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トラウマインフォームドケア

過去の苦しみを背負って

逆境的小児期体験の研究などを背景に、トラウマインフォームドケアへの注目が高まっています。

この記事では、トラウマインフォームドケアについて解説します。問題行動や病理と捉えられやすい反応も、トラウマの視点で見ることで、不適切な対応や見過ごしを防ぎ、適切なケアにつなぐことができるでしょう。

1.トラウマインフォームドケアとは

嘆く女性まず、トラウマインフォームドケアの概要を説明します。トラウマインフォームドケアは、すべてのトラウマケアの土台として重要です。

(1)トラウマインフォームドケアとは

トラウマインフォームドケア(TIC)とは、支援に携わる人たちがトラウマについての知識や対応を身に付け、支援の対象となる人たちに「トラウマがあるかもしれない」という視点を持ってかかわる支援の枠組みのことです

トラウマインフォームドケアの概念は1990年代後半から米国で用いられるようになり、逆境的小児期体験に関する研究(ACEs)で得られた知見から注目が高まりました。日本においても2014年以降、精神科医療にトラウマインフォームドケアの概念が導入され、続いて児童福祉現場、学校現場などでも実践、啓発が行われています。

トラウマインフォームドケアが目指すのは、トラウマに関する理解を基盤に、援助を受ける人だけでなく援助者の心身の安全も重視して、支援関係をよいものにし、トラウマの再体験やトラウマによる無力感から抜け出し、自己有力感やコントロール感を回復させることです。

支援においては、トラウマを抱える人の弱い部分よりも強みに着目します。一見すると「問題行動」や「病理」のような反応や症状でも、本人にとっては危機を生き延びるための対処法である、と捉えるのです。

その上で、トラウマに関する心理教育や対処スキルの獲得など、自分自身のためによりよい対処法を身に付けていく本人の主体性を重視した支援が行われます。

(2)トラウマケアの3段階

目的や役割から、トラウマケアは以下の3段階に分かれます。

種類 役割 説明
トラウマインフォームドケア(Trauma Informed Care) 一般的なトラウマの理解と基本的対応 トラウマケアの中で、ケア全体の基盤に位置付けられるものです。トラウマの有無にかかわらず、すべての人を対象とし、トラウマの理解と、トラウマが生活に及ぼす影響についての一般的な知識を持ったかかわりが行われます。
トラウマレスポンシブケア(Trauma Responsive Care) トラウマに対応したケア トラウマインフォームドケアの対応の中で、トラウマから影響を受けるリスクのある人がいる場合につなげられるケアです。それぞれのトラウマの内容に応じて、心理教育など、トラウマの影響を最小限にし、健全な成長や回復を促すための支援が行われます。
トラウマスペシフィックケア(Trauma Specific Care) トラウマに特化したケア トラウマが重篤で、トラウマ症状に特化した介入が必要と判断された場合につなげられるケアです。PTSD症状の軽減に効果の認められた心理療法などを通じた支援が行われます。

(3)公衆衛生としてのトラウマインフォームドケア

トラウマインフォームドケアは、広く社会に周知されることが望まれます。トラウマの影響は、しばしば見過ごされたり、誤解されたりするためです。

背景にトラウマを抱える人の言動は、クレームやルール違反、重い病理など「問題ある人」とみなされることが多く、支援窓口にたどり着いても門前払いとなってしまったり、非難や叱責、制限を受けたりすることも少なくありません。あるいは、活発で元気そう、自分のことを話さない、支援者を頼らない、といった様子があれば「問題ない人」とされ、援助につながらないこともあります。

トラウマは本人からは語られにくく、気付かれにくい上に、誤解されやすいものだからこそ、「トラウマかもしれない」という視点を持つことが重要です。「問題ある人」「問題ない人」ではなく、トラウマからの影響で苦しんでいる人かもしれないと捉えることが、支援への第一歩です

そのためには、トラウマの有無にかかわらず、すべての人がトラウマのリスクを知っておくのが望ましいでしょう。非喫煙者や非飲酒者でも喫煙や飲酒の健康リスクを知っており、誰もが健康診断でチェックを受けるように、広く社会にトラウマへの理解が行き渡ることはトラウマの予防や早期発見に役立ちます。

トラウマインフォームドケアは、心身の安全や健康を守る公衆衛生のアプローチなのです。

2.トラウマインフォームドケアの対象

泣いている少女トラウマインフォームドのケアの対象となる人は、どのような特徴を示すのでしょうか。

ここでは、トラウマインフォームドケアの対象となる人について、トラウマ体験とトラウマ反応、支援関係でのトラウマの再演をポイントとして取り上げ、解説します。トラウマに関する理解の一助として、ご覧ください。

また、トラウマについてさらに詳細を知りたい方は以下のページをご覧ください。

(1)トラウマ体験

トラウマとは、こころのケガといわれます。トラウマのきっかけとなる出来事には、さまざまなものがあります。たとえば、戦争やテロ、レイプなどの犯罪被害、地震、台風、火事などの災害、事故やその目撃、暴言・暴力、性被害、病気やケガの治療での恐怖などが挙げられます

ただ、こうした出来事を経験したすべての人がトラウマを抱えるわけではありません。その当時の状況、本人の健康度、治療や周囲のサポートの有無や適切さによって、トラウマの深刻さや治り方は変わってきます。

しかし、特に深刻な影響を及ぼすのが、逆境(adversity)によるトラウマです。逆境とは、子どもが生きる上で不可欠な心身の安全が守られない環境のことをいい、ネグレクトや性的虐待、性的虐待、機能不全家族などが含まれます。

1990年代に米国疾病予防管理センター(CDC)によって行われた逆境的小児期体験に関する研究では、18歳までにさまざまな逆境体験をいくつも経験するほど、神経発達不全や、社会的、情緒的、認知的な障害のリスクが高くなり、その後の人生にわたり心身の健康や社会適応に悪影響を及ぼすことが示されました。

この結果が、現在起きている反応や症状を子どもの頃のトラウマの観点で理解するトラウマインフォームドケアのアプローチの根拠となっています。

(2)トラウマ反応

トラウマを体験した人はのちのち、さまざまな心身のトラウマ反応を表すことがあります。トラウマ反応は一般に、トラウマ体験の後すぐではなく遅れて(おおむね6ヶ月以内)現れ、一定の診断基準を満たす場合に「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」と診断されます

PTSDの代表的な症状には以下のものがあります。

症状 説明
侵入症状(再体験・フラッシュバック) 本人のコントロールを超えて、トラウマとなった出来事をくり返し思い出す、夢に見る、今まさに起きているかのように感じたり行動したりする、といったことがあり、苦痛を感じます。子どもの場合は、外傷体験を思わせる遊びや話をくり返すこともあります。
回避症状 トラウマのきっかけとなった出来事に関する行動や場所、人、会話などを避けたり、避ける努力をしたりします。子どもの場合、表情や会話が乏しくなる、ぼーっとするなど、普段より活動性が下がることから始まることが多いようです。
過覚醒症状 臨戦体制をとって身を守ろうとする反応で、常に落ち着かず興奮している状態です。激しい怒りやいらだち、過剰な警戒心や驚愕反応、自己破壊行動、集中困難、不眠、などがあります。子どもの場合、かんしゃくがひどい、泣き方がひどい、といった様子が見られることもあります。
認知や気分の否定的な変化 トラウマとなった出来事の肝心な部分を思い出せない、自分や周囲の他者、世界に否定的な感情や信念を持続的に持つようになる、といった症状です。子どもの場合、遊びなど、好きだったはずのものに関心を示さなくなることもあります。

また、トラウマの影響を受けた人には、トラウマの再演が生じることもあります。トラウマの再演とは、トラウマの影響を受けて持つようになった「人は誰も信用できない」「自分は愛されない」などの否定的な信念を、無意識に現実にしようとすることです。

たとえば、自分が受けた被害を他者に向けて行ったり、被害を受けた時にできなかったことを別の場面で復讐として行ったりします。その結果、新たな関係においても再び暴力などの被害を受けやすくなります。支配されるかするか、やるかやられるか、といったトラウマ関係を繰り返してしまうのです。

このようなトラウマの再演は、自ら再び被害を招いてしまいます。しかし、本人にとっては、安全の不確実さにおびえ続けるよりは、確実で予測可能な危険のほうがマシなのかもしれません。

トラウマの再演は、無力感から逃れ、自ら状況をコントロールできる感覚を得るための対処法ともいえるのです。

(3)支援関係でのトラウマの再演

トラウマの再演は、支援者との関係でも起こります。トラウマを抱える人は、支援者に対しても攻撃、裏切り、試し行動といった挑発的な態度をみせることがあります。それに対し、支援者はいら立ちを覚えたり、無力感や絶望感を抱いたりし、それゆえに威圧的な態度に出たり、支援から撤退してしまうこともあります。

支援関係においてトラウマが再演されると、トラウマを抱える人の「やっぱり誰も信用できない」「やっぱり自分は愛されない」といった否定的な信念は維持され、強化されてしまいます。

トラウマの再演を防ぐために、支援者は、支援関係の中でもトラウマの再演が起こりうることを理解してかかわる必要があります。さらに、支援者へのサポート体制も重要です。支援関係が閉鎖的な関係性に陥らないためには、あらゆる意見が尊重される、率直な思いを伝え合えるといった、組織全体の健全なシステムづくりも求められています。

3.トラウマインフォームドケアと4つのR

虫眼鏡を覗く子どもトラウマインフォームドケアを推進しているSAMHSA(米国保健福祉省薬物乱用・精神衛生サービス局)は、トラウマインフォームドケアを4つのRを用いて説明しています。

(1)理解する(Realize)

トラウマが及ぼす広範囲の影響や回復につながる支援の方向性についての知識を持っていることです。トラウマは世にあふれていて、さまざまな形で人や社会に影響していると理解していることが、トラウマインフォームドケアの前提となります。

(2)気づく(Recognize)

トラウマが個々に及ぼしている影響を認識することです。トラウマを体験した本人だけでなく、その家族やスタッフ、関係者についてもトラウマの兆候や症状を把握することが必要です。

(3)対応する(Respond)

トラウマの理解に基づき、適切な支援方針を立て、その手順に添ったケアを実践することです。ここでのケアはトラウマに特化したものではなく、窓口対応や初回面接での聞き取り、生活場面でのかかわり、心理教育による情報提供といった対応全般を指します。

(4)再受傷させない・再トラウマを防ぐ(Resist re-traumatization)

再トラウマ体験を防ぐための手段を積極的に取ることです。トラウマへの無理解や偏見、トラウマ症状の見過ごしや過剰反応、不適切な対応など、支援関係で起こり得るトラウマ反応を組織全体で認識し、閉鎖的な関係性に陥らないように支援者をサポートするシステムづくりが求められています。

4.トラウマについて相談する

肩を抱く女性トラウマインフォームドケアは、支援に関わる人がトラウマの知識と対応を身に付け、「トラウマかもしれない」という視点をもってかかわる支援の枠組みのことです。問題行動や病理と捉えられやすい反応も、トラウマの視点で見ることで、不適切な支援や見過ごしを防ぎ、適切なケアにつなげやすくなるでしょう。トラウマに関するご相談には、ぜひカウンセリングもご検討ください。

心理オフィスKではトラウマに対する対応や相談、カウンセリングを行っています。ご希望の方は以下の申し込みフォームからお問い合わせください。

文献