起立性調節障害とは自律神経に関与する病気の一種で、朝の起床が困難だったり、頭痛、気分の不調、倦怠感などが出現します。しばしば子どもに見られることがあり、不登校の原因になってしまったりもします。
ここではその起立性調節障害について解説していきます。
起立性調節障害とは
起立性調節障害の概要、原因などについて解説します。
(1)概要
起立性調節障害は、起立すると血圧が急激に低下し、めまいや失神、動悸などが生じる症状です。若い女性に多く、原因は自律神経の調節機能の異常と考えられています。診断には起立試験が用いられ、治療には運動療法や食事療法、薬物療法があります。生活習慣の改善や身体的ストレスを軽減することも大切です。
起立性調節障害(OD:Orthostatic Dysregulation)になると、自律神経がうまく機能せずに、立つ、座るといった単純な行動においても血圧や脈拍が急激に変化し、めまい、立ちくらみ、動悸、頭痛などの症状が起こってしまいます。
日常生活で立ったり座ったりする行動の中で、私達の体では自律神経が血圧や脈拍などの循環動態を調節して急に血圧が変化しないようになっています。しかし、起立性調節障害ではそうしたところに障害が発生しています。
また、朝方に起こることが多く、そのため学校への登校などに支障がでてしまうことがしばしばあります。それが強くなると不登校になることもあり、そうなると日常生活への支障はかなり大きいといえるでしょう。
起立性調節障害は身体表現性障害の下位カテゴリーです。身体表現性障害についての詳細は以下をご覧ください。
(2)よくある相談の例(モデルケース
10歳代 女性
高校生のAさんは、小学高学年のころから朝の起きづらさが目立つようになり、高校生になると朝の登校が困難になる日が増えていった。特に朝は強い倦怠感や立ちくらみ、動悸、吐き気などの症状が出る一方で、午後になると比較的元気になることが多かった。当初は「怠けているのでは」と家族や学校から誤解され、無理に登校させようとしたことで、Aさんはさらに心身の不調を訴えるようになった。通学できない自分を責め、家族との関係もぎくしゃくし、徐々に引きこもりがちになっていった。
地域の小児科を受診したところ、問診といくつかの検査を行い、医師から「起立性調節障害(OD)」と診断され、自律神経の働きを整えるための薬が処方された。同時に生活習慣の見直しや水分・塩分の摂取、規則正しい睡眠といった基本的な指導も行われたが、症状の改善は限定的で、精神的な落ち込みが目立つようになっていった。主治医の勧めもあり、心理的な要因の評価とサポートのため、当オフィスへのカウンセリング申し込みがなされた。
初回面接では、Aさんは自分の状態を「どうせ誰にもわかってもらえない」と語り、感情をあまり表に出さない様子が見られた。カウンセラーは、まずAさんの身体症状が心理的ストレスと深く関係していることを説明し、症状を否定せずに丁寧に聴き取る姿勢を大切にした。回を重ねる中で、Aさんは友人関係の悩みや、親との関係で感じていたプレッシャーなどを少しずつ語るようになり、自身の「頑張りすぎる性格」に気づいていった。
また、並行して家族面談を行い、保護者に対しても病気の理解を深めるとともに、Aさんへの対応を見直していく必要性を伝えた。特に、無理な励ましや比較ではなく、今の状態を受け止めて見守ることの重要性が共有されたことで、家庭内の雰囲気にも変化が見られるようになった。
1年ほどのカウンセリングを経て、Aさんは自分の気持ちや限界を少しずつ言葉にできるようになり、午後からの登校を再開。学校側とも連携し、無理のない範囲で活動できるよう調整したことで、現在は徐々に安定した生活を取り戻しつつある。
(3)原因
どのような原因で自律神経の機能不全が起こるのかは、いまだにはっきりとした原因が判明していませんが、半数以上に遺伝的な要因を認めます。その他には生活習慣の乱れ、周囲からのストレスなどが発症に大きな影響を与えていると考えられています。
年齢的には小学校高学年〜中学生に多く見られ、自律神経の機能不全が生じる原因として心理的なストレスが関与していることが多くなっています。
小学生から中学生の思春期に発症することが多く、軽症な例を含めると小学生の約5%、中学生の約10%が罹患していると考えられています。重症の起立性調節障害では日常生活に大きな支障をきたすため、不登校やひきこもりを起こすことが明らかになっています。
Aさんは小学生の頃から朝が起きづらいということがあり、それもあって生活習慣はバラバラになってしまっていた。また、過度なプレッシャーやストレスも合わさり、起立性調節障害になったと推測される。
起立性調節障害の症状
人の体は立ち上がった際に、重力によって血液が下半身に移動し、一時的に心臓に戻る血液の量が減ってしまうため血圧が低下します。急激な血圧の低下を防ぐために、自律神経の一つである交感神経が働き、下半身の血管を収縮させ、心拍数も増加させます。しかし、起立性調節障害では自律神経がうまく機能しないため、血管の収縮や心拍の調節などに異常を来たして血圧の低下が起こり、それに起因した多種多様な症状が現れます。
起立性調節障害の主な症状は、立ちくらみやめまい、起床困難、動悸、頭痛、疲労感、倦怠感など多岐にわたりますが、症状によって大きく4つの種類に分かれます。
Aさんは以下の4つの症状が全て見られていた。特に強い倦怠感や立ちくらみは強い様子であった。
(1)起立直後性低血圧(Instantaneous Orthostatic Hypotension: INOH)
起立性調節障害の中で最も頻度が多く、立ち上がった直後に一時的に血圧が低下するタイプです。
血圧の低下に伴って強い立ちくらみや全身倦怠感を生じます。
(2)体位性頻脈症候群(Postural Tachycardia Syndrome: POTS)
このタイプも頻度は多く、立ち上がった直後の血圧低下は目立ちませんが、脈が早くなり(頻脈)、ふらつきや倦怠感、頭痛などの症状が現れます。
立ち上がったあとの下半身への血液貯留に対して、交感神経の興奮が過剰となることが原因と考えられています。
(3)神経調節性失神(Neurally-Mediated Syncope: NMS)
立っている途中に突然血圧が低下したり、脈拍が遅くなったりすることで立ちくらみや、ひどい場合は気を失って倒れ、失神をしてしまうようなタイプです。学校の朝礼や集会で立っているときに倒れてしまうようなことがしばしばありますが、多くの場合はこの神経調節性失神が原因と考えられます。
原因はやや複雑で、前に説明したように起立時には血液が下半身に移動することで交感神経が緊張しますが、これにより逆に副交感神経である迷走神経の働きが活発になり血管が拡張して心拍数が減少します(これを迷走神経反射と言います)。その結果、頭へ行く血流が減少して失神してしまうのです。
(4)遷延性起立性低血圧(Delayed Orthostatic Hypotension: DOH)
このタイプは1.で説明した起立直後性低血圧に近いですが、立ち上がってから数分以降に血圧が徐々に低下していき最終的にふらつきや立ちくらみの症状が出現します。1や2のタイプに比較して頻度は少ない傾向にあります。
起立性調節障害の診断
ここでは起立性調節障害の診断やチェックリストなどについて解説します。
Aさんは医師の問診の他、以下のような検査やチェック項目を実施し、起立性調節障害と診断されました。
(1)起立性調節障害のチェックリスト
起立性調節障害の診断は、まず詳細な問診により症状を聞き出し、疾患を疑うところから始まります。
以下のチェックリストに該当するところを「ある」に、該当しなければ「ない」にチェックを入れてください。
3点以上の場合、2点でも症状が強い場合、起立性調節障害が強く疑われます。