動機づけ面接をめぐって
動機づけ面接に関する3冊の著作の書評を書いています。動機づけ面接とは、アルコールやギャンブルなどの依存症を治療するために開発されました。これまでのように単に叱責や励ましだけで関わるのではなく、開かれた質問や是認といった独自の技法をつかいながらチェインジ・トークを引き出し、動機づけを高めていく心理学的な技法です。
1.動機づけ面接法 基礎・実践編
ウイリアム・R・ミラー、ステファン・ロルニック(著) 松島義博、後藤恵(訳)「動機づけ面接法 基礎・実践編」星和書店 2007年
動機づけ面接法とは、これまでのアルコール依存・薬物中毒・ギャンブル依存のクライエントに対して対決的で、指示的で、強制的な対応をしてきたことへのアンチテーゼとして、クライエント中心療法をベースに、クライエントがより良い選択をできるように援助する方法として成立してきました。
クライエントは変わりたい気持ちと現状維持したい気持ちの両方があり、その両価性の中で葛藤しています。そして変わりたくない気持ちに揺れ動いた時は今までなら「抵抗」とされていたものが、それはカウンセラーがまずい対応をしたというサインであると捉えなおし、カウンセラーの対応をまずは検討しなければならない、と動機づけ面接では理解されます。
そして、そのような矛盾を拡大し、クライエントが自ら変わる必要性を感じていくことを援助していきます。その際、「チェインジ・トーク」というクライエントが変化をしていくことに重きを置く発言をドンドンとしてもらうように援助することが大事であるとされています。
このことから分かるように、動機づけ面接ではクライエントとカウンセラーの協働性を、クライエントのリソースを引き出す喚起性を、クライエントが自主的に決断する自律性の3つを重んじています。
両価性を尊重し、矛盾を拡大し、葛藤を感じてもらうこと。抵抗を病理ではなくカウンセラーのまずい対応のサインと理解すること。自ら変わることを目指すチェインジ・トークを引き出すこと。これらを面接の中で行っていきます。その為の具体的な技術が以下のとおりです。
- 開かれた質問
- 振り返りの傾聴
- 認めて肯定する
- 要約して締めくくる
- チェインジ・トークを引き出す
その際
- 質疑応答の落とし穴
- 一方の立場を擁護する落とし穴
- 専門家の落とし穴
- レッテル貼りの落とし穴
- 機が熟す前に焦点を当てる落とし穴
- 責める落とし穴
の6つの落とし穴にはまらないように気をつけるべきであるとされています。
また、チェインジ・トークで呼び覚ます開かれた質問では、
- 現状維持の不利益
- 変わることの利益
- 変化に対する楽観的な態度
- 変化を決断する意思
の4つの側面に焦点を合わせると良いとされています。
そして抵抗が表れた場合には先には進まずにそれをまずは受け止め、対応しなければなりません。そのいくつかの方法として、
- 振り返り
- 焦点を移す
- 違う視点で言い換える
- 少し意味を変えて同意する
- 個人の選択とコントロール(統制権)を強調する
- 歩調を合わせて進む
があります。
その他に変化のための自信を深める対応として
- 自信の測定0~10
- 過去の成功を振り返る
- 個人の内的資源(長所)と援助
- ブレインストーミング
- 情報と助言を提供する
- 違う視点で言い換える
- 変化が起こったものと仮定する
- 自信を示す言葉に応答する
などがあります。
これらの対応で両価性が少しずつ解決し、変化への行動が増えてくるようになります。しかし、それに楽観しすぎることもよくありません。特にこのような段階になった時に
- 両価性を過小評価する
- 過剰な指示を与える
- 不十分な指示しか与えない
というようなことをカウンセラーがすると、またクライエントは元の状態に戻ってしまうことになります。
このような危険性をしっかりと理解しつつ、以下のような対応が求められます。
- 要約する
- 情報や助言を与える
- 目標を定める
- 変わる方法の選択肢を考える
- 計画を立て、要約する
- 変わる決意を引き出す
- 他の技法に移行する
このような動機づけ面接は、依存や中毒関係のクライエントに対して特に効果があり、さらに治療の初期に動機づけ面接をするのとしないのとでは改善率や中断率に大きな違いが出てくるようです。
ただ、技術面を主にここでは書きましたが、クライエントをカウンセラーの思う方向に持っていくことが動機づけ面接ではなく、クライエントが自分自身の人生の価値に沿った選択をし、より自由に、より豊かに人生を歩めるように援助することが大事であり、その根底にはクライエントに対する共感があることを認識しておかねばなりません。
2.動機づけ面接法実践入門
ステファン・ロルニック、ウィリアム・R・ミラー、クリストファー・C・バトラー(著) 後藤恵(監訳) 後藤恵、荒井まゆみ(訳)「動機づけ面接法実践入門 あらゆる医療現場で応用するために」星和書店 2010年
前著である「動機づけ面接法 基礎・実践編」では、主に基本的な背景や理論を中心述べられていましたが、その続きである本書では、主に技法・技術面について、実際の臨床場面で生かせることができるように作られています。
動機づけ面接の主な技法には、質問・傾聴・情報提供があり、これらの3つをどのように効果的に使うのかが特に重要です。従来の医療のように必要なことだけを説明し、あとはクライエントに任せるというだけではなく、協同作業を行い、動機を引き出していき、自ら責任をもって自主的に行動していけるように促していきます。そのためのキーポイントとしてチェインジ・トークがあり、それらはレベルに応じて、願望・能力・理由・必要・決意・行動に分類できます。特に決意をし、実際の行動に移すことが確かに必要ですが、それ以前の4つの分類がクライエントの口から出てくることを援助することも同時に重要なのです。
さらに、本書では個別の面接だけではなく、組織やシステムをも対象にした章を一つ設けており、組織改革の一つの支柱として動機づけ面接を置くことができるとしています。なかなか壮大なところまできているようです。
3.方法としての動機づけ面接
原井宏明(著)「方法としての動機づけ面接 面接によって人と関わるすべての人のために」岩崎学術出版社 2012年
動機づけ面接は、なかなか治らないアルコール依存症や薬物依存のクライエントのために開発されたものであり、行動療法的な側面と来談者中心療法的な側面があります。この技法の名称から動機を引き出したり、植えつけたりすることをイメージされがちですが、実際にはそうではなく、クライエントが本来の進むべき道を自分で見出していくようにサポートする方法です。
ただ、この動機づけ面接は何十セッションも継続して行うことで効力を発揮するものではなく、ほとんど数セッションだけでことたりるものです。ただし、時間の経過によってその効力は徐々に少なくなります。そのため、インテークや初回面接などの最初に動機づけ面接を実施し、その後、何か特定の技法や戦略につなげていくような使い方が良いようです。
本書は動機づけ面接のマニュアル本ではなく、この本を読んで、動機づけ面接が身に着けれるようなものではありません。ただ、動機づけ面接の歴史や方法論が整理されて記載しており、その全体像をつかむ上では大変有用です。さらに付録として動機づけ面接のいくつかの尺度も掲載されており、今後の研究や習得をしていく上で役に立つのではないかと思います。