ペットロスとは?失われたペットと向き合うための心理学的アプローチ
親愛なる家族や恋人、友人を喪失した際には、深い悲しみで落ち込むことがありますが、私たちは普段飼っていた何年間も共に暮らしたペットに対しても、同じような感情を持ちます。家族のように一緒に過ごしたペットとの別れや死に対して、悲しむことは自然な行動であり、こうした反応を「ペットロス」と呼んでいます。
今回は、そのようなペットロスについて説明していきます。
目次
1.ペットロスとは?
ペットロスとは、親愛なるペットを亡くした体験そのものやそうした喪失体験に伴う飼い主の悲しみや苦しみの感情を指しています。
ペットロスは、決して珍しいことではなく、犬や猫などペットを亡くした飼い主や飼育員であればだれでも体験するごく自然な反応ですが、中には悲しみや苦しみの感情が重症になってメンタル不調や身体疾患に発展する場合もあります。
最近では、「ペットロス症候群」という言葉を聞く機会が増えて、以前は「使役動物」として飼われていたペットたちが、時代ごとに「愛玩動物」や「伴侶動物」という立ち位置までペットの社会的地位や重要性が認められるようになってきました。さらに、近年では、核家族化や少子化など人間社会の環境が変化して、家族としてペットを迎えるケースが増えて、動物医療レベルやペットサービスの質も同時に向上したことで、ペットの平均寿命は長期化する傾向にあります。
そうすると、ペットの寿命が伸びて飼育員がペットと一緒に過ごす時間も自然と増える分だけペットが亡くなって飼い主がペットを喪失する時の悲しみが一層大きくなると考えられます。ペットと死別してから4ヶ月後でも、医師を必要とするような精神状態の可能性がある人が40%存在したという事例も報告されています。
ペットロスは、ペットの飼い主であれば誰しもに起こる可能性がありますが、あまりにも症状が長い期間克服できないようであれば、適切な対処が必要であり、然るべき対処を取らなければペットロスの症状は継続する恐れがあります。
2.ペットロスによって引き起こされる症状とは
ペットロスによって、精神的、身体的にさまざまな変化や症状が認められることがあります。ペットロスが起こると、飼い主は深い悲しみに陥り、罪悪感や抑うつといった感情変化が引き起こされることも少なくありません。
心理的には、涙もろくなる、罪悪感や不安感に襲われる、目の前の物事に集中できない、何事にもやる気が湧かない、そわそわして落ち着かない、悲哀や孤独感が強くなってパニックに陥る、死んだペットの姿がふと見えるなどの精神的症状が出現する場合があります。
また、身体的には、食欲不振、不眠、嘔気、頭痛、頭重感、肩こり、めまい、倦怠感、皮膚に蕁麻疹が出るなどの症状を認めることがあります。
様々な感情の混乱を呈する中で、ペットの死を認めて十分に理解して克服することが特に困難な飼い主においては、深い悲しみや喪失感からうつ病などの精神疾患や心身の負担が重なって心臓病などの身体疾患を発症する場合も想定されます。
3.ペットロスを乗り越えるために必要な、家族や友人へのサポートの仕方とは
自分の周りの家族や友人がペットロスに陥ったとき、どのようにサポートして接したらよいか戸惑うケースもあろうかと思います。
ペットロスの人を慰めるときには、なるべく一緒に時間を過ごして亡くなったペットの話を聞く、ペットの死後の処理を協力して心の支えになれるように努めることが重要です。本人と周囲との感情のギャップをなるべく少なく出来るように、あるがままに飼い主が悲しむことができる環境づくりを整備することが手助けの一つの方法となります。
一方で、ペットロスの家族や親友には、すぐに新しいペットを勧めるなど何らかの行為を強制させない、あるいはペットに対する理解の乏しい安易な言葉でペットロスの人に接しないことも大事なポイントです。
安易に新しいペットを飼うように提案すると価値観の違いに戸惑う場合もありますし、ペットが亡くなってからまだ1ヶ月未満など早い段階で新たなペットを迎えると、そのペットを十分に愛せなくなり虐待に繋がる可能性なども指摘されています。
4.ペットロスを抱える飼い主が知っておきたい、悲しみの乗り越え方とは
ペットの死に対しては、その死を弔って向き合い、心の整理をマイペースにつけることが大事であり、例えばペットの葬儀を行って、ペットの死を近しい人の死と同様に扱い、ペットに対しての愛情と感謝の気持ちを表現することも有用です。
葬儀の機会では、亡くなったペットと共に過ごす最後の時間であり、ペットの死を現実として自分なりに受け入れて、素晴らしかった暮らしを振り返ることができますし、家族や友人などと自分の感情や喪失体験を共有することで、悲しみを和らげることが期待できます。
ペットとの別れに遭遇したときに自然と湧き上がる悲嘆や不安な感情に伴って、引き起こされる心の変化や異なる生活環境とうまくつき合っていくことも重要なポイントです。
一般的に、ペットが亡くなった場合には、共にその死を悲しみ、偲んでくれる人が少ない傾向があるために、悲嘆や悲哀な感情が長引くことがあり、それらの感情を、自分だけでコントロールすることは易しいことではありません。悲しい感情を少しでも緩和するために、周囲に救いを求めてペットの話を聞いてもらうことで気分が落ち着き、現実を受けとめて感情の制御がしやすくなることが期待できます。
ペットロスに陥ったときには、涙を流すなど感情を素直に表現する、定期的に軽い運動をする、知人とおしゃべりをする、ペットの葬儀をしてお墓を作る、ペットの写真でアルバムや本などを作ることなどを意識して取り組んでみましょう。
ペットの死に直面してどうしようもなくつらい感情に襲われる時には、無理せずに自分の感情に嘘をつかずに自然な形で悲しむことが、ペットロスを克服する際に重要です。
同時に、ペットロスを経験したことのある親友や気の知れた友人と様々な思い出話などを共有することで、有益なアドバイスを相談できますし、孤独感を感じずにペットロスを乗り越えていくことができます。
新しいペットを飼い始めることも、ペットロスの悲しみを乗り越える際にひとつの手段となります。新しいペットを迎えることは、ペットロスの軽減や克服につながり、新しい生き甲斐が生まれて、世話することが飼い主の行動力や意欲につながるとともに、亡くなったペットにしてあげられなかったことを後悔だけで終わらせず、活かせると考えられています。
ただし、新しいペットを迎えるには気を付けなければならないこともあります。従来のペットとの別れの直後など悲しみや苦しみの感情がひどい時期に新しいペットを飼い始めて余計にペットロスの症状が悪化する、あるいは新しいペットを深く愛せないなどの懸念事項もあるので、タイミングを間違えないように注意しましょう。
5.まとめ
人生においてもっともつらい出来事のひとつとして、「大切なペットの死」が挙げられます。ペットを愛する飼い主にとって、長い時間を一緒に暮らしてきたペットの死は、近しい家族や友人の死と同様に非常に辛くて悲しいものです。
ペットロスは、ペットと一緒に時間を過ごした人にとっては誰にでも起こる自然な反応ですので、ペットロスがどのような状態であるかを知り、出現する症状や対処策などを予め把握して、症状が重くならないように工夫することが重要なポイントとなります。
ペットロスの症状は時間が経過するにつれて、徐々に改善していくことが期待されますが、万が一にも症状が長く続いて、重くなって精神疾患や身体疾患を発症する疑いがあれば、専門医療機関を受診する、あるいはカウンセラーに相談するなど手立てを講じてください。