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醜形恐怖症のカウンセリングと治療

問題は美醜にはない

醜形恐怖症は、以前は「身体表現性障害」の中に分類されていましたが、新しい診断基準であるICD-11では強迫性症候群のひとつに入れられています。

身体表現性障害というのは神経症の範囲になる病気ですが、強迫性症候群というのは強迫性障害をもう少し拡大した概念で、醜形恐怖症だけではなく、抜毛症や、ためこみ症、皮膚むしり症がこの中に加えられました。強迫性障害の特徴である「強迫行動」「強迫観念」などがこれらの疾患に関係がある、と言ったデータに基づいた変更だと考えられます。また、その中でも醜形恐怖症は不安増強に関わる認知的プロセスが優位であると言われています。

この記事ではその醜形恐怖症について解説します。

1.醜形恐怖症とは

女性の顔

醜形恐怖症は、自分の容姿が普通以上に醜いと感じ、周りから嫌われたり恥ずかしく思われたりすることに対する異常な恐怖心を持つ症状です。鏡を見ることや人前に出ることが苦痛になり、日常生活に支障をきたすこともあります。

特に顔や頭などの身体的な部分について強いこだわりを持ち、そこが大変歪みを持ち、醜いのではないかと何度も繰り返し考えてしまいます。そして、考えてしまうだけではなく、他者と比較したり、何度も鏡を確認したり、時には整形手術を繰り返したりすることもあります。他者から見ると、特に問題のない外見であるにもかかわらず自身の身体の欠点を知覚し、 それに囚われることで臨床的な苦痛や生活上の支障が生じるという疾患であることが、最大にして最も大事な特徴であるといえます。

悩む部位としては顔面や頭部が一般的です。特に、皮膚・鼻・髪が多いと言われています。本邦においては特に瞼に関する悩みが多く、他国に見られない特徴であるといえます。平均して生涯で5-7箇所について思い悩むと言われています。

1日に何時間も悩みに囚われ、25%の患者は1日8時間以上も費やしていることもあります。また、悩む部位が身体全体に及ぶこともあり、西洋の男性も多い筋肉醜形恐怖として、自分の体が過度に小さく貧相で十分な筋肉量がないという観念に囚われる種類もあります。

患者の23〜38%は病識が欠如しており、妄想的な信念を持っています。ただ、妄想的と言っても統合失調症のような妄想とは異なります

併存疾患としては、うつ病・社交不安障害・強迫症・物質使用障害の併発が多いと言われています。しかし、他の精神疾患と比較しても、自殺企図のリスクは2倍以上高いため注意が必要です。

成人の一般人口における有病率は、1.9%と言われています。50人に1人となると、意外と多いといえるでしょう。青年期に限定したとしても、有病率は成人の一般人口と同等の1.7〜2.2%になります。精査では、女性が2.1%、男性1.6%と女性が優位に見えますが性別の差は見られませんでした。

平均発症年齢は16歳前後で、青年期に発症すると成人期に発症するよりも自殺に至る可能性と妄想的な信念を伴う率が高いと言われています。

虐待との関連があると考えられており、それが原因であるから平均発症年齢が16歳と比較的若くで発症するのではないかと考えられます。

ちなみに醜形恐怖症の上位カテゴリーである不安障害については以下のページをご覧ください。

2.醜形恐怖症の原因

泣いている二人の子ども残念ながら、醜形恐怖症になる原因は、明確には分かっていません。生物学的なことだったり、心理社会的なことだったり、複合的な要因をもって発症すると言われています。

しかし、虐待・暴力・トラウマ体験との関わりが深いことが分かっています。醜形恐怖症の患者さんにおいて、心理的ネグレクト68%、心理的虐待56%、身体的ネグレクト33.3%、身体的虐待34.7%、性的虐待28%と、こういった虐待を受けたことのある人が一般の人よりも明らかに多いのです

そして、「この人はひょっとして醜形恐怖症なのではないか」と気づかせてくれる単語があります。それは「醜い(みにくい)」という単語です。若い女性や男性が自分の容姿を否定するときに、通常であれば、「可愛くない」「美人じゃない」「ブスだ」「ブサメン」などの言葉を思いつくのではないと思うのですが、彼らは一様に「私は醜いから」と言います。この「醜い」という言葉を使うような年齢ではないため、違和感がとても残るのです。この単語も、覚えておいて損はないでしょう。

このことについては、「醜い」という言葉を日ごろから使うような年代の人に容姿について言われるような虐待を受けた可能性というのも残るのですが、醜形恐怖症に被虐待児が多いとはいえ、全く虐待を受けていない人も含まれるわけですから、「醜い」というこの年齢で使うには不自然な単語は、醜形恐怖の特徴と言えます

3.醜形恐怖症の経過と予後

老婆醜形恐怖症は経過中に、33〜76%は何らかの美容医療を受けています。しかし、美容的介入で満足することはほとんどなく、「修正した」ところとはまた別のところを欠陥や欠点としてあげつらっていきます。そのため、美容的介入を行うことは全く治療的ではありません。一時的な満足を得られることも、ないことすらあります。

また、醜形恐怖症は青年期に発症すると、成人期に発症するよりも自殺に至る可能性が高いです。また、他の精神疾患としても自殺企図のリスクは2倍以上高いため注意が必要です。そういう意味では、予後の良い疾患とはいいかねます。

4.醜形恐怖症の診断

顕微鏡をのぞく女性診断基準としては、以下に当てはまることが条件です。全てに当てはまる必要はありませんが、「特徴」のところで述べさせてもらった症状など、ある程度の症状は揃う必要があります。DSM-5による診断基準は以下になります。

醜形恐怖症のDSM-5による診断基準

  1. 1つまたはそれ以上の知覚された身体上の外見の欠陥または欠点にとらわれているが、それは他人には認識できないかできても些細なものに見える。
  2. その障害の経過中のある時点で、その人は、外見上の心配に反応して、繰り返し行動(例:鏡によく確認、過剰な身繕い、皮膚むしり、安心希求行動など)、または精神的行為(例:他人の外見と自分の外見を比較する)を行う。
  3. その外見へのとらわれは、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
  4. その外見へのとらわれは、摂食障害の診断基準を満たしている人の、肥満や体重に関する心配ではうまく説明されない。

引用:DSM-5

5.醜形恐怖症の治療

相談に乗る女医薬物療法とカウンセリング(認知行動療法)が症状を軽減する方法として挙げられています。いずれが優れているのかはエビデンスはありませんが、多くは併用しながらの治療になります。

(1)醜形恐怖症の薬物療法

抗うつ薬の中では、レクサプロ(エスシタロプラム)が症状改善効果に加えて再燃抑制効果も示唆されています

その他に、三環系抗うつ薬のクロミプラミンやモノアミン酸化酵素阻害薬、オーラップが有効であったという報告がありますが、確定的なことは不明です。

(2)醜形恐怖症のカウンセリング

醜形恐怖症のカウンセリングでは認知行動療法や、その知見を利用したケアを行うのが一般的です。醜形恐怖症は実際の風貌の良し悪しや美醜が問題ではありません。醜形恐怖症の認知の偏りだったり、部分を過度に強調してしまったり、自信のもてなさだったり、不安耐性の低さだったりが、本質的な課題となっています

ですので、認知行動療法ではそうした側面を取り上げ、醜形恐怖症の患者さんと話し合いながら、協働関係を築いていくことが必要になっていきます。また、醜形恐怖症の患者さんは他者の視線や関係を回避してしまう傾向があります。そうしたことについて、曝露療法(エクスポージャー)などを利用し、不安を下げていく方法なども有効でしょう

さらに、醜形恐怖症の患者さんは幼少期の虐待などが影響している場合もあります。そのため、トラウマインフォームドケアの視点を持ちながら関わる必要があります。そして、しっかりとそこに向き合う準備を整えつつ、トラウマに焦点を当てたカウンセリングである、EMDR(眼球運動による情報処理療法)やPE(持続的エクスポージャー)などを実施することも一つです。

6.醜形恐怖症についてのカウンセリングを受けるには

泣いている女性と慰めている2人の女性醜形恐怖症の概要、原因、経過、予後、特徴、診断、治療、カウンセリングについて解説しました。醜形恐怖症は不安障害・強迫性障害の一つであり、妄想症状ではなく、その背後にある不安や自身のなさ、トラウマが重要なポイントとなります。そのため、そこを焦点にあてた治療やカウンセリングをすることで改善の可能性があります

(株)心理オフィスKでも醜形恐怖症に対するカウンセリングを行っています。カウンセリングを希望される人は以下のフォームから必要事項を書いて、お申し込みください。

参考文献

この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。