ストレスコーピングとは、発散行為も含めてストレスそのものに対処することで、その方法は多岐に渡ります。「ストレスとうまく付き合えない」と感じて困る場合、本記事ではストレスコーピングの種類や方法を紹介するので参考にしてみてください。
目次
ストレスコーピングとは
ストレスコーピングとは認知や行動面の努力によりストレスへ対処することをさします。ストレスコーピングについてはアメリカの心理学者のラザルス(Lazarus, R.S)とフォルクマン(Folkman, S)により提唱されました。ストレスコーピングの理解を深めるためにも、ストレスについて改めて解説します。
元々「ストレス」は物理学用語であり、オーストリアの生理学者のセリエ(Selye, H)が「外部からの刺激によって生じる身体反応」と定義して人に当てはめました。そして、気候や人間関係、ライフイベントなどストレスの原因となる外部環境からの刺激を「ストレッサー」、ストレッサーによりイライラや不眠など心身に生じる反応を「ストレス反応」と呼びます。
私たちは日々何かしらのストレスを受けており、ストレッサーを全て取り除けるとは限りません。また、同じストレッサーであってもストレス反応には個人差があります。
そこで、セリエのストレスの考え方を受けて、ラザルスらのストレス理論ではストレスに対する「認知的評価」と「コーピング(対処)」が重要と考えられます。認知的評価では、最初にストレッサーが自分にとって脅威的か判断する「一時評価」を行います。これにより、たとえば「良く世話を焼いてくれる親」に対し「ありがたい」と喜ぶ人もいれば「過干渉で困る」とストレスに感じる人もいるでしょう。ストレッサーが驚異的だと感じる場合は自分でどう対処できるかを考える「二次評価」を行います。「過干渉な親の言うことは聞き流せばいい」と認知できる人もいれば、「親の意見がつらい…」と落ち込んだり不眠などの身体化が生じたりする人もいます。
このように、ストレスによる不快感を軽減するためにストレッサーを取り除いたり認知を変えたりストレスコーピングをして心身を守ることが大切になります。
ちなみにストレスコーピングは広い意味では認知行動療法の技法の一つであると言えます。その認知行動療法については以下に詳細がありますので、ご参照ください。
よくある相談の例(モデルケース)
40歳代 女性
Aさんは40歳代の女性。几帳面で責任感が強く、部署異動後に業務量と対人ストレスが増え、不眠と抑うつ気分、集中困難が続き心療内科でうつ病と診断された。薬物療法で急性期の症状は部分的に軽快したが、復職を前に不安が強く、当オフィスにカウンセリングを申し込んだ。初期面接では生活リズムの評価とストレス要因の棚卸しを行い、気分・活動・出来事を記録するモニタリング表を導入。これを手掛かりに、問題焦点型・情動焦点型・認知的再評価という三つのコーピングの柱を設定した。
中期には、問題焦点型として業務の優先順位づけ、上司への相談スクリプト作成、5分単位のタスク分割を練習。情動焦点型として腹式呼吸、筋弛緩、マイクロブレイクを職場に組み込んだ。認知面では「完璧でない自分は価値がない」という自動思考を抽出し、根拠と反証を検討、代替思考「60%で提出し、フィードバックで磨く」をリハーサルした。週1回の面接に加え、行動活性化として「朝散歩10分」「退勤後の入浴・就寝ルーティン」を宿題化し、睡眠衛生を整えた。
1年を通じてコーピングレパートリーを増やし、再発予防計画に落とし込む。以後2年弱、面接頻度を隔週→月1へと漸減し、ストレス信号(眠気、肩こり、反芻)の早期察知とセルフコーチングで波を乗り切れるようになった。最終段階では価値に根ざした目標設定を行い、業務の役割境界を明確化。現在は残遺症状が小康で、忙しさが増しても「使えるコーピングを選ぶ」感覚が身につき、安定した就労を維持している。
加えて、問題が積み重なる局面では問題解決技法の5段階(問題定義→目標→案出し→選択→実行確認)をホワイトボードで可視化し、メール文面のテンプレート化や会議前のセルフプライミングも取り入れた。危機時のセーフティプランとして、反芻が10分続いたら「中断カード」を見て歩行か換気を行う、飲酒で対処しない、同僚へ一言相談する—を事前合意。家族にも早期サイン表を共有し、支援要請の言い方を練習した。これらの積み重ねが自己効力感を底上げし、抑うつ再燃の周期と強度をともに減衰させた。
ストレスコーピングの種類

(1)問題焦点型コーピング
問題焦点型コーピングは、ストレッサーとなっている問題そのものに焦点を当てて解決を図ることでストレスを緩和する方法です。
- 苦手な人がいれば関わらないように離れる
- 業務過多で苦しい場合は仕事量をセーブするよう上司と調整を図る
- 恋人の嫌な話し方を止めてもらうために話し合ってみる など
問題によっては自分だけの努力では対応が難しい場合もあるため、他のコーピングアプローチも組み合わせることが望ましいです。
Aさんは、職場の業務量や人間関係によるストレスに対し、まず「自分にできる範囲で環境を整える」ことを意識しました。上司に業務の優先順位を相談したり、作業を小分けにして取り組むなど、問題の具体的な解決を図る方法を実践しました。これにより、抱えていた漠然とした不安が少しずつ整理され、達成感を感じられるようになりました。
(2)情動焦点型コーピング
情動焦点型コーピングは、ストレッサーの問題解決ではなくストレッサーによって生じる感情やストレス反応を変えることでストレス緩和を目指す方法です。
- 人の苦手な一面をポジティブに言い換えてみる
- 仕事のことを考えると憂うつなためあえて考えないようにする
- パートナーの几帳面さにいら立っていたが感謝するようにした など
感情に焦点を当てたとしても根本的な問題解決にはなりませんが、ストレス反応を軽減し快適に過ごすには必要なコーピングといえます。
Aさんの場合、ストレスによる強い不安や落ち込みに対して、リラクゼーションや深呼吸などの方法を取り入れました。また、好きな音楽を聴く時間を設けるなど、自分の感情を落ち着かせる工夫を重ねました。感情に飲み込まれるのではなく、少し距離を取って眺めることで冷静さを取り戻せるようになりました。
(3)ストレス解消型コーピング
ストレス解消型コーピングはいわゆるストレス発散で、ストレスを体外に出して気持ちをリフレッシュさせる方法です。
- ショッピングやスポーツなどで非日常を味わう
- 趣味に没頭して嫌なことを忘れる
- カラオケで大声を出してスッキリする など
気晴らしになる行動をするほか、ヨガやアロマを楽しむなど心身をリラックスさせる方法もあります。ストレス解消型コーピングも根本的な問題解決ではありませんが、ストレス発散方法は複数身に着けておけると日常的にガス抜きがしやすくなるでしょう。
Aさんは、仕事後のウォーキングや休日のカフェ時間など、気分転換の習慣を生活に組み込みました。ストレスを感じたときに体を動かすことが、気分のリセットに役立ちました。無理に前向きになろうとせず、心身をリラックスさせる時間を確保することで、慢性的な緊張が和らぎました。
(4)ソーシャルサポート型コーピング
ソーシャルサポート型コーピングは、ストレスフルな状態のときに他者を頼ることでストレス緩和を目指す方法です。
- 不満が募ったときに友人や家族に愚痴を聴いてもらう
- 部署内の人間関係で困るため、上司に異動の相談をする
- パートナーとの関わり方について専門家からアドバイスを受ける など
心身に症状が現れるほど強いストレスを感じる場合、1人でストレッサーと向き合うことは非常に難しいです。周囲からサポートを得られることで心理的な安心感を得られるメリットもあります。
Aさんは、これまで「迷惑をかけてはいけない」と思って人に頼れませんでしたが、カウンセリングを通して支援を求めることの大切さを学びました。同僚や家族に小さな相談を重ねることで、孤立感が薄れ、支え合う関係性を築けるようになりました。
(5)認知修正型コーピング
認知修正型コーピングは、ストレスを感じる出来事や問題に対する認知を受け止めやすく変えることでストレスを軽減する方法です。
- 友人からの返信が遅いのは、忙しいからだろうと考えるようにした
- 仕事量の多さに落ち込んでいたが成長の機会と思うと楽しめる
- 恋人が干渉的で困っていたが心配してくれていると捉え直す など
受け止め方を変えることでストレスが減り気持ちよく過ごせることもあります。しかし、たとえば上司からの無茶ぶりで心身疲弊しているときに「期待してくれているはず」など無理に認知を変えると、ストレス反応が悪化する恐れもあります。
Aさんは、「完璧にやらなければならない」「失敗は許されない」といった思考の癖を見直しました。出来事を多角的に捉え、「今できる範囲で十分」という現実的な考え方を身につけたことで、プレッシャーが軽減されました。結果として、気持ちの落ち込みが減り、自己効力感が高まりました。
ストレスコーピングのやり方や方法

本記事ではストレスコーピングの種類と一例を先に紹介しましたが、どの方法が優れているというものではなく、自分が試せそうなコーピングを複数用意してやってみることが重要です。ストレスコーピングのやり方は、以下のような手順を参考にしてみてください。
- 自分の状態や問題と向き合う
- ストレス要因やストレス反応を知る
- ストレスコーピングを試す
- 振り返り
まずは自分がさらされている状態や直面している問題と向き合い、自分の状態を受け止めてみましょう。強すぎるストレスの場合は向き合わないことで自己を保っていることもあります。1人で自分の状態をモニタリングすることが難しい場合は、友人やカウンセラーに話を聴いてもらう方法もあります。
次に、自分がどんなことにストレスを感じているか、どんなストレス反応が生じているかを客観視して把握しましょう。問題解決できそうなことであれば問題解決型コーピングが使いやすいですが、解決が難しい場合はストレスとの向き合い方や捉え方を変えたり、他者への相談や気晴らしをしてみたりしてストレスの軽減を図ります。なお、たとえばストレス反応として倦怠感や意欲の低下がみられる場合は、静かに行えるストレス発散や友人に愚痴を聴いてもらうなど、自分の状態に合ったコーピングを選ぶと実践しやすいでしょう。
ストレスコーピングを試した結果、感じていたストレスやストレスによる反応がどれくらい軽減されたか振り返ることで、試したコーピングが適していたか確認できます。強いストレスは心身に影響を与えます。問題解決ばかりに焦点を当てず、ときには自分の心身を休める休息も大切なコーピングです。
Aさんは、日々の生活の中でストレスのサインをモニタリングし、その都度どのコーピングを使うかを意識的に選ぶ練習を続けました。問題を直接解決できる場合は行動的な対処を、感情が高ぶったときは情動焦点型を用いるなど、柔軟に使い分けることができるようになりました。
認知行動療法についてのトピック
ストレスコーピングについてのよくある質問
ストレスコーピングとは、日常生活で感じるストレスに対処するための方法や技術のことを指します。これらの方法は、ストレスの原因を直接解決する「問題焦点型コーピング」と、感情の調整を行う「情動焦点型コーピング」の2つに大別されます。問題焦点型コーピングでは、問題の解決や計画の立案、情報収集などを行い、ストレスの原因自体にアプローチします。一方、情動焦点型コーピングでは、リラクゼーションや気分転換、感情の表現などを通じて、ストレスによる感情的な反応を和らげます。これらの方法を適切に組み合わせることで、ストレスの影響を軽減し、心身の健康を維持することが可能です。
ストレスコーピングの具体的な方法として、以下のようなものがあります。
- 問題解決:ストレスの原因を明確にし、解決策を考えることで、問題自体を解消します。
- 時間管理:タスクの優先順位をつけ、効率的に時間を使うことで、過度なプレッシャーを軽減します。
- リラクゼーション:深呼吸や瞑想、ヨガなどのリラクゼーション技法を取り入れることで、心身の緊張を和らげます。
- サポートの活用:家族や友人、専門家に相談し、サポートを受けることで、孤立感を減らし、安心感を得ます。
- ポジティブな思考:物事の良い面に目を向け、前向きな考え方を養うことで、ストレスに対する耐性を高めます。
これらの方法を組み合わせ、自分に合ったコーピング技法を見つけることが重要です。
ストレスコーピングを適切に行うことで、以下のような効果が期待できます。
- 心理的安定:ストレスに対する適切な対処により、不安や緊張が和らぎ、心の安定が得られます。
- 身体的健康の維持:ストレスが軽減されることで、睡眠の質が向上し、免疫力の低下や体調不良のリスクが減少します。
- 問題解決能力の向上:問題焦点型コーピングを活用することで、課題に対する解決能力が高まり、自己効力感が向上します。
- 人間関係の改善:適切なコーピングにより、感情のコントロールがしやすくなり、他者とのコミュニケーションが円滑になります。
- 生活の質の向上:ストレスの影響が減少することで、日常生活の満足度や幸福感が高まります。
これらの効果により、全体的な生活の質が向上し、より健やかな日々を過ごすことが可能となります。
ストレスコーピングとストレスマネジメントは、どちらもストレスに対処するための概念ですが、その焦点やアプローチに違いがあります。ストレスコーピングは、個々のストレス状況に対する具体的な対処方法や技術を指します。例えば、問題解決や感情の調整、リラクゼーション技法の活用など、特定のストレス源に対して直接的に対応する手段です。一方、ストレスマネジメントは、ストレス全般に対する包括的な管理や予防の取り組みを指します。これは、日常生活におけるストレスの発生を未然に防ぐための生活習慣の改善や、ストレス耐性を高めるためのスキル習得、時間管理や健康的なライフスタイルの維持など、広範な視点からのアプローチを含みます。つまり、ストレスコーピングは特定のストレス状況への対処法であり、ストレスマネジメントはストレス全体を管理・予防するための総合的な戦略と言えます。
ストレスコーピングの技術は、以下のステップを通じて身につけることができます。
- 自己認識:まず、自分がどのような状況でストレスを感じるのか、その原因やパターンを把握します。日記をつけるなどして、ストレスのトリガーを明確にしましょう。
- 情報収集:ストレスに対処するためのさまざまなコーピング技法について学びます。リラクゼーション法や問題解決スキル、感情調整の方法など、多岐にわたる手法を知ることが重要です。
- 実践と評価:学んだ技法を実際の生活で試し、自分に合った方法を見つけます。
- 専門家のサポート:必要に応じて、心理カウンセラーや専門家に相談し、指導を受けることでスキルの向上を図ります。
これらのプロセスを繰り返し行うことで、ストレスコーピング能力を向上させることができます。
ストレスコーピングの目的は、ストレスを完全に解消することではなく、ストレスへの適切な対応方法を身につけ、ストレスによる影響を軽減することです。ストレスは完全には排除できないことが多いため、コーピング技法を通じてストレスの管理能力を高めることが重要です。適切なコーピング法を使うことで、ストレスを感じてもその影響を最小限に抑えることができ、健康的に対処できるようになります。
ストレスコーピングにおけるリラクゼーション法は、心身の緊張を解きほぐし、リラックスすることを目的とした方法です。代表的なリラクゼーション法として、深呼吸法、瞑想、ヨガ、筋弛緩法、アロマテラピーなどがあります。これらの技法は、心拍数を落ち着け、血圧を正常化し、リラックスした状態を作り出すことで、ストレスを緩和する効果があります。リラクゼーション法は、特に情動焦点型コーピングとして、ストレスの感情的な反応を和らげるために有効です。
ストレスコーピングは、日常的に行うことが理想的です。特にストレスが高まりやすい時期や状況においては、積極的にコーピング技法を取り入れることが重要です。例えば、リラクゼーション法や問題解決のスキルを日々の習慣として取り入れることで、ストレスを感じた時にすぐに対応できるようになります。ストレスが蓄積する前に予防的に行うことも有効です。
ストレスコーピングには個人差があります。どの技法が効果的かは、個々の性格や状況、ストレスの源によって異なります。例えば、問題解決型のアプローチが得意な人もいれば、リラクゼーションや感情表現に効果を感じる人もいます。そのため、さまざまな技法を試して自分に合った方法を見つけることが大切です。専門家のサポートを受けながら、最適なコーピング方法を見つけることも有益です。
ストレスコーピングの技法を長期間続けるためには、習慣化することが重要です。最初は意識的に行っていても、徐々に日常の一部として取り入れ、自然に行えるようにすることがポイントです。自分にとって無理のない方法を見つけ、少しずつ取り入れることで、ストレスが発生したときに自然と反応できるようになります。また、ストレスコーピングを行った後の効果を実感し、その感覚を自分のモチベーションにすることも長続きする秘訣です。
ストレスコーピングを高めるカウンセリングを受ける

(株)心理オフィスKではストレスコーピングを高めるカウンセリングを行っています。一人で取り組むよりも、カウンセラーと取り組むことで効果が高まります。こうしたカウンセリングをご希望の方は以下の申し込みフォームからご連絡ください。
文献
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