本ページでは、認知再構成法について、その定義から具体的な方法まで詳しく解説しています。この治療法には枠組みがあり、どのように取り組めばよいかということが明確なので、ひとつの技法として知っていただけると幸いです。
目次
1.認知再構成法とは
認知再構成法とは、認知行動療法の中の一つの技法で、適応的でない認知的な行動を、適応的な行動に変容させる介入をいいます。簡単に言い換えると、ネガティブな認知をより望ましい形に変容させて実際の行動を変えていくアプローチということができます。人は、頭の中で何かを考え、評価し、計画をたてながらそれらを行動に移していますが、その頭の中で思い浮かべているものを認知的行動と呼び、ネガティブな認知的行動を減らしていくことを目的としています。
認知再構成法は、認知行動療法のひとつの技法として紹介されることが多いのですが、細かく分類すると認知療法ということができます。しばしば、行動療法と認知療法は一緒に扱われ、認知行動療法と一括りにされることが多いのですが、行動療法が「客観的に観測できる行動」を対象にしているのに対し、認知療法は「目には見えない思考・認知」を対象にしているので、認知再構成法は認知療法の技法と位置づけることができます。
認知行動療法については以下のページをご参照ください。
2.認知再構成法で使うツール(コラム法のシート)
認知再構成法では多くの場合コラムというものを使用します。シートにまとめることで、ぐるぐる考えてしまっている思考を整理し視覚化します。以下にシートの例を示します。シートにはさまざまなタイプがあり、気分や確信度などを数値化して記すものや、ただ言葉で記述するだけのものもあるのですが、ここではシンプルな形のものを載せたいと思います。
表の中にある自動思考とは、認知療法の中核的な概念で、「あることが起きたときに自動的に湧きあがってくる思考」のことを指します。
①出来事 | 「それはどんなとき?」 |
②そのときの認知・考え・自動思考 | 「どのように考えた?思った?」 |
③気分・感情 | 「どんなきもちになった?」 |
④代わりとなる認知・考え(適応的な思考) | 「他にどのように考えることができる?」 |
⑤心の変化 | 「どう変わった?」 |
3.認知再構成法の効果
認知再構成法は特にうつ病の方に用いられます。ターゲットとしているのが、抑うつ的な気分であったり、ネガティブな感情、思考となっているので、必然的にそのような症状のあるクライエントさんに適用されることになります。効果研究も数多くされており、認知再構成法がうつや不安を軽減させるという効果が認められています。
4.認知再構成法のデメリット
認知再構成法はある程度その人に信念や思考が備わっているということが前提になっています。そのため、まだ未成熟な子どもに対してはあまり使用しない方がいいといわれています。子どもに限らず、重篤な精神疾患で現実検討能力が低くなっているケースでは適用が難しいとされています。
また、クライエントさん本人に治療意欲が備わっているかという点も大事になります。カウンセリングルームにきてもらいお話をするだけではなく、実生活の中でコラム表を書いてきてもらうこともあるので、課題に取り組んでいくエネルギーの有無が治療の進度に関わってくる場合があります。とはいえ、クライエントさんにすべてが投げられているわけではないので、治療者は最大限クライエントさんのペースに寄り添いながら無理のない範囲でとりくんでいくことが大切です。
5.認知再構成法のやり方
ここでは認知再構成法の大まかな流れを3つのステップで解説します。
(1)状況の同定
まず、どのような場面と望ましくない思考が紐づいているかをみていきます。クライエントさんと話をしながら場面を特定していく形と、コラム表を用いて記録してきてもらうやり方があります。前者の場合、記憶に頼った形となり、実際その場で感じた感覚や思考からずれが生じることもあるので、後者のようにその都度記録してきてもらう方が良い場合もあります。クライエントさんによっては、最初から自分で記録することが難しいケースがあるので、一緒にコラム表を作成していくこともあります。
(2)反応の同定
設定した状況でどのような反応をとっているかを詳しく書き出していきます。反応には、「認知・思考」と「感情・気分」「行動」があります。その出来事が起こった時、頭の中でどのように感じ、どのように考え、どのように対処しているかを振り返りながら記録します。この、反応の同定をする中で「自分はこういうときにも不快な感情になっているのかもしれない」とあらたな気づきを得ることもできるので、最初からたくさんの状況を設定しなくても進めていくことが可能です。
(3)思考の置き換え
このステップが、認知再構成法の中で一番のポイントとなっています。どのような状況下で、自分自身が望ましくない思考をしているか、ということが見えてきた後、その望ましくない思考とは別の思考をすることはできないかというアイディアを考えていきます。しばしば、ネガティブな思考が働くとき「○○に違いない」「○○しなければならない」「絶対に○○だ」と極端で合理的でない決めつけが生じていることがあります。その思考とは別の考え方、とらえ方はないか治療者とともに話し合っていきます。
思考は、ある種の癖でもあり、そう簡単に変えられるものでもありませんし、そう考えることによって自分自身を守ってきたという場合もあるので、それを一度崩すということはとても勇気のいる行為です。最初は、無理に変えようとせず、「こうも考えられるなぁ」というところからスタートし、それを繰り返す中で思考パターンを柔軟にしていきましょう。
6.認知再構成法の具体例
認知再構成法でコラム法を用いたケースを2例紹介したいと思います。具体的にどのようにシートに記入するかという参考にしていただければと思います。
(1)上司から何かいわれるたびに抑うつ的になっているケース
うつ病のクライエントさんの場合、「自分は○○と思われているに違いない」と被害妄想が強くなっているケースが多くあります。はたから見れば、それらは全く根拠のない非合理的な思考とみられますが、本人にとってはそれが真実であり、現実味を帯びた感情となっています。認知再構成法では、その思考が正しいか間違っているかという点を論じ合うのではなく、「そうとも考えられるし、こうとも考えられる」と選択肢を増やすという観点で話し合いをしていきます。
①出来事 | 上司から報告書に不備があると指摘された |
②そのときの認知・考え・自動思考 | 使いものにならないと思われたに違いない |
③気分・感情 | 悲しい(80) |
④代わりとなる認知・考え(適応的な思考) | 大きな問題にならなくてよかったともいえる |
⑤心の変化 | 悲しみ(60) |
(2)人の前で話すことに強い不安を感じているケース
不安という感情はとても漠然としたものです。ここでは、「発表がうまくいくか心配」という例を設定しましたが、発表の何が怖いのかということを突き詰めると、「結局のところ自分は何に対して不安を感じているのだろうか」というところに行きつきます。ある意味この不安は、自分の想像した未来に抱いている不安ともいえるので、その想像自体を変換できれば不安は軽減するのではないか、と認知再構成法では考えます。
①出来事 | ゼミで発表がある |
②そのときの認知・考え・自動思考 | 失敗したらどうしよう |
③気分・感情 | 不安(80) |
④代わりとなる認知・考え(適応的な思考) | 失敗しても落とされるわけではない |
⑤心の変化 | 不安(50) |
7.認知行動療法についてのトピック
8.まとめ
今回は、認知再構成法について紹介しました。人はそれぞれ思考の癖をもって生きています。あることが起きたときに、それを何とも思わない人もいれば、それ1つで夜も眠れないほどに悩んでしまう人もいます。「捉え方を変えるだけで楽になれる」とわかってはいながらも、どうしてもネガティブに考えてしまうという人も多くおられると思います。認知再構成法はそのような方に向けられた治療法なので、ぜひ興味のある方は相談されてみてください。
また、カウンセラーと一緒に認知再構成法・認知行動療法を取り組みたいという方は以下の申し込みフォームからご連絡ください。
文献
この記事は以下の文献を参考にして執筆いたしました。