演技性パーソナリティ障害(演技性パーソナリティ症)は、演劇的で性的誘惑に伴って、自己に過剰に注目を引こうとする過激な行動を実行するために、社会的に対人関係が不安定になる機能的な障害を認める状態です。
演技性パーソナリティ障害を適切に診断するためには、「本人、あるいは周囲の人々が日常生活で支障をきたして困っているかどうか」、「一時的でなくいかなる状況や場面でも認められる特徴所見があるかどうか」などの観点が重要なポイントなります。
今回は「演技性パーソナリティ障害」を中心に説明していきます。
目次
演技性パーソナリティ障害とは
演技性パーソナリティ障害(演技性パーソナリティ症)とは、人前で注目されることや承認を得ることを強く求め、自己顕示欲が高く、演技的な行動を取る傾向があるパーソナリティ障害の一つです。人との関係を上手く調整するために、自分自身を都合よく演じることがあります。また、自分が特別な存在であると信じ込んでいることがあります。治療には、認知行動療法や対人関係療法、心理的支援、カウンセリングが有効な場合があります。
演技性パーソナリティ障害の人は、他者からの注目や称賛、注意を引くことを強く求め、日常生活においてはまるで自分が役者のような過度に演技的な振る舞いをすることが多いです。演技性パーソナリティ障害は注目を引くために、演技的な振る舞いだけではなく、感情を強く出したり、危険な行動をしたり、時には恋愛関係や対人関係で問題を起こしたりすることもあります。また、被暗示性が高いという特徴も見られます。
演技性パーソナリティ障害では、患者さんは日常的に役者の演技のような行動をとることが多く、基本的に自分が周囲から注目の的とならない限りは過剰なストレスを抱いて自分自身を痛めつけて破壊するような言動を行う精神疾患のひとつであると認識されています。
人口の約2%程度が本疾患を罹患していると指摘されています。
演技性パーソナリティ障害は上位カテゴリーのパーソナリティ障害の中の一つです。そのパーソナリティ障害については以下のページをご覧ください。
よくある相談の例(モデルケース)
20歳代 女性
Aさんは、幼少期から明るく人懐っこい性格だと言われて育ちました。家庭環境は一見すると円満でしたが、実際には両親とも多忙で、十分な関心を向けられることが少なく、Aさんは常に注目を求める行動をとるようになりました。学業成績は中程度でしたが、友人関係では中心的な存在であり続けることに強いこだわりを見せていました。
大学入学後も、サークルやアルバイト先で華やかに振る舞い、多くの人と関係を築きましたが、人間関係のトラブルも絶えず、相手に対する過剰な期待や感情の激しい変動により、孤立することが増えていきました。卒業後に就職した職場でも、上司や同僚との距離感をうまく取れず、過度に親密さを求めたり、逆に無視されたと感じて感情的になったりすることが続き、入社して1年足らずで退職を余儀なくされました。
退職後、Aさんは気分の落ち込みや人間関係の失敗への自責感に悩み、心療内科を受診しました。診断名は明言されませんでしたが、演技性パーソナリティ傾向が示唆され、薬物療法と並行してカウンセリングを勧められました。薬には抵抗感があり、ほとんど服薬せず、カウンセリングを中心に取り組むことを希望しました。
カウンセリングでは、初回から感情表出が豊かで、セラピストに対しても強い承認欲求を示す場面が多くみられました。Aさんの背景には、幼少期に十分に受け止めてもらえなかった寂しさや、自己肯定感の脆弱さが隠れていることが、丁寧な面接を通じて明らかになっていきました。セラピストは、Aさんの表面的な感情表現に巻き込まれすぎないよう配慮しつつ、根底にある孤独感や不安感に焦点を当て、少しずつ自己理解を深める作業を進めていきました。
当初はセラピストへの理想化と失望の揺れを繰り返しましたが、継続的な関係性の中で、感情の波を調整する力が徐々についていきました。周囲からの注目を得ることだけではなく、自分自身の内側に安定を見出すことができるようになり、現在では友人や職場の人間関係でも、無理に気を引こうとする行動が減り、落ち着いたやり取りができる場面が増えています。
演技性パーソナリティ障害の原因
演技性パーソナリティ障害を発症する原因はいまだに明確には判明していませんが、いくつかのリスク因子が関連していると推察されています。
例えば、幼少期に保護者からの愛情を十分受けないといった母性的な愛情不足に伴う親子関係が一つの発症要因として伝えられています。
また、両親や親戚などのなかに演技性の強い成人が存在する環境で発育した場合には、それらの様子を真似て手本にしてしまうことでおのずと発症する可能性も指摘されています。
それ以外にも、遺伝的な要素や個々の性格的要因、あるいは教育環境なども一定程度発症率と関連づけられて考慮されています。
Aさんは幼少期、両親から十分な関心を向けられることが少なかったようで、そうしたことが間接的に演技性パーソナリティ障害に影響していたことが推測されます。
演技性パーソナリティ障害の症状や特徴
演技性パーソナリティ障害の特徴として、対人関係において他者に対して、身体的外観などを活用して過度に注意を引こうとする言動がよく認められることが挙げられます。演技性パーソナリティ障害では、全ての対象物を実際以上に重要に感じて、自分自身の考え方や感情を他者に向かって誇張する傾向があり、過度の情動性や周囲の注意力を集中させて惹きたいという強い欲求願望というパターンを特徴的としています。
具体例として、他者との人間関係が実際よりも親密だと信じ込む傾向があるために、他人を信用しやすい習慣性が認められます。
本疾患を抱えている患者さんは、他人の目をひくために自己中心的に大きな物音を立てる、突然泣き出すなど演技のような言動をすると共に、期待通りに注目されない場合には過剰にストレスとして感じて自己破壊を促進する挑発的な性行動を認めることもあります。
演技性パーソナリティ障害の症状として、基本的に自分の好感度を過大評価する傾向があり、自分を美化させるために他者を利用する、あるいは自分が気に入らないものに対しては強い敵意を抱いたりします。そのため、常日頃から際立って周囲の注目を集めたがる癖があり、肌の露出度が高い服装を着用する、まわりの場所や状況を考えずに性的なアピールを実践するなど自分の性的な魅力を強調しやすい傾向も認められます。
自分が日常のあらゆる場面において中心的存在になっていないと不快になりやすく、注目されずに抑うつ状態などの気分変調に陥ることもありますし、感情表現が表面的で大袈裟であり、言動内容に一貫性がなく主張内容が薄いのも特徴のひとつです。
演技性パーソナリティ障害においては、患者さん自身の言動や考え方に特徴がある一方で、多くの場合には当該本人にはその自覚が無く病識が乏しいと言われています。
Aさんは職場で過度に親密さを求めたり、逆に無視されたと感じて感情的になったりすることが続いていました。またカウンセラーとの関係の中でも、強い承認欲求を求めることがありました。こうした特徴が演技性パーソナリティ障害に合致していると言えるでしょう。
演技性パーソナリティ障害の診断
演技性パーソナリティ障害の有無を評価するためには、心療内科や精神科に受診して自分が他者にされていないと楽しくない、あるいは周囲からの関心を引くために高頻度で身体的外見を用いるなどいくつかの基準に該当することで診断に繋げます。
演技性パーソナリティ障害を正確に診断するためには,患者自身に継続的に過度の情動性、そして周りから注意を惹きたいという強い欲求パターンを認めることが重要視されます。
具体的な問診内容としては、自分が注目の的になっていないと不快感やストレスを過剰に自覚する、他者との交流を図るうえで非常識な程度に性的に挑発して他者を誘惑する傾向がある、感情が急激に変化して極めて主観的で浅薄な表現を行うなどが挙げられます。
基本的には、これらの症状が成人期早期までに認められることが知られており、日常的に芝居がかった振る舞いをして、他者や周囲の状況に容易に影響を受けることも診断の一助となる所見となります。
DSM-5における演技性パーソナリティ障害の診断基準
過度な情動性と人の注意を引こうとする広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。
- 自分が注目の的になっていない状況では楽しくない。
- 他者との交流は、しばしば不適切なほど性的に誘惑的な、または挑発的な行動によって特徴づけられる。
- 浅薄ですばやく変化する感情表出を示す。
- 自分への関心を引くために身体的外見を一貫して用いる。
- 過度に印象的だが内容がない話し方をする。
- 自己演劇化、芝居がかった態度、誇張した情緒表現を示す。
- 被暗示的(すなわち、他人または環境の影響を受けやすい)。
- 対人関係を実際以上に親密なものと思っている。
引用:DSM-5
Aさんは明確には診断はされませんでしたが、上記の診断基準の内、大半を満たしていたようでした。
演技性パーソナリティ障害の治療や治し方
演技性パーソナリティ障害に対する医学的治療、薬物療法、カウンセリングなどを解説します。また、演技性パーソナリティ障害の人への接し方のポイントなども紹介します。
(1)演技性パーソナリティ障害の薬物療法
演技性パーソナリティ障害の治療法に代表例として、薬物療法が挙げられます。
薬物療法は、主に精神療法を補助する目的で使用されることが多く、抑うつ症状に対しては抗うつ剤、あるいは不安感を抱いている場合には抗不安剤が有効的に働くことが期待されています。
精神療法を行っても、抑うつ感や不安症状が強く、全身のしびれ症状などを始めとする身体的症状が顕著である際には、抗うつ作用を有する薬剤や抗不安作用を発揮する薬物などを活用した薬物療法を積極的に実施することを検討します。
Aさんは薬物療法を医師から提案されましたが、ほとんど服用しませんでした。
(2)演技性パーソナリティ障害のカウンセリング
演技性パーソナリティ障害を患っている患者本人は、自分の言動が異常であるという認識が乏しく、カウンセリングを用いて実践される精神療法では、患者の真の欲求や本人の心の根底にある考え方や課題を深く追求して明確にすることから開始されます。
精神療法のなかで充実したカウンセリングを行うことによって、他者の注目を集めるために無理なやり方をせずに上手くコミュニケーションを確保できるようになることを目標にして治療に当たります。
また、自尊心を保つ上で演技的行動がいかに不適応な方法であるか、患者の言動が周りの方々に少なからず影響を与えて、時に社会的に有害になっていることを理解させて自分自身で納得できるように問題点を洗い出して共有していくことも重要なポイントとなります。
さらに、カウンセリングの中でも精神分析的心理療法が効果的であると言われています。演技性パーソナリティ障害の対人関係のパターンや幼少期の課題などをカウンセラーと一緒に探索し、演技性パーソナリティ障害のパーソナリティの核心に迫っていくことで改善が見込まれます。
精神分析的心理療法についての詳細は以下のページをご覧ください。
Aさんとのカウンセリングではカウンセリング関係の中であらわれたカウンセラーに承認を求めたり、理想化と失望の揺れがあったりしました。そうしたことにカウンセラーは翻弄されず、丁寧にそうした事を話し合っていきました。それらがAさんの改善に寄与したことは間違いないでしょう。
(3)演技性パーソナリティ障害の人への接し方や対応
演技性パーソナリティ障害に伴う症状によって、周囲の人も巻き込まれて非常に困惑してしまう場面も多々見受けられます。
多くの場合には、演技性パーソナリティ障害である患者本人は自分自身のことを病的では無く正常であると認識しており、日常的に接する場合や集中的に治療を実践する際には本人を傷つけないように慎重な対応が求められます。
日常場面において、周囲の人々にとって重要な対応策は、本人の希望や考え方に巻き込まれすぎないことであり、本人が望むように周囲が動くと、かえって症状がエスカレートして悪化することが危惧されています。
また、実際の治療の際には、カウンセリングの回数を重ねて、精神療法や薬物療法を上手く活用することによって心の奥底に潜む葛藤や課題を共有して整理していくことが重要です。
本疾患は、年齢を経て目立っていた症状が徐々に落ちついて改善する傾向が見受けられますので、患者本人のみならずそのご家族や親しい間柄の方も焦らずに長い目で見守ってあげると良いでしょう。
演技性パーソナリティ障害についてのよくある質問
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演技性パーソナリティ障害は、社会生活における人間関係の中で無意識的に自分に役柄を決めて演じ、派手な恰好やオーバーアクションを実施することで他者の注意力を引き付けるために行動するパーソナリティ障害のひとつであると認識されています。
特に、抑うつ状態や不安感に伴う自傷行為などの症状が前面に出現している際には、御家族など周囲の方は無理強いすることなく、速やかにパーソナリティ障害治療を専門としている精神科や心療内科を受診して相談するように心がけましょう。
演技性パーソナリティ障害に対しては、専門的知識を有する心理カウンセラーによるカウンセリングを含めた精神療法やそれらを補完する薬物治療を組み合わせることで症状改善を期待することができます。
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文献
この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。