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ハーム・リダクションとは:概要、効果、メリット、アプローチ法について解説

薬物依存やアルコール依存などの依存症は患者に対して身体的・精神的なダメージだけでなく、家族や仕事など社会的にも大きな影響を与えます。そのため、薬物依存やアルコール依存に対して、断薬や断酒を行いその使用を中止することで対応がされてきました。

しかし、近年では効果が限定的になってきたことの反省から、使用を中止しなくても、使用により生じる身体的・社会的な悪影響を減少させる「ハーム・リダクション」と呼ばれる考え方が欧米を中心に広まってきています。

1.ハーム・リダクションとは

ベッドの上でコーヒーを飲む女性

ハーム・リダクション(Harm Reduction)とは、薬物依存や薬物乱用に対するアプローチ法の一つで、その使用を中止することが不可能・不本意である薬物使用のダメージを減らすことを目的とし、必ずしも薬物の使用量が減少または中止することがなくても、その使用により生じる健康・社会・経済上の悪影響を減少させることを主たる目的とする政策・プログラムとその実践です。少し複雑な定義ですが、より簡単に説明すると、薬物を「やめる」ことを目的とするより、薬物使用によるダメージを防ぐことに焦点を当てることが特徴です

薬物依存症では、薬物自体の依存症状の他にも、注射器の回し打ちによるHIV感染症やC型肝炎などの血液を介した感染症の拡大が問題となります。ハーム・リダクションの考え方に立つと、薬物使用は中止できなくても、清潔な注射器を配布したり、使用済みの注射器を回収する注射器交換プログラムなどを行い、注射器の回し打ちを避けて感染症を防ぐことで、薬物依存によるダメージを軽減することが目標となります。

2.依存症(嗜癖)の種類

座って悲しんでいる女性

依存症(嗜癖:しへき、英語では「addiction」)とは、アルコールや薬物などの特定の物質や、行動(ギャンブルなど)へのコントロールが効かなくなり、やめたくてもやめられない、ほどほどにできない状態のことを指します。代表的な依存症には、アルコール、薬物、ギャンブルやゲームなどがあります。

(1)アルコール依存症

アルコールを繰り返し多量に摂取した結果、アルコールがないと精神面や身体面に影響が表れ、仕事ができなくなるなど生活面にも支障が出てくる状態です。精神的な影響としては、お酒を飲みたいという強い欲求が沸き起こり、飲酒のコントロールがつかず節酒ができなくなる、飲酒に1日の大部分の時間を消費し飲酒以外の娯楽を無視する、などが挙げられます。

身体的な影響としては、アルコールが切れてくると手の指がふるえたり、多量に汗をかいたりといった離脱症状が起こります。

(2)薬物依存症

覚せい剤や麻薬(コカイン、ヘロイン、LSDなど)、シンナー、睡眠薬などを乱用した結果、精神的な影響や身体的な影響が表れてくる状態です

薬物をやめたいのにやめることができず、薬物を確保するために時間やお金を使うようになり、その他の社会的、職業的な活動に興味がなくなってしまいます。また、アルコール依存症と同様に、薬物がなくなると手がふるえたり、汗をかいたりといった離脱症状を認めます。

(3)ギャンブル依存症

パチンコやスロットなどのギャンブルにのめり込んでしまい、やめようと思ってもやめられない依存状態になります

最初は、ギャンブルに勝ったときに脳内の「脳内報酬系」と呼ばれる部位からドーパミンという快楽物質が放出され、幸福感や気持ちよさを感じていますが、依存状態になるとドーパミンに鈍感になり、ギャンブルの勝ちだけでなく食事や趣味なども楽しいと感じられなくなってきます。さらには勝ちを追い求める結果、最後には貯金を使い果たし、経済的・社会的な生活が破綻してしまいます。

3.ハーム・リダクションの効果やメリット

三人の若い女性

前にも説明したようにハーム・リダクションでは、特定の物質や行動を絶対的に禁止せずに、それらによって引き起こされる様々な健康被害や弊害を減らすことを目的としています。実際にもたらされる効果としては、

  • 個人の健康リスクを減少させて早期の死亡を予防する
  • 個人の健康水準を維持し、高める
  • 特定の物質の使用や行動に関係する軽犯罪などをできる限り減少させる
  • 特定の物質の使用や行動自体を減少させる

などが挙げられます。

具体的に薬物依存症のケースで考えると、薬物使用者のHIV感染、AIDSによる死亡、薬物過剰摂取による死亡という深刻な危害を劇的に減少させたり、薬物使用に関連するケンカ・騒動などの軽犯罪を減らしたりすると同時に、薬物の使用自体も減少させる効果が報告されています。また、ハーム・リダクションのプログラムにつながっていることが、適切な情報・相談支援や医療支援・行政サービスにつながりやすくし、薬物問題の深刻化を防ぎ、断薬へと動機づけられることも期待できます。

日本は、「ダメ、ゼッタイ」というキャッチコピーに代表される薬物乱用防止の啓発や、厳罰主義による対応を主に推進してきた、先進国の中では珍しい国です。違法薬物依存者は犯罪者として扱われ、人権が尊重されず辱めを受けることになります。その結果として、依存症に対する誤解や偏見が助長され、必要な支援が受けられず孤立して生活状況が悪化し、必要な支援や治療が受けられなくなる、といった悪循環が生じてしまいます。

世界の先進国もかつては厳罰主義で対応していましたが、それではうまくいかなかった反省に立って大きく報告転換を行い、欧州を中心にハーム・リダクションの考え方が広まってきました。依存症患者をひとりの尊厳ある人間として関わることで、孤立から救い出し、必要な支援や治療を実践していくこと、これがハーム・リダクションの真の効果といえるでしょう

4.ハーム・リダクションのアプローチ方法

男性と診察をする医師

薬物依存症に関するハーム・リダクションのアプローチ方法として、下記に代表的なものを挙げて説明していきます。

  • 注射針・注射器の交換プログラム
  • 公認の注射場所の提供
  • 代替麻薬の提供
  • 断薬を条件としない住宅サービスや就労プログラムの提供
  • 薬物を過剰摂取を予防する教育や、過剰摂取時の拮抗薬投与

ヘロインなどの薬物を静脈注射で使用する習慣のある人は、注射器の回し打ちによるHIVなどの血液を介した感染症のリスクが高くなっています。注射針や注射器を無料で交換するようなサービスを提供したり、公認の注射室を用意したりすることで、HIV感染のリスクを低下させる効果や、孤立している薬物依存者に対して必要な支援につなげるきっかけを作ることが期待できます

ヘロインによる薬物依存に対しては、メタドンやブプレノルフィンといったより安全な薬剤を代わりに使用することで、身体に対するダメージや離脱症状を軽減することができます

アルコール依存に対するハーム・リダクションの具体的な方法としては、減酒治療があります。これは、すぐに飲酒をやめることができなくても、飲酒による身体的・社会的なダメージを軽減することを目的としています。アルコール分の少ないお酒を選んだり、お酒を小ぶりなグラスで飲んだりするなど飲酒習慣を改善させる方法から、最近ではナルメフェン(商品名:セリンクロ)という抗酒薬により飲酒に対する欲求を抑える方法も行われています。

5.まとめ

医師と話す男性

薬物依存やアルコール依存に対して、使用を止めることなく、使用による身体的・社会的な悪影響を減らす目的で行われる「ハーム・リダクション」と呼ばれる考え方は、注射器の無料交換サービスや公認の注射場所の提供により、HIV感染症などのリスクを減らすなどの効果が期待できます。また、薬物依存患者に対して、偏見を持たずに尊厳を持ってアプローチしようとする「ハーム・リダクション」の概念は、精神的・社会的に孤立しやすい薬物依存患者へ必要な支援や治療を提供する上で重要になっています。

(株)心理オフィスKではハーム・リダクションを行っているわけではありませんが、依存症や嗜癖をもつ方のカウンセリングを行っており、より良い生活や人生に立て直すお手伝いをしています。当オフィスでのカウンセリングをご希望の方は以下の申し込みフォームからご連絡ください。

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