マインドフルネスは比較的新しい心理療法として、医療現場に限らず、企業やスポーツなど様々な分野で注目されており、耳にしたことがある方も多いと思います。本ページでは、そのマインドフルネスについて、特徴や成り立ちから具体的な方法まで詳しく解説していきます。
目次
マインドフルネスとは
(1)特徴
マインドフルネスは「変えようとしない」というアプローチで、行動や認知の変容を目的とせず、「あるがまま」を受け入れることを重視します。人は悩みを抱えているとき、その悩み自体の心理的な負担よりも、そのことをどうにかしようと必死になることによってしんどさが増してしまうケースがよくあります。何かを変えるのではなく、「何かを変えようとしてしまう心の働きを変える」ということができます。
心理療法やカウンセリングというと、「何かを変えたり、新しく行動をおこしたりすることで悩みを解消していくもの」と思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、マインドフルネスのように「無理に変えようとせず、あるがままを受け入れていこう」という観点も大切です。そのまま受け入れるということは、何もしていないように思われるかもしれませんが、変えることよりも、変わらなくてもいいと思えることの方がよほどエネルギーを必要とする場合もあります。
マインドフルネスは認知行動療法の技法の一つです。認知行動療法については以下のページをご覧ください。
(2)成り立ち
マインドフルネスは認知行動療法のアプローチのひとつとして位置づけられていますが、1970年代にうまれた比較的新しい技法で、行動療法と認知療法とは一線を画しています。第3世代の認知行動療法といわれることもあります。
簡単に認知行動療法の歴史をまとめると、まず「行動修正を目指す行動療法」から始まり、行動だけではなく「認知の変容を目指す認知療法」が生まれ、そして、今回ご紹介する「あるがままを受け入れるマインドフルネス」という流れになっています。
この「あるがまま」を重視するアプローチは禅の修行が参考にされているといわれていますが、信仰を問わず宗教色のない心理学的なアプローチとしてまとめられています。
マインドフルネスの効果
先ほども述べたように、マインドフルネスは「あるがままを受け入れる」というスタンスのカウンセリングであるので、なにをもって効果があるとするのか、どうなれば成功といえるのか難しいです。しかし、一般的にいわれている効果には「感情のコントロールができるようになる」「不安やストレスが低減する」「ネガティブ思考にとらわれなくなる」「問題と距離を置くことができるようになる」といったものがあげられます。QOL(生活の質)が向上するという効果研究もあります。
マインドフルネスには様々なアプローチがあるので、何を対象にしているかによっても効果は変わってくると考えられます。いくつかの例を次に説明します。
マインドフルネスを使った心理療法
マインドフルネスは、クライエントの特性によって様々な方法が開発されています。主なアプローチを以下にまとめました。
(1)マインドフルネスストレス低減法
慢性的な痛みを抱えている人に向けて開発されたプログラムで、8週間にわたりセッションを行います。医療現場では、どうしても薬や手術などの医療的介入だけでは取り除けない痛みは存在しますし、長引く病気と付き合っていくしかないというケースも多くあります。そのようなどうしようもできないストレスに対して、マインドフルネスが用いられています。
(2)マインドフルネス認知療法
うつ病の再発防止のために開発されたプログラムで、こちらも8週間のセッションとなっています。ネガティブな考えが頭に浮かんだときに、それを何度も反芻してしまったり、何かあったときに自動的に否定的な思考に陥いったりしないようにすることで、再発を防止するというメカニズムになっています。
(3)弁証法的行動療法
境界性パーソナリティー障害の方に向けられたプログラムで、効果が高いと近年注目されているアプローチです。マインドフルネスのトレーニングに加え、対人関係や感情調節の訓練も行います。1対1ではなく、集団で行うこともあります。
(4)アクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)
日本において、ACTはマインドフルネスと同義のように扱われていることがありますが、ACTは「主体性」というものがテーマになっており、積極的になることを重視しているという点で特色があります。感情的なとらわれから脱し、自分らしく行動していくことを目指します。
マインドフルネスは直接的に行動変容を目的としていないので、その点にACTとマインドフルネスの違いがあるといえます。
ACTの詳細は以下のページをご覧ください。
マインドフルネスのやり方
マインドフルネスは「ありのままを受け入れる」アプローチであると説明しましたが、具体的にどのようにその作業を行うのかを解説していきます。
(1)具体的な方法
マインドフルネスでは身体感覚を大切にします。ある悩みがあったとしても、それについて、どう思うかなどの思考は取り扱わず、今の身体感覚に注意をむけます。過去でも未来でもなく、今の一瞬一瞬の体験に感覚を集中させます。
マインドフルネスを行う際は、まずリラックスできる態勢になります。床に座る場合でも椅子の場合でも、背筋は伸ばしいい姿勢を保ちます。その姿勢のまま、自然な呼吸を繰り返し、おなかや胸が膨らんだり縮んだりする感覚を味わいます。その途中で日常の嫌なことなどの雑念が生じることがありますが、それについて何も判断を下さずに放置します。感情はただそこにあるものとして外から観察するようなきもちで扱います。「こうしなきゃいけない」「なんでできなかったんだろう」「あれはよくなった」などと評価してはいけません。そのような思考になりそうなときは、もう一度呼吸に意識をむけ、身体感覚に戻るということを繰り返します。
これを、瞑想といわれることもありますが、何かに祈りを捧げたり、宗教的な信仰をしたり、高次の思考を手にいれるための瞑想とは違い、ただ「感情にとらわれず今の感覚だけに注意を向ける」という意味での瞑想になります。
(2)注意点と危険性
マインドフルネスは、しっかりとした心理療法の枠組みの中で専門家が行うようなものであるべきですが、「心が軽くなる瞑想」「ヨガ教室」「マインドフルネスサロン」などとカジュアルに提供されているケースをよく目にします。このマインドフルネスという名前だけが一人歩きしているという現状を危険視している専門家も多くいます。
実際にマインドフルネスをすることが危険なケースも存在します。例えば重度のうつ病の方は、マインドフルネスをすることで、余計に自責的になってしまい、「全て自分のせいだ」と傷を深くしてしまう場合もあります。また、統合失調症の方であると、深く瞑想状態に入ってしまい、現実との区別が難しくなってしまうことがあります。
臨床心理士や精神科医などの専門家でなければ、そのクライエントさんが、今マインドフルネスを受けても大丈夫な状態にあるかどうかをしっかりとアセスメントすることはできません。ですので、実際に受けてみようと思われる際は、専門家の有無を必ず調べてみられることをお勧めします。
認知行動療法についてのトピック
マインドフルネスについてのよくある質問
マインドフルネスとは、現在の瞬間に意識を向け、今この瞬間をありのままに受け入れる心の状態を指します。自己批判や評価を避け、目の前の出来事や感情に対して、無理に反応することなく観察することが特徴です。この実践を通じて、ストレスや不安を軽減し、心の平穏を保つことができます。マインドフルネスは、瞑想の一形態として行われることが多いですが、日常生活の中でも意識的に実践することが可能です。
マインドフルネスには、多くの心理的、身体的な効果があります。まず、ストレスの軽減が挙げられます。意識を今この瞬間に集中することで、過去や未来に対する過剰な心配を減らし、心の安定を得ることができます。また、感情のコントロールが改善され、怒りや不安、恐怖といったネガティブな感情に振り回されにくくなります。さらに、集中力や注意力の向上、睡眠の質の改善、免疫力の向上など、身体的な健康にも良い影響を与えることが研究によって確認されています。
マインドフルネスを実践する方法には、いくつかの手法があります。最も一般的な方法は、瞑想を通じて行うものです。瞑想では、静かな場所で目を閉じ、呼吸に意識を向けることで、今この瞬間に集中します。呼吸の感覚や身体の動きを観察し、思考が浮かんでもそれを無理に排除せず、ただ観察することがポイントです。また、日常生活でもマインドフルネスを実践できます。たとえば、食事中に食べ物の味や香り、食感に集中したり、歩いている時に足の感覚に意識を向けることが実践の一例です。これにより、日常の些細な瞬間でもマインドフルネスを意識することができます。
マインドフルネスと瞑想は密接に関連していますが、厳密には異なります。瞑想は、マインドフルネスの実践法の一つです。瞑想の目的は、意識を今この瞬間に集中し、心の中に浮かぶ思考や感情をただ観察することです。マインドフルネスはその心の状態を指し、瞑想を行うことでその状態を養います。一方、マインドフルネスは瞑想に限らず、日常生活の中でも実践できる心の状態です。つまり、マインドフルネスは「心の在り方」であり、瞑想はそのための「方法」と言えます。
はい、マインドフルネスは特別な才能や技術を必要とせず、誰でも実践できます。初心者でも簡単な方法から始めることができます。実際、マインドフルネスはどんな人でも生活の中で取り入れることができ、特に心理的な健康を促進するために有用です。忙しい日常の中でも、ちょっとした時間を使って呼吸に集中するだけで、効果を実感できる場合があります。また、瞑想を習慣化することで、より深い効果を得ることが可能です。最初は難しいと感じることもありますが、少しずつ実践を重ねることで、効果を感じやすくなります。
マインドフルネスは、仏教の瞑想法から発展したものであり、その起源は数千年前に遡ります。仏教における「ヴィパッサナー瞑想」や「サティ瞑想」などが、その原型とされています。しかし、近年では心理学的アプローチとしても注目されるようになり、特に1990年代以降、マインドフルネス認知療法(MBCT)やマインドフルネスストレス低減法(MBSR)が開発され、医療や心理療法の分野で広く取り入れられるようになりました。現在では、ストレス管理や感情調整、注意力の向上など、さまざまな目的で実践されています。
マインドフルネスを実践する際には、無理をしないことが重要です。特に初心者は、少しずつ実践の時間を増やしていくことが推奨されます。また、瞑想を行うと過去の記憶や感情が浮かんでくることがあります。これらを無理に抑え込んだり、排除しようとすることは避けるべきです。浮かんだ思考や感情をただ観察し、受け入れることが大切です。もし、過去のトラウマや強い感情が浮かんできた場合は、無理に一人で対処せず、専門家のサポートを受けることをおすすめします。
マインドフルネスのトレーニングは、専門的な施設やオンラインプログラムで受けることができます。心理オフィスKなどでは、マインドフルネスの技法を学びながら、個別のカウンセリングを受けることも可能です。さらに、マインドフルネス認知療法(MBCT)やマインドフルネスストレス低減法(MBSR)など、体系的に学べるプログラムも提供されています。特に、日常生活で実践するためのテクニックを学べる場が多く、初心者から上級者まで、自分に合った方法を選ぶことができます。
マインドフルネスは、認知行動療法(CBT)と非常に密接な関係があります。認知行動療法では、思考や感情のパターンを変えることで心理的な問題を改善することを目指しますが、マインドフルネスはその過程で非常に有効な技法となります。マインドフルネス認知療法(MBCT)では、思考や感情の変化を受け入れ、評価しないことで、ネガティブな思考から解放され、現在の瞬間に集中することができます。これにより、うつ病や不安症の予防に効果があるとされています。
マインドフルネスには多くの科学的根拠があり、特に心理的および生理的な健康に良い影響を与えることが確認されています。研究によると、マインドフルネスはストレスや不安を軽減し、脳の構造にも良い影響を与えることが分かっています。脳の灰白質の密度が増加し、感情調整を司る領域が活性化することが示されています。さらに、心拍数や血圧を低下させる効果もあり、長期的に実践することで、心身の健康を改善することができるとされています。
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今回は、マインドフルネスについて、特徴から成り立ち、具体的方法について紹介しました。マインドフルネスは、様々な疾患に特化したアプローチも開発されており、効果も高いとされていますので、参考にしていただけると幸いです。
文献
この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。