みなさんは、性犯罪者についてインターネットやニュースで見聞きすることがあるでしょう。そのときに、「容疑者には前科があり・・・云々」ということを聞くことはないでしょうか。性犯罪者の再犯率は13.9%であり、全再犯の7割を占めています。つまり、再犯を減らさなければ性犯罪は減っていかないということになります。
ここでは、罰するだけでは減らない性犯罪を、どうやって減らしていこうとしているか、そのための性犯罪の治療やカウンセリングについて解説していきます。
目次
性犯罪とは
性犯罪者とは、性的な暴力や性的な行為を強要する犯罪を犯した人を指します。被害者の心身に大きな影響を与えるため、社会的にも厳しい非難を受けます。性犯罪者には再犯率が高いとされ、更生や治療に取り組む必要があります。また、性犯罪は予防が重要であり、性教育や被害者支援などの対策が必要です。
また、性犯罪は、強制性交、強制わいせつ、公然わいせつ、盗撮、痴漢、ストーカー、のぞきなど性に関連する犯罪のことを指します。多くは被害者がおり、被害者の心身に重大な損傷をもたらします。
性犯罪者にはさまざまなタイプがいますが、罪の意識を感じないサイコパスのような人もいれば、依存症のように止めたくても止められないまま続けてしまう人もいます。いずれも刑罰とともに矯正や治療が必要になってきます。
また加害者がいるということは被害者もいます。性犯罪被害者やそのケアについてか以下のページをご参照ください。
よくある相談の例(モデルケース)
30歳代 男性
Aさんは、幼少期から家庭環境に問題を抱えていました。父親は厳格で感情表現が乏しく、母親は家庭の中で孤立しがちでした。Aさん自身も幼少期から友人関係がうまく築けず、内向的な性格となりました。思春期にはインターネットや映像メディアに依存し、性的な好奇心が高まる中で現実の人間関係がますます希薄になっていきました。成人後も社会的な孤立感が続き、職場では最低限の会話しかできず、自己肯定感の低さに苦しんでいました。
20代半ばから性的な衝動を自分でコントロールすることが難しくなり、違法な盗撮行為に及んでしまいました。事件発覚後、Aさんは逮捕・起訴され、保護観察付きの執行猶予判決を受けることとなりました。釈放後、再発防止のために医療機関を受診し、精神科で診断・評価を受けました。Aさんには衝動制御の課題が認められ、医師からは抗うつ薬や抗不安薬などの薬物療法が処方されました。さらに、性衝動や行動を適切にコントロールするために専門的な心理カウンセリングの受診も強く勧められました。
Aさんははじめ、自分の行動の問題性や背景に気づくことができず、カウンセリングに対しても強い抵抗感を持っていました。しかし、保護観察官や家族の後押しもあり、専門のカウンセリング機関へ通い始めました。カウンセリングでは、まず生育歴や過去の人間関係、心の傷について丁寧に振り返る作業が行われました。初期は否認や回避的な態度が強く見られたものの、時間をかけて信頼関係を築くことで、徐々に自己理解が進み、自身の性衝動やストレスとの向き合い方についても学ぶようになりました。
また、グループワークや認知行動療法を通じて、再発防止のスキルや適切なストレス対処法を身につけていきました。家族も巻き込んだサポート体制が整えられ、家族自身も本人への対応の難しさや葛藤をカウンセリングの場で語ることで、Aさんへの理解や支援の質も高まりました。継続的な医療と心理的支援を受ける中で、Aさんは自分の衝動に対する自覚とコントロール力を高め、再発リスクを低減させることができるようになりました。
性犯罪の心理と精神障害
性犯罪と言えば、欲望を抑えきれない加害者が被害者に対して性衝動に駆られた行為を行うものだ、と思っておられる人も多いでしょう。しかし、性犯罪の心理には精神障害と密接な関係性があります。ここではそれらについて解説します。
Aさんの場合、盗撮でしたが、幼少期からの孤立感や自己肯定感の低さ、他者との関係づくりの苦手さが背景にありました。加えて、ストレスや衝動をうまくコントロールできない傾向が強く、精神科的には衝動制御の障害や気分の不安定さが認められました。
(1)露出症
露出症は、警戒していない他者に対して性器を見せることで性的興奮を得ることが特徴として挙げられます。また、性行為中に他人から見られることを強く望む場合も含まれる場合があります。
そして、空想しているだけならば問題ないのですが、同意のない相手に対するこのような衝動の行動化やその衝動及び欲求を持つことに対して著しい苦痛を本人も持っていると定義づけられます。愉快犯のようなものは含まれません。この状態が6ヶ月以上認められることも条件の1つです。
有病率は男性で4%で、女性ではもっと低いです。女性の露出行動は一種社会的に認められていることがあり、男性の露出ほど咎められません。男性では、性器を露出しながら自慰行為にふける人がいます。
被害者は社会的弱者とも言える子どもたちや成人女性に限られます。実際の性的接触を求めることはまれであり、被害者が身体的に傷つくことは滅多にありません。通常、発症時期は青年期ですが、ときに青年期前や中年期に最初の行為がみられる場合もあります。
(2)窃視症
窃視症は、いわゆるのぞき行為です。見られていることが気づいていない人が衣服を脱ぎ、裸になることを性的興奮のために必要とする人です。こののぞき見をしたいという願望を実行したりする人もいますが、こういった願望に駆られていることに苦しむ人が一定数います。こういった人は犯罪加害者となることは稀ですが、日常生活に支障が出るほどに悩んだりすることがあります。ここでのキーポイントは「秘密のぞき見を行うことが願望」であることです。
発症年齢ですが、青年期から発症することが多いです。のぞき見行為は願望としてあったとしても、人に話されることはほとんどなく、個人で解決されていきます。成人動画などで解消する分には構いませんが、実際に成人動画と同じことを行ってしまうと犯罪となります。
(3)小児性愛
小児性愛は、13歳以下の小児をターゲットにして、性的興奮を引き起こす強い衝動にかられ、実際に行動に至ることを特徴とします。また、この衝動で本人が苦痛を感じ、日常生活に困難を感じていることが多いようです。この場合も、愉快犯などは含まれません。
では、13歳以下であれば全て小児性愛障害とみなされるかというとそうではなく、当事者たちの年齢に左右されます。本人が16歳以上であり、さらに相手の子どもよりも5歳年上であることが条件となります。ただこれは欧米社会の場合であり、日本ではメディアなどでは定義など無視され議論されることが多いです。しかし、日本も欧米と同じ基準を使っていますのでこの定義を覚えておけばいいと考えられます。
小児性愛のターゲットとなるのは女児よりも男児の方が多く、また両方が対象になる場合もあります。通常、成人の小児性愛者は対象とする小児の知人であり、家族であったりする場合もあります。つまり、権力を傘にかけてそう言った行為に及ぶということになります。小児性愛の人は一方で、自分の家族をしっかり築いている場合もあれば、小児でしか性的興奮を得られない人がいます。
(4)サドマゾヒズム
サドマゾヒズムというのは、マゾヒズムの人を痛めつけて楽しむサディズムの人と、痛めつけられて楽しむマゾヒズムの人がいます。日常生活においては、例えば「浮気な男に裏切られても別れない女、口うるさい妻に罵倒されつづけながら離婚しない夫」あるいは「横暴な上司に唯々諾々と従う部下」などもいいます。性的には性行為の中にそういった痛めつける/られる行動がないと性的興奮が得られず、そのことについて6ヶ月以上苦痛を感じていることが条件です。
最近世の中で一般的に言われているような「お互いの同意の上でそういう行為を行う」ことはサドマドヒズムには含まれません。あくまでも、「同意のない人に対してそういう衝動が湧く」ことがサディズムの定義と言ってもいいでしょう。
また、マゾヒズムの人に関しては性犯罪加害者になることはないですが、自傷行為に走ることがあり、そこに対しては治療が必要かもしれません。
(5)狙われやすいのは「自分より弱い人」
性犯罪加害者にとって、狙いやすいのは「自分より弱い人」です。自分の力で組み伏せることのできる人を求めて彷徨い歩きます。女性でもボディビルダーなどの筋肉質な人に関しては狙いに行くことはほぼないと言っていいでしょう。
小児性愛ではないのに、「自分より弱いから」と小児を狙う人もいます。小児がターゲットになったからと言って全てが小児性愛ではないのです。自分の欲望のはけ口を探したら子どもが一番だと思った、というのもよくある話です。
性犯罪者に対する治療やカウンセリング
性犯罪者に対して、有効な薬があると、皆さんはお思いですか?また、こういった犯罪が起きると「去勢してしまえばいい」といったような過激な発言を目にすることも多いです。
ご想像に容易いと思いますが、性犯罪者に対して有効な薬はありません。女性ホルモンを投与して勃起能力を奪ったからといって、これは性犯罪を減らしません。また、去勢するというのも同様のことで、これを行ったところで真の解決には至りません。
ここでは性犯罪者に対する治療やカウンセリングについて解説します。
(1)性犯罪者の専門の医療施設、SOMEC
みなさんは、性犯罪者がどうすれば再犯をしないか、考えたことはあるでしょうか。現在、日本には少ないのですが、性犯罪者となってしまった人を治療し、構成させていくプログラムを持っている専門施設があります。
性障害専門医療センター「SOMEC」です。
東京・大阪・福岡にオフィスがあり、全国へのオンライン診療も行っています。「性障害」を持つ人、と性犯罪者のことを捉えることで、これを「治療」するために、精神療法やカウンセリング(認知行動療法など)を行なっています。
(2)医学的な治療
医学的な治療とは主に薬物療法をさします。残念ながら現在のところ性犯罪を抑制する有効な薬物療法はありません。しかし、性犯罪者が抱えている精神症状や精神障害を治療したり、和らげたりすることで、間接的に性犯罪を抑制することは可能かもしれません。
例えば、気分の高揚と落ち込みを繰り返す双極性障害などでは気分調整薬が有効です。また、ある種の衝動性を制御することにも作用します。また不安や緊張、抑うつなどの苦痛の解消として性犯罪をする人に対しては、抗うつ薬や抗不安薬を処方することにより、その精神症状を和らげ、結果的に性犯罪に至らないようにすることは可能です。
Aさんは精神科での診断を受け、主に衝動や不安を抑えるための抗うつ薬や抗不安薬が処方されました。薬物療法により気分の安定や衝動性の軽減が一定程度みられました。
(3)グループワーク
性犯罪をしてしまう人の自助グループやデイケア、グループカウンセリングなどもあります。
自分と同じような症状や行動、境遇の人と一緒におり、話し合ったり、その人の体験談を聞くことにより、自分自身を振り返ったりすることができます。また、一人で立ち向かうことが難しいことでも、一緒に行うことで可能になることもあります。
Aさんの場合、同じような課題を持つ人たちとともに行うグループワークにも参加しました。体験や悩みを共有することで、自分だけが抱えている問題ではないと気づき、他者の意見や体験から学ぶことができました。
(4)カウンセリング
性犯罪の治療や矯正にはカウンセリングが握っていると考えています。先ほどお伝えしたSOMECに関しても、「治療」に際し、カウンセリングを使っています。性犯罪被害者を減らす1番の方法は、性犯罪加害者を減らすことなのです。
誰に対して性欲が湧くか、というのは比較的生まれ持って決まっている場合が多いです。しかしそうであったとしても、犯罪はいけません。生まれ持った性欲にただ従うというのは、間違いです。
そうならないために、カウンセリングがあります。カウンセラーによる専門的な認知行動療法が必要です。認知行動療法とは、今抱えている問題を明らかにして、変えやすい部分から考え方や行動を変えていくことです。これを継続して行うことで、元々持っていた認知とは全く違う行動をとっていけるようになります。論文ベースで言うと、不安障害やうつ病に対する効果がきっちりと認められていますが、そのほかはエビデンスレベルではありません。しかし、カウンセリングのエビデンスの求め方は難しく、他のことに全く効果がないと言うわけではありません。
これを性犯罪者に対して行うのです。現在生じている問題とは、性犯罪での加害行為です。それに対して、考え方や行動などの変えやすい部分を少しずつ変えていくわけです。考え方となると例えば「あの女性を狙って欲望を満たそう」といった考え方かもしれませんし、他にもいろいろな性犯罪につながる考え方があるでしょう。行動というのは女性の後を付け狙ってたような行動に対して、たとえば「途中で自分だけコンビニに入る」などの犯罪を犯さないで済む行動を取れるように変化していく、というものです。
性犯罪者の治療には、カウンセリングが中心となります。SOMECでなくても、身近なカウンセリングルームでもいいでしょう。まずは「なんとかしたい」という思いを持ってもらい、カウンセリングルームでしっかりとした治療を受けることで、性犯罪者にならないように変化していくことが大事なのです。
ここで取り上げた認知行動療法の詳細は以下のページをご覧いただけたらと思います。
Aさんは個別カウンセリングを継続的に受け、自分の過去や心理的な課題に丁寧に向き合いました。カウンセラーとの信頼関係の中で、衝動の背景やストレスの対処法を学び、再発防止に向けて自己理解と自己制御の力を徐々に高めていきました。
性犯罪者についてのよくある質問
(株)心理オフィスKでカウンセリングを受ける
性犯罪の概要、心理、治療、カウンセリングなどについて解説しました。性犯罪は刑罰だけでは十分に再犯を防ぐことはできません。また繰り返したくないのに繰り返してしまう性犯罪者を手助けすることもできません。カウンセリングなどの対応を通して、再犯を防ぎ、繰り返さないようにすることができます。
(株)心理オフィスKでは性犯罪のカウンセリングを行っています。希望者は以下の申し込みフォームからお申し込みください。
ただし、殺人や強制性交など重犯罪の経歴のある方は(株)心理オフィスKでは対応はできませんので、ご了承ください。