臨床心理士とは
こうしてネット上で臨床心理士・カウンセラーを名乗っていると色々な人から質問が来ます。中でも「カウンセラーになりたいんですけど、どうしたらいいですか?」「カウンセリングができるようになりたい」という質問を時折受けます。ですので、今日はちょっとそれについて書いてみようと思います。
目次
カウンセラーの資格
公認心理師の資格ができ、2019年に第一号が誕生しました。ただ、この資格がなくてもカウンセラーは名乗れるし、カウンセリングをすることができます。ですから、どんな人でも明日から「私はカウンセラーです」と名乗れます。そこに法律的な違法性は全くありません。ですが、カウンセリングができないのにカウンセラーと名乗るのは問題ありそうです。
ですので、カウンセラーになるには、カウンセリングをできるようになるためには最低限の知識や経験を身につける必要があります。さて、その知識や経験をどこで身につけるのが良いのか、ということになります。巷では2~3回の講座を受講するだけで○○カウンセラー資格をもらえる!とかいった資格商法があったりするようです。カウンセリングの勉強というのはそんなにお手軽なものではないと思います。
人の人生や一生に付き合っていかねばならないとても大変なお仕事です。そこには人格が良いとか、人生経験があるとか、病気になったことがあるからよく理解できるとか、人の相談に乗るのは得意ですとかだけでは難しいです。ですから、カウンセリングの基礎である一般的な心理学から学ぶ必要があります。
カウンセラーの資格としての臨床心理士
ここでは、臨床心理士の資格取得からカウンセラーの仕事を考えていきます。
では、具体的にどこで学ぶ方が良いのかの話に移ります。一番初めの入り口としては大学学部で心理学部や心理学科や心理学専攻などと標榜している大学で学ぶことが良いでしょう。そこで4年間をかけて、さまざまな心理学について学びます。実験心理学、性格心理学、社会心理学、認知心理学、統計学、臨床心理学などなどです。ここでは「私はカウンセラー志望なので、臨床心理学とカウンセリング心理学だけを学ぶ」といかいうのは危険です。
というのも、それらは心理学の中でも応用中の応用なので、それ以外の基礎系をまずはしっかりと身につける必要があります。土台を作らずにビルを作ってはいけません。まずは基礎工事をしっかりとした方がよいでしょう。特に統計学や実験はとても大切です。一見、臨床と無関係のように見えるかもしれませんが、こういう基礎をすることで科学的思考を身につけ、個人的主観だけにとらわれず、物の見方が広がり、自分でものを考えられるようになります。
巷の専門学校や講座ではこういう基礎をしっかりとカリキュラムに入れているところはまずないので、このあたりは大学に行くしかありません。日本産業カウンセリング協会認定の産業カウンセラー資格を発行する講座も比較的しっかりしていますが、このあたりの基礎はカリキュラムにはあまり含まれていません。
中には、心理学ではない大学に通っていたり、すでに卒業してしまっている人がいるかと思います。そういう人がまた一から大学1年生をするのは大変です。ですので、3年次編入学というのがあります。これは学士の資格を持つ人が対象ですが、2年間で大学学部を卒業できるので、時間的・経済的にもかなり楽になると思います。しかし、労力的には4年分の勉強を2年間でこなしていかなければいけないのでかなり大変になると思います。バイトや趣味をしている時間は無いのでその点は覚悟してください。
こうして大学学部で心理学の基礎勉強を終えることができました。これで次の日からカウンセラーとして生計を立てていけるか、どこかの現場に就職することができるか、ということですが、まずできません。狭き門であれば、国家公務員1種や地方公務員上級で心理職に就くことは可能ですが、とても難しく、学部レベルの知識ではなかなか合格は難しいのが現状です。
もし仮に猛勉強して合格したとしても、仕事をする上では圧倒的に他の人たちに劣っているので、仕事をしながらまたさらに猛勉強をする必要があります。かなり大変なようです。
大学院でカウンセリングを学ぶ
そこで一般的には大学院でさらに学ぶことが必要となってきます。どの大学院が良いのかという判断はなかなか難しいですが、日本臨床心理士資格認定協会が指定している大学院が無難かと思います。臨床心理学・カウンセリングを学び・研究する上での最低限のカリキュラム・設備・教官が整っているからです。といっても、それは最低限をクリアしているだけです。ですから、指定校だから完璧ということではありません。指定大学院の中にもピンからキリまでありますので、ゆっくりと吟味する必要があります。
大学院に入学するための試験ですが、最近は心理学・カウンセリングブームが過ぎ去ろうとしていますが、まだまだ倍率は高いようです。受験科目はそれぞれの大学院によってかなり違うと思いますが、大抵は論述・英語・面接の3つはあると思っておいた方が良いでしょう。ちなみに大学院入試への受験資格は学士をもっているだけで良いので、理論的には心理学専攻以外の人でも受験できます。しかし、これも上で述べた編入と同じで、学部4年間+院2年間=6年分を大学院在籍の2年だけでこなしていかなければいけないので、かなり大変です。どちらにしても基礎からは逃げられないわけです。
大学院に無事合格するとそこから2年間の研修と研究が待っています。学部では学生でしたが、大学院は研究機関なので、研究員という立場になります。すでに研究家としてはタマゴです。そこでは受身的に授業を受けるのではなく、自ら積極的にテーマを見つけ、論文を読み、研究していかねばなりません。
さらに大学院以外にも研究会や学会に参加していくことが求められます。さらに、臨床心理学・カウンセリングの研修は始まり、現場実習などもあります。実際に病院や施設などに出向いて実地でカウンセリングの研修を受けます。中にはそこでケースを担当することもあるかもしれません。もしカウンセリングを担当する場合にはかならずスーパービジョンと言われる上級者による指導を受ける義務(責任)があります。そこで臨床の腕を磨いていきます。
そして大学院2年生になると本格的に修士論文を書いていかなくてはいけません。学部の卒業論文とは比べ物にならないぐらい高度なレベルを要求されます。
大学院修了後にカウンセリングの仕事をする
そういう講義・研究・研修・修論に追われているうちにあっというまに大学院2年間は修了になります。修了後は、一種指定校であればその年に、二種指定校ならば次の年に臨床心理士の試験を受けることができるようになります。それに向けての勉強をしていくわけですが、たいていの人は卒業後に就職して、現場で働きます。
領域としては、医療・教育・司法・福祉・産業・開業があります。最近では職場の雇用に比して、カウンセラーは余り気味なので、就職率は極端に低いです。また、就職できたとしても、パートやアルバイトがほとんどであり、常勤はほとんどないといっても良いでしょう。さらに、給料はとても低いです。下手をすれば普通に大卒で働いているサラリーマン1年生よりも低いです。
その上、保険や福利厚生がしっかりとしているところなどありません。また、少ない給料から学会に行く費用や、専門書購入費用、スーパービジョンを受ける費用などを捻出しなければいけないので、家がよっぽど裕福でない限り、貧乏生活をしなければいけません。高学歴・低収入の見本です。そういう厳しい状況の中で仕事をし、臨床経験をつんでいきます。
そういう生活を1~2年続け、臨床心理士の資格試験となります。ここで、大学学部・大学院・現場で学んだ様々な基礎知識と応用知識とカウンセリングの技量を試されます。ただのガリ勉をしただけでは解けないような問題も出てきます。その試験に合格してやっとカウンセラーとしてのスタートとなります。
臨床心理士取得後もカウンセリングの研修を積む
ここでなぜスタートなのか疑問に思われた方もいるかと思います。「ゴールじゃないのか?」という声も聞こえてきそうです。しかし、ここはスタートです。臨床心理士資格を取ることで完璧に仕事ができるわけではありません。この資格はただカウンセリングをする上で、最低限の基礎と能力と倫理を兼ね備えているかを判断するだけで、優秀なカウンセラーであることを証明するものではありません。
ですから、臨床心理士を取得してからも研修は続きます。それも、学生ではないので、自己研鑽です。昼は仕事、夜は勉強というのがほとんどです。また、研修会参加や学会活動で、日曜日もないです。そういう絶え間ないカウンセリングの研鑽を積むことがクライエントを迎え、カウンセリングを行う人間としての責任であり、義務です。
こうしてみると、カウンセラーという職業、カウンセリングを生業とすることはとても大変なものです。学部から数えて最短で7~8年もかかり、それでもまだ未完成というのですから。でも、よくよく考えると、クライエントというのはもっと長い間、病に苦しんできたり、悩んできたりしているわけですから、1~2年の勉強だけでそういうクライエントさんの援助ができるとはとうてい思えません。2~3日の講座で資格取得してもどれほどカウンセリングができるか疑問です。
カウンセラーになることと臨床心理士になること、カウンセリングができるようになることはそれぞれイコールではありませんが、カウンセラーとしてやっていくには臨床心理士資格は最低限必要なものです。この臨床心理士ですらもっていないことのでは話にもなりません。また、臨床心理士をもっていることだけで自慢になることでもありません。
カウンセリングの研修は大変
というふうに色々と書いてきましたが、これからカウンセラーを目指そうと考えている人はもしかしたら「大変そうだ」「難しそうだ」と思われたかもしれません。しかし、カウンセラーとしてクライエントと向き合い、カウンセリングをおこなっていくことはもっと大変で難しいことです。臨床心理士の資格を取ることぐらいでへこたれているようではカウンセリングをすることはできません。
基礎の勉強なんかいらない、資格なんかいらない、カウンセリングの勉強だけするんだ、という人もいるかもしれませんが、かならず頭打ちにあいます。そして、それに気づくぐらいならまだ見込みもあるでしょう。が、全く頭打ちにあっていることに気づかずに、盲目的に続けている人はどうしようもありません。
もう一度いいますが、カウンセリングを学ぶには基礎からしていかねばなりません。さらに、長い年月をかけて研修をし、身銭を切って、自己研鑽します。そして苦労の末に臨床心理士を取ったとしても、それは終わりではなく、スタートです。そして、カウンセラーとしてやっていけたとしても、報われるとか、楽しいとかいうことは全く無く、逆に辛いことのほうが多いかもしれません。それを覚悟するのであれば、カウンセラーになるために頑張ってください。ある種、カウンセラーやカウンセリングはとてもやりがいのある仕事だと思います。
臨床心理士についてのよくある質問
臨床心理士は、心理学の専門知識と技術を活用して、クライエントが抱える心の問題や困難に対して適切な支援を行う専門家です。具体的には、心理的なカウンセリングや心理検査を通じて、クライエントの感情や思考の問題を理解し、それに対するアドバイスや支援を提供します。臨床心理士は、心の健康を支えるために、個々の問題に応じた専門的な技法を用いて、クライエントの自分自身の力を引き出すことが求められます。
臨床心理士になるためには、心理学の大学院を修了し、所定の実習を経て、国家試験に合格する必要があります。この資格は、臨床心理学の専門的な知識や技術を学び、実際の現場での経験を積むことによって得られます。大学院での学びを通じて、クライエントとの接し方や心理的な支援の方法、心理検査や治療技法についての理解を深め、資格取得後には医療機関や学校、企業など、さまざまな現場で活動することができます。
臨床心理士は、主にクライエントの心理的問題に対して支援を行います。その業務内容には、カウンセリングや心理検査、心理療法などが含まれます。カウンセリングでは、クライエントが抱える問題や悩みを聞き、その背後にある心理的な要因を理解し、解決策を見つけるためのサポートを行います。また、心理検査では、クライエントの心理的特性や問題を客観的に把握し、その結果をもとに支援方法を考えます。こうした支援を通じて、クライエントの心の健康を向上させることが目的となります。
臨床心理士と公認心理師は、いずれも心理的な支援を行う専門職ですが、その資格取得方法に違いがあります。臨床心理士は、日本臨床心理士資格認定協会に指定された大学院で臨床心理学を学び、所定の実習を経て資格試験に合格することで資格を得ます。一方、公認心理師は、心理学の大学を卒業し、大学院を修了した後、国家試験に合格することで資格を取得します。どちらも心理的支援を提供しますが、資格取得に必要な学習期間や実務経験が異なります。
臨床心理士のカウンセリングは、クライエントの心の問題に焦点を当てて行われます。カウンセリングは、クライエントが抱える感情や思考に関する悩みを理解し、その問題を解決するために支援を行うプロセスです。具体的には、話しやすい環境を提供し、クライエントが自分の気持ちや考えを自由に表現できるようにサポートします。カウンセリングの方法は、対話を中心に、認知行動療法や心理療法など、クライエントの状態に合わせたアプローチを取ることが一般的です。
臨床心理士の心理検査は、クライエントの心理的な状態や特性を客観的に評価するための手段です。心理検査には、知能検査や性格検査、発達検査などがあり、クライエントの心理的な側面を幅広く測定します。これにより、クライエントが抱える問題を理解し、その問題に対する適切な治療や支援方法を導き出すことが可能になります。心理検査は、カウンセリングや心理療法の効果を測るためにも利用されます。
臨床心理士のカウンセリングの期間は、クライエントの問題やニーズによって異なります。軽度のストレスや悩みであれば数回のセッションで効果を感じることもありますが、深刻な心理的な問題や長期間にわたる支援が必要な場合は、長期的なカウンセリングが必要になることもあります。カウンセリングの回数や期間は、クライエントとの協議のうえで決定されますが、一般的には数週間から数ヶ月の間にわたって行われることが多いです。
臨床心理士のカウンセリングが保険適用になるかどうかは、施設や状況によって異なります。公的医療保険が適用されるケースとしては、医師の診断に基づき心理的支援が必要とされる場合や、医療機関での治療として行われる場合です。民間の保険については、各保険会社の方針により、心理的支援をカバーしている場合もありますが、事前に保険会社に確認することをお勧めします。
臨床心理士のカウンセリングは、医療機関やクリニック、心理学専門のカウンセリングルームなどで受けることができます。また、オンラインカウンセリングを提供している施設も増えており、自宅にいながらにしてカウンセリングを受けることができる場合もあります。カウンセリングを受ける場所は、クライエントの都合や希望に応じて選ぶことができるため、地域の心理オフィスや専門機関に問い合わせてみるとよいでしょう。
臨床心理士のカウンセリングは、各施設の公式ウェブサイトや電話で予約を受け付けています。多くの施設では、オンラインでの予約システムも導入しており、インターネットを通じて簡単に予約を行うことができます。また、予約の際に、カウンセリングの目的や希望する方法(対面・オンライン)を伝えることで、より適切な支援を受けることができます。予約後は、事前にカウンセリングの準備を行うことをお勧めします。
スーパービジョンや教育分析、セミナーを受ける
大学院を修了後、臨床心理士として、カウンセラーとしての訓練にはスーパービジョンや教育分析、セミナーがあります。これらの訓練を受けることにより、臨床力は向上します。クライエントに対する責任としても訓練を続けることは義務であり、倫理でもあります。
当オフィスではスーパービジョン、教育分析、セミナーを提供しています。臨床力を向上させたいという方はお申し込みください。