本ページでは、動機づけ面接について、その特徴、原則、方法まで詳しく解説しています。どのような方に向いているか、その適用例も説明していますので、参考にしていただければ幸いです。
目次
1.動機づけ面接とは
動機づけ面接とは、変わろうとする心の動きに焦点を当てた面接です。ひとことでまとめると「変化を促すための面接技法」ということができます。4つの戦略(OARS)を用いて、両価性を探索し、チェンジトークを引き出し、クライエントが自ら行動していけるように動機づけることを目指します。ちなみに、動機づけとは目標に向かって行動しようとすること、そしてそれを維持する心理的な機能のことを指します。
動機づけ面接は、それのみでカウンセリングがおこなわれるというような技法というよりは、カウンセリングの中でのひとつのコミュニケーション方法として考えることもできます。また、動機づけ面接のメソッドにはクライエント中心療法の視点がありますが、意図的に変化を促すという点でクライエント中心療法とは少し異なります。
もともと動機づけ面接はアルコール依存症への治療法として確立されたのがはじまりとされています。依存症治療ではしばしば途中で挫折してしまうケースがあり、どのように治療意欲を保ち専念してもらえるかが問題となります。そのような中で、上手くいったケース、上手くいかなかったケースを分析し、面接技法としてまとめられたものが動機づけ面接となっています。
2.動機づけ面接の効果やメリット
動機づけ面接は、実験でも効果が示されており、認知行動療法のようにエビデンスがある治療法とされています。先ほども少し説明したように、動機づけ面接は、そもそも依存症の治療で、いい結果が得られた面接過程の分析をもとに作成されているので、その成り立ちからも比較検討が重ねられていることがわかります。また、当初はアルコール依存症にのみ焦点の当てられたものでしたが、現在ではさまざまなクライエントへの効果が認められています。
動機づけ面接の最大のメリットは、カウンセリングに対してあまり意欲がない人にも適用できるという点です。カウンセリングを受けている人の中には、本人の意志ではなく来談されている方もおられますし、本人の意志で来られていても両価性といって、「解決したい気持ち」と「今のままでもいいという気持ち」との間で揺れておられる方も多くおられます。そのような方が治療につながりつづけられるような面接技法となっています。
対象となる疾患としては、「アルコール依存症」「ひきこもり」「非行・犯罪」などがあげられますが、決してこのような疾患の方にしか向いていないというわけではありません。また、精神的な疾患のカウンセリングに限らず、「生活習慣病」の患者さんとの面接などにも用いられており、幅広い分野で動機づけ面接のエッセンスが取り入れられています。
3.動機づけ面接における5つの原則
動機づけ面接には5つの原則があり、それに従ってカウンセリングをしていく必要があります。その5つの原則について解説します。
(1)共感
共感はカウンセリングの基本で、共感なくしてカウンセリングは成り立たないといえるでしょう。この動機づけ面接においても、共感が原則に含まれています。動機づけ面接の目的が「変化を生むこと」であったとしても、まずはクライエントの心情に寄り添い、「変わりたくない」という気持ちにもしっかり目を向ける必要があります。どのような思いで治療にこられているのかを把握することがはじまりです。
(2)矛盾を広げる
行動と目標に矛盾が生じていることについて話を広げます。両価性とも言いますが、クライエントは相反する考えや気持ちを持っています。それが葛藤や矛盾にもなるのですが、クライエント本人がその矛盾に気づいていながら避けている場合や、気づいてすらいない場合もあります。それを、第三者としてのカウンセラーがいることで、客観的にその矛盾についてみることができます。ここで大切なのは、カウンセラーが「そことそこが矛盾している」と指摘するのではなく、あくまで本人が自分自身で気づき、「変わっていったほうがいいのかもしれない」と思えるようになることです。
(3)言い争いを避ける
カウンセラーが、上から「こうした方がいいのではないか」「なんでそんなことをするのだ」「やめなさい」などといってしまうと、治療関係は破綻してしまいます。クライエントは日常的にも周囲から口うるさくいわれている可能性が高く、いわれればいわれるほど自分から変化することをやめてしまい逆効果となってしまうでしょう。「でも」とつい口を挟んでしまいそうなことでも、反論せず耳を傾けつづけることが大切です。
(4)抵抗を手玉に取る
カウンセリングにおける「抵抗」は治療抵抗ともいい、遅刻や欠席などカウンセリングに対してクライエントが積極的に参加しなくなる状態を指します。
一般的に抵抗はない方がいいものと思われるかもしれませんが、動機づけ面接では、抵抗をなくそうとするのではなく、その抵抗からもクライエントを理解しようと努めます。時には、「頑張ったけどもうできないかもしれない」「我慢していたけどまたやってしまった」などという形で抵抗が示されることもありますが、「頑張って続けようとはしていた」という努力に目を向けて面接をしていきます。そうすることで、「変われない」という話から「変わろうとしている」という話に方向転換することができます。
(5)セルフエフィカシー(自己肯定感)を支持する
自分でもできるという体験を積んでもらうことが大切です。そのためには、最初から大きな目標をたてるのではなく、小さな変化からはじめることが重要になります。クライエントは多くの場合、失敗体験に意識が向いてしまっているので、小さな成功を共に喜びながら治療を進めていくことが大切です。
4.動機づけ面接のやり方
動機づけ面接の特徴的な技法に「チェンジトーク」というものがあります。変化について話すことに重点を置き、以下の4つに沿って面接を進めます。
- 現状のままでは不利益であること
- 変化した方が利益があること
- 変化することに対して気楽に考えること
- 変化することを自発的に決意すること
その面接の中でどのように、本人の気持ちを聴くかという点で、以下の4つの戦略(OARS)が重要となります。
(1)開かれた質問(Open Ended Qestion)
開かれた質問とは、「はい」「いいえ」では答えられないような質問のことを指します。具体的には「今、どんな気持ちですか?」という質問があげられます。それを「今不安ですか?」ときいてしまうと、不安か不安でないかという2択で答えられる質問になってしまい、クライエントの気持ちを詳しく聴くことはできません。
(2)是認(Affirm)
クライエントが自ら発した言葉のなかで、変化を生みそうないい話だと感じたものをカウンセラーが聞き返し、肯定することを是認といいます。ひとつひとつ大事に拾い上げていくことで、どうしていくことがいいかを本人が気づきやすくなります。認知行動療法でいうと、分化強化と言えるでしょう。
(3)聞き返し(Reflective Listening)
この聞き返しが動機づけ面接の肝となっています。単にクライエントの言葉だけを聞き返すだけでなく、どのような気持ちで発しているかをくみ取り、一見否定的な言葉であっても、そのなかにあるポジティブな側面を強調して聞き返していくことも大切です。
(4)要約する(Summarize)
クライエントの話を聞き返していくなかで、最終的に変化を生みそうな話をカウンセラーがまとめていきます。それをもとに「こうすべき」と押し付けるのではなく、クライエントが自身で決断していくことを支持します。全体を通してクライエントが見通しをもち、変わっていこうと踏み出せるように話を聴いていくことが動機づけ面接の基本となっています。
5.まとめ
今回は、動機づけ面接について、特徴や原則、方法について紹介しました。人は「きれいさっぱり悩みを解決したい」と思いながらも、なかなか踏み出せなかったり、「解決した方がいい」と思いながらも変化することに抵抗があったりするものです。動機づけ面接は、そのような両価性を抱えながらも、それに向き合い変わろうとする心を大切にするカウンセリングの手法である、とまとめることができるでしょう。
当オフィスでは動機づけ面接そのままを実施することはしておりませんが、動機づけ面接のエッセンスを活かしてカウンセリングを行っています。希望者は以下のフォームからご連絡をください。