ペアレント・トレーニングは、知的障害や自閉症、ADHDなどの発達障害を持つ子どもに対して行われるプログラムの一つです。親がほめ方や指示などの養育スキルを習得することで、子どもの行動改善や発達の促進を目的としています。元々アメリカで開発されたプログラムですが、最近では日本でも広く行われるようになっています。
ここでは、ペアレント・トレーニングの効果や実際の手法に関して詳しく説明していきます。
目次
ペアレント・トレーニングとは
ペアレント・トレーニング(ParentTraining:PT)とは、もともとは知的障害や自閉症の子どもを持つ家族を対象に、1960年代にアメリカで開発されたプログラムで、その後ADHDなどの発達障害に対してもプログラムが開発され展開されています。子どもの行動を変容させることを目的として、親がほめ方や指示などの具体的な養育スキルを習得することを目指していきます。専門家による療育などでのトレーニングだけでなく、親が日常生活で子どもたちと適切に関わることができるようになることで、子どもの行動改善や発達促進が期待できます。
日本でも1990年代から、肥前式、精研式、鳥取大学式などの、発達障害のある子どものペアレント・トレーニングのプログラムが発展し、最近では厚生労働省の「発達障害者支援体制整備事業」に関連して、自治体や医療機関、発達支援機関など、様々な場所でペアレント・トレーニングが行われるようになっています。
ペアレント・トレーニングの効果やメリット
これまで多くの研究で、ペアレント・トレーニングによって、子どもの発達を促したり、問題行動を改善させたりする効果があり、親に対しても育児ストレスを軽減させたりする効果があることが明らかになっています。
(1)子ども
子どもの行動に対する効果として、望ましいポジティブな行動が増えたり、問題のある行動を減少させたりする効果が期待できます。具体的には、「学校から帰ったら宿題をする」や「入浴後すぐにパジャマを着る」などの生活習慣に関するポジティブな行動を増やしたり、意欲的に行動に取り組むようになったりします。
逆に、「人前で騒ぐ」や「すぐに人のせいにする」、「片付けない」といった問題のあるネガティブな行動は減っていくようになります。
(2)親
ペアレント・トレーニングは子どもに対する効果だけではなく、育児ストレスを軽減させたり、育児への自信をもたらしたりすることで、親に対してもポジティブな効果を持つことが明らかにされています。これは、子どもを受容し行動を理解しやすくなったことや、子どもがポジティブに行動を変化させたという事実によって親の自己評価が向上したりすることが要因と推測されています。
また、ペアレント・トレーニングは少人数でのグループで行われることから、子育てで孤独感を感じやすい発達障害を持つ子どもの親にとって、同じ悩みを持つ親や支援者と出会い、悩みを共感しながらプログラムの課題を進めていくことができるといった点もペアレント・トレーニングのメリットとなっています。
ペアレント・トレーニングのやり方や方法
ペアレント・トレーニングは「コアエレメント」と呼ばれる核となる要素をもとに行われます。その説明と、実際の手順についてここでは解説します。
(1)コアエレメントとは
「コアエレメント」は具体的に以下の6つの要素で構成されています。
a.子供のよいところを探し、ほめる
子どものポジティブな行動に注目して、行動の後にほめるなどのプラスな状況をもたらすことができるようにします。課題が100%にできていなくても、25%でもできていたらほめること(25%ルール)が大切です。
b.子供の行動の3つのタイプ分け
子どもの行動を、「好ましい行動」、「好ましくない行動」、「許しがたい行動」の3つに分け、「好ましい行動」にはほめる対応を、「好ましくない行動」には、計画的な無視や指示の工夫を行うことを学んでいきます。
c.行動理解(ABC分析)
子どもの行動を、A「行動の前のきっかけ」、B「行動」、C「行動の後の結果」に分けて、客観的に行動をとらえることを目的とします。(ABCの3つのステップに分けるので、ABC分析とも言われます)
d.環境調整
子どもの周囲の環境を整え、子どもが「好ましい行動」をしやすくなるための工夫を考えます。具体的には、わかりやすいスケジュールやルールを提示したり、子どもに刺激となるようなものを減らしたりします。
e.子どもが達成しやすい指示
「好ましい行動」を子どもに促すために、否定的な感情を抑えおだやかに(C:Calm)、子どもの近くに行き(C:Close)、落ち着いた静かな声で(Q:Quiet)、子どもにわかりやすい指示を行います。この3つの頭文字を取った「CCQ」は冷静な指示を出す上で重要なテクニックになっています。
f.子供の不適切な行動への対応
子供の不適切な行動には注目しすぎず、「計画的な無視(ほめるために待つ)」を行い、少しでも好ましい行動が見られたらほめるようにします。不適切な行動へ対応することで、かえって子どもの不適切な行動を増やしてしまうことがあるため、ほめることをベースにした関わりを定着させることが重要です。
(2)実施の手順
これらのコアエレメントをどのように習得し、実践していくかは対象となる子どもや親の状況に合わせて決定していきます。基本的には、個別で実施するよりもグループでの実施が推奨されており、1回90~120分のセッションを5回以上行うことが目安とされています。
セッションは、4〜8人程度の参加者と1〜3人のスタッフで行われます。スタッフは、プログラムの進行を担うファシリテーターとそれをサポートするサブファシリテーターで構成され、コアエレメントの内容を理解して親にアドバイスしたり、親のこれまでの関わり方を否定せずに子どもに適した関わり方を提案したり、など専門的なスキルを持っていることが必要です。
各セッションは講義と演習、ロールプレイで成り立っており、講義で子供の行動への対応に関する知識を得ながら、その内容を演習やロールプレイで実践して、子どもの行動へ対応するスキルを習得することを目指していきます。
セッションは隔週で行われることが多く、各セッションが終わるごとに家庭でホームワークに取り組み、次回のセッション時に振り返りを行います。さらに全セッションが終了したあと、2〜3ヶ月後に「フォローアップ」の回を設け、知識やスキル、親子の良好な関係が長期間定着しているかどうかを評価します。
日本では、ここで説明した「コアエレメント」の習得、少人数でのグループセッションに基づいて、精研・まめの木・奈良式、肥前式、鳥取大学式という3つのプログラムが主に行われています。
ペアレント・トレーニングについてのよくある質問
ペアレント・トレーニングは、子どもとのコミュニケーション方法を学び、育児や教育における課題を解決するためのプログラムです。特に、発達障害や注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉症スペクトラム障害(ASD)などを持つ子どもの育て方を理解し、効果的な対応方法を学ぶことができます。具体的には、子どもの行動に対して適切な反応を示すためのスキルを磨き、子どもがより良い環境で成長できるようサポートします。また、保護者自身がストレスを軽減し、育児の質を向上させることを目指しています。
ペアレント・トレーニングの主な目的は、保護者が子どもに対して適切に対応するためのスキルと知識を身につけることです。これにより、子どもの行動の改善を図るとともに、保護者自身の育児に対する自信を高めることができます。特に、子どもの発達段階や特性に応じた柔軟な対応が求められるため、トレーニングでは具体的な行動修正法やポジティブな強化法が指導されます。これらの技術を用いて、親子間のコミュニケーションを円滑にし、問題行動を減少させることを目的としています。
ペアレント・トレーニングは、親が子どもの行動に対してどのように反応すべきかを学ぶプログラムです。トレーニングの内容には、子どもの行動の観察技術、感情を表現する方法、問題行動の対応方法、そして前向きな強化方法などが含まれます。例えば、子どもの良い行動を強化するための報酬制度を導入したり、ネガティブな行動に対しては一貫性を持って対応したりすることが指導されます。また、保護者がストレスを管理し、自分自身の感情や反応をコントロールする方法を学ぶことも重要な要素となります。これにより、親が子どもの成長をサポートする上で必要なスキルを身につけることができます。
ペアレント・トレーニングは、臨床心理士、精神保健福祉士、発達支援専門家、または育児支援の専門家によって実施されます。これらの専門家は、子どもの発達や行動に関する豊富な知識と実務経験を持ち、親が効果的に子どもに接する方法を指導します。トレーニングを提供する専門家は、個別のニーズに対応したサポートを行い、保護者が自信を持って育児に取り組むための支援をします。専門家は、保護者と子どもの関係を深め、課題に直面した時に柔軟に対応できるよう指導を行います。
ペアレント・トレーニングに参加するための特別な条件は基本的にありません。すべての保護者が参加対象となり、特に子どもに特別な支援が必要な場合(例えば発達障害やADHDなど)の親に最適なプログラムです。子どもの行動に悩んでいる親や、育児に関して支援を求めている保護者は、誰でも参加することができます。ただし、プログラムによっては、事前に相談が必要な場合もありますので、詳細については各施設や提供者に確認することをおすすめします。
ペアレント・トレーニングの費用は、提供者やプログラムの内容、地域によって異なります。例えば、公共の福祉サービスを通じて提供される場合、費用が低く設定されていることが多いです。一方で、個別に専門家からのカウンセリングや指導を受ける場合は、比較的高額になることがあります。一般的には、数千円から数万円の範囲で料金が設定されていることが多いですが、プログラムの内容や回数、施設によって異なるため、参加前に確認することが重要です。
ペアレント・トレーニングの期間は通常、数週間から数ヶ月にわたります。一般的に、1回のセッションは1~2時間程度で、週1回または隔週で行われることが多いです。プログラムによっては、短期間の集中的なトレーニングを提供しているところもあれば、長期間にわたってじっくりと学べるものもあります。参加者が自分のペースで学び、実生活に取り入れていくことができるように設計されています。
ペアレント・トレーニングは、自治体の福祉施設や子育て支援センター、教育機関、病院、専門のクリニックなどで受けることができます。また、民間の団体や企業が提供する場合もあり、オンラインでのプログラムも増えています。自分の住んでいる地域やニーズに応じて、最適なプログラムを探し、申し込むことができます。詳細は、各施設やプログラムの提供者にお問い合わせください。
ペアレント・トレーニングには、さまざまな効果があります。最も大きな効果としては、子どもの行動改善が挙げられます。特に問題行動が減少し、親子間のコミュニケーションが円滑になることが多いです。また、親自身の育児に対する自信が高まり、ストレスが軽減されることも報告されています。さらに、子どもの社会的スキルや学習能力が向上するケースもあり、長期的には親子の絆を深め、子どもの健全な成長を支援することができます。
ペアレント・トレーニングに申し込む方法は、各プログラムの提供者によって異なります。一般的には、電話やインターネットを通じて申し込むことができるほか、場合によっては事前の相談が必要なこともあります。施設の公式ウェブサイトやお問い合わせ先にアクセスし、申し込み方法やスケジュール、料金などの詳細を確認することが大切です。また、地域の福祉課や子育て支援センターでも情報を提供している場合があります。
カウンセリングを受けたい
ペアレント・トレーニングは、知的障害や自閉症、ADHDなどの発達障害を持つ子どもに対して行われる、子どもの行動変容を目的として親がほめ方や指示などの具体的な養育スキルを習得することを目的としたプログラムです。子どもの発達を促したり、問題行動を減らしたりする効果があるほか、親にとっても育児スキルを軽減したり、育児への自信をもたらしたりなど、多くのポジティブな効果があることがわかっています。
実際には、子どもの行動へ対応するための重要なスキルである6つの「コアエレメント」の習得を目指して、少人数のグループセッションを半年程度かけて行っていきます。
(株)心理オフィスKでは正式はペアレント・トレーニングは行っていませんが、そのエッセンスを活用した親面接・親相談は行っています。子どものことについて相談したい、カウンセリングを受けたいという方は以下の申し込みフォームからご連絡ください。
文献
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