「なんて言ったらいいのか…」と何かを感じながらうまく気持ちを言い表せない体験はありませんか。このような感覚に焦点づけて新しい気づきを得ることをフォーカシングと言います。
本記事ではフォーカシングの概要や理論、手順を解説するので、何とも言えない自分の気持ちと向き合う参考に是非ご覧ください。
目次
1.フォーカシングとは
フォーカシングとは身体では感じるものの言葉に表せない感覚に焦点を当ててイメージすることで、気づきを得ていく現象や技法を指します。
フォーカシングはアメリカの臨床心理学者のE.T.ジェンドリンによって開発された心理療法です。元々、E.T.ジェンドリンは心理療法が効果的な場合とそうでない場合の相違を研究しており、クライエント側の要因として自分の気持ちに触れるように焦点づけて話せる人は心理療法で効果を感じやすいことを見出しました。この研究結果をもとに、クライエントが自らの気持ちに触れられるように感覚に焦点づけるプロセスを「技法としてのフォーカシング」と呼びます。また、フォーカシングはうまく言葉にできない感覚に注意を向けてその感覚につき合う「現象としてのフォーカシング」という意味もあります。
フォーカシングでは、その人の体験内容がどのようなものであるかよりも、どんな気持ちを抱いて話すかといった体験過程を重要視することが特徴的です。
2.フォーカシングの理論
フォーカシングの考えの背景にはE.T.ジェンドリンによる体験過程理論があります。E.T.ジェンドリンは、来談者中心療法で有名なC.R.ロジャースと共同研究をして体験過程理論を深めており、この理論は来談者中心療法の考えと通ずるものがあります。
フォーカシングの理解を深めるためにはフェルトセンス、フェルトシフトといった重要な概念もあるため、以下簡潔に紹介します。
(1)体験過程理論とは
体験過程理論とは、人の心の中にあり、その時々で変動していく気持ちの流れに関する理論です。体験過程は言葉になる前の概念的な感覚であり「なんとなくモヤモヤする」ように身体や気持ちが感じ取る体験を指します。
体験過程は言葉にしづらいものですが、たとえば「なんとなくモヤモヤする」感覚の中には表現しきれていないものの何かしらの意味が含まれていると考えます。この感覚に焦点づけて深めていき、体験過程の流れを言語化・イメージ化により表現することが人の心に気づきを与えて成長につながると考えられています。
このように、体験過程理論は自己成長の変化に注目した理論です。体験過程に焦点を向けられないと心理的な問題を抱えやすいと考えます。
(2)フェルトセンスとフェルトシフト
フォーカシングでは、体験過程からくる身体的な感覚をフェルトセンスと言い、フェルトセンスが表現され変化することをフェルトシフトと呼びます。
フェルトセンスは言葉やイメージでは言い表せない感覚を指し意識化が難しい概念ですが、E.T.ジェンドリンはフェルトセンスを体験することに治療的な効果があると考えています。たとえば「右を選ぶか左を選ぶか」を悩むときに何となく右の方が安心するなど、言葉で説明できなくても自分の感覚として落ち着く感じを得ていることがあります。「なんとなく」でも確かに身体が今感じ取るものがフェルトセンスです。
フォーカシングではフェルトシフトの状態を目指しますが、いつも新たな気づきを得るような変化が起こるとも限りません。フェルトシフトすることが大切というわけではなく、フェルトセンスをじっくり味わう過程に意味があります。自分がどんな感覚であるかに注意を向ける中で自然とフェルトシフトは生じると考えられています。
3.フォーカシングのやり方や技法
フォーカシングは心理療法であり、1人でも行える技法でもあります。手順に沿えば誰でも試すことはできますが「これでいいのかな」という不安や、自らの何とも言い表せない感覚と向き合うことの難しさを感じることもあるでしょう。
1人で行うことが難しい場合は、専門家など聞き役がいると行いやすくなります。フォーカシングを行う人(自分)はフォーカサー、聞き役はリスナー、フォーカサーを積極的にフォローする聞き役はガイドと呼びます。
(1)フォーカシングの手順
E.T.ジェンドリンによる技法としてのフォーカシングのやり方は、以下6つの手順があります。
- 間を置く
- フェルトセンスを見つける
- ハンドルを見つける
- ハンドルとフェルトセンスを共鳴させる
- フェルトセンスに尋ねる
- フェルトセンスを受け取る
フォーカシングを行うためには、まず気持ちを落ち着かせて、自分の内側に注意を向け、自然と浮かんでくる「気になること」をただ感じてみます。色々なことが浮かぶかもしれませんが、それぞれ深く考え込まずに間を置くことが大切です。
「これが気になるなぁ」と感じることを1つ選んで、自分がどんな気持ちになるのか、どんな感覚を持つのかを感じてみてください。フェルトセンスを感じたら、その感覚に合いそうな名前やイメージとなるハンドルを探し、フェルトセンスとハンドルがしっくりくるかを吟味しましょう。共鳴してみた結果しっくりこない場合は、再度フェルトセンスに合いそうな名前やイメージを探してみます。
フェルトセンスとハンドルがしっくりきたら、「この感覚の何が気になるのか」「この感覚のメッセージは何か」などを問いかけて、フェルトセンスから返ってくる感覚や変化を受け止めるようにします。
フォーカシングを終えるときは、身体感覚に尋ねて終えても良い感覚があれば終わりにします。フェルトセンスを感じる際はイライラや否定などネガティブさが浮かび上がってくることもありますが、「イライラするよね」「否定したくなるよね」など自分の感覚の一部として認めると、落ち着いて受け取りやすくなります。
(2)フォーカシング指向心理療法とカウンセリング
フォーカシング指向心理療法は、人の体験過程を重要視するフォーカシングを応用した心理療法です。技法としてのフォーカシングのやり方はマニュアル化されていますが、フォーカシング指向心理療法としては明確に決まっているわけではなく、色々な心理療法や技法の中で体験過程と向き合えるように促します。
フォーカシング指向心理療法を行うためのベースには、クライエントが安心して話せる感覚が重要です。どのような流派のカウンセリングでも共通することですが、カウンセラーと信頼関係を築き、しっかりと気持ちを聴いてもらえる体験があってこそ、自らの心の内に向き合いやすくなります。フォーカシング指向心理療法では、クライエントが自分の体験に意識を向けられるようにカウンセラーからアプローチすることもありますが、フォーカシングすることを強調するものでもありません。
カウンセラーとの関係性の中で、クライエントが自然と体験過程に触れられることを大切にします。カウンセリングの場では、内省力を深めて自己理解を促したい場合やストレス対処のために気づきを得たい場合、自分自身と向き合いたい場合など比較的心の健康度が高い人で行うことが多いでしょう。
4.まとめ
フォーカシングは変化をもたらそうと意識するものではなく、自分の感覚と向き合い、内側にある心の声を聴く1つの機会となります。今の自分の状態を確認し、自分の感じていることに気づいてみたい人は、自分のフェルトセンスを大切にしてじっくり味わう時間を作ってみてください。
(株)心理オフィスKではいわゆる「技法としてのフォーカシング」は行っておりませんが、自分自身の体験や思いを重視し、それらを取り扱うようなカウンセリングは行っています。希望者は以下の申し込みフォームからご連絡ください。
文献
この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。