【臨床心理士、公認心理師が相談にのります】

DV被害者へのカウンセリング

暴力という支配

1.DV(Domestic Violence ドメスティックバイオレンス 配偶者間暴力)とは

DVとは配偶者や親密な関係にある男女の間で発生する暴力のことです。暴力とは身体的暴力、心理的暴力、性的暴力、経済的暴力などあらゆる形での侵害を含みます。DV被害者の多くは女性ですが、男性の場合もありえます。暴力の多くは家庭内などの密室で起こり、継続的、反復的に繰り返されます。そして、暴力のほとんどは社会場面や家庭外では起こらず、表面化しにくいという特徴を有しています。継続的にDVにさらされた被害者はうつ病、PTSD、解離性障害などの深刻な精神疾患に罹患することもあり、時には暴力のため殺されてしまったり、自殺してしまったりすることも少なくはありません。

また2020年の初頭から新型コロナウイルスのため、自宅自粛が要請されました。自宅という密室の中に長時間一緒にいるとDVや虐待が発生しやすくなると言われています。こうした時こそオンラインカウンセリングなどを利用して、専門家に相談することも必要になってくるでしょう。

(1)DVに関する統計データ

a.相談件数

以下の図1は警視庁のDVに関する相談件数ですが、平成25年以降は年々増加傾向にあるようです。

図1 DV被害の相談件数(警視庁)

図1 DV被害の相談件数(警視庁)

b.男女比

内閣府による平成29年の男女間における暴力に関する調査によると、1回でもDVの被害を経験した人は、女性で31.3%で、男性19.9%だったようです。

c.年齢別

以下の表1は年齢別による1回でもDVの被害を経験した人の割合です。サンプル数に偏りがあるので、やや信頼性に欠けますが、傾向としては年代が低いほどDV被害の経験は多いようです。

表1 年齢別のDV被害経験の数
女性男性
20歳代55.6%66.7%
30歳代45.2%63.6%
40歳代45.2%39.0%
50歳代37.5%26.0%
60歳以上21.9%26.9%

d.相談の有無

表2はDV被害にあった時、誰かに相談したり、助けを求めたのかどうかの割合を示しています。男性の約7割は相談しなかったようです。女性でも約4割が相談できていません。

表2 DV被害の相談割合
総数女性男性
相談した47.1%57.6%26.9%
相談しなかった48.9%38.2%69.5%

e.統計のまとめ

これらの統計から見えてくることをまとめると、DVの件数は毎年のように増えています。しかし、これは実数が増えているというよりも、DVが社会的に認識されはじめ、今まで隠蔽されていたDVが表面化してきている、ということでしょう。DV被害者は女性がやはり多いのは社会的ハンディキャップが未だに大きいという要因があるでしょう。ただ、DVの男性被害者もそれなりにいることは無視できません。さらに、もしDV被害にあったとしても、それを相談できないことも多く、女性で4割、男性に至っては7割が内に抱えたままになってしまっているようです。それは男女の特性もあるでしょうが、社会的な資源の少なさや認知の低さも影響していることだろうと思います。

(2)DVの構造と特徴

a.密室性

DVの多くは家庭内などの密室の中で起こります。社会的場面や家庭外でDVは起こらないとは言いませんが、非常に稀であるといえるでしょう。また、DV加害者は職業的には問題なく過ごしていることが多く、また地域では非常に温厚に振舞っています。そのため、周囲がDVに気付くことが非常に困難であり、また仮にDVが露呈しても、世間の目に映るのはDV加害者の温厚な性格なので、非常に驚かれます。時には、DVがあることが間違えではないかと言われることもあります。

家庭内でDVが発生した際、DV被害者が110番通報をして警察官が駆け付けてきても、DV加害者は警察が駆けつけてくると、急に冷静に戻り、「ちょっとした夫婦喧嘩です」と落ち着きを払って対応します。暴力を振るわれていたDV被害者の方が感情的、パニック的になり、支離滅裂になっている事の方が多いです。こうしたことからもDVであることが周囲からは見えなくさせられてしまいます。

b.反復性

DVは1回限りのものではなく、多くは反復的に、繰り返されます。そしてその繰り返し方には以下のような特徴があります。

  1. 緊張期
  2. 爆発期
  3. ハネムーン期

上記の1~3はレノア・ウォーカーが「バタードウーマン―虐待される妻たち(金剛出版)」という書籍の中で記しているものです。まず、パートナー間で緊張関係が高まり、DV被害者はDV加害者がまた暴力を振るわないかとビクビクし、それを避けようと腫れものを触るような対応をします。そして、些細なことをきっかけにして、DV加害者が暴力を振るいます。その後、ハネムーン期が来るわけですが、この時にはDV加害者は一転して優しく振舞ったり、時には謝罪したりします。またDV被害者は自分自身がいないとDV加害者はダメになると考えたり、もっとうまく対応すれば暴力は起こらないのではないかと自身の責任にしたりします。こうしたハネムーン期は長くは続かず、再び緊張期になり、びくびくとした状況になってしまいます。この1~3が永久的に続いてしまうわけです。

c.支配性

では、なぜDV加害者は暴力を振るうのでしょうか。よくある誤解が、DV加害者が衝動的で、感情の抑制がきかず、些細なことでイライラして、突発的に暴力を振るう、というのが一般的に認識されていることでしょう。しかし、よくよく考えると、DV加害者は会社や地域では全く暴力を振るわず、反対に非常に温厚に見せています。もし元々が衝動的で感情的であれば、会社や地域でも同様の暴力を起こしてしまうでしょう。また、家庭内の物音で近隣の人や警察が来た時には、先ほどの暴力が嘘かのように収まり、非常に冷静に応答をするようになります。

つまり、DV加害者は暴力を振るっている時には激高しているように見えますが、それは実はすべて計算づくであり、理性的な判断の元で暴力を振るっており、暴力をコントロールしているのです。そして、暴力は単にイライラの発散ではなく、DV被害者を支配し、コントロールするために用いられるツールの一つなのです。

暴力を振るうと、即自的にDV被害者が言うことを聞き、自身の思う通りにすることができます。DV被害者も加害者の暴力が怖かったり、止めてほしいので、暴力に屈し、DV加害者の言い分をそのまま受け入れ、その通りに行動しようとします。こうした支配によるコントロールはDV加害者にとっては非常にメリットのあることなのです。このメリットのために、暴力を繰り返し、使用し続けるようになります。

(3)DVによる被害者の影響

a.本人への心理的影響

DV被害者は長期的に暴力に晒されることになり、そのため様々な悪影響が生じます。DV被害者はDVという状況を自身の責任と感じていることが多く、自身で何とかしなければならないと内に抱えてしまいます。そして、周囲に相談することができず、社会的に孤立してしまうこともあります。

また、慢性的に暴力が振るわれる状況は一般の人からすると、逃げれば良いと単純に考えられがちですが、事態はそうは簡単ではありません。家族やパートナー間がうまく行かないことに対する世間の目は非常に厳しく、また時には多少の暴力は我慢しろ、などと助言されたりすることもあります。また、もし仮に暴力から逃げたとしても、追いかけられる恐怖は強く、元に戻されるとさらに暴力が強くなるのではないかという不安のため、逃げることがはばかられます。さらに、逃げれたとしても健全に社会生活を営め、継続的な収入が見込めない場合もあり、生活が立ち行かなくなる不安も大きいです。特に子どもを抱えているとさらに状況は困難でしょう。

こうしたことから、逃げるということが大変難しいため、DVがあったとしても、今の現状を維持する方が良いと考えてしまうようになるのがDV被害者の特徴であるともいえます。

b.本人の精神疾患の罹患

慢性的にDVや暴力を受けることにより、様々な精神疾患に罹患してしまいます。特に多いのがPTSD(Post Traumatic Stress Disorder 心的外傷後ストレス障害)です。症状としては、侵入体験、回避、麻痺、過覚醒、認知と気分の過度な変化の5つほどが表れます。また時には解離症状を呈してしまうこともあります。

その他にも不安障害気分障害、解離性障害、アルコール依存症などの精神疾患も見られます。

c.子どもへの影響

子どもにとって両親間の暴力を目撃することは直接的間接的に多大な損傷を与えてしまうことがあります。DVや暴力を目撃することも児童虐待の1つであると最近はされています。また、DVがある家庭の子どもは直接的に、身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクトに晒されるリスクが増加します。

また、暴力をモデルとし、子ども自身が暴力的になったり、権力・支配構造に敏感になり、積極的にそれに加担したりしてしまうこともあります。

虐待やDV目撃に継続的に曝露されてから大人になると、子ども自身がパーソナリティ障害などの精神疾患に罹患したり、いわゆるアダルトチルドレンになってしまったりもします。

2.DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律)について

(1)DV防止法の制定の背景

DVは非常に古くからありましたが、ほとんどが問題視されず、隠蔽され続けてきた歴史的背景があります。1970年代ぐらいからDV被害者の運動が始まりました。日本では1977年にシェルター機能をもつ全国で初めての東京都婦人相談センターが開設されました。そして、1992年にはDV全国調査が開始されました。世界では1993年に国連で「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」が採択されたのは大きな転換点となりました。その後、2001年に日本でDV防止法が成立し、その半年後に施行されました。DV防止法はその後、2004年、2007年、2013年に改正されています。

(2)DV防止法の内容

全文と附則と全6章、全30条から成っています。目次は以下の通りです。内容は内閣府男女共同参画局のホームページに掲載されています。

  • 前文
  • 第一章 総則(第一条・第二条)
  • 第一章の二 基本方針及び都道府県基本計画等(第二条の二・第二条の三)
  • 第二章 配偶者暴力相談支援センター等(第三条―第五条)
  • 第三章 被害者の保護(第六条―第九条の二)
  • 第四章 保護命令(第十条―第二十二条)
  • 第五章 雑則(第二十三条―第二十八条)
  • 第六章 罰則(第二十九条・第三十条)
  • 附則

(3)配偶者暴力相談支援センター

配偶者暴力相談支援センターはDV防止法の第2章(3~5条)に規定があり、都道府県や市区町村に設置されています。そして、目的はもちろんDVの防止やDV被害者の支援です。業務としては、緊急時の安全の確保、カウンセリング、相談、情報提供、機関の紹介、自立支援、などがあり、主に婦人相談員が勤めています。

配偶者暴力相談支援センターは平成30年4月1日の時点で、全国に279ヵ所あるようです。配偶者暴力相談支援センターに一覧があります。

ちなみに神奈川県下には5ヵ所設置されています。

3.DV被害者への支援

(1)法的支援

DV防止法やその他の法律などで規定されているDV被害者の支援に使える法制度について以下に概説します。

a.保護命令制度

・接近禁止命令

接近禁止命令とは、DV加害者がDV被害者の周りを付きまとったり、自宅や勤務先に近づくことを禁止することができます。これは裁判所に申し立てることにより、6ヶ月間有効となります。6ヶ月を経てもまだ危険がある場合には再度申し立てを行い、延長することができます。

・退去命令

退去命令とは、DV被害者が住んでいる住居からDV加害者が出ていくように命令するものです。また同時にその住居周辺を徘徊することも禁止します。これも接近禁止命令と同様に裁判所に申し立てることで2ヶ月間有効で、延長も可能です。

・電話等を禁止する命令

2007年の法改正から導入された制度で、電話や電子メールなどをDV加害者がDV被害者にすることを禁止します。電話などの通信以外にも、名誉を傷つけたり、羞恥心を害したり、迷惑行動をしたりすることなどを禁止します。その他に、DV被害者の子どもや親族、親戚への接近禁止命令もあります。

・保護命令制度の手続き

保護命令を申し立てることができるのはDV被害者で、居住する管轄の地方裁判所に申し立てます。申し立て費用は1000円と切手代です。申し立てがあると、DV被害者とDV加害者の話を裁判所が聞き、申し立てに理由があると認められれば保護命令が発せられます。申し立てから命令が発せられるまで平均して12~3日程度のようです。DV加害者が保護命令に違反した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられます。

b.避難

・住まいの秘密

DV被害者が避難した先をDV加害者が調べて押し掛けるということがあります。それを防ぐための手立てとして、「捜索願の不受理届」と「住民基本台帳閲覧制限」があります。前者はDV加害者からの捜索願を受け付けないという手続きです。後者はDV加害者が住民票などを閲覧することを禁止することで、DV被害者の住まいを探すことを避けることができます。この有効期限は1年間です。

・婦人相談所の一時保護

婦人相談所はもともと売春防止法34条によって規定された施設で、売春のおそれのある女子の指導や保護が目的でした。しかし、最近ではDV被害者の支援も受け入れています。この婦人相談所は各都道府県に1つはあり、そこで一時的に保護してもらうことができます。費用は無料です。

・民間シェルター

自治体ではなく、NPO法人などの民間団体が運営していますが、自治体と提携していたり、連携していたりします。基準や費用、中でのルールは民間なのでそれぞれのシェルターで異なります。

・母子生活支援施設

この施設は児童福祉法を根拠にもつ、児童福祉施設です。ですので、18歳未満(都道府県が認めれば20歳未満)の児童を持つ女性を受け入れています。この施設では、緊急避難が落ち着き、今後の生活を再建し、自立していくことをサポートするという特徴があります。また、自治体にもよりますが、公営住宅に優先的に入れる優先措置があるところもあります。

c.離婚

離婚は夫婦の双方が合意していれば、離婚届に必要事項を記入し、捺印をして提出するだけで離婚となります。これを協議離婚と言います。しかし、DVの場合、DV被害者は離婚を希望しているにもかかわらず、DV加害者は離婚を希望していない場合もあります。離婚そのものは合意していても、子どもの親権や財産分与の点で合意ができていない場合もあります。この場合には、裁判所に離婚調停の申立をすることになります。

調停では裁判所の調停委員会が間にはいってもらい、そこで双方の言い分などを聞き取り、話し合いとなります。この時DV被害者はDV加害者と同席することを拒否することもできます。事前に裁判所に申し入れをしておきましょう。調停で合意できれば、離婚となりますが、そこでも合意がなされなければ、裁判への進みます。

裁判へとなると弁護士に依頼することとなりますが、依頼資金を調達できないこともあるでしょう。そうした時には法テラスに相談し、弁護士費用の立て替えをしてくれる民事法律扶助を利用すると良いでしょう。

(2)経済的支援

DV被害者となる方は多くは仕事をしていなかったり、していても低収入であることが多いです。その場合、DV加害者から逃げても生活費が足りず、非常に苦労することが多いです。そうした時、経済的な支援をいくらか受けれる可能性あります。以下に主だったものをいくつか挙げます。

a.婚姻費用分担調停

婚姻費用分担調停とは、夫婦が別居となった場合、夫婦は互いに生活費を支払いあう義務があります。特に子どもがいる場合には、なおさら必要となってきます。DVで逃げた場合、話し合って合意して、生活費の支払いをしてもらえることはほとんどありません。そこで、家庭裁判所に調停を申立てることによって、DV被害者は生活費をDV加害者から獲得することができます。申立て自体は申立書と2000円程度で可能です。

b.民事法律扶助

離婚訴訟などになり、弁護士費用を支払わねばならないが、経済的に苦しく、そうしたことができないとき、この民事法律扶助を受けることによって、その費用の立て替えをしてもらうことができます。申し込みは法テラスを通すことになりますが、いくつかの基準や条件はありますので、詳しくは法テラスに問い合わせると良いでしょう。

c.児童扶養手当

離婚や死別、禁固などでひとり親家庭になった場合、この児童扶養手当を受けることができます。また離婚をしていなくても、DVなどで避難し、1年以上経過すると、DV加害者の「子どもの遺棄」として判断され、受給できる場合もあります。金額は所得によってまちまちですが、例えば子どもが1人の場合、全額支給で月4万円ほどもらえます。所得などの条件によって相当異なりますので、詳しくは自治体の窓口に問い合わせると良いでしょう。

d.貸付金制度

ひとり親家庭に対して無利子、もしくは低利率で様々な費用についての貸付を自治体が行っています。種類は以下の通りです。

  • 修学資金(無利子)
  • 修業資金(無利子)
  • 就職支度資金(無利子)
  • 就学支度資金(無利子)
  • 技能習得資金(保証人がいれば無利子、いなければ年1.5%)
  • 医療介護資金(保証人がいれば無利子、いなければ年1.5%)
  • 住宅資金(保証人がいれば無利子、いなければ年1.5%)
  • 事業開始資金(保証人がいれば無利子、いなければ年1.5%)
  • 事業継続資金(保証人がいれば無利子、いなければ年1.5%)

e.母子(父子)家庭等自立支援給付金

就職するために有利な、もしくは必要な資格を得るための授業料の2割を給付してもらえます。また、看護師、介護福祉士、保育士、歯科衛生士、理学療法士、作業療法士など資格を取得するために養成機関に通う時、高等職業訓練促進費として、生活費として非課税世帯であれば月10万円程度(課税世帯なら7万円程度)を支給してもらうことができます。詳しくは厚生労働省のサイトに掲載されています。

f.生活保護

最後のセーフティネットとして利用可能です。生活保護を受給できる条件や受給内容は年々かわっており、また地域によっても違いがあるため、詳しくは自治体の窓口に相談すると良いでしょう。ちなみに、生活保護の申請は居住地の自治体になりますが、必ずしも住民票に記載されたところに限らず、生活実態があれば申請できます。一時保護などで元の住所にいないのであれば、その一時保護の管轄する自治体への請求をします。

g.就労支援

母子家庭等就業・自立支援センター事業というひとり親家庭の親が就職し、自立していくことをサポートする機関があります。

  • 就業支援事業
  • 就業支援講習会等事業
  • 就業情報提供事業
  • 在宅就業推進事業
  • 母子(父子)家庭等地域生活支援事業

といった種類があります。横浜市であれば、ひとり親サポートよこはまが中区にあります。

またハローワークではひとり親家庭の親の雇用促進のため、ひとり親家庭の親を雇用した場合、その事業者に補助金を支給しています。賃金の一部を助成する特定求職者雇用開発助成金や、試行雇用を行った場合、一人につき月4万円、最大3ヶ月の支給をするトライアル雇用助成金などがあります。これらは求職者に支払われるものではなく、企業が雇用促進をするために企業に支払われるものです。

4.DV被害者へのカウンセリング

(1)安全の確保

カウンセリングというと、クライエントの話を傾聴し、示唆を伝えたり、時には解釈を与えて、心の変容を促す、というイメージがあるかもしれません。そうしたことは大事なのですが、それは支援の後半・後期になってから必要になってくるものです。そうしたことよりも前に大事なことは、いかにDV被害者が心身の安全を保てるのか、ということをまずは支援していかねばなりません。

日々、傷ついている時に、カウンセリングをしても効果がないどころか、時には生命にかかわります。なので、まずは安全の確保をどうすれば良いのかをクライエントと話し合うことが求められます。この時には、よくある受動的、受身的に話を聞くよりも、積極的に話をし、指示的に対応することもあるでしょう。DV加害者と同居をしているのであれば、その危険度をアセスメントし、緊急的に避難をする方が良いと助言することもあるでしょう。DVによる被害者の影響でも挙げたように、DV被害者は自罰的になっていたり、無気力、無力感に陥っていることもあります。こうした時には、単に気持ちに寄り添った傾聴だけではなく、積極的に介入し、必要な機関にリファーをしたりして繋いでいくことが必要となってきます。

どういう機関でDV被害者と出会うのかにも寄るかとは思いますが、その機関の中だけではとどまらず、関係各機関と密に連携をはかっていくことが必要になってくるのが、この段階です。また、DV被害者を支援する法的手続きはたくさんあります。実際にカウンセラーがそうした手続きをすることは少ないでしょうが、どういう法的支援があるのかといった情報提供を行ったり、そうした手続きを行えるように支えたりして、安全の確保をしていくことは可能です。

(2)安心の提供

一時保護や母子支援施設、シェルターなどに入所したり、親戚や親族の家に身を寄せて、当面の危険はないとなったら、カウンセリングではこの安心の提供の段階に入ります。

多くはDV被害のあった直後なので、クライエントによってはその恐怖心は強く、DV加害者が来るのではないかとビクビクしてしまったりします。もしくは全く反対に、変に冷静であったり、感情が麻痺してしまったりという解離状態になっていくこともありますし、妙に高い高揚感を持ったり、過度に活動的になったり、変に明るかったりするような躁的な状態になったりすることもあります。こうしたことは、実はそれほど異常なことではなく、心身にダメージを負った後によく起こる心の防衛反応であると言えます。こうした状態についてのアセスメントをしつつ、徐々に落ち着いていくことを見守る必要があります。またクライエントによってはDV加害者の元に戻ろうとする場合もあったりするので、そうならないように細心の注意を払う必要はあります。

また、DV被害者は今後の様々なことについても不安に思います。生活のこと、生活費のこと、仕事のこと、住まいのこと、子どものことなど。とくに経済的な不安は非常に強い場合があるので、どういった経済的な支援や就労支援、生活支援があるのか、といった情報を提供することで、その不安もいくらかは和らいでいくでしょう。

こうしたことによって、一定期間が経過するごとに、徐々に大丈夫であるという安心を感じられる時間が増えていきます。何か特別なことをカウンセリングでするというよりは、許容的で、受容的で、話を否定したり、遮ったりすることなく、傾聴していることが、こうした安心感を向上させていくことでしょう。

(3)自責と自罰の軽減

DV被害者は被害者であるにも関わらず、DVが起こったことやこうした事態になってしまったことについて、自身の責任であると自罰的になったり、自分を貶めてしまったりすることは稀ではありません。本来はDV加害者に向かうべき怒りや攻撃性が自己に向け返られているともいえますし、もしくはDV加害者に同一化して、自己に対してDV加害者同様に攻撃をしていると理解することもできます。他にも、本来はDV加害者が感じるべき罪悪感を押し付けられて、取り入れることによって自責的になっているとも考えられます。いずれにせよ、こうした自責感、自罰的な気持ちは健康なものではなく、非常に苦痛に満ちたものとなります。

こうした時、自罰的になっていることを否定したり、止めようとすることは反対に自罰感をさらに助長させてしまいます。なぜなら自罰的になっていることは悪いことであるというメッセージを与え、そうしていること自体が自己を否定することに繋がってしまいます。もちろん、かといって自責的・自罰的になっていることを単に肯定して、助長することもありません。

自罰的になっていることを否定も肯定もせず、DV被害者がそうした自罰的になってしまうことはある意味では自然なことであり、当然のことであるというある種の心理教育的な関わりが必要となってきます。これらをノーマライゼーションと言っても良いかもしれません。

そして、そうした関わりをしていく過程で、DV加害者の責任であることを話し合ったり、どうしようもない状況でDV被害者なりに精一杯のことをしてきたことなどを振り返りつつ、徐々に自罰と自責から抜け出ることを手助けしていきます。

(4)自己効力感の回復

安全の確保をし、安心をはぐくみ、自責から抜け出してくると、次は自己効力感の回復が主題となってきます。反対にいうと、安全、安心、自罰からの抜け出しがないと、なかなかこの自己効力感は回復していきません。

DV被害を受けていることで、自分の無力さ突き付けられていたり、何もできない、やられるがままという体験を長期間にわたって受けていると、自己効力感が無くなってしまうことは容易に想像がつきます。

今だったら何ができるか、今後同じようなことが起こったら何をすれば良いか、もし当時に戻ったとするなら何をしていたら良かったのか、など想像の中であったとしても、さまざまな対応策、対処策を作り上げていくことができると良いでしょう。それはなかなかできないようなハードルの高いものから、ちょっとした工夫まで様々なレベルでアイデアを出していけると良いと思います。たくさん出たアイデアから、実施可能性や実施コスト、困難さなどから徐々に絞っていけたら良いと思います。

また現在の日々の日常で、できることを増やしたり、生活力をつけていったり、時には物理的な筋力・体力をつけることで、さらには困った時の相談先のレパートリーを増やすことで、何もできない無力な自分から、なんとかできる頑張れる自分に自己認知が変化していくでしょう。

(5)トラウマやPTSDの解消

DV被害を受けることによって侵入体験、回避行動、感情の麻痺、否定的認知、過覚醒などのいわゆるPTSDのような症状を呈することもあります。それ以外にも、不安、抑うつ、不眠、解離、自傷、妄想幻覚、性的逸脱、身体症状などの様々な症状が祝言することもあります。こうした時、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠導入剤、時には抗精神病薬などの薬物療法をしていくことが必要な場合もあるので、医学的な治療を勧めたり、リファーしたりすることになります。そして、薬物療法によって症状が軽減することで、カウンセリングをとおして、トラウマに取り組みやすくなります。

トラウマやPTSDへの取り組み方は様々です。ランダム化比較試験などで有効性があるとされているのは、PE(持続的エクスポージャー)、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理療法)、認知処理療法などです。その他にも一部エビデンスが認められているのは、TF-CBT(トラウマに焦点づけた認知行動療法)やリラクゼーション法力動的心理療法などがあります。

上記に挙げたカウンセリングのいくつかの技法ですが、様々な治療条件やカウンセラーの技能、タイミング、相性などによって、どういう治療方針で、どういう治療方法を行うのかはかわってきます。必ずしも研究結果や研究データだけから治療方法が選択されるわけではありません。

(6)再発予防

問題が落ち着き、平穏な生活になっていったとしても、精神症状の再発や悪化などが今後起こることもあります。また、対人関係はパターン化しており、DV加害者と同様なパートナーと再び付き合いだしたり、結婚したりすることもあります。もしくは、DV加害者の元に戻ってしまうというケースもあります。フロイトは反復強迫という人間には悪いことを何度も同じように繰り返す傾向があると述べました。そして、そうした行動を支えるのが死の欲動であるとしました。そこまでではなくても、同じような恋愛対象を選び、同じような失敗を恋愛の中で行ってしまう、というのは身近に見聞きすることです。

こうした時、自身の行動が振る舞いを振り返り、また人生や生い立ちの観点から整理していくことも必要になってきます。人生の棚卸といっても良いかもしれません。こうした自分自身について振り返る、自分自身の問題を整理するということが今後の問題を予防します。こうしたことを扱うカウンセリングの技法としては精神分析的心理療法などが適しています。精神分析的心理療法などを選択される時には、教育分析や個人分析スーパービジョンを受けている臨床心理士を探すと良いでしょう。

5.参考文献

石井朝子(編著)「よくわかるDV被害者への理解と支援-対応の基本から法制度まで現場で役立つガイドライン」明石書店 2009年

「DV被害者支援ハンドブック―サバイバーとともに」朱鷺書房

DV問題研究会(編集)「Q&A DVハンドブック―被害者と向き合う方のために」ぎょうせい 2004年

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