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オープンダイアローグ

絆が心を癒す

オープンダイアローグとは、1980年代にフィンランドで開発された、開かれた対話によるアプローチを中心とした治療・ケアの手法で、統合失調症やうつ病に対して高い効果を上げています。ここではオープンダイアローグについて、考え方や具体的な方法を解説していきます。

1.オープンダイアローグとは何か

オープンダイアローグ(Open Dialogue, 開かれた対話)とは、1980年代からフィンランドで開発され実践されてきた、統合失調症やうつ病などに対して開かれた対話によるアプローチを中心とした治療・ケアの技法です。

発症後すぐの急性期の精神病のクライエントに対して症状を抑えるのではなく、家族療法のトレーニングを受けた医療スタッフらがクライエントの自宅に趣き、毎日クライエント本人や家族、その他の関係者とともに治療ミーティングを行い、クライエントの病的体験や治療に関するあらゆるテーマについて様々な対話を行います

クライエント本人や関係者のニーズに柔軟に適応したオーダーメイドの治療(ニーズ適応型治療)が行われます。

2.オープンダイアローグの効果


オープンダイアローグによるアプローチにより、統合失調症クライエントの入院治療期間を短縮させたり、再発を防いだりする効果が報告されています。また、薬物治療の使用率を低下させる効果があることも知られており、急性期の精神病治療としてのエビデンスが確立されてきており、世界各国で導入が進んでいます。

3.オープンダイアローグの7つの原則

オープンダイアローグには基本となる7つの原則があります。7つの原則のうち、最初に紹介する(1)から(5)はオープンダイアローグの実践を可能にする精神医療システムの原則をあらわし、(6)と(7)はオープンダイアローグにおける対話実践の理念や思想をあらわしています。

(1)即時対応

文字通り、必要に応じて直ちに対応することで、クライエントから最初の連絡があったときから24時間以内に治療チームを立ち上げて対応する必要があります。精神的な症状はクライエントにとってこれまで言葉が見つからなかったような思いや体験のあらわれであり、それが表現されるのは最初の数日間に限られるからです。

(2)社会的ネットワークの視点を持つ

クライエント、家族をはじめ、友人や知人など、つながりのある関係者をみな、ミーティングに招くこともオープンダイアローグの概念の中では重要です。精神的な症状はクライエント本人だけでなく、クライエントを取り巻く人々との関わりの中で起きているという考え方に基づいています。クライエントと家族の話を別々の場で聴くことは避け、大切なつながりのある人はできるだけミーティングに参加してもらうように話し合います

(3)柔軟性と機動性

その時々のニーズに合わせて、どこででも、何にでも柔軟に対応することを意図した原則で、ニーズがあれば自宅ででも、毎日でもミーティングを行います。

(4)責任を持つこと

治療チームは必要な支援全体に責任を持って関わります。他の医療機関や他の部門の支援が必要な時には、クライエントだけを受診させるのではなく、治療チームがでかけていったり、他の期間の人たちを治療ミーティングに招いたりしてともに対話します。

(5)心理的連続性

この原則は、クライエントをよく知っている同じ治療チームが最初から続けて連続的に対応すること、を意味するものです。治療プロセスの全体において、様々な支援を一つのまとまりのあるものとして統合して相互の効果を高め合うようにします。

(6)不確実性に耐える

答えのない不確かな状況に耐えること」を意図した原則で、結論を急がずに葛藤や相違があったとしてもクライエント、家族、関係者の多様な意見を共存させ続けるように考えることを目指します。対話を続ける中で、クライエントに適合した独自の治療方針が見えてきます。

(7)対話主義

オープンダイアローグにおいては、対話することは治療を達成するための手段ではなく、それ自体が目的であり、問題の解決はその先に現れるものであると考えます。治療チームのスタッフはいかなる状況にあるクライエント、家族、関係者とでも対話を続けられるように対話の力を磨き続ける必要があります。

4.オープンダイアローグの実践

上で紹介した7つの原則に基づいたオープンダイアローグの対話実践に関しては、さらに細かく12の基本要素があり、それに従ってクライエントへの対話が行われます。

ここでは12の要素を説明しながら、オープンダイアローグの具体的な実践方法を見ていきます。

(1)スタッフ

治療ミーティングには継続的に担当する2人以上のスタッフを選びます。その際、2人以上の同じスタッフが継続的に対話に参加することが重要です。

スタッフが2人以上いることで一人が話を聞き、もう一人が質問をするといったようにチームワークを活かした対話が可能になります。

(2)つながりのある人々

クライエント、家族、つながりのある人々を最初から治療ミーティングに招きます。

オープンダイアローグでははじめから家族や社会ネットワークのメンバーに参加してもらうことに価値を置きます。

(3)開かれた質問

治療ミーティングを「開かれた質問」から始めます。

「はい」や「いいえ」が答えにならないような、「今日はここに来るという考えに至った経緯は何ですか?」といった「開かれた質問」が重要なのです。

(4)傾聴

クライエントの語りの全てに耳を傾け、応答します。クライエントの語りに応答する方法として、クライエント自身の言葉を使い、こまやかな応答を欠かさずに傾聴し、沈黙を含む非言語的な反応にも気を配ることが大切です。

(5)今ここで

対話の場で今まさに起きていることに焦点を当てます。クライエントがミーティングの外で経験したことの報告よりも、対話中に生じている即時的な反応や湧き上がる感情に注意を向け、クライエントが安心して語れる場を開きます。

(6)多様性

様々なものの見方を尊重し、多様な視点を引き出します。対話の場では意見の一致を目指すのではなく、様々な意見を尊重して創造的な意見交換を行うことを目指します。

(7)気持ちの尊重

対話の場では、お互いの人間関係を巡る反応や気持ちを大切に扱います。ミーティング中に人間関係についての質問を行ったりしながら、人間関係に関わる事柄を大切に扱っていきます。

(8)意味ある反応

一見問題に見える言動であっても、困難な状況への「意味のある」反応であると捉えて対応します。問題となっているような言動や症状を病的なものとして捉えるのではなく、その言動がクライエントにとってどのような意味を持つのかを考えていきます。

(9)物語を聴く

症状を報告してもらうのではなく、クライエントの言葉や物語に耳を傾けます。

単なる症状の報告ではなく、クライエントの人生で何が起こったのか、経験や考え、感情も含めながら話すように促し、クライエントの体験をミーティングの参加者達が共通して理解できるよう目指します。

(10)リフレクティング

治療ミーティングではスタッフ同士が参加者たちの語りを聞いて心が動かされたこと、浮かんできたイメージ、アイデアなどを、参加者の前で話し合い時間を取ります。

これは「リフレクティング」とも呼ばれ、スタッフはクライエントたちの方を見ずに、スタッフ同士だけ顔を見合わせながら行います。そうすることで、クライエントたちは「話す時間」と「聞く時間」を分けることができ、「聞く時間」にはスタッフの言うことに応答するプレッシャーを感じることなく自分の心の声と対話することができます。

「リフレクティング」が終わったらその話し合いについてクライエントたちがどう感じたかに耳を傾けます。

(11)透明性

本人のことは本人のいないところでは決めません。いわゆる「透明性」のことで、治療に関するすべての会話が参加者全員で共有されます。

(12)不確かことに耐える

答えのない不確かな状況に耐えます。前に説明した7つの原則の「6」に当たる部分で、結論を急がずに多様な意見を受け入れてクライエントに適合した治療方針を検討していきます。

5.まとめ

オープンダイアローグは、急性期の精神疾患に対して行われるクライエントとの対話を中心としたケアの手法で、入院期間の短縮や再発率の低下、薬物治療の使用率の低下など高い効果を上げており、発祥の地であるフィンランドから世界各国に広まっています。

クライエントが連絡してから24時間以内に対応を始め、毎日治療ミーティングを行うといった即時性や柔軟性、クライエント本人だけでなく家族や関係者も治療ミーティングに参加するなどの社会的ネットワークや透明性、多様性を重視したアプローチです。

文献

この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。