グリーフケアは、大切な人や物を失う際に感じる強い感情と向き合い、立ち直っていくための援助です。グリーフによる影響は様々ありますが、決しておかしな反応ではありません。
本記事ではグリーフの症状や回復までのプロセス、グリーフケアについて解説します。喪失による感情を押し殺してしまう人は是非最後までご覧ください。
目次
グリーフケアとは
グリーフケアとは家族や友人など大切な人を亡くす体験や大事にしていたものを失う体験を持ち、そのため深い哀しみの感情を抱えてしまった人に対する援助のことです。
グリーフケアというと喪失体験による悲しみや落ち込み、自責の念などを扱うことが多いですが、怒りや恨みなどその人が感じる複雑な感情に焦点づける場合もあります。喪失体験をした人に対して必ずしもグリーフケアが必要とは限りませんが、喪失体験後に気持ちが動揺することもなかなか立ち直れないことも自然な反応です。
そして、大切な存在の喪失体験後は気分の落ち込みや倦怠感など心身に影響を及ぼすこともあり得ます。人によっては喪失による感情をうまく整理しきれないこともあるため、喪失者に寄り添い、気持ちを表現していく支援も大切になります。グリーフケアは、喪失者が深い悲しみを受け止めて回復していくためにも重要な支援の1つと言えます。
グリーフとは
グリーフとは喪失に対する悲嘆であり誰もが感じるものですが、6ヶ月以上続き日常生活にも支障が生じる悲嘆は複雑性悲嘆と言います。悲嘆が慢性的に見られると、気分の落ち込み、自己や喪失対象への没頭などが生じて立ち直ることが難しくなってしまいます。
ここでは、グリーフによる影響やプロセス、あいまいな喪失についても補足します。
(1)グリーフの影響や症状
大切な存在を失う体験は、多くの人に影響を与える大きなストレッサーでもあります。人により症状は様々で、予期せぬタイミングで心身に影響を及ぼします。
グリーフによる正常な反応もありますが、症状が長引いたりうつ病や自律神経失調症などの疾患につながったりする恐れもあるため、心身の違和感には注意が必要でしょう。
領域 | 説明 |
---|---|
精神面 | 喪失に対する深い悲しみや怒り、自責など激しい感情の起伏に苦しんだり、感覚鈍麻、無気力、空虚感など不安に襲われたりする |
身体面 | 不眠、食欲減退、腹痛など身体の痛み、倦怠感、めまい、便秘など身体の不調が出現 |
行動面 | 集中力低下によるミスの増加や突然泣いてしまうといった症状も見られ、心身への影響が悪化すると引きこもりや人間関係の回避、趣味やこれまで続けていた活動に手がつかなくなるなど社会生活にも支障をきたす |
このような影響を感じると「自分はおかしくないか」と不安になってしまうこともありますが、喪失体験直後は誰にでも起こりうることなので自責する必要はありません。
(2)グリーフ・悲嘆のプロセス
グリーフから回復するためのプロセスには、以下の4段階があります。上から順に移るわけではなく、段階は入れ替わることもあり、各プロセスの期間には個人差もあります。
- ショック期
- 喪失期
- 閉じこもり期
- 再生期
a.ショック期
「ショック期」は、喪失を受け入れられず放心状態となる時期です。突然で強いショックによりパニックとなる場合もあれば、ショックから心を守るために反応できなくなってしまう場合もあります。
b.喪失期
「喪失期」は、喪失体験を頭では理解しつつもまだ現実を受け止められず困惑した時期です。喪失を認められずに明るく振る舞う人もいれば、悲しみや怒りなどの強い感情に振り回されてしまう人もいます。
c.閉じこもり期
「閉じこもり期」は、喪失をある程度理解するものの自分の価値や生き方に悩みとらわれてしまい、無気力な状態となる時期です。引きこもるだけでなく対人関係を回避しようとする場合も見られます。
d.再生期
「再生期」は、喪失体験から立ち直って生きていこうと日常生活を取り戻していく時期です。グリーフからの回復には、時間をかけて自分の感情を認めていく作業が重要になります。
(3)あいまいな喪失について
喪失というと大切な人や物を失う体験を指しますが、なかには何を失ってしまったのかが不確かである「あいまいな喪失」もあります。P. ボスにより提唱された考え方であり、あいまいな喪失には以下の2タイプが挙げられます。
- 身体的には不在だが心理的に存在していると認知される場合
- 身体的に存在しているが心理的には不在と認知される場合
1.は自然災害や誘拐などによる行方不明や、離婚・転勤・養子縁組など会えないもののどこかに存在しているだろうと思われる「さよならのない別れ」が代表的です。
一方、2.は認知症や依存症、脳疾患、慢性的な精神病など以前までと同一人物には思えないような「別れのないさよなら」が該当します。
あいまいな喪失の場合、喪失体験が一時的なものか確定的といえるのかがはっきりしないためグリーフ体験が難しくなってしまいます。また、死別など明確な喪失ではないため、周囲から喪失体験を理解されにくい特徴もあります。明確な喪失であってもグリーフケアに時間はかかりますが、あいまいな喪失もまた、長く複雑な感情やストレスに悩まされる状態と言えます。
グリーフケアの方法
グリーフケアを行うには喪失対象と向き合い、生じる感情を受け止めていく過程が重要です。ここでは、グリーフケアの方法や接し方について紹介します。
(1)グリーフケアのカウンセリング
喪失体験や感情に1人で向き合う必要はないため、別れの受容や感情と向き合うことが苦痛な場合はカウンセリングも1つの方法です。
グリーフのプロセスを理解しているカウンセラーに話すことで、安全にグリーフと向き合いやすくなるでしょう。グリーフケアのカウンセリングでは、自分の内側に沸き起こる感情を何度も話して受け止めてもらうことでグリーフからの回復を目指します。
喪失体験から慢性的に悲嘆や抑うつ状態などが見られる場合も、精神症状緩和のためにカウンセリングや薬物療法が有効と考えられます。
(2)セルフケア
お別れ会や葬儀、遺品整理など自分なりにグリーフと向き合う作業を行うことでセルフケアも可能です。
自分なりにグリーフを感じることが重要になるため、悲しみや怒りがこみ上げてきたら素直に感じるように心がけてください。感情を素直に感じて表現するには非常に多くのエネルギーを消耗するため、好きな物を食べる、好きな音楽を聴くなど自分を労わるケアも意識してみましょう。
(3)身近な人のグリーフへの接し方や声かけの方法
身近にグリーフを体験した人がいる場合、相手の話したいことを可能な限り聴いて受け止める関わりが大切です。
つらい体験をした人に対して励ましたくなるかもしれませんが、グリーフの受容には時間がかかります。励ましは相手の悲しみや孤独感を強める可能性があるため、「大変だったね。それはつらいね」「つらいときは無理せず泣いていいんだよ」と相手の気持ちを認めてあげる声掛けが望ましいでしょう。
また、グリーフの受容が難しく喪失体験を繰り返し話す人に対しては、相槌をして聞き役に徹してみてください。聞き手にも話を聴く限界はあるため、無理に関わらず可能な限りで接するようにしましょう。
グリーフケアについてのよくある質問
グリーフケアは、大切な人を失ったことによる深い悲しみや喪失感を癒すための支援方法です。人が亡くなった後、その人との思い出や絆が強く残っている場合、感情的な苦痛や心の不安定さが続くことがあります。グリーフケアは、これらの感情を理解し、適切に表現する手助けを行います。支援方法としては、カウンセリングを通じて話を聞くことや、感情表現を助ける活動が含まれます。悲しみの中で自分を見つめ、心を整理する過程が重要で、専門家のサポートを受けることが心の回復を早める助けとなります。
グリーフケアを行う専門家は、心理学やカウンセリングの知識を基に、喪失や悲しみの感情に特化したトレーニングを受けています。資格としては、日本グリーフケア協会やその他の専門機関から認定された「グリーフケア・アドバイザー」や「グリーフケア専門職」の資格を持っている場合があります。これらの専門家は、深い悲しみを抱える人々に対して、精神的なサポートを提供する技術と知識を持っており、個々の状況に応じて適切な支援方法を提案します。資格取得には、心理学や精神医学の基本的な理解に加えて、喪失に関連する心のケア方法に関する専門的なトレーニングが含まれていることが一般的です。
グリーフケアにはさまざまな方法がありますが、一般的にはカウンセリングやセラピーが中心です。個別カウンセリングでは、専門家が感情の整理をサポートし、悲しみの感情を適切に表現できるよう導きます。また、グループセラピーでは、同じような経験を持つ他の人と共に感情を分かち合うことで、孤独感を軽減し、支え合いながら回復を進めることができます。アートセラピーやライティングセラピーなど、創造的な手段を使って感情を表現する方法もあります。これらの方法は、言葉にできない気持ちを表現するための有効な手段となります。感情を外に出すことで、心の整理が進み、回復の過程が早まります。どの方法が最適かは、個人の性格や状況によるため、専門家と相談しながら決めることが大切です。
グリーフケアを受ける費用は、提供されるサービスや場所、専門家の資格によって異なります。一般的には、1回のカウンセリングセッションで数千円から数万円程度の費用がかかることが多いです。例えば、個別カウンセリングの料金は、1時間あたり5,000円から20,000円程度が相場となっており、グループセラピーの場合は、より低価格で提供されることが一般的です。また、保険が適用される場合もありますが、グリーフケアは通常、医療行為に直接結びつくものではないため、保険の適用範囲には限りがあります。費用については、事前に専門家に確認することをお勧めします。また、公共機関や福祉団体が提供する無料または低価格の支援サービスもあるため、これらのサービスを利用することも一つの選択肢です。
グリーフケアは、親しい人を失ったことで深い悲しみを感じているすべての人に必要です。特に、喪失感が長期間続き、日常生活に支障をきたすほどの悲しみや無力感を感じている人にとって、グリーフケアは非常に効果的です。人は、喪失に直面したときに悲しみや怒り、後悔といった感情が混じり合い、その感情をうまく整理するのが難しくなることがあります。グリーフケアは、こうした感情を安全に表現できる場を提供し、心の回復を助けます。また、喪失が原因で不安定な精神状態にある場合や、日常生活に支障が出ている場合も、専門的な支援を受けることで回復が早まります。悲しみを感じることは自然なことですが、その感情をひとりで抱え込まず、適切なサポートを受けることが心の回復には大切です。
グリーフケアの効果が現れる速度は、個人の状況や感情の状態によって異なります。一般的には、数回のカウンセリングセッションやサポートを受けることで、感情の整理が進み、心の回復が始まることが多いです。しかし、喪失の影響は深刻で長期間にわたることがあるため、回復には数ヶ月から半年程度の時間がかかることもあります。大切なのは、無理せず自分のペースで進めることです。グリーフケアでは、感情を表現し、整理することで回復の過程が進んでいきます。そのため、時間がかかる場合でも焦らずに、専門家の支援を受けながら心の回復を目指していくことが重要です。
グリーフケアを受ける場所には、心理カウンセリングを行う専門のカウンセリングルームや、病院の精神科・心療内科、福祉センターなどがあります。また、オンラインでカウンセリングを受けることができるサービスも増えてきています。自宅で安心してカウンセリングを受けたい方や、地域に専門の支援機関がない場合には、オンラインサービスを利用するのも一つの選択肢です。どの場所でケアを受けるかは、個人の状況や希望に応じて選ぶことができます。選択肢が多いため、場所についても事前に調べて、自分にとって最適なサービスを選ぶことが大切です。
グリーフケアを受ける際には特別な準備は必要ありませんが、事前に自分の感情や思いを少し整理しておくとスムーズに進めることができます。例えば、どのような気持ちを抱えているのか、どのような出来事が心に残っているのかを簡単にメモしておくと、カウンセラーに自分の状況を伝えやすくなります。また、リラックスできる服装で、心を落ち着けて臨むことが大切です。感情的に辛い状況でも、無理をせず、話したくないことは無理に話す必要はありません。専門家はあなたのペースに合わせて進めてくれるので、自分の気持ちに正直に、無理なくカウンセリングを受けましょう。
グリーフケアを受ける際の注意点は、まず信頼できる専門家を選ぶことです。グリーフケアは、感情を深く掘り下げていくため、信頼関係が非常に重要です。また、無理に感情を表現しなくても良いことを理解しておくことも大切です。感情を整理するには時間がかかることがありますので、自分のペースで進めることが回復に繋がります。また、セッション後に感情が揺れ動くことがありますが、それも回復過程の一部であるため、無理に急がず、時間をかけて進んでいきましょう。
グリーフケアを受ける際、プライバシーはしっかりと守られます。専門家は守秘義務を負っており、あなたの個人的な情報やセッション内容が他者に漏れることはありません。安心して自分の感情や思いを打ち明けることができる環境が整えられています。また、もし不安を感じる場合は、初回の面談時にプライバシー保護の方針について確認しておくと安心です。
グリーフケアを受けたい
グリーフには目に見える喪失もあればあいまいな喪失もあり、喪失感も湧き上がる感情も受け止めることが難しい特徴があります。しかし、グリーフは押し殺す必要はありません。つらい体験をしたら素直に傷つき、自分のペースで感情を表現してみてください。
(株)心理オフィスKではグリーフケアやカウンセリングを行っています。希望者は以下の申し込みフォームからご連絡ください。
文献
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