家族療法は従来の個人に対する心理療法とは異なり、家族全体に焦点を当てた心理療法です。
本記事では家族療法の概要、種類、メリット・デメリット、技法を解説します。視野を広げて家族のコミュニケーションから問題を検討できる良さがあるため、新たな視点の参考にしてみてください。
目次
1.家族療法とは
家族療法とは家族全体を1つの構造として捉え、家族にアプローチすることで問題の緩和を図る心理療法です。
家族療法には多くの学派が存在しますが、システム論や円環的因果律という共通する基礎理論があります。システム論とは、家族を1つのシステムとみなす考え方を指します。通常の心理療法では、心の問題を抱えるクライエント1人に焦点を当てるやり方が主流です。一方で、システム論を持つ家族療法では問題を抱える人をIP(Identified Patient:患者とみなされる人)と捉え、IPの問題は個人の問題ではなく家族システムの働きの不十分さや、家族システム間で影響し合った結果と考えます。
また、円環的因果律とは、システムの要素である家族が相互に影響し合うため、問題の原因を特定することは難しいとする考え方を指します。たとえば「両親が夫婦ケンカするから子どもの気性が荒い」など、原因と結果を結びつける直接的因果律の考え方が日常では馴染み深いかもしれません。しかし、家族療法では「夫婦ケンカする→子どもが荒れる→夫婦ケンカする→…」など必ずしも一方通行の原因特定はできず、原因も結果も循環し合っていると考えます。
このように、家族療法では家族全体のコミュニケーションの在り方を重視し、IPの問題は家族全体の問題と捉えてシステムで対処を試みる心理療法と言えます。
2.家族療法の種類
心理療法の焦点が個人から人間関係に移る背景があり、その中でG. ベイトソンによって二重拘束理論(ダブルバインド理論)が発表されました。この理論は、言語情報と表情などの非言語情報といった複数の矛盾した情報を受けたとき、逃れられない状況が続くことで精神的な問題が生じると考えたものであり、この理論から家族療法の研究が進み、多くの学派が生まれています。
代表的な学派の一部は下記の通りですが、これら以降にもより問題解決志向の家族療法も誕生しています。
- MRI派(コミュニケーション学派)
- 戦略学派
- 構造派
- 多世代派
- ミラノ派
- 精神力動的家族療法
(1)MRI(Mental Research Institute)派
MRI(Mental Research Institute)派は、G. ベイトソンの二重拘束理論の考えを踏まえ、共同研究者のD. D. ジャクソンが発展させた家族療法です。IPの問題は不適切な家族間のコミュニケーションにあると考え、適切なコミュニケーションへと変容を促します。また、戦略派はJ. ヘイリーによる学派であり、現在の問題を家族で解決していくために技法を積極的に活用していく家族療法です。戦略派も家族間の悪循環の変容に注目しており、コミュニケーション学派の延長線のものと考えられます。
(2)構造派
構造派はS. ミニューチンによる学派であり、家族をより構造的に捉えて各々の役割に焦点を当てた家族療法です。夫婦や親子、きょうだい間などの境界線が曖昧な場合に問題が生じると考え、家族関係をバランス良く再構築することを目指します。
(3)多世代派
多世代派は、精神分裂病(統合失調症)の家族の研究をしていたM. ボウエンによる家族療法です。知的な側面や感情面が自立できていないと親から子へと問題が世代間に渡り伝達されると考えており、多世代の家族関係に焦点を当てて家族の精神的な自立を促します。
(4)ミラノ派
ミラノ派はM. S. パラゾーリらによる家族療法であり、システミック派とも呼ばれます。ミラノ派もG. ベイトソンの理論に沿っているためMRI派と似た考えや技法を持っています。問題を維持しようとする家族関係を肯定することで変化を促す肯定的意味づけや、家族関係の質問に対する反応をもとにさらに関係性を探る円環性など、より効果的な介入に注目する心理療法です。
(5)精神力動的家族療法
精神力動的家族療法はN. アッカーマンらによる家族療法であり、精神分析の考えを家族療法に用いたことが特徴的です。「お母さんだから」「お兄ちゃんだから」といった家族内での役割意識が本人のパーソナリティに影響を及ぼすことに注目します。
3.家族療法のメリットとデメリット
他の心理療法とは異なる理論や技法を持つ家族療法にも、メリットとデメリットがあります。
家族療法は円環的因果律の考え方が特徴的であり、家族間で影響し合う中で問題が起きていると捉えるため、IP個人が問題であると悪者を決めるようなことはありません。そのため、IPを責めることなく、問題に対する視野を広げられるメリットがあります。特に、問題視されやすいIPにとって家族という理解者が生まれることで、精神的に安定しやすいと思われます。また、家族の問題という視点を共有することで家族間の偏見を解し、関係性が改善される可能性も十分あります。
一方で、家族が非協力的でIPの問題をIP個人のせいであると思い込んでいる場合は、家族療法につなげにくいデメリットも挙げられます。家族が仕事などでなかなか集まれないと家族療法の継続も困難でしょう。家族の中で一緒に居たくない人がいる場合は、家族療法が苦しい時間になることもあります。
デメリットも確かにありますが、専門家が介入する家族療法であれば家族のパワーバランスを見つつ話し合えるため、問題改善のために家族で取り組みやすくなれるでしょう。
4.家族療法の基本的なやり方や技法
家族療法には多くの種類があると解説しましたが、基本的には家族を1つのシステムとして捉え、IPの問題は家族全体の問題と考えて改善を狙います。そのため、個人に焦点を向けてもなかなか問題が改善しない場合は家族療法を検討してみてもいいかもしれません。
また、家族療法では問題の原因を突き止めるやり方ではなく、家族の関係性やシステムをより良い形へ修正していくやり方が主流です。家族療法で用いられやすい技法をいくつか紹介します。
- リフレーミング
- ジョイニング
- 逆説的介入 など
(1)リフレーミング
「リフレーミング」は、物事に対する捉え方を変えてみる方法です。たとえば、子どもが問題ばかり起こす場合に、別の見方として問題を起こす子どもがいるからこそ両親が子どもに目を向けられるということもあります。リフレーミングにより否定的な見方を肯定的な見方に変え、家族関係の安定を手助けできる場合もあり得ます。
(2)ジョイニング
「ジョイニング」は、カウンセラーが対象の家族と積極的に関係を築いて輪の中に参加していく方法です。家族には独自のルールや価値観があるため、カウンセラーはどの家族にも共感的に関わり、家族の関わりの真似する「マイム」、これまでの家族のコミュニケーション従う「トラッキング」などの技法も合わせて家族の関係性に溶け込んでいきます。
(3)逆説的介入
「逆説的介入」は、問題の改善とは矛盾する介入を行う方法であり、治療的なダブルバインドとも呼ばれます。たとえば、癇癪が止まらない子どもに対して癇癪し続けることを指示します。この指示に反して癇癪を止めることができれば問題の改善に近づき、癇癪が続くのであれば子どもは指示通りに動けている、つまり自己統制ができているため親が怒る機会を減らすことにつなげられます。
5.まとめ
個人の問題は個人に原因があると考えやすいですが、心理的な問題は因果がはっきりしているとは限りません。家族の問題は家族システムの問題と捉える家族療法を試すことで、問題の改善や家族関係の修正を図ることも期待できます。家族を問題視するよりも、理解を深めて関係性を見直してみたい人は是非家族療法を試してみてください。
(株)心理オフィスKでカウンセリングをご希望の方は以下の申し込みフォームから必要事項を記入して、送信してください。
文献
この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。