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幼児の情緒生活についての二、三の理論的結論

メラニー・クラインの1952年の論文「幼児の情緒生活についての二、三の理論的結論」についての要約です。赤ん坊の心的体制(妄想分裂ポジションと抑うつポジション)についての総括をしています。

1.論文の背景

1950年にハイマンが「逆転移について」を発表し、クラインと逆転移の理解をめぐり対立した。また、1951年にウィニコットが「移行対象と移行現象」を発表し、これもクラインとの対立となった。

本論文は、1943年~1944年英国精神分析学会(アンナ・フロイトとの大論争)で寄稿された論文を源泉としている。幼児期の妄想分裂ポジション、抑うつポジションを系統的に公式化している。その発達初期について描写した最後の論文である。分裂と抑圧との関係を明確化し、抑うつポジションに現れる特殊な分裂を論じている。さらに敵意に満ちた結合した両親という原始的な像なども触れている。そして、サディズムが最高潮を迎える期間について変更している。

2.迫害不安の起源

乳児は内外(出産体験など)の出来事から不安を体験する。死の本能により絶滅不安(fearofannihilation)を体験し、そして、絶滅不安が迫害不安に変換される。

(1)対象関係の始まりと飽くなき貪欲という情緒

授乳体験、母親がそばにいることが、母親との対象関係の始まりとなる。

空腹感と緊張感について、クラインは、均衡が崩れた際に生じる情緒を“飽くなき貪欲(greed)”とした。飽くなき貪欲・口唇期的な特徴被害的な不安は貪欲を強め、最初期の授乳を妨げる。

(2)良い・悪い乳房との体験

欲求充足と欲求不満は、リビドー衝動と破壊衝動、もしくは愛と憎しみになる。

欲求充足させてくれる良い乳房と、欲求不満を引き起こす悪い乳房に分裂される。

原因として、自我の中での分裂過程(splittingprocesses)と、対象関係の分裂過程、自我の統合が欠如、の3つがある。しかし、生後3~4ヶ月の幼児でも、良い対象と悪い対象は別個として存在していない。母親の乳房は、良い側面も悪い側面も母親の身体の存在と混ざり合っている。

取り入れと投影による二重関係(部分対象)は、外界に攻撃衝動を投影、攻撃衝動の原因は欲求不満をもたらす(悪い)乳房から。そして、愛情を投影し、愛情は欲求を満たす乳房から。同時に取り入れられた対象(良い乳房・悪い乳房)は、超自我の核となっていく。

(3)悪い乳房が帯びているサディスティックな内容について

敵意に満ちた(悪い)乳房は幼児を口唇期的破壊衝動で攻撃。尿道サディズムと肛門サディズムは悪い乳房に向けた破壊衝動により、恐怖の内容が決定される。被害的な不安は、良い乳房との関係により中和される。これには授乳関係が重要である。その他に、微笑、手、声、抱っこなども。そして、そうした満足感・愛情は、被害的な不安を緩和、良い対象への信頼感となる。

3.幼児にみられる情緒的特徴について

(1)乳房の機能

良い乳房は乳房の理想化となる。迫害者から保護してもらうために対象の力を強める。これは不安に対する防衛である。

幻覚(万能的支配など)によって欲求が満たされる。願望充足の幻覚で機能している機制と防衛である。内外の対象に対する万能的な支配(omnipotentcontrol)、対象の分裂(splitting)と感情の分裂、否認は、欲求不満を起こす対象と悪い感情(分裂・排除された自我の部分)は消滅する。

(2)被害的な不安に持ちこたえる

対象への感情は、愛情(リビドー衝動)が破壊衝動を上回ると、過度の分裂は起きずに統合へと至る。抑うつ的な不安、罪悪感、修復(償い)は、部分対象関係(母親の乳房)において、両価性を体験する。自我の統合力が高まると、リビドー衝動による攻撃衝動の緩和が可能となる。これにより不安の軽減(正常な発達)する。

4.取り入れ同一視と投影同一視

(1)取り入れ

内的な良い乳房は愛す力・信頼する力であり、内在化良い対象・状況の取り入れを促進する。一方で、口唇期的欲望は乳房を粉々に破壊する。

被害的な不安の推移は投影の問題や口唇期・肛門期サディスティックである。排泄物は、支配母親の身体に入り対象を自己の延長とする。対象が自己を象徴している。

(2)リビドー衝動と攻撃衝動の統合によりもたらされるもの

対象に向けられる愛情と破壊衝動が統合されると、抑うつ的な不安と罪悪感と変化する。攻撃衝動に曝される内外の対象への不安は対象と同一化される。それは傷を修復し、攻撃衝動の抑制する。

自我の統合の進展は、抑うつ的な不安が増大するが、知覚の範囲も拡大する。母親を一個の全体的な人間という考えが発達し、抑うつ的不安と罪悪感が出現する。一個の人間としての母親に集中する。抑うつポジションが表立つようになる。

5.妄想分裂ポジションの特徴

取り入れと投影過程の相互交流により自我発達が決定する。極端な防衛機制は自我の発達に必要である。安定感、良い対象で迫害的不安を中和する。自我は統合され、被害的な不安を処理する。

母親との身体部分に対する関係は、一個の人間として母親との関係に移行する。

6.幼児の抑うつポジション

(1)知的・情緒的発達の変化

幼児の外的世界(人・物)に対する関係は成長・分化する。様々な自我機能も発達し、性的編成(sexualorganization)が進展する。

口唇期の衝動と欲望が支配的である。尿道期、肛門期、性器期的のリビドーと攻撃衝動は不安状況である。幻想は広がり、防衛機制は質的に変化する。対象関係の変化(総合と統合の過程)が起こる。母親の乳房(部分対象)から一個の人間としての母親(完全な対象)との関係へ至る。

(2)統合と総合によって

内在化された対象と外的対象の相異なる側面は、自我の統合も進展、愛と憎しみとの葛藤も増大する。完全な対象(completeobject)に対し、両価性を体験する。妄想分裂ポジションでの攻撃衝動は弱まり、良い・悪い対象との隔たりが消失する。愛対象を失うことは飽くなき貪欲を強化する。過度な本能欲動の抑制され、摂食、他者との関係(性愛的な関係)が正常化する。

被害的な不安を防ぐために用いられていた防衛(否認・理想化・分裂)は抑うつ不安を防いでいる(ex.躁的防衛)。不安状況での否認について、対象へ向けている愛情も否認する。良い乳房との関係からも目を背ける。これは妄想分裂ポジションへ退行しているといえるだろう。

(3)抑うつポジションにおける分裂

完全な対象は生きた対象や危機にさらされている対象になる。自我の発達は不安に対し適切な防衛をする。外的世界の理解を深まる理想化された像と恐ろしい像に歪んだ両親像は、現実的なものへ変化する。

安心できる外的現実を取り入れ、内的世界は改善し、外的世界が望ましく見えるようになる。損なわれない対象を確立し、超自我の重要な組織化が起こる。自我は発展的な形で超自我を同化する。

(4)損なわれた対象の修復

修復は生の本能が起源である。抑うつを軽減する重要な手段である。罪悪感と結びつき損なわれた対象を保護する。抑うつポジションにおいて、初期の修復傾向は万能感を伴う。

例えば「お母さんはいない、苦しんでいる。いや、そんなことは起こらない、自分はお母さんを生き返らせることができるから」と考えられる。

対象を修復する力に自信を持ち、万能感は薄らぐ。現実の適応性は内的・外的世界の安定となり、両価性と攻撃性が軽減する。

7.抑うつポジションとメランコリーとの関係

(1)抑うつポジション

基礎概念は、口唇リビドー、食人衝動、一次的取り入れ(フロイトとアブラハム)である。

抑うつポジションと喪・メランコリーとは密接な関係である。

「喪とその躁うつ状態との関係(1940)」の論文において、正常な喪は喪の作業を通して、失われた愛対象を内的に回復・定着させる。一方で、病的な喪(悲哀)は、愛対象に対する破壊や攻撃性の投影する。そして、愛対象を傷つけ、破壊したいという幻想を生む。

罪悪感や被害的な不安感が賦活する。生後1年で抑うつポジションで課題を通り抜けたか、対象を内的に定着できたかで、躁うつが決定される。

抑うつポジションの理論については以下のページをご覧ください。

(2)抑うつポジションと早期エディプス・コンプレックス

生後1年半完全な対象との関係が構築される。部分対象関係が重要な役割を果たす。性器期的な欲求が増大すると、口唇期リビドーは口唇期的欲求となる。母親の乳房から父親のペニスへ移行する。

良い乳房を母親が持っていることは、自分の望むペニスを母親が持っているという思いを形成する。性器期的欲求と口唇期的欲求により、父親ペニスの内在化(良い・悪い側面)する。

(3)羨望と嫉妬

羨望は、二者関係で起こる。良い乳房を奪い取り、悪い排泄物や悪い部分の乳房を破壊したいという衝動である。一方で、嫉妬は三者関係である。母親(or父親)は父親のペニス(母親の乳房)を奪い楽しんでいる。

結合した両親像(combintedparentfigures)とはペニスを持った女性のことである。両親との現実的な関係を発展させることで、両親を独立した個人と感じるようになる。

羨望はその後の論文「羨望と感謝」において発展させました。そのページは以下にあります。

(4)母親を失う不安と代理対象としての父親

母親を失う(抑うつ的な不安)不安は、代理対処を求める(完全な人間としての父親)。母親へ向けていたリビドーと抑うつ的な不安は父親へと移行する。正常な発達では、5歳までに被害的不安と抑うつ的不安は緩和される。1歳半の後半が重要である。そして、その後の発達と不安の緩和される。

8.発達の過程と不安

精神病的な特質の不安(迫害不安、抑うつ的不安)について、不安の変遷は発達の変遷と相互関係にある。粗大・微細運動、遊ぶ、言語発達、知的発達、清潔習慣、昇華の発達、対象関係の範囲の拡大、リビドー編成の進歩/不安とその諸防衛と密接、である。

論文「早期不安に照らしてみたエディプス状況(1945)」によると、両親に対する被害的な恐怖は、早期恐怖症(earlyphobia)と言える。両親への性器期的欲求は早期エディプス・コンプレックスである。破壊衝動による不安が著しいと前性器期に固着してしまう。

口愛的な昇華は欲しい食物・愛情を受け入れる。母親に食べさせ、母親をもとの姿に戻したいという衝動である。

性器期優位性(genitalprimacy)と象徴形成機能について。抑うつ的不安は欲望や情緒を新たな対象や関心に向ける投影、そらし、分散する。修復したい、止むにやまれぬ気持ち(背後にある罪悪)生涯にわたる。

欲望や不安が分散する。最初の対象に愛情を保持していられること昇華の達成に必要である。最初の対象に悲しみ・憎しみが支配的だと、昇華・代理対象を危険になる。

抑うつポジションでの失敗や愛する対象に加えられた破壊は、どうにもならないという絶望感となる。

9.防衛機制の変遷

早期恐怖症について、被害的な不安や抑うつであり、摂食困難、暗闇恐怖、対象関係一般への困難となる。

内的迫害者への恐怖は心気的不安である。生後2歳以降は、外的現実を通して内的な危険を吟味身体機能に対して強まった支配力を用いる。強迫機制(ex.清潔習慣、危険な大便(破壊性)に対する不安、悪い内的対象、セルフ・コントロール)と言える。

母親や保母の排便への是認は良い物へ変換される。防衛機制に抑圧が加わる。超自我の構造が変化する。

10.結論

抑うつポジションの克服への歩みを述べた。最初期は被害的不安が優勢であるが、リビドー編成が進展すると、不安が緩和される。外的世界と内的世界の取り入れと投影の過程の変化すると、自我は超自我を同化する能力を獲得する。

11.議論

1950年に共同研究者でありアナリザントでもあったハイマンと逆転移の理解をめぐって対立し、1951年はウィニコットに対しても母子関係(母子ユニット)の理解をめぐり対立した。妄想分裂ポジションと抑うつポジションを系統立てた公式を世に出すにあたって、共同研究者や身内にクライン派から逸脱する思考をするものは許せなかったのだろう。

妄想分裂ポジションにおいて、被害的不安は良い乳房との関係によって中和されるというのは、生の本能が死の本能を陵駕しなくてはならないということである。抑うつポジションにおいても生の本能と死の本能における逆転である。

自我心理学派のP.タイソン(2005)は、クラインが防衛を幅広く記述しているのに、構造論的に防衛機制を成功させることにより良い体験が悪い体験より優勢になることの方を内的調和の維持には重要とみていると述べている。分裂を始めとした抑圧などの防衛機制の記述を見ると、防衛機制について述べてはいるが重きをおいている場所は別にあることが見て取れる。

「償い」は、無意識的幻想の中で破壊衝動によって対象を傷つけてしまい、抑うつポジションにおいて対象を修復しようという感情で愛情に基づいているとされる。「羨望」に対して、「償い」という心の動きとパラレルである。

12.さいごに

さらに精神分析について関心のある方は以下のページを参照してください。