本ページでは、ソーシャルスキルトレーニングについて、その定義、手順、効果やその対象まで詳しく解説しています。ソーシャルスキルトレーニングに興味のある方、対人関係がうまくいかないと悩まれている方のお役に立つことができれば幸いです。
目次
1.ソーシャルスキルトレーニングとは
ソーシャルスキルトレーニングとは社会技能訓練と訳され、主にコミュニケーションの技能を社会技能と設定し、それを訓練していく認知行動療法の中の一つの技法・介入法です。ソーシャルスキルトレーニングではモデリング(観察学習)に重視しています。人間は直接的に自分自身が経験したことからではなくても、他の人の行動や仮の場面などからも学習をすることができます。実際の場面で適切な行動をとることができるように、ソーシャルスキルトレーニングでは、モデリングやロールプレイを通し、さまざまな対人関係上のスキルを習得していきます。
このソーシャルスキルトレーニングはグループで行うこともありますが、1対1の個別で行うこともできます。対象者の規模によって選択が可能です。
また、ソーシャルスキルトレーニングは主に発症予防や再発防止、二次障害の防止の観点で用いられています。症状そのものを治したり抑えたりするのではなく、その人が円滑に社会生活を過ごせるようになるためのトレーニングと位置づけることができます。
ソーシャルスキルトレーニングの目的・効果は主に次の4つにまとめることができます。ソーシャルスキルトレーニングを実施するうえで、このような効果があるというビジョンをもって取り組むことが大切です。
- コミュニケーションを円滑におこなえるようになる
- 人間関係が円滑になる
- ストレスへの対処、問題解決ができる
- QOL(生活の質)をあげる
ちなみにソーシャルスキルトレーニングは認知行動療法の技法の一つです。認知行動療法については以下のページをご覧ください。
2.ソーシャルスキルトレーニングの対象
ソーシャルスキルトレーニングは主に発達障害や統合失調症を対象にしています。もちろんソーシャルスキルをターゲットにしているので、その他の疾患や問題にも適用可能です。
(1)発達障害
発達障害は、対人関係やコミュニケーションの障害といわれることもあり、周囲の人とのすれ違いが生じやすい障害とされています。症状や特性は人それぞれですが、主な例として、相手の立場になって考えたり、適切な距離をとったり、融通を利かせたりすることが苦手とされています。そのような人間関係上の摩擦を多く経験することによって、二次的に抑うつや、対人恐怖、ひきこもりなどの状態になってしまうことも多くあります。
発達障害の特効薬は存在しないので、どれだけ本人が社会生活を送るためのソーシャルスキルを手に入れることができるか、どれだけ自己肯定感を保ち活動できるかという点が重要となります。そこで、ソーシャルスキルトレーニングでは、できる限り摩擦が生じないように、そして仮に摩擦が生じたとしてもそれを適切に対処できるようになることを目指しセッションをおこないます。
発達障害についての詳細は以下のページをご覧ください。
(2)統合失調症
統合失調症は薬による治療がメインで、症状の治まらない状態での心理療法は禁忌とさえいわれていました。しかしながら、どれだけ薬で幻覚・幻聴が抑えられたとしてもそのまま社会復帰してしまうとストレスフルな状態に耐えられず再発してしまう可能性が高くなります。
統合失調症の発症のメカニズムに、脆弱性―ストレスモデルというものがあります。これは、もともと統合失調症になりやすいという「脆さ」を兼ね備えた人が、さまざまなストレスにさらされることによって統合失調症を発症してしまうとするモデルです。逆にいうと、どれだけ脆さがあったとしても、ストレスに対処する力が備わっていれば発症する可能性が低くなるということです。病院のデイケアなどではよく取り入れられており、集団の中での治療・トレーニングとしてソーシャルスキルトレーニングが役に立っています。
統合失調症についての詳細は以下のページをご参照ください。
(3)年齢
ソーシャルスキルトレーニングに年齢の制限はありません。子どもから大人まで参加することができます。子どもの場合は、学校や友人関係を対象とすることが多く、大人の場合は仕事上の問題や職場の人間関係が対象となりやすいですが、どちらも人間関係上のトレーニングを積むという点は共通しています。リワークなどで用いられることもあります。
3.ソーシャルスキルトレーニングの原則
ここではソーシャルスキルトレーニングのいくつかの原則について解説します。
(1)ほめる
ソーシャルスキルトレーニングはフィードバックを取り入れながら進めますが、ダメな点を指摘しあうのではなく、良かったところを褒めあうことが大切です。この「相手のいいところをみつけ、褒めるという行動」それ自体がソーシャルスキルともいえるでしょう。ソーシャルスキルトレーニングの中でのコミュニケーション形態がいいコミュニケーションとして経験してもらえるようにします。
もし、悪いコミュニケーションや修正してほしいコミュニケーションがあった場合も、「それはよくない」とフィードバックするのではなく、「こうしたらもっと良くなるのではないか」といい方向を示し、否定的な発言をしないこと大切です。
(2)構造化
参加者が何をどう訓練するのかしっかり理解し取り組むことができるように、目的や順序を構造化し手順に則り進めていきます。
その一つの参加のルールがあります。それを以下に示します。
- いつでも退室できます
- 嫌な時は「パス」できます
- 人の良いところをほめましょう
- 良い練習ができるように他の人を助けましょう
- 質問はいつでもどうぞ
- 席をはずすときはことわってから
また、ソーシャルスキルトレーニングの練習には決まった順番があります。その順番は以下の通りになります。
- 練習することをきめる
- 場面をつくって一回目の練習をする
- よいところをほめる
- さらによくする点を考える
- 必要ならばお手本をみる
- もう一度練習をする
- よいところをほめる
- チャレンジしてみる課題をきめる(宿題)
- 実際の場面で実行してみる
- 次回に結果を報告する
4.ソーシャルスキルトレーニングのやり方
ソーシャルスキルトレーニングのやり方や方法、進め方について解説します。
(1)教示・問題の同定
ソーシャルスキルトレーニングには手順はありますが、何に焦点をあてて取り組むかは人によって違います。まずは、どのような場面、どのような人との関係に焦点をあてるかを決定します。障害や疾患の有無にかかわらず、全ての人と円滑に一切のすれ違いなく過ごすということは不可能です。いろんな人とうまくやることを考えるよりも前に、身近な人やよく遭遇する場面に絞って取り組むことが大切です。
また、このソーシャルスキルトレーニングがなぜ必要なのか、スキルを手に入れるメリットについても丁寧に説明します。特に子どもが対象の場合は、モチベーションを保つことが難しい場合もあるので、しっかりとトレーニングの意図を認識してもらうことが重要になります。
(2)モデリングにより習得
お手本となる行動をみて学習します。また、適切な行動だけでなく、不適切な行動も見せて、それぞれどこが良くてどこが良くなかったかを考える時間をとる場合もあります。
(3)ロールプレイによるリハーサル
最初から実際の場面で実施するのではなく、ロールプレイとして練習する段階を踏みます。
(4)フィードバックと修正
ロールプレイを振り返ります。周りの人からフィードバックを受けるだけでなく、録画したビデオをみて、自分自身で自分の行動を振り返ることも効果的です。
(5)実際の場面での実施と評価
フィードバックを得て修正したのちに、実際の自然な場面で実施します。実際の場面で取り組んだことについてもフィードバックを得て、さらに修正を加え、徐々にうまくコミュニケーションが取れるように繰り返します。このモデリング、ロールプレイ、フィードバック、実施の繰り返しによりスキルを獲得していきます。
(6)般化
最初に述べたように、まずは1つの場面を設定し取り組んでいきますが、何度も繰り返す中で、他の似た場面にも対応できるようになります。そのようなことを般化といいます。例えば、「使いたいおもちゃを他の子が使っていた場面」をトレーニングしていたとしても、他の「順番を待たなければならない場面全般」に行動が般化していくことを期待します。
5.認知行動療法についてのトピック
6.まとめ
今回は、ソーシャルスキルトレーニングについて、定義や効果、方法について紹介しました。悩みのすべては対人関係に集約されるといわれることもあるように、それだけ人との関りは切り離せないものです。小さなすれ違いや不和が積み重なることで深い問題になっていくこともよくあります。
ソーシャルスキルトレーニングというコミュニケーションに焦点を当てた技法があるということを知っていただき、カウンセリングを受ける際のひとつの選択肢に加えていただければと思います。
当オフィスではソーシャルスキルトレーニングをそのまま実施はしていませんが、そのエッセンスであるソーシャルスキルの獲得を念頭に置いたカウンセリングをしています。カウンセリングをご希望の方は以下の申し込みフォームからご連絡ください。
文献
この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。