アンガーマネジメントは怒りの制御を目的としたトレーニングであり、パワハラなど対人トラブルの多い現代では注目を集めている方法です。本記事ではアンガーマネジメントの概要やメリット、やり方を解説します。
目次
1.アンガーマネジメントとは
アンガーマネジメントとは、不適切な怒りの感情をうまくコントロールしていくための心理療法プログラムのことで、近年ではビジネス場面や教育現場で導入されることが多いです。
そもそも「怒り」というとネガティブなイメージを連想しやすいですが、自分が傷つけられるときや不当な扱いを受けたときに怒ることで自分を守る力が働くため、怒りも大切な感情の1つと言えます。怒りが発生するには、その前にある出来事や人に対して悲しい、苦しい、不安などネガティブな一次感情が先行し、一時感情が一定以上超えることで怒りという二次感情が湧き出ると考えられています。また、生物は身の危険を感じると脳内で不安や恐怖を司る扁桃体が反応し、興奮や心拍数の増加など怒りの状態となりやすく、より感情的になってしまいます。
つまり、本来怒りはネガティブな感情や状態から抜け出すために必要な感情で、決してネガティブな感情ではありません。怒りを感じてはいけない感情と捉えてしまうと、いつかより激しく怒鳴ったり物を壊したりするなど爆発してしまうリスクもあるでしょう。
アンガーマネジメントでは「怒らなくなること」を目指すのではなく、怒るときは怒って不当な場面では怒りを収めることを目指していきます。
ちなみにアンガーマネジメントは広い意味では認知行動療法の技法の一つであると言えます。その認知行動療法については以下に詳細がありますので、ご参照ください。
2.アンガーマネジメントの診断
出来事に対する捉え方が人によって異なるように、怒りを感じるポイントや怒りの表れ方も人それぞれです。日本アンガーマネジメント協会によると、怒りのタイプは以下6つに分けられます。必ずしも1つのタイプの怒り方をするわけではありませんが、自分の怒りの傾向を自覚すると怒りの感情と付き合いやすくなるでしょう。
- 公明正大タイプ
- 博学多才タイプ
- 威風堂々タイプ
- 天真爛漫タイプ
- 外柔内剛タイプ
- 用心堅固タイプ
(1)公明正大タイプ
「公明正大タイプ」は正義感が強く道徳や倫理などを重視するタイプで、周囲のマナー違反やルーズな様子にイライラしやすい特徴があります。規律を守った振る舞いができる点は良さですが、自分の正義感を他者に押しつけて対人トラブルが生じることもあるため、自分の価値観に固執せず他者の価値観を受け入れる対処が考えられます。
(2)博学多才タイプ
「博学多才タイプ」は完璧主義で意欲的、白黒思考で自分にも他人にも厳しいタイプで、中途半端に振る舞う人や優柔不断な人にイライラしやすい特徴があります。要求の高さで自分自身も苦しくなってしまうため、0か100かで考えずに60点程度の状態も認めて要求を緩めるとイライラは落ち着きやすいと考えられます。
(3)威風堂々タイプ
「威風堂々タイプ」は自尊心が高くて他者からの評価を気にするタイプで、些細な評価に傷ついたり自分の思うように事が運ばなかったりするとイライラしやすい特徴があります。自己中な態度で周囲と揉めてしまうこともあるため、人それぞれできることだけでなくできないことも認めると怒りを収めやすくなるでしょう。
(4)天真爛漫タイプ
「天真爛漫タイプ」は自分の言動を素直に表現できるタイプで、自由に動けない状態やはっきりと主張できない人に対してイライラしやすい特徴があります。マイペースで他者への配慮が欠けて更にイライラしてしまうこともあるため、表現の前に一旦相手の気持ちや状況を想像する工夫が可能です。
(5)外柔内剛タイプ
「外柔内剛タイプ」は一見物腰柔らかそうでも融通が利かないタイプで、マイルールを遵守できないときにイライラしやすい特徴があります。自分で自分を縛りやすく、イライラを溜めやすいため、定期的にストレス発散すると気持ちを静めやすいと考えられます。
(6)用心堅固タイプ
「用心堅固タイプ」は他者への警戒が強いタイプで、他者から一定以上干渉されるとイライラしやすい特徴があります。自分を卑下し、他者にはレッテルを貼っては怒りが増すことも。人と距離をとることも大切ですが、少しずつ心を開いて人を信じてみると「意外と悪くないかも」と思えるかもしれません。
3.アンガーマネジメントの効果やメリット
怒りの感情は表現することが大切な場合も抑制する方が好ましい場合もあるため、感情のままに振る舞うよりもある程度自覚し、コントロールすることが望ましいでしょう。
アンガーマネジメントを学んで自分の怒りと向き合うことで、以下のような効果やメリットが挙げられます。
- 衝動的な怒りの抑制ができる
- コミュニケーションが円滑になる
- 多様な価値観を受け入れられる など
アンガーマネジメントを行い、自分が怒る状況やメカニズムを振り返ることで、自分の怒りだけでなく一次感情にも気づき、冷静に捉え直すことが期待できます。
自分の感情を改めて理解し受け止められると、衝動的な怒りを抑制して相手に落ち着いた説明・指摘がしやすくなります。友人関係や恋人関係、職場でのコミュニケーションなど怒りを感じやすい場面であっても、怒りに気づくことでトラブル化の予防も可能でしょう。特に、職場であればパワハラやセクハラの防止にもつながり、冷静な伝え方ができるメリットがあります。
また、アンガーマネジメントを学ぶことで自分以外の価値観を受け止められるようになり、視野の広がりやストレス減少の効果も期待できます。怒りは、感じるにも発散するにもエネルギーが要るため心身共に疲れやすい状態です。ある程度コントロール可能になると気持ちは落ち着きやすいでしょう。
4.アンガーマネジメントのテクニック、やり方、方法
アンガーマネジメントはイライラしたときやイライラ前などで日常的に取り入れることが可能です。簡単に実践できる方法を紹介するので、怒りを感じやすく困っている人は試してみてください。
(1)自分の認知や思考を見直す
怒りは、自分の考えを押しつけたり否定されたりしたときに生じることが多いです。怒りを感じていないときは、まず他者の考えを聞き入れ、相手のあらゆる状況を想像するなど自分の考え方を柔軟にしてみてください。
「自分の考えが全てではない」と気付くだけでも怒りの抑制につながります。また、「イライラしたら目を閉じる」など、怒りを感じたときに行える対処を用意しておくことも効果的です。
(2)怒りを距離を取る
怒りを感じるときは、怒りの感情に支配されないように6秒数えてみたりイライラする状況や人から離れたりしてみてください。怒りにばかり注目してしまうとカッとなってしまうため、怒り以外にも注意を向けることが大切です。
「相手の体調不良で今日の予定がキャンセルになって、イライラしている自分がいるなぁ」など今の自分を全体的に把握すると冷静になりやすいでしょう。
(3)記録を取る
怒りを感じた後であれば「アンガーログ」といって、怒りを感じた日時や場所、状況や相手、出来事、怒りの程度を0~10点で得点化して怒りを客観視してみてください。振り返ってみることで自分の怒りのポイントが分かります。
怒りを鎮めるための対処を行った場合は、対処とその後の得点化まで書くと、その対処が有効であったかも確認できます。
(4)子どもの場合には
また、これらは子どもでも実践可能ですが、大人が一緒に対処やイライラの点数を考えてあげる補助をする方がより実践しやすいでしょう。怒りをはじめ感情の理解が難しい場合は、笑顔や泣き顔などのイラストを用意して気持ちを選んでもらう方法もあります。
イライラし始めたら自分に「大丈夫」と言ってみたり、好きなキャラクターを思い浮かべたりして抑制を図る方法もあります。
5.認知行動療法についてのトピック
6.まとめ
怒りを感じることは決して悪いことではありませんが、怒りのままに振る舞うと自分も周りも嫌な気持ちになってしまいます。衝動的な怒りは抑制できるようになると人と快適に関わることができます。アンガーマネジメントは決して難しい方法ではないので、取り入れて円滑な人間関係を楽しみましょう。
(株)心理オフィスKではアンガーマネジメントだけではなく、認知行動療法やカウンセリングを行っています。希望者は以下の申し込みフォームからご連絡ください。