自律訓練法は自らの意識でリラックス状態を生み出す方法で、自律神経系の乱れを整える効果が期待できます。
本記事では自律訓練法の効果ややり方、注意点を解説します。心身のセルフケアに興味のある人は是非最後までご覧ください。
1.自律訓練法とは
自律訓練法とは、身体がリラックスしていく自己暗示をすることで心身の緊張をほぐしていくリラクゼーション法で、1932年にドイツの精神科医であるJ.H.シュルツが体系化しました。
「自律」には自分の力で主体的に動くという意味があり、体内環境を一定に保つホメオスタシスを機能させる訓練法とも言えます。「気持ちが落ち着いている」などの公式を1つずつ反復して自然とその感覚を身体に感じていく方法であり、一種の自己催眠状態を生み出します。
実施の際は「受動的注意集中」といって、自己暗示をしようと集中するのではなく身体の感覚や変化に気づいていく受け身の姿勢が重要です。自律訓練法を行うことで、気持ちを落ち着かせて身体の緊張状態をほぐし、自律神経系の乱れを整えて心身の健康増進を図ることができます。
本来であれば自律神経系は自動で機能するためコントロールが難しいですが、自律訓練法であればある程度のセルフコントロールが期待できます。自律訓練法は自分の感覚や感情に注意を向けてセルフコントロールしようとする方法であるため、どちらかというと知的なレベルが安定している成人向けの技法です。
2.自律訓練法の効果
自律訓練法は心身をリラックスさせる方法であり、具体的には以下のような効果が挙げられます。
- 心身の緊張や不眠など身体症状の緩和
- 気分の落ち込みや不安、怒りの減少
- 心身の状態へ気づきやすくなる
- 集中力を高められる
- 疲労感の回復 など
身体感覚に注意を向け続ける訓練法であるため、継続して実施することでこれまで以上に自分の心身の変化や状態に気づきやすくなれるでしょう。また、自律訓練法では自律神経系のバランスを整える効果が期待でき、交感神経系を抑制し、副交感神経系を活性化させます。
いつもせわしなくエネルギーを消費し続けている人にとっては、心身を落ち着かせて休んでエネルギーを回復させるきっかけにもなるでしょう。効果に個人差は出てきますが、自分で緊張状態を弛緩できるようになれる点は大きな魅力と言えます。イライラや不安、落ち込みなどの症状を誰かに頼るわけではなくセルフケアできるため、自己コントロールが可能になったりストレス耐性を身につけられたりすることもあります。
もともと、自律訓練法は心身の症状に困る人に対して一種の催眠状態を生み出すことで、催眠時に得られる感覚や気持ちの変化を得ようとする心理療法です。心身症や神経質な人など医療場面のほか、現在では教育、ビジネス、スポーツなど幅広い分野、世代でメンタルヘルスのセルフケアに効果があるとして利用されています。
3.自律訓練法のやり方
自律訓練法は決まった公式に沿って行えるため、集団で学んで実施することも、1人で実施することも可能です。
実施前にはまず自分がリラックスしやすい環境を整えます。静かな場所で行う、部屋の照明を暗めにする、ベルトなど身体を締めつける物は外す、楽な姿勢で椅子に座る、仰向けになるなど力を抜きやすい状況を用意しましょう。
準備ができたら基本となる背景公式1つ、6つの訓練公式を順番に唱えていきます。なお、第二公式までを行えば心身のリラックス効果は十分に得られるため、全ての公式を唱える必要はありません。
- 背景公式:「気持ちが落ち着いている」
- 第一公式:「手足が重たい」
- 第二公式:「手足が温かい」
- 第三公式:「心臓が静かに打っている」
- 第四公式:「呼吸が楽になる」
- 第五公式:「お腹が温かい」
- 第六公式:「額が涼しい」
(1)背景公式
背景公式では深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、全身の緊張をほぐしていきます。目を閉じたり、静かで心地よい草原など気持ちを落ち着かせやすいイメージをしたりして、自分の楽な状態を感じるようにしましょう。どの公式も心の中で数回唱えて自己暗示をして、公式の感覚を感じられるようになったところで次の公式に移ります。
(2)第一公式
第一公式では両手両足の重さを感じるようにします。一度に四肢に注意を向けることは難しいため「右手が重たい」など部分的に練習すると実感しやすいでしょう。特に、利き手から始めると注意を向けやすいです。力を込めるのではなく、何となく重たい感覚を感じてみてください。
(3)第二公式
第二公式では両手両足の温かさを意識します。「右手が温かい」「左手が温かい」など自分のやりやすい順番で行ってください。始めのうちは感じとりづらくても、継続するうちに実感しやすくなります。公式を唱える際は「おもたーい…」「あったか~い」などイメージしやすい唱え方も効果的です。
(4)第三公式以降
第三公式以降は、心身健康な人でさらに自分の状態に注意を向けたい場合に練習してみてください。
- 第三公式では心臓が静かに鼓動していることを感じるようにします。強く意識を向けずに、規則正しく穏やかに動く状態を感じてみてください。
- 第四公式では楽に呼吸ができるように注意を向けます。ゆっくりと深呼吸し、息を吸うときと吐くときの状態を感じてみましょう。
- 第五公式では腹部のあたりが温かくなるように意識を向けるので、胃の活動が落ち着くような感覚が得られるかもしれません。
- 第六公式では額に意識を向け、次第に涼しげで頭がすっきりとしていく状態を体感していきます。
自律訓練法では一種の催眠状態に陥るため、終了時は自己催眠を解除する「消去動作」といって、背伸びや首回し、手を強めに握っては開くなど軽く身体を動かしてから日常動作に戻ることが大切です。
4.自律訓練法の実際
実際の自律訓練法については動画を見た方が分かりやすいでしょう。
以下の動画は済生会福岡総合病院が作成された自律訓練法の基礎編と実践編です。
5.自律訓練法の適応と禁忌と注意点
自律訓練法は心身の緊張をほぐすリラクゼーション法として気軽に利用でき、身体の状態に意識を向けることで心拍数や呼吸、消化器官、頭部に変化を与えます。
これらの変化は特定の身体疾患をもつ人にとっては症状を悪化させる場合があるため、心疾患や糖尿病、低血糖状態、頭痛など持病のある人は自己判断での実施は控えてください。統合失調症や妄想の見られる人、重度のうつ状態の人など心身の状態把握を冷静に行えない場合も注意が必要です。
心身の調子を整えることが目的なので、実施により不安や緊張が増す場合は無理せず中断し、医師に相談するようにしましょう。
また、自律訓練法では一種の自己催眠状態を生み出すため、普段よりも意識のレベルが下がり、ぼんやりとした感覚に陥りやすくなります。そのため、やり方にて解説したように自律訓練法の実施後は消去動作を行い、意識レベルを回復させるとより安全に日常に戻ることができます。
また、自律訓練法は訓練時間が長いほど効果が出るわけではありません。公式の感覚が感じられないからといって長時間続けると、かえって不安や緊張が強まる可能性もあります。1回の時間は5~10分程度に留め、毎日続ける方が効果は得やすいでしょう。
なお、就寝時や眠っても良い環境下で実施して眠気を感じた場合は、消去動作をせずにそのまま眠っても問題ありません。
6.まとめ
日々の仕事や活動に追われていると、自分の身体の状態に注意を向けることはあまりないかもしれません。自律訓練法を継続して行うことで、疲れやストレスをある程度意識的に軽減できるようになっていきます。自分の状態に気づきやすくなり精神的にも落ち着くことが期待できるので、セルフケアの時間を設けて試してみてください。
(株)心理オフィスKでは自律訓練法を専門的に行っているわけではありませんが、広い意味でリラックスやリラクゼーションが得られるようなカウンセリングを行っています。当オフィスでカウンセリングをご希望の方は以下の申し込みフォームからご連絡ください。
文献
この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。