教育現場において不登校は昔から現在にかけて非常に難しい課題をなげかけてきます。不登校を単なる不適応の問題とは捉えず、子どもなりの在り方、生き方、コミュニケーションの1つとして理解し、総合的なアセスメントをまずはする必要があります。
そしてそれに基づいた支援を行います。ここでは不登校の原因、問題、対応、親支援、登校刺激などについて解説します。
目次
不登校とは
不登校とは、学校に行かず、自宅で引きこもることを指します。主にストレスや不安、いじめなどの社会的な問題が原因で起こります。不登校は、学業や社会性の発達に影響を与えるため、早期の対処が必要です。不登校児は、親や家庭、学校、専門家などの支援が必要です。家庭や学校と密接に連携し、原因の解明や、学校生活への復帰、社会性の向上を目指すことが大切です。また、不登校を経験した人々の支援や相談にも取り組んでいます。
ちなみに不登校とは登校したくても登校できない子どもたちのことで、そのことにより強い苦痛を本人や家族などが感じている状態のことです。
また文部科学省は不登校を以下のように定義しています。
「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因により、登校しない、あるいはしたくてもできない状況にあるために年間30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたもの」
引用:文部科学省の不登校の定義
実際彼らと関わると本当に様々な子どもがいます。不登校になった理由も三者三様であり、中には非常に複合的な理由を持っている子どももいます。学校が嫌だから行きたくない、というのは一側面にしかすぎません。
一つ強調したいのは、不登校は単なる不適応ではないということです。もちろん学校側からすれば不登校は不適応の一つです。登校できずにいるため、怠けや甘えている状態として捉えがちな側面もあります。しかし、彼らと接していると不適応と同時に一つの在り方、もっと言えばある種の生き方のように感じる時があるのです。
連続体として同じ線上にあり、彼らはそこを行ったり来たりしているように思います。あるいは表と裏といった構造があるかもしれません。
よくある相談の例(モデルケース)
10歳代 男性
Aさんは中学2年生の男子生徒で、小さい頃から内向的で、家族やごく親しい友人以外とはあまり積極的に関わろうとしない傾向がありました。小学校時代は大きな問題もなく過ごしていましたが、中学進学後、環境の変化やクラスでの人間関係にうまくなじめず、徐々に学校生活への不安を感じるようになりました。2年生の夏休み明けごろからは朝になると頭痛や腹痛を訴えて学校を休みがちになり、やがて登校を強く拒否するようになりました。最初は内科を受診しましたが、身体的な異常は見つかりませんでした。
その後、医師から「心理的な要因が影響している可能性が高い」と指摘され、精神科とカウンセリングを勧められました。Aさん自身は当初、他人に気持ちを話すことに強い抵抗がありましたが、カウンセラーはAさんのペースに合わせて対話を重ねていきました。カウンセリングの中で、Aさんは「友達とうまくいかない」「失敗を恐れて人前で発言できない」といった悩みや、学校で感じていた強い不安を徐々に言葉にできるようになりました。
また、家族支援の一環として親面接も実施されました。親御さんは「どうしたら再び学校へ行けるようになるのか」「どのように接するべきか」と悩んでいましたが、カウンセラーは、無理に登校を促すのではなく、Aさんの気持ちに寄り添い安心できる家庭環境を整えることの重要性を伝えました。親面接では、Aさんの気持ちや状況を家族で共有し、親御さん自身の不安や焦りについても丁寧に話し合う時間を設けました。親御さんがAさんの小さな変化を認めたり、安心できる声かけを心がけるようになったことで、家庭の雰囲気にも徐々に変化が表れました。
その後、Aさんは自宅での学習や短時間の外出から徐々に社会との接点を広げていきました。家庭教師の導入やフリースクールの利用も検討し、Aさん自身の気持ちを尊重しながら選択肢を広げていきました。登校再開までには時間を要しましたが、家族やカウンセラーの支えのもと、Aさんは少しずつ自信を回復し、自分の思いを伝える力も身につけていきました。不登校の経験を通じて、家族がより深くお互いの気持ちを理解し合える関係性を築いていったことが大きな変化となりました。
不登校の原因
不登校の原因は多岐にわたりますが、大きく分けて「学校要因」「家庭要因」「本人要因」の三つが指摘されています。
これらの要因が単独または複合的に絡み合い、本人が学校に行くことに対して強い心理的負担を感じるようになるのが不登校の特徴です。したがって、原因を一つに特定することは難しく、個別の背景や状況を丁寧に見極めながら支援を行うことが重要です。
Aさんの場合、不登校の原因は中学校での友人関係の不安や、人前で発言することへの緊張、失敗への強い恐れなどが重なり、登校への心理的負担が大きくなったことにありました。家庭内での大きな問題はありませんでしたが、学校での適応が難しくなったことが主な要因でした。
(1)学校要因
学校要因には、いじめや友人関係のトラブル、クラスの雰囲気への不適応、教師との関係不全、学業へのプレッシャーや成績不振などが含まれます。また、進路や受験への不安、学校独特のルールや集団生活に適応しにくい場合もあります。これらがストレスとなり、登校意欲を低下させる要因となります。
(2)家庭要因
家庭要因には、家庭内の不和や親子関係の問題、親の過干渉や無関心、両親の離婚や転居などの環境変化が挙げられます。また、生活リズムの乱れや家族の病気、家庭内での心理的な圧力なども影響します。安定した家庭環境が失われると、子どもの心に大きな負担が生じやすくなります。
(3)本人要因
本人要因には、もともとの性格的な繊細さや内向的な傾向、不安や緊張が強いタイプ、自己評価の低さなどが含まれます。また、発達障害やうつ症状、適応障害などの精神的な問題、心身の不調も関与します。これらにより、学校生活に対する心理的な負担が増大します。
登校刺激とは
不登校の話題となるとよく登校刺激を与えるべきかそれとも与えるべきではないかという議論になりやすいものです。個人的には登校刺激は与えることに越したことはないと考えています。
登校刺激の与え方やタイミングは重要ですが(学校にひっぱってでも連れてくるという時代が以前にはあったそうですが、それは流石にどうかと思いますが)、学校から遠ざかると益々難しい状況になることが比較的多いからです。
引きこもりがちになったり、やることがなくてゲームやスマホ依存になっている等のケースもあります。以前よりも学力が低下すれば学校により行きづらくなるでしょう。こうなると保護者は手をやいてしまい、どう対応していけば良いのか分からなくなってしまいます。上記のような二次的な問題が起こる前に専門家や相談機関に繋いでおくことは非常に重要でしょう。
教育現場では外部機関との連携は必要不可欠なので、臨床心理士としてはカウンセリングなどで得られた情報をもとにして他の機関に繋げるといったスキルも磨いておきたいものです。もちろん、教育分析や個人分析、スーパービジョンなどでも訓練を積む必要があります。
Aさんの場合、学校への無理な登校刺激は逆効果となりました。最初は保護者が「学校に行こう」と何度も声をかけていましたが、そのたびにAさんの不安や抵抗感が強まり、心身の不調も悪化しました。カウンセリングを通して、Aさんの気持ちに寄り添いながら、本人のペースを大切にすることの重要性が確認されました。
不登校のケア
(1)アセスメント
不登校の子どもは自分が不適応であることに自覚的なようです。人の目が気になるという理由で登校できない子どもがいますが、これは自分が不適応であるという感覚や集団からの孤立感がないと生じ得ません。その他にも自分のパーソナルな傷つきや家庭内での痛ましさを防衛するために不登校になる場合もあります。
そんな彼らに対して単に不適応という捉え方で接するとさらに追い詰めかねないでしょう。この視点のみで関わると援助者側の陰性感情を醸成させ、ある種の偏見を生み出しかねません。相互の関係は悪化し、泥沼の状態になっていくと思います。
実際の対応としては、彼らがどのような事情を抱えて、どんな背景があるのかを知ることから始まると思います。一つの在り方や生き方として認めつつ、子どもや保護者と地道に関係を築いていきます。こちらの見立てを伝えてカウンセリングの意義を吟味することも重要でしょう。そして、その子どもの発達を促進できるように対応していきます。
現在何に困っており、その子どもにはどんな課題があるのか、そのためには何をしていくべきなのか等と取り組むべき課題に優先順位をつけながら対応していきます。まずは子どもがどんなニーズとビジョンを持っており、その人となりを広い視野で知りたいものです。現に彼らの抱える課題が和らいでいくと学校に足が向くことが多いように思います。
Aさんの不登校の背景には、クラスでの人間関係の不安や、発表など人前での緊張、自己評価の低さが関係していました。アセスメントでは、身体症状の有無、家庭や学校での様子、本人の思いを丁寧に確認し、心因性の体調不良が主な要因であることが明らかになりました。
(2)家族支援・親面接
不登校児の家族や親に対する家族支援・親面接では、まず親御さん自身の不安や戸惑いを丁寧に受け止め、感情の整理を促すことが重要です。その上で、子どもへの無理な登校刺激を避け、本人の気持ちやペースを尊重する対応についてアドバイスします。また、家庭内のコミュニケーションを見直し、子どもの小さな変化や努力を認めていく視点を共有します。親面接では、家族全体のストレスを軽減し、安心できる家庭環境をつくるための具体的な関わり方やサポート体制の構築を支援します。
Aさんの場合、家族支援として親面接が行われました。親御さんは不安や焦りを感じていましたが、カウンセラーが家庭内でAさんの気持ちを尊重し、安心できる環境を整えるようアドバイスしました。親子で対話を重ねることで、家族全体がAさんの回復を見守り、支える姿勢に変化していきました。
(3)カウンセリング
可能ならばカウンセリングの頻度をなるべく多く設定することが望ましいでしょう。その子どもの状況をより知る機会が増えると援助できる幅が広がりますし、そのカウンセリング自体が登校への足がかりとして作用する可能性もあるためです。時には保護者に半強制的に連れてこられ、子ども自身にカウンセリングへの来談意欲が見えづらい場合もあるかもしれません。
しかし、そんな時でもカウンセリングに来談した時点で何かしらのニーズはあるものだと考えて、カウンセリングでの些細な会話から少しずつその子どもの援助となる資源を探していけばよいと思います。
不登校児本人へのカウンセリングでは、まず安心できる関係性を築き、本人が抱える不安や悩みを丁寧に受け止めることが重視されます。無理に登校を促すのではなく、子どもの気持ちやペースを尊重しながら、自己理解や感情表現の力を育てていきます。状況や思いを言葉にできるようサポートし、徐々に自信を回復できるよう援助します。また、本人の小さな成長や努力を認め、将来的な社会復帰や人間関係の再構築につながるよう支援していきます。
Aさんは当初、自分の気持ちを話すことに戸惑いがありましたが、カウンセリングを続ける中で、少しずつ不安や悩みを言葉にできるようになりました。本人のペースを尊重しながら進めることで、Aさんは自己理解を深め、自信を取り戻すきっかけを得ていきました。
不登校についてのよくある質問
不登校についての相談をする
不登校の原因、問題、対応、親支援、登校刺激などについて解説しました。学校に行くことが全てではありませんが、学校でなければ体験できないこともあります。不登校という状態はいずれにせよ非常に困難を抱えていることを表しています。
こうした不登校の問題について、当事者である子どもやその親御さんの支援は必要です。当オフィスでは不登校の子どもやその親御さんへのカウンセリングを行っています。希望があればお申し込みください。
文献
この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。