づき、理解を深めることが目的となります。例えば、精神分析療法が過去のトラウマに焦点を当てるのに対し、ゲシュタルト療法は現在進行中の感情に注目します。また、認知行動療法(CBT)は思考と行動を中心にアプローチしますが、ゲシュタルト療法は感情や体験に焦点を当て、その体験をセラピストと共有することを通じて自己認識を高めていきます。


ゲシュタルト療法のセラピストは、心理学やカウンセリングの専門的な訓練を受け、ゲシュタルト療法に関する専門的な認定を取得していることが一般的です。これらの資格を持つセラピストは、クライアントに対して専門的な支援を提供するための知識とスキルを持っています。さらに、ゲシュタルト療法の資格取得には、実習やスーパービジョン(上級者による指導)を経て、理論だけでなく実践的な経験も積むことが求められます。これにより、セラピストはクライアントに対して効果的な治療を提供できるようになります。


ゲシュタルト療法のセッションの期間は、クライアントの状況やニーズに応じて異なりますが、一般的には数ヶ月から数年にわたることがあります。短期間で効果が現れる場合もありますが、深い自己理解と変化を促すためには、継続的なセッションが必要とされることが多いです。治療の進行具合やクライアントの目標に応じて、セラピストと共にセッションの期間を柔軟に決定します。クライアントは自分のペースで進んでいくことができ、必要に応じてセッションを継続することができます。

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ミーティングする男女ゲシュタルト療法について、その背景や特徴、メリット、デメリット、危険性、やり方、技法などを紹介しました。「今、ここ」での気づきを重視するゲシュタルト療法は、心理療法の技法としてだけでなく、よりよい生き方の模索にも役立つものですが、適用に当たっては注意も必要です。

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文献

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