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不眠症のカウンセリングのための4つの書籍

カウンセリングや臨床では不眠の症状を持っているクライエントさんと多く出会います。その不眠の基礎的な知識や対処方法をいくつか知っておくと、大変便利です。そうしたことを身に着けるための4つの書籍を紹介します。

1.不眠症の認知行動療法-治療者向けマニュアル(患者向けワークブックCD-ROM付)

J.D.エディンガー C.E.カーニィ(著)北村俊則 坂田昌嗣(訳)「不眠症の認知行動療法-治療者向けマニュアル(患者向けワークブックCD-ROM付)」日本評論社 2009年

不眠は様々な精神疾患・身体疾患から起こる極めてメジャーな症状である上、疾患が何も無い健常者にもしばしば起こり得るものです。本書によると一時的な不眠であれば1/3の成人が経験があり、10~15%の人が慢性的で重度の睡眠困難に苦しんでいるようです。本書では主に他の疾患による不眠ではない原発性不眠症に対する認知行動療法について論述しています。また、他の疾患に罹患していてもある程度はここで述べられている治療方法が効果はあるとしているようです。

本書で紹介されている不眠症に対する認知行動療法は、アセスメント・第1セッション・第2セッション・フォローアップセッションから構成されており、全部で4回(+アルファ)のカウンセリングで治療が終了できるようになっています。このような短期間の治療ではありますふぁ、薬による治療に比べて効果量は同等、もしくはそれ以上で、なおかつ副作用も少ないようです。

これまでの不眠症に対するカウンセリングはリラクセーションから睡眠スケジュール管理などがあり、これらの効果研究からもっとも単純でもっとも効果があるものが探求され、4回の治療で終了できるように洗練されてきたようです。

まずアセスメントでは他の疾患が併発していないかということと、睡眠の質や量などを測定するための睡眠日誌の提供を行います。第1セッションでは、睡眠についての心理教育を行い、一定の睡眠のスケジュールを作成します。第2セッションでは睡眠に対する偏った認知を変容するための心配の枠付けと思考記録の指導を行います。フォローアップセッションでは、床上時間を調整しつつ、ちょうどよい睡眠リズムを見つけ、その他のトラブルを解決していきます。

このような方法で短期間で効率よく不眠症を改善していけるようです。ただ、第2セッションの認知の変容ですが、たった1回で思考記録の書き方を指導し、習得するのは大変に難しいのではないかと思います。反証を書いて合理的な思考にまでたどりつけるのかが大変疑問です。

他の疾患に罹患していない不眠症はあまり複雑ではなく、いわゆる軽いケースのようなので、こんなに短期間で良くなるのだろうと考えることもできます。ここにさまざまな精神疾患が絡んでくるとなかなか難しくなるのかもしれません。

最後にCD-ROMが付録して添付されており、ここにはセッションで使うさまざまなツールと、患者用のワークブックが収録されています。そのまま印刷して使うことができるので大変便利なものとなっています。

2.眠れない眠りたい-快眠のための10のステップ

ティモシー.J.シャープ(著) 原田優人(訳)「眠れない眠りたい-快眠のための10のステップ」 創元社 2005年

認知行動療法に基づいた不眠症患者のためのセルフヘルプ本。10のステップにより、より快適な睡眠を取れるような手順を詳しく、そして平易に紹介されています。本書では主に睡眠教育、運動、食事、リラックス法、生活リズムの改善、睡眠時間管理法、認知再構成法、などが収録されています。

不眠症といっても様々ですが、うつ病や不安障害、統合失調症などの二次的障害としてもよく出現する症状でもありますし、一般の健康な人でも不眠に悩まされることはよく見られることです。ある疫学研究によれば、現在不眠に悩まされている人は全体の30%ほどであり、これまで不眠を経験したことのある人は80%ほどにもなるとのことです。さらにそれによる経済的な損失は莫大な金額にもなります。それにもかかわらず、命に関わらない症状のためか、真剣にそれを治すことはせず、慢性的に続いてしまうことが多いようです。また医療機関を受診してもダラダラと薬物療法が続いてしまう症例もあるでしょう。

しかし、不眠症の認知行動療法は最近では活発に議論されており、あるレビューによれば、ピュアな不眠症であれば、適切な認知行動療法によって80%という高い治癒率が示されているようです。そして、さらには短期間で治療をするにはどうすれば良いのか議論がなされています。

不眠症や不眠症の認知行動療法はそのような現状ですが、それに比べて本書では運動・食事などもう少し幅広く、不眠症への対応として行うことが掲載されています。これらを全て試さないといけないわけではないので、自分に合ったものを適切に取り入れて行っていくことが良いかもしれません。

ただ、このようなセルフヘルプ本だけではカウンセラーと一緒に施行するカウンセリングに比べて、効果量が低くなるという一般的な知見もあるので、本書で効果がないからといって諦めず、一度カウンセラーを訪ねると良いのではないかと思います。

3.不眠の医療と心理援助-認知行動療法の理論と実践

大川匡子 三島和夫 宗澤岳史(編)「不眠の医療と心理援助-認知行動療法の理論と実践」 金剛出版 2010年

本書は不眠症に対する認知行動療法を包括的にレビューしたものです。不眠症の疫学・診断・薬物療法などを説明した上で、行動療法と認知療法に分けて、どのように不眠症にアプローチするのかについて詳細に論じています。

さらに、文化差も考慮し、この不眠症に対する認知行動療法をどのように日本で適用していくのかについても割かれており、それにもとづいた事例提示や方法論が紹介されています。そして、最近の流行であるマインドフルネスを取り入れたカウンセリングも掲載されています。

ちなみに不眠症は精神疾患のみならず身体疾患の二次的症状からも出現する症状です。そのため、これまでは一次的疾患を治療すれば二次的症状である不眠も解消するという考えの下でカウンセリングが行われてきた経緯があります。しかし、さまざまな研究を見てみると、二次的な症状であったとしても、不眠をターゲットにした治療を施行する事で、治療的に働くことが判明してきています。そのことも本書では力説されています。

4.認知行動療法で改善する不眠症

岡島義 井上雄一(著)「認知行動療法で改善する不眠症」 すばる舎 2012年

認知行動療法を用いて不眠症を改善するためのマニュアル本です。専門家だけではなく、一般ユーザーでも読みやすく、理解しやすいようになっています。

不眠になる原因や要因を説明し、実際の改善のための手続きである睡眠衛生教育、睡眠調整法、筋弛緩法などについて分かりやすく解説しています。また後半では、実際の不眠症の事例を多数列挙し、具体的にはどういう介入をしているのかを例示しています。

不眠を改善するだけで、うつ病なども結果的に改善することも研究で確かめられているようですし、身体疾患による不眠に対しても効果があるようで、今後の発展が楽しみなところです。

ただ、不眠症だけではありませんが、認知行動療法をすればたちどころに全てが治る!というものではなく、効果もあれば限界もあります。さらには、認知行動療法を施行すると、クライエントさんはその分、練習や宿題などをこなしていかないといけません。その分の負担もあるし、それゆえに脱落することもありえます。こういうところをしっかりとアナウンスしなければ、不必要に失望することにつながるでしょう。