アルコール依存症(アルコール使用障害、アルコール使用症)についての原因、症状、診断、治療、カウンセリングなどを解説しています。
目次
アルコール依存症とは
アルコール依存症(アルコール使用障害、アルコール使用症)とは、長期間にわたり過剰な飲酒を続けることで生じる、アルコールに対する身体的・精神的な依存状態のことです。アルコール依存症は、肝臓や脳などの重篤な障害を引き起こすことがあります。治療には、医師やカウンセラーによるサポート、禁酒治療薬、カウンセリングがあります。
アルコールは健全に飲めば百薬の長となりますが、過度に飲みすぎると精神的にも身体的にも多くの損傷を負ってしまいます。それ以外にもその人の家族関係や社会的な関係を損ない、孤立に至ってしまうことも多いです。
WHOによると全世界で20億人がアルコールを消費しており、そのうちの3.8%にあたる7630万人がアルコール依存症と診断されるとしています。また、有病率は4%前後のようです。これまでアルコール依存症は治らない病気と言われてきましたが、特に治療はせずとも25%ほどが寛解に至るようです。
治療を1年間継続した患者に限って言えば35%が良好な転帰を示しています。そこまでではなくても、飲酒をしない日が全体で128%増え、アルコール消費量が87%低下しています。一方で11%ほどは病状が維持もしくは悪化し、それが数年にもわたって持続してしまう患者もおり、単純に楽観視はできないようです。
アルコール依存症を含めた依存症についての全般的な解説は以下のページをご覧ください。
よくある相談の例(モデルケース)
50歳代 男性
Aさんは、妻に勧められて初めてカウンセリングを訪れた。Aさんは長年会社勤めをしてきたが、10年ほど前に職場での人間関係に悩み、ストレスを紛らわすために晩酌の量が増えていった。次第に飲酒が日課となり、休日には朝から飲むようになった。当初は「仕事の疲れを癒すため」「ストレス解消の一環」と自分に言い聞かせていたが、気づけば飲まないと落ち着かず、手が震えるようになった。家族からの指摘にも耳を貸さず、仕事に支障をきたして休職することになった。
Aさんの生育歴には、厳格な父親と感情表現の乏しい家庭環境があった。幼少期から「男は弱音を吐くな」と言われて育ち、自分の感情を抑えることが当たり前だった。そのため、人に頼ることや感情を吐露することが苦手で、仕事や家庭での葛藤を一人で抱え込みがちだった。
休職後、妻と娘の強い勧めで精神科を受診し、アルコール依存症との診断を受けた。断酒のための入院治療を経て、自助グループにも参加するようになったが、「他人に自分のことを話すのが苦痛だ」と感じ、すぐに通わなくなってしまった。その後、精神的な支えを求めてカウンセリングを申し込んだ。
カウンセリングでは、まずAさんの飲酒に至る背景や、どのような状況で飲酒欲求が強まるかを丁寧に聴き取った。並行して、幼少期から現在に至るまでの感情の抑圧や孤独感にも焦点を当てた。最初は抵抗が強かったが、少しずつ自身の感情に気づき、言葉にする力を取り戻していった。家族との関係も改善し、今では感謝の気持ちを伝えることも増えたという。
現在は断酒を継続しつつ、定期的なカウンセリングで感情の整理と再発予防の支援を受けている。Aさんは「飲まなくてもやっていける」と感じるようになり、再就職にも前向きな意欲を見せている。
アルコール依存症の診断
DSM-5におけるアルコール使用障害の診断基準には、アルコールへの渇望、アルコール量の増大、断酒のしばしばの失敗、アルコールによる社会生活への支障、などの基準があります。
そして、その基準を2つ以上満たせば、アルコール使用障害と診断されます。簡単に要約しましたが、詳細は外部サイトの以下のDSM-5 精神疾患の分類と診断の手引の書籍に詳しく記載されています。
Aさんは「飲酒のコントロール困難」「離脱症状」「強い飲酒欲求」「生活の飲酒中心化」「問題があっても継続」といった複数の項目がICD-10の依存症診断基準に該当します。
アルコール依存症の治療
(1)薬物療法
アルコール依存症の薬物療法は、断酒の継続を助け、再発を防止するために用いられます。
主な薬剤としては、飲酒時に動悸や吐き気など不快な身体反応を引き起こすジスルフィラム(シアナマイド、ノックビン)があり、「飲んだら体調が悪くなる」という条件づけによって飲酒への抵抗感を高めます。また、アカンプロサート(レグテクト)は、脳内の神経伝達物質のバランスを整えることで、飲酒欲求(渇望)を抑える作用があります。さらに、ナルメフェンは、報酬系に働きかけることで「飲みたい」という衝動を軽減します。
加えて、抑うつや不安が強い場合には、抗うつ薬や抗不安薬が併用されることもあります。これらの薬は単独での効果よりも、心理社会的支援と組み合わせて使用することで、より高い治療効果が期待されます。
Aさんの場合、本人の希望により薬物療法は実施されませんでした。
(2)グループ療法
アルコール依存症の回復支援において、自助グループやデイケアは重要な役割を果たします。自助グループ(例:断酒会やAA)は、同じ問題を抱える人々が体験を分かち合い、相互に支え合う場であり、孤立感の軽減や再発防止に効果があります。
一方、デイケアは医療機関などで日中に通所して行うリハビリ的なプログラムで、生活リズムの安定、対人関係スキルの回復、再就労への準備などを目的としています。これらは断酒継続の土台となる社会的な支援環境を提供します。
Aさんは断酒会に参加はしましたが、大勢の前で自身のことを話すことが苦痛だったため、続きませんでした。
(3)カウンセリング
計画的にデザインされた実験計画により実証されたアルコール依存症・アルコール使用障害に対するカウンセリングは18技法が特定されています。以下がその順位です。
- ブリーフ・インターベンション
- 動機づけ強化法
- コミュニティ強化法
- カップル行動療法
- 行動契約
- ソーシャルスキルトレーニング
- 行動セルフコントロールトレーニング
- 認知行動療法
寛解後の再発防止に対するアプローチではいくつかのレビューはあるようですが、見解にまだ一致は見られていないようです。また、AA(アルコホーリクス・アノニマス)などの自助グループについてのたくさんの研究はありますが、データに偏りがあり、結果も一致しておらず、体系的な研究が今後必要のようです。ただ、12ステップ促進療法はある程度、効果が支持されているようです。それぞれの療法は専門的なものですので、スーパービジョンを受けているような臨床心理士に依頼することが必要となります。
アルコール依存症に対する一般的なカウンセリングは、単に飲酒をやめることだけを目的とするものではありません。たしかに断酒は治療の重要な柱ではありますが、カウンセリングの本質的な目的は、なぜ飲酒に頼らざるを得なかったのかという背景や、依存に至るまでの心理的・社会的な要因を明らかにし、根本的な回復と再発の予防を図ることにあります。アルコール依存症は、しばしばストレスへの対処の困難さ、感情の抑圧、過去のトラウマ体験、自己評価の低さ、孤独感、さらには家族や職場での人間関係の問題などと深く関連しており、単なる「意志の弱さ」や「習慣」の問題にとどまりません。
そのためカウンセリングでは、まず現在の生活状況や飲酒行動を詳しく振り返りつつ、どのような場面で飲酒欲求が高まるのか、どのような感情が引き金となっているのかを丁寧に整理していきます。初期の段階では、飲酒衝動に対する対処スキルや再発予防のための行動計画を一緒に立てながら、安心して話せる関係性を築くことを重視します。そのうえで徐々に、感情の扱い方や自分自身の理解を深める作業へと進んでいきます。
カウンセリングはまた、断酒を続けるためのモチベーションを維持するための支えともなります。一人では乗り越えにくい孤独感や無力感に寄り添い、否定されずに話せる場があることが精神的な安定をもたらします。さらに、家族との関係を見直し、信頼関係を再構築するきっかけにもなり、依存症からの回復において大きな力となります。
Aさんは、当初は感情を表現することに強い抵抗がありましたが、継続的なカウンセリングの中で、感情を抑え込む傾向に気づき、それが飲酒に結びついていたことを理解しました。徐々に感情を言葉にできるようになり、飲酒以外の対処方法を身につけることで断酒を継続できるようになりました。さらに、家族との関係も改善し、信頼の回復が断酒の大きな支えとなっています。
アルコール依存症についてのよくある質問
アルコール依存症について相談する
アルコール依存症・アルコール使用障害に関する原因、症状、診断、治療、カウンセリングなどを解説しました。
当オフィスでもアルコール依存症に対するカウンセリングを行っていますので、希望される方はご連絡ください。
文献
この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。