認知行動療法の技法
認知行動療法は様々な理論や方法が織り重なり、組み合わされ、融合され、認知行動療法として一つにまとめられてきました。そのまとめられ方の軸は「効果的かどうか」の一点に集約されます。
つまり、使えるなら入れるし、使えないなら入れない、という極めて臨床的な感覚です。ですので、背景理論や理念が違っていたとしても同居を許す、というものです。そして雑多な技法を組み合わせ、ターゲットとなる症状や問題に即して認知行動療法的技法をアレンジしていきます。
以下に認知行動療法で使われる技法を一つずつ解説します。
目次
1.認知再構成法
認知行動療法の代表的な技法で、読んで字のごとく、認知を新たに再構成する技法です。人の非合理的で、非機能的な認知によって問題が発生しているのであれば、そこに合理的で、機能的な認知を付け加えていき、問題を解決していきます。
具体的にはコラム法というワークシートを使います。7つの列からなるコラム法を用い、出来事、気分、自動思考、根拠、反証、適応的思考、今の気分を記入します。こうしたワークシートに記入しながら、認知の変容を促します。
2.エクスポージャー法
主にパニック障害や恐怖症などの不安障害に対して使用する技法です。日本語では曝露法と言います。不安に思っていることを避け続けることで、ますます不安になってしまいます。ですので、不安から逃げずに、向き合い続けます。これを曝露と言います。これによって最初は不安は高まりますが、徐々に順応し、不安なことに向き合っても、そこまで不安が高まらなくなります。
3.曝露反応妨害法
上記のエクスポージャーに反応妨害法をミックスさせたものです。主に強迫性障害に対して使用されます。強迫性障害は不安を刺激する出来事に直面した時、それを避けるだけではなく、儀式的で、取り消しをするような過剰な行動を行います。そのため、避けてしまうことに対して、エクスポージャーを行い、取り消し行動に対して反応妨害法を行います。
例えば、不潔恐怖の人が何かを触ったとします。すると、それを取り消そうとするために、何時間も手を洗い続けます。その手洗いが儀式的行為、取り消し行動です。ですので、その手洗いをすることを止め、手洗いをしなくても不安が下がることを体験してもらいます。これが曝露反応妨害法です。
4.行動活性化療法
特にうつ病の方に使用する方法です。うつ病の方は意欲の低下のため、活動性が低下します。活動性が低下すると、ますます抑うつ症状を強めてしまいます。そこで、活動性を高めることが必要となってくるのですが、その時にこの行動活性化療法を使います。
行動活性化療法では、できる範囲から行動を増やし、徐々にさまざまな活動ができるようにしていきます。行動や活動の結果、快の体験を得ると、それが報酬となり、さらに行動や活動が増えていきます。
5.社会技能訓練(SST)
主に統合失調症や発達障害などで使用される技法です。Social Skills Trainingといい、SSTと略されることが多いです。このSSTでは、主にロールプレイという練習をしながら社会技能を身に付けていきます。社会技能は非常に幅広く、人との関係や社会の中での振る舞い方、職場のなかでの行動の仕方など多岐に渡ります。SSTは少人数のグループで行うこともあれば、個人で行うこともあります。
6.問題解決療法
問題解決療法とは、問題を解決していく方法ではなく、問題を解決するための技術を学ぶ方法です。この違いは非常に大きいのです。問題を解決していく一般的な手順や方法論を習得することにより、今後の人生や日常の中で起こってくる問題を自ら解決できるようになっていきます。
問題解決療法では、問題を整理し、細分化し、具体的な事柄に落とし込みます。そして、現実的な目標を設定し、解決策を作成します。作成された解決策を実行し、その結果を評価します。その結果の評価に基づき、さらに問題が残っていないか、その問題をどのように解決するのか、ということに取り組みます。
問題解決療法は今現在の問題を解決することが目的ではなく、問題を解決するスキルを身に付けることが目的となります。
7.リラクゼーション法
リラクゼーション法とは、身体の緊張やこわばりを弛緩させ、それを通して、気持ちを変化させていく方法です。気持ちが緊張するから身体が緊張しますが、反対に身体が緊張するから気持ちも緊張することもあります。
リラクゼーション法には様々な方法があり、代表的なものが呼吸法や筋弛緩法などがあります。呼吸法では呼吸を規則正しく行うことで身体の緊張を和らげます。筋弛緩法は筋肉から力を抜くことで身体の緊張を和らげます。
リラクゼーション法の詳細は以下のページをご覧ください。
8.アサーショントレーニング
アサーションとは自己主張のことです。自己主張は強すぎても、弱すぎても問題になってしまいます。自己主張が強すぎると、他者とぶつかり、喧嘩になります。弱すぎると自分の言いたいことをため込んでしまい、精神的な健康に悪いです。
アサーショントレーニングでは他者の言いたいことや思いも謙虚に受け止め、自身の言いたいことも適度に伝え、そして話し合いの中で折り合いをつけていくというスキルを学びます。そのために、グループの中でロールプレイなどを通してアサーショントレーニングを行うことが多いです。
アサーショントレーニングの詳細は以下のページをご覧ください。
9.アンガーマネジメント
アンガーとは怒りのことです。その怒りをコントロールすることがアンガーマネジメントになります。怒りはあまりにも強すぎると他者との関係や社会生活に支障をきたしてしまいます。しかし、一方で抑えつけてしまいすぎると、精神的に不健康になってしまいます。
アンガーマネジメントでは、適切な強度で、適切な頻度で、適切な方向性に怒りをコントロールすることを目指しています。ですので、決して怒りを無くすことを目指しているわけではありません。
アンガーマネジメントの詳細は以下のページをご覧ください。
10.系統的脱感作
系統的脱感作とは不安障害や恐怖症に対して実施される認知行動療法の一つです。恐い対象に直面すると、不安や恐怖を強く感じます。ある程度の不安や恐怖は必要なものですが、あまりにも強度が高いと日常生活に支障をきたしてしまいます。
系統的脱感作では、不安や恐怖の対象に直面した際に、リラクゼーション法を行うことにより、不安や恐怖を低減させます。これを低い不安・恐怖から高い不安・恐怖に徐々にステップアップすることにより、不安と恐怖を克服していきます。
11.バイオフィードバック
バイオフィードバックとは、身体の微細な反応を脳波や心電図などを用いて見えるようにし、それを目安にして、不安や緊張などをコントロールしていく認知行動療法の一つです。身体の感覚はなかなか自覚することが難しいので、器具を用いることでコントロールしやすくします。
12.スキーマ療法
スキーマ療法とはパーソナリティ障害など、従来の認知行動療法では効果が上がりにくかったクライエントさんの治療を目的として開発された方法です。スキーマ療法では、認知の中でも中核的な信念(スキーマ)を見つけ、変化させていきます。
スキーマには様々な種類があり、5つのカテゴリーと18個の不適応的なスキーマがあると言われています。例えば、人から見捨てられることに過度に反応してしまう見捨てられスキーマや、なにをやってもうまくいかないと常に考えてしまう失敗スキーマなどが代表的なものです。
13.弁証法的行動療法
弁証法的行動療法とは、スキーマ療法と同じように、パーソナリティ障害の治療のために開発されたいわゆる第三世代の認知行動療法です。弁証法的行動療法は禅の影響を受けており、変化することと変化しないことの揺れ動きを大事にします。そのことにより、安定的で柔軟な認知様式や行動様式を獲得するように援助します。
そのために、弁証法的行動療法では4つのスキルを身に着けるプログラムが組まれています。その5つとは、マインドフルネススキル、対人関係保持スキル、感情抑制スキル、苦悩耐性スキルです。これらを個人療法、集団療法、電話相談などを組み合わせた支援体制で行っていきます。
14.認知行動療法についてのトピック
15.認知行動療法を受けるには
ここでは認知行動療法の様々な技法について解説しました。認知行動療法は効果があるものであれば何でも取り入れてパッケージ化していく貪欲さがあります。そのため、現実的で、実践的で、そして効果的です。このあたりは思想や信念を大事にする精神分析や人間性心理学とは一線を画すかもしれません。
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