回避性パーソナリティ障害は、本人にとって拒絶感や批判的な評価、あるいは屈辱的非難などを受けるリスクを有する社会的交流を回避することを主な特徴とする疾患です。
本疾患を抱えている方は、自分が他人から拒絶されて自分の言動で恥をかくことを非常に恐れる特性を持っており、それらの否定的な反応を経験する危険性がある社会的状況を回避する習慣があります。
今回は「回避性パーソナリティ障害」を中心に説明していきます。
目次
1.回避性パーソナリティ障害とは
回避性パーソナリティ障害とは、人との接触を避けたがる、自己評価が低い、自己否定的な思考があるなど、自己表現が苦手な傾向があるパーソナリティ障害の一つです。自分を守るために他人から距離を取り、孤立してしまうことがあります。治療には、認知行動療法や対人関係療法、心理的支援、カウンセリングが行われる場合があります。また、社会生活の中でコミュニケーションスキルを磨くことも有効です。
回避性パーソナリティ障害は、例えば「他人に迷惑をかけるのが嫌で、簡単な頼み事ができない」など内気で臆病な性格の方が、他者からの批判や非難に対する強い恐怖心を有するために、対人と接触する活動を避けて社会的、あるいは職業的に問題を抱えがちです。主に、成人期早期までに症状が開始されて、他人から好かれていると本人が確信できなければ他者と関係を持ちたがらないタイプもあります。
また、自分は社会的に不適切であり長所がなく他人より劣っているなど異常なレベルで引っ込み思案であるために社会における様々な場面で支障をきたす場合があります。
おおまかな経過としては、子どもの時期の内気な特性が前兆となっている場合が多く、新しく出会う人々と社会的関係を有することが特に求められて重要な要素となる青年期や成人初期にますます性格的に内気になって症状が悪化していくことが経験されます。
成人期後期になるとそのような症状は徐々に目立たなくなり、年齢を重ねるとともに症状が改善していく傾向があると指摘されています。
回避性パーソナリティ障害は上位カテゴリーのパーソナリティ障害の中の一つです。そのパーソナリティ障害については以下のページをご覧ください。
2.回避性パーソナリティ障害の原因
いまだに回避性パーソナリティ障害を発症する原因は明確に判明していませんが、疾患背景には発達障害の存在や先天的に生まれ持った性質や性格、あるいは発育した周囲環境と遺伝的な相互作用などが関連していると伝えられています。
特に、子供の頃に保護者にあまり褒められず、幼児期から臆病で内気な性格であった人に本疾患は多く認められる傾向があります。
また、小児期に学校でいじめに遭遇していた経験などが契機となって、他者からの否定的な考え方のもとに不安感を増す環境下で育った方々において発症率が高いと推察されています。
3.回避性パーソナリティ障害の症状や特徴
誰でも少なからず内気さ、不安感、自信の乏しさ、孤立感などの感情を有していますが、回避性パーソナリティ障害の場合には「自分を他者よりもはるかに劣った存在だと思い込む」など通常よりもこれらの感覚度合いが格段に強いことが知られています。
特に、自分が好かれていることに確信を持てない状況では友人を作ろうとしないなど、新たな人間関係や社会的接点が重要になる青年期から成人期早期にかけて回避性パーソナリティ障害に関連する症状が悪化する傾向が見受けられます。
回避性パーソナリティ障害では、重度の自意識過剰や孤独感、不安感情によって、新たに責任を負うと周囲から批判される恐れがあるので、昇進を断るなど様々な事象において臆病になって自分の意見をうまく主張せずに対人との接触を出来るだけ避けるのが特徴です。
些細な指摘でとても傷つくなど他者からの批判的な言動や拒否的態度を極度に恐れて、対人関係構築や社会的協力活動を避ける一方で、他者から愛されて信頼を得て、自分自身を受け入れてほしいという願望は強く持っています。
また、引きこもりになる人の中にはこの回避性パーソナリティ障害に該当することがそれなりに多くあるようです。引きこもりについては下記のページに詳細に書いています。
4.回避性パーソナリティ障害の診断
回避性パーソナリティ障害の診療場面においては、他人から拒絶や否認される恐れ、自分は社会的に無能であり魅力がなく他者よりも劣っているという感情のために対人的接触を伴う状況を回避するなど具体的な症状を確認することに基づいて診断が実施されます。
回避性パーソナリティ障害と共通的で類似する特徴を有する他のタイプのパーソナリティ障害も存在するため、各々の疾患の特徴をとらえて相違点に基づいて鑑別していくことが重要な観点となります。
また、回避性パーソナリティ障害に罹患している患者さんは、医療機関を受診して適切に診断を受けて治療を実施することを回避する傾向があります。
そうしたことがさらに自己を否定するきっかけに繋がることで、登校拒否や出社拒否という悪循環に陥って、社会的課題として注目されている「引きこもり」に至ることも十分に考えられます。
DSM-5における回避性パーソナリティ障害の診断基準
社会的抑止、不全感、および否定的評価に対する過敏性の広範な様式で、成人期早期までに始まり、 種々の状況で明らかになる。以下のうち4つ(またはそれ以上)によって示される。
- 批判、非難、または拒絶に対する恐怖のために、重要な対人接触のある職業的活動を避ける。
- 好かれていると確信できなければ、人と関係をもちたがらない 。
- 恥をかかされる、または嘲笑されることを恐れるために、親密な関係の中でも遠慮を示す。
- 社会的な状況では、批判される、または拒絶されることに心がとらわれている。
- 不全感のために、新しい対人関係状況で制止が起こる。
- 自分は社会的に不適切である、人間として長所がない、または他の人より劣っていると思っている。
- 恥ずかしいことになるかもしれないという理由で、個人的な危険をおかすこと、または何か新しい活動にとりかかることに、異常なほど引っ込み思案である。
引用:DSM-5
5.回避性パーソナリティ障害の治療と克服
回避性パーソナリティ障害の薬物療法とカウンセリングについてここでは解説します。また身近な人が回避性パーソナリティ障害だった場合の接し方についても記載しています。
(1)回避性パーソナリティ障害の薬物療法
回避性パーソナリティ障害に対して実施される一般的な治療内容は、他のパーソナリティ障害に対する治療方針に準じており、基本的には患者さんの思考や感情処理をうまく整理するための精神療法、ならびに不安感などを緩和するための薬物療法を併用します。
本疾患において、不安症や抑うつ症状などを併発している場合、過度のアルコール摂取習慣や薬物依存歴を持つ際には治療期間が長期化する傾向にあるのは事実です。
そのような中で、特に薬物療法ではパーソナリティ障害そのものに直接的な薬剤効果が高いわけではないものの、回避性パーソナリティ障害に合併しているうつ症状や不安症状を軽減することで患者自身が治療に確実に向き合うことを手助けすることが可能となります。
(2)回避性パーソナリティ障害のカウンセリング
回避性パーソナリティ障害に対する基本的な治療方法としては、個人の自己主張訓練、認知行動療法や集団療法を活用したカウンセリングが主体となります。
自己主張訓練では、患者さん自身への評価や欲求を自然な形で主張させて、自己評価を改善させて社会にとって不適応な言動を軽減できるように訓練を重ねていきます。
これらのカウンセリングによって、自身の拒絶や非難に対する過敏性が自分や周囲の人々にどのような影響を及ぼしているか、あるいは問題の原因が他者ではなく、自分自身の思考方法に起因することを納得して理解できるようになることが期待されています。
(3)回避性パーソナリティ障害の人への接し方
回避性パーソナリティ障害の人は、周囲にいる他人の視点から観察すると内気で臆病な性格に見えて、積極的な交流を回避しているように思われがちですが、実は他者と深く交流したい、他人から認めてもらって受け入れられたいという願望を持ち合わせています。
そのため、本疾患を抱えている人と接する場合には、少々の弊害はあったにしてもすぐに突き放したり放置することなく、無理のない範囲で社会的交流を深めて人間関係を構築するように認識しておきましょう。
6.回避性パーソナリティ障害に対するカウンセリングを受ける
回避性パーソナリティ障害は、社会生活において挑戦や失敗をして自分自身が傷つくことを極度に恐れて、仕事や家事、恋愛活動などに支障をきたす病気であると認識されています。
普段から他者に非難されるのが過度に怖くて人と話すことを拒絶する、あるいは仲の良い友人に対してどこか遠慮して、自分には他人より長所がなく劣っている存在であると強く思い込んでいる場合は、回避性パーソナリティ障害に陥っている可能性があります。
もし、回避性パーソナリティ障害に罹患しているかどうか心配である際や社会生活が困難になるほどの様々な悩みを抱えている場合には、精神科などの専門医療機関を受診して臨床心理士や公認心理師など専門職から適切な支援を受けることが重要なポイントです。
今回の記事情報が少しでも参考になれば幸いです。
文献
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